第14話.


「はぁはぁはぁはぁ…」

「はぁぁはぁああはぁはぁ」

「ふぅぅはぁあっ、もぉ走れねぇよ...」


「ちょ君達どうしたんだっ大丈夫かい?」


 門までなるべく急いだ三人は息を切らし、今にも倒れそうな身体を各々で何とか耐え、息を整えている所に慌てる三人を見て門番の1人が駆け寄ってきた。


「それが‥」

「スライムが‥」

「沢山湧き出てきたんだよ!」


「ははっなんだ君達スライム相手に逃げてきただけか、森に凶暴な魔物でも出たんじゃ無いかと心配したじゃないか」


 ユア、明桜、トガリの順で言葉を絞り出し繋、門番に端的に言うが、門番はそれを子供が逃げただけだと盛大に笑いながら気にもしていなかった。


「違うっておじさん、本当に沢山居てやばいんだって!」

「そうです、次から次に増えてどんどん数が増えてるんですッ」


「まぁスライムは増えるからな、突然の事で驚いたんだろうが、スライムはスライムだ落ち着きたまえ」


(この世界ではあれは珍しい事じゃないのか?ユアとトガリが知らないだけで、あれは普通なのか…なんて世界だ)


「そうかよ、アオ、ねえちゃん、行こうぜっ」


「うん」


「そうだな」


 トガリがしびれを切らし門番を横目に見ながら街の中に進み出し、ユアと明桜の二人がそれを追う。


「何だよせっかく、俺達が急いで教えてやったのに」


「だからってそんな怒らないでよ、門番の人に私も睨まれたんだからね」


「ギルドには報告するんだよな」


「どうせまた子供扱いされるだけだろ、俺は嫌だ」


(一応聞いてみたが、聞かない方が良かったか)


「でも後で問題になって俺達の性にされるのは嫌だし、俺が1人で報告に行ってくるよ、トガリとユアはそのまま休んでてくれ、もう昼過ぎだし今日は解散だ」


「ごめんねアオ、ギルドの方はお願いね」


「あぁ大丈夫だから、ユアもゆっくり休んでくれ」


「ありがとう」


 それから三人はギルドまでの一本道を歩き、明桜はギルドに入り、ユアとトガリは隣の宿に入っていった。


 



 明桜はギルドに入り真っ先にスアさんを探し話しかけた。


「こんにちはスアさん、今よろしいでしょうか」


 明桜が依頼が張り出されている掲示板の前で作業をしていたスアさんに話しかけると、ギルドの中から無数の眼差しが向けられるが明桜はそれに気づかない。


「っ!ってアオさんでしたか、もお急に話しかけて来るからビックリしちゃいましたよ」


「それはすいませんでした」


「それで、その…私に何か、御用ですか?」


「少し魔物に関して気になった事があるのですが、顔見知り以外の人に話すとまともに相手にされそうに無かったのでスアさんに話しかけたんです。お時間よろしいですか?」


「そうでしたか、それでしたら二階の応接室を使いましょうか」


「良いんですか?」


「はい、応接室の一つは受付嬢が自由に使えるように設けられてますし、冒険者の方が周りに聞かれたくない話しを私達、受付嬢にする時などに使われるので全く問題はございません」


「でしたらお願いします」


「では行きましょうか」


 掲示板の前で話をしていた二人は、スアの後に明桜が付いて行く形で二階の応接室に場所を移した。


 応接室は真ん中にテーブルが置かれ、その両側にソファーが置かれていて、角に一つだけ花瓶あるだけのシンプルな部屋だった。


「どうぞおかけください」


「失礼します」


「やっぱりアオさんは礼儀正しいですね」


 明桜が軽く頭を下げ先にソファーに腰を下ろすと、テーブルを挟んで向かいのスアが唐突にそんな事を言いだした。


(なんだろう、話をしに来たのは俺だが、探りを入れられてる気がする…それにこういう部屋は高確率で隣の部屋から見られてるだろうな…)

 

「そんな事無いですよ、スアさんに不快な思いをさせない為に頑張ってるだけです」


「私にですか?」


「はい」


「その・・・ありがとうございます」


「「・・・・・」」


「それでそのアオさんのお話というのは」


 明桜がはいと言い、スアと目を合わせ暫く見つめる、そしてスアの方から急ぐように話しかけた。


「それがですね、昨日パーティーを組んだ二人と今日も森に行ってたのですが」


「何かトラブルでも?」


「実はスライムが居たんですよ、それも10とかでは無く、30以上とか」


「本当ですか!?」


(あれ、スアさんの食い付き具合が想像以上なんだが?)


 明桜は今にもテーブルに身を乗り出してこちらに近づいて来そうな、焦っているスアさんを見て更に困惑していた。


「はい。それでスライム達は凹みの様な場所に居たんですけど、次から次にどんどん溢れて来て数がどんどん増えてたと思うんですが、それは普通の事ですよね?…あれ、スアさん?」


 明桜の言葉が耳に入る度にスアの顔色は見る見る青ざめ、真っ青になり額からは汗が出ていた。


(あ、これかなり不味い奴じゃね?だって俺の質問にも頑張って対応してくれたスアさんがもう顔真っ青よ、村が滅ぶ程の驚異だったりするのかな)


「アオさんアオさん!どこです?!何処でそのスライム達を見たんですか!?」


「スライム達は―――」


「何処ですか!?」


(待て、今此処で安易に答えて何のメリットが俺にあると言うのだ。それと今情報を渋るメリットはどうだろうか)


「アオさん!どうしたんですか、教えてくださいッ」


 明桜が目を閉じ本格的に考え始め、答えない明桜にスアが身を乗り出して迫るが目を閉じている明桜には関係なかった。


「寝ないでくださいっお願いですから場所を―」


「場所はギルドを出て真っすぐの門から出て直進の場所から森に入り、700歩程進んだ所です」


「有難うございますっ私は一旦退席しますけどアオさんは絶対の絶対にそのまま待っててくださいッ」


 早口で喋り、スアさんが勢いよく部屋を飛び出していく。


(まぁこれで良いか、何かギルドからくれるなら後からくれるだろうし、無理に渋れば悪化しかねないからな)


 スアが居なくなった応接室で一人、明桜はソファーに背中を預け姿勢を崩し座り込むのだった。

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