第7話.軽


「これうめぇええ」


「あんたね、毎日同じ事言ってるじゃん」


「なら、ねえちゃんは美味しくないのかよ」


「勿論美味しいって思ってるわよ」


「なら良いじゃねぇか。なぁアオ、そう思うよな?」


「お、おう。そうだな」


 会話を聞きながら食事を進めていた明桜は、とっさに相槌に近い返事をし、食事を続ける。


(会話したくても出来ねぇ、何で朝からこんな大量に出てくるんだよ!そして残すなって視線が厨房の方から向けられてる気がしてならん)


「それでねえちゃん、アオとパーティー組むけど良いよな」


「う、うん・・・・・・・え?」


「よっしゃぁ!」


 同じ様に食べる事に必死になっていたユアが、 相槌のつもりで返したそれは、パーティーを組む決定打になったのは言うまでも無く。満面の笑みで喜びガッツポーズをするトガリを、明桜もユアも止める事が出来ないまま朝食を済ませた。




「はい、これで貴方達は今日からパーティーです。それにしてもアオさんが二日目でパーティーを組んでくれて私も嬉しいですよ」


「お二人は知り合いなんですか?」


「いえ、私が冒険者登録を担当しただけですが、少し心配だったので」


「その節は大変お世話になりました、また伺いん来ますね」


「え…はい。お待ちしております」


 若干引き気味ながらもスアさんが明桜に応えると、トガリが急に飛び跳ねる。


「晴れて俺達も、今日から立派なパーティーだぜ!」


「こらトガリ少しは周りの迷惑も考えなさいっ」


 それをユアが首根っこを押さえ、トガリを大人しくさせるのだった。


「スアさん有難うございました、自分達はそろそろ外に行きますね」


「はい、皆さん気をつけてくださいね」


「はい」


「失礼します」


「ちょっと、え!?クエストはぁ?!」


「今日は受けないから大丈夫よ」


「マジカねえちゃん!?」


「そうよ」


 ユアに引っ張られながらギルドの出口に向かう最中も、トガリは周りにお構いなしに声を出し、パーティー結成初日から良くも悪くも目立ってしまうのだった。


「良し早く行こうぜねえちゃん、アオ!」


「あんたは少し落ち着きなさい。考えなしに行ったってどうせ勝てないでしょ」


「アオがいれば大丈夫だ!」


「トガリ。悪いが期待しないでくれ、というか俺は足手纏である確率の方が高い」


「その、アオさんは武器持ってないけど、やっぱり非戦闘職なの?」


「アオで良いですよ、ユアさん。パーティー組んだのに堅苦しいのは良くないでしょ?それにそんなに歳も離れてないと思うので」


「ならアオも私の事はユアって呼んでね」


「わかった、よろしくなユア」


「う、うん。よろしくね」


「それでだが俺はどっちかと言うと多分魔法職だと思う」


「多分ってなんだよ」


「それって珍しい職業だから分からないってこと?」


「どうなんだろう、二人のはそんな簡単に判別出来るやつなのか?」


「俺は片手剣士だぜ!」


「トガリ声が大きい、静かにして」


 ユアが注意しながらトガリの口を手でとっさに塞いだ。


(やっぱり自分の職業は話すもんじゃないのか。悪いなトガリ)


「どうせ近いんだし、宿にでも行かないか?」


 ギルドを出て直ぐの道沿いで話しをしていた為、二人に宿での会話を提案する。


「そうね。そうしよう」


「ん”ん”ん”っん”ん!」


 ユアが了承して三人は無駄な会話をする事なく、宿で明桜が利用している部屋に入っていった。


「ごめんね、アオの部屋を使う事になって」


「気にしてないよ、言い出したのは俺だし」


「それにしたって何にも無いな、俺達の部屋なんてねえちゃんの―――」

「トガリ黙って座りなさい」


「はい」


 ユアに睨まれながら言われ、トガリが大人しく床に座り、明桜が自分に白羽の矢が向きそうな事に気づき、話題を外での会話に戻す。


「それで王都だと、やっぱり皆は自分の職業を話さないのか?」


「王都とういか、基本は話さない筈よ、内の弟は別だけど。アオが住んでた所は違ったの?」


「あぁ、住んでた所は小さな村だったからな、皆が皆、他の人の職業をちゃんと把握してたよ」


「やっぱり住む場所によるんだね。それなら余り話さない方が良いと思うよ。良いわねトガリ」


「えっ俺?」


「あんた以外に誰に言うのよ、もぉこれで何度目よ。ただでさえレアな職業なんだから余計に気をつけないと」


「そんなに片手剣士ってのは凄いのか?」


「凄いんだぜ!なんたって盾を持ちながらでも、スキルを使えるからな!」


「トガリが言ってるように片手剣士はね、剣士のスキルを盾を持ちながらでも使えるの、でも剣士が盾を持ったら使えない。これだけで片手剣士の価値は凄いの」


(確かにな、完全な上位互換じゃないか、剣士専用のスキルが無い場合は余計に‥)


「例えパーティーメンバーでも、無理に職業を聞くつもりは無いの、それに私達出会って間もないしね。だから普通はもう少し信頼関係を築けてからパーティーを組むものなのよ。全くトガリには困ったものだわ…」


「なるほど。流石トガリってわけだ」


「だろ!」


「別に「褒めてないッ」」


「なんだよ、二人して、おっかねぇな」


(そりゃそうだ、命もかかってるし、今後の冒険者人生もかかってるんだ、ユアは元より真剣だろうし、俺に関して言えば他の人より慎重にならざる他ないんだ)


「でもそれだと持ってる武器だけでバレないのか?」


「そこは皆マントとかで隠したり、わざと違う武器持ったりしてるんだ、職業って言っても数え切れない程沢山あるって話しだしな」


「そういうもんなのか」


「それでアオ、さっき迂闊に職業を聞いてしまったのは謝る、だからってっ訳じゃないんだけどね、私の職業も教えるからアオが出来る事を教えてくれない?流石にこのままじゃ作戦も立てられないもの」


「いや、外で答えたのは俺のミスだし、ユアはそんなに気にしないで良いよ。けどその提案で進めて貰えると有り難いかな」


「わかったわ、そうしましょう」


 






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