第15話.


 再び応接室の扉が開いたのは明桜の体感で一時間余り過ぎた頃だった。


「アオさん、失礼します」


「はい。お疲れ様ですスアさん」


「こちらこそ、遅くなってしまい本当に申し訳ございません」


 応接室に入って来たスアが明桜に軽く頭を下げ、向かいのソファーに腰掛ける。


「気にしてませんから大丈夫です。それでスライムの方はどうなりましたか?」


「はい、アオさんから教えていただいた場所にて、普通では有り得ない数のスライムが確認されました」


「そうですか‥それで討伐の方は―」

「向かわせたBランク冒険者により完了しました」


「はい?」


「ですからスライムは既に討伐され、森に溢れかえって居たスライムの沈静化には成功しました。これもアオさんが対処可能な段階で情報を届けてくれたからです。本当にありがとうございます」


(嘘だろ‥溢れかえるスライムの討伐は済んだ?いくら雑魚とはいえ、数百、数千匹も居れば倒すだけでも手間のかかる作業だ、それを一時間でやってのけるのか、Bランク冒険者が…)


「そうですか、被害が増えなくて良かったです」


「えぇ本当にクイーンスライムの増殖に初期段階で気づけたのは不幸中の幸いでした」


「クイーンスライム?」


「失礼しました。そうでしたね、アオさんは冒険者に成ったばかりでしたね、初々しさを感じられる事が少なかったので失念していました」


「苦労をかけます」


「いえ仕事ですから。ではクイーンスライムについてお教えしますね」


「お願いします」


「クイーンスライムはその名の通り、群れを成すスライムの女王で数匹や数十匹など一定以上の群れを成すスライム達から極稀に現れます。そしてクイーンスライムは放置すれば村を滅ぼし、国をも危険にさらす事から、特定災害級魔物として扱われてます」


「国を滅ぼす事が?」


「実際に滅んだ国は歴史上ありませんが、国土の半分以上の生態系をスライムによって壊されたという記述はあります。それ故にクイーンスライムらしきスライムが発見された場合は即座に対応しないといけません、一日放置するだけでその数は膨れ上がり、街や国単位で対応しないといけません」


「御役に立てたようで良かったです」


「ですから、今回は本当に助かりました、ありがとうございます」


 姿勢を正したスアが明桜に向かって深々と頭を下げ、明桜が居心地の悪そうに、黙って受け入れた。


「そして、国からアオさん達3人に対して謁見証が渡される事になりました、それがこちらです」


「謁見証ですか?」


「はい、今回の件に関してお褒めの言葉を国王陛下から頂けると思ってもらって大丈夫だと思いますよ、その時に一度だけ使えるのが、この謁見証という訳です」


 名刺がシルバーで作られたかの様な薄いプレートを、スアさんが三枚を重ねた状態で少し広げテーブルに置いた。


「アオさんの方から事情を話してお二人にお渡しください、きっと喜ぶと思いますよ」


(えぇぇ..喜ぶのかよ…‥俺行きたくねぇんだけど、どうせ面倒事増えるだけだし、不敬であるとか言って殺されたら笑えん)


「別にそれは貰っといて俺は行かないで二人だけ、行かせても良いんですよね?」


「えっ、アオさん行かないんですか、国王陛下に近くで会える貴重な機会ですよ?」


「今はいいかなって、これいつまでとかあります?」


「いえ、無いと思いますけど……その、皆さん貰われたら直ぐに行くので私も、そこは把握してないんですよね」


「なるほど分かりました、二人には俺から伝えておきます。スアさん今日は色々ありがとうございました」


「こちらこそ、ギルドを代表してお礼を申し上げます」


 期待していたよりは良い報酬の筈だが、明桜としては見当違いの結果だったので、話を早々に終わらし明桜は宿に戻って行った。


「ってな訳で二人共、王様に会いたかったら二人で行ってきてくれ、俺は興味無い」


「興味無いってアオマジカよ!王様って言ったら一番すげぇし、俺達平民は一生近くで見ることすら出来ねんだぞ」


「知ってるよ、だけど興味無いのに行っても、失礼しそうだからな。もし行くならトガリお前気をつけろよ、行ってから無礼者!とか言われて騎士に捕まるなよ」


「おい、怖ぇ事言うなよ、行きづらくなるだろ」


「確かに私も会いたいけど、私1人だとトガリが変な事したら助けられないかも。アオもやっぱり一緒に行こうよ」


「ごめん無理だ」


(俺の頭の中の知識をフルに蘇らせて考えても、王様と会って良い方向に進むとはとても思えない。避けるべき道なんだきっと)


「トガリ、私達どうしよっか」


「ねえちゃんは会いたくねぇのかよ」


「私も会ってみたいけど、アオが行かないんなら良いかな」


「それじゃ俺も行けないじゃん」


「良いでしょ、ちゃんと面倒がらずにちゃんと報告しに行ったのはアオ何だし、アオが行かないのに私達だけで行っても変でしょ」


「ああああッ俺も行くんだったぁああああッこれもそれもあの門番めッ、今度あったら一発入れてやるっ」


「そんな事やったら牢屋に入れられて、ますます王様になんて会えないわよ」


「あああぁあああぁあああぁあぁああぁあああぁああぁああ」


 トガリが床がうずくまり回転し、叫び散らかし始めた。


(新人冒険者が多いこの宿なら、昼過ぎに叫んでも大丈夫か…てかユアも行ってやったら良いのに、まぁどんなに今説得されても俺は行かないけど)


「もぉおおトガリうるさいわよ!大人しくしなさいッ」


 それから暴れまわるトガリにユア飛びつき、トガリがこれ以上暴れないように首を締め上げていた。


「ストップ、ストップ!ユア、トガリが死ぬって」


 血が止まり一瞬で真っ赤になったトガリの顔が、今度はどんどん真っ青になり始めたタイミングで明桜がそれを止め、トガリが一命を取り留め、暫く明桜は苦笑いで過ごすしか無かった。



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