第11話.


明桜はユアの首元にナイフを添え動かしながら相手に話しかけた。


「さてまず確認だがお前らはこの女とそこの奴が狙いであって俺はついでだな?」


「あぁだからお前は逃してやっても良い、だから―」

「逃してやっても良い?随分と上からな物言いだな。この女を殺して俺は死んでも良いんだぞ?」


「わぁるかった、俺が悪い、だから落ち着けってな?」


「そこのお前動くなよ、ようやく俺に視線を向けてくれて嬉しいが、お前が呼吸以外の事をして怪しいと感じだらこの女は死ぬ。いいな?」


 周りを警戒していた男がゆっくりと頷き明桜はそれを肯定と捉え、再び前方の二人に視線を戻す。


「お前らには選択肢が2つある」


「それは?」


「1つ、このまま俺に襲いかかり結果俺と女は死にそいつだけを売り飛ばすか。

その2、そいつを解放して帰る事だな」


「まだ1を選んだ方が良いじゃねぇか」


「本当にそうか?」


「どういう事だ」


「だって考えてみろ、この女が死んでもそいつが自分の命を惜しむと思うか?」


「「「・・・・・」」」


 その沈黙が男達の答えだった。


「どっちにしろ売り飛ばす確約は果たされないが1を選べば3人とも死ぬ確率は高いし、あんたらに残るのは殺人を3度重ねたって事実だけだ。2を選べば、まぁ取引先は失うがまた違うとこでもやっていけるだろ?」


「1人殺すのはお前だろうが、何で俺達が3人も殺した事になるんだよ」


「冒険者ギルドや騎士達が調べたとして、状況的に子供が3人死んでたら疑われるのは明らかにそっちだよな?俺は間違ってるか?」


「「「・・・・・・」」」


 再び沈黙が訪れ、ザルドの近くに居た男がザルドに言葉を投げかけた。


「どうする」


「どうするも何もイカれたガキが居るんじゃどうしようもねぇ、ほら向こうに行け」


 トガリを抑えていたザルドがナイフを離し、トガリの背中を強く押しトガリが転ぶそうになりながらこっちに近づいてくる。


「もう遭う事は無いだろうけど、じゃあね」


「イカレ野郎がおめぇとは二度と会いたくねぇよ、こっちから願い下げだ」


「悪党に嫌われるとは良い事だ、ありがとう」


「最後まで苛つかせやがって。行くぞおめぇら」


「あぁ」

「・・・・」


「あ、もう喋って良いよ?元気でねぇー」


「悪魔め」


 ずっと黙っていた男は最後にそう呟きながら、ザルド達の後を追い、森から姿を消していった。


「ふぅ…疲れたぁ。あっユア大丈夫?案外普通に切っちゃったけど」


「ッ――だいじょうぶ。うん。大丈夫。本当にアオなん‥だよね?」


「そうだけど?」


「怖くて…怖くて、アオがアオじゃないみたいで、私殺されるって思って―」


「ごめんごめん、泣かないで、だってハッタリが通じる相手じゃ無かったから」


「アオてめぇ何ねえちゃん、泣かせてるんだぁ”あ”」


「うぇッ………待てトガリ、死ぬって」


「死にやがッ――」


 トガリが暴言を吐き明桜の腹部を殴った後、さらに追い打ちをかけようとすると甲高い音が鳴り響き、明桜が殴られうずくまっていた明桜が顔を上げ状況を見ると、ユアのビンタがトガリの頬に綺麗に炸裂した後だった。


「ストップ馬鹿トガリ、やり過ぎだし、恩人に何してんのよッ」


「えぇぇだってこいつ、俺達を‥それにねえちゃん泣かせたし」


「ああでもしないと私達、奴隷になってたのよ!?分からないのッ?」


「ご、ごめん。・・・・・・・アオ、殴って悪かった…」


 片側の頬にキレイな手形を宿しながら、トガリがうずくまって見上げている明桜に謝るその光景は余りにも異常だった。


「良いから、それよか、マジで死ぬそう。トガリお前加減しなかったな」


「あぁ悪りぃついカッとなってやっちまった」


(これVIT上げて無かったら死んでたんじゃ‥ステータス)


『HP3』


(ははは...マジで死にかけたじゃん)


「おぇええええっ………」


「アオ!?ちょっ、えっもぉおトガリの馬鹿!」


「おいおい死ぬなってアオォォオオ」


 死にかけた明桜が大量の血反吐を吐いた事で二人が更に焦り、パニックになった事で明桜はどうにもならない事を悟り、ステータス画面を必死に操作したのだった。


≪VITが5になりました≫

≪HPが5増加します≫

≪VITが6になりました≫

≪HPが5増加します≫

≪VITが7になりました≫

≪HPが5増加します≫


(これで何とか死なない筈だ)


「ふぅううぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁっ...」


「アオ?」


「もぉ大丈夫だ」


 HPを増やし身体を騙す事で身体の自由が少し戻り、アオは何とか身体を動かせる様にはなった、しかしそれは誤魔化してるだけであって腹部辺りが損傷している事実は変わらない。


「良かったぁぁ」


「心配かけやがって」


「誰の性だよ」

「あんたがやったんでしょ!もっかい謝りなさいッさもないと土に埋めるわよ!」


「ごめんって、アオお前からも言ってくれ、俺このままじゃ土に埋められちまう」


「どうしよっかなぁ」


「頼むって」


「冗談だ、俺が悪かったんだし、ユアもそんなにトガリを怒らないでやってくれ。三人共生きてる、それだけで良いじゃないか」


≪経験値を獲得しました≫

≪Lvが上がります≫

≪Lvが3になりました≫

≪1 STP・3 SP・5 PSP獲得しました≫


「「「あっ」」」


 同時に三人の声がハモり、またしても同時に落とし穴の方を三人は眺めるのだった。


「あのスライムが一番辛かったでしょうね」


「そうかもしれない」


「だから、早く倒そうと火を‥」


「それが原因で見つかったんでしょ!」

「それが原因でかもしれないんだぞ!」


「マジ?」


「もう帰りましょうか、私疲れたわ」


 トガリの言葉に呆れながらユアが街に戻る事を提案するが、明桜がそれを止める。


「ユアちょっと待って、先に傷口を手当しないと」


「そうね…アオお願い出来る?トガリは雑だから」


「分かった」


 明桜は自分がつけてしまった傷口を見ながら、布で血を拭き取り、その上から水筒の水で軽く拭った後で包帯を巻き、最低限の手当を済ませたのだった。


「アオ途中で何か言ってたけど、おまじないの言葉?」


「似たようなものだ、気にしないで」


「うん、手当ありがとう」


「元はと言えば俺が―」

「そういうのはもぉ良いから、帰りましょうか」


「分かった、街に戻ろう」


 それから三人は森を出て、ギルドに着く最後の最後まで三人が気を抜くことは無かった。







 

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