第6話.仲間



 部屋に入り明桜は、左奥に見える木で作られた簡素なベットに倒れ込み、余りにも日常とはかけ離れた事の連続による疲労からか、寝心地などを気にする間もなくその意識は途切れ、眠りについたのだった。


 そして、どんなに疲れていても目が覚める時は勝手に目が覚める、明桜は夜が明けるよりも早くに目を覚まし、頭の中を整理する為にゆっくりと考え込んでいた。


「てかこの世界じゃドアから部屋の中が全部見えるのが当たり前なのか」


 明桜が最初に思ったのはそんなどうでも良い事だったが、例えどんな狭いマンションでも、玄関を開け直ぐに部屋がある家に住んだ事が無い明桜からすれば、それもまた考え、口に出し、当たり前だと脳に思い込ませる事も、無駄な思考力を今後、取られないようにする為には必要な事であった。


(それに‥トガリは悪い奴じゃないが、俺より危ういな。行動の決定権を持たれるのなら命の危険度が増しそうだ)


 目を覚まし、視界に入った部屋の疑問を過ぎれば今度は、寝る直前に起こった出来事が自然と頭に蘇り、思考を巡らせる。


(言われた事を簡単に忘れ、自分の衝動的行動が自然と優先され、命の危険に遭う。これは俺が昨夜身をもって知った事だ。……つまり、トガリと行動すればこれが外のモンスター相手に起こる可能性を秘めている。だけど、1人でモンスター、例えスライムだろうと相手にする事もまた、危険すぎる事は既に分かっているが…)


 悩み考え込んでいる内に閉じていた瞼が開き、小窓から差し込む月明かりが目に入り、うっすらと照らされた部屋の間取りが再度脳に入り、関連的に昨夜のトガリ事件の光景が思い浮かんだ。


(トガリには、姉も居るんだったな。流石に姉もトガリみたいに軽率な行動を取るとは思えないが、姉弟で似てるか似てないなんてどっちもどっちだしな。)


「はぁ...どうしよ。こんな時季音葉きねは――‥‥」


(何やってるんだ俺は、最優先に考えるのは季音葉の事じゃないか、俺は起きて何分その事を思考から外していた?昨日は常にそれが頭に在ったのに……俺の今の状況はそんなに追い詰められているのか。最悪だな。)


「良し、外に行こう」


(人攫いや、物騒な連中に見つかれば危険だが、今後の為にも必要なリスクだ)


 そうと決めてからの明桜の行動は早く、ベットからゆっくり起き上がり、変えの着替えも無いのでそのままゆっくりと部屋の入口に向かい、ゆっくりとドアを開けた。


(これは厄介だな…)


 明桜がドアを開け一歩踏み出すと床が音を立てて鳴いた。


(鶯張りとか言わないよな…そうだとしたら何のために…‥)


 さらに一歩足を動かせば先程よりも大きな音が鳴る。昨夜の様に平然と部屋に向かう時とは違い静けさしか無い今の状態では、どれも大きな音に聞こえてしまうが、明桜はそれを過剰に気にせずにはいられなかった。


(まさか、大家であろうリガさんが夜逃げを図る者を警戒して!?まさかギルドと何ならの取引をしていて、此処に流される者は逃げたくなる程の何かを自ずと抱える羽目になるのか?!そして脱走を試みたものは殺される!?)


 タイミング悪く微かに物音が聞こえ、明桜はその音を聞くと見つかる前にと、大きく足を伸ばし、一歩で部屋の中に重心を移し始め、ゆっくりとドアを閉めたのだった。


「ふぅ‥」


(飛躍する理由が無いにせよ、初日ぐらい休めって事かな、もっかい寝よ…)


 ベットに仰向けになり、ようやく床で寝てるのと然程変わらない事を身にしみ、なんとも言えない気持ちになるが、月明かりが差す小窓に目が自然と行き、月と同種と思っていたソレはかなり異なっていた。


(7つありやがる、訳が分からん)


 真ん中に日頃見る月より少し大きめで同じ色をした天体があり、それの上下に二回り小さいサイズの天体があって、真ん中と上下の天体の中間点の左右には上下の天体と同じサイズの天体があり、そのどれもが異る色をしていた。


(訳が分からない事には変わりないが、とても綺麗だな。日本で見れていたら何時間だって費やしてられるのにな。)


 それから数分の間、夜空を眺めながらそんな事を思っていると、夜空の中を動く物体を目が捉える。


(一瞬でも鳥を飛行機みたいだなんて思った俺は、かなり疲れてるみたいだな)


「寝よ」


 瞼を閉じ、そのまま眠りについた。





「昨日は見苦しいものをお見せしすいませんでした」


 二度寝を経て、陽が少し昇った頃に目を覚ました明桜が一階で朝食を食べていると、バツの悪そうな表情のまま目を逸らし謝ってくる少女が横から話しかけて来た。


 そしてその背後にトガリを確認した明桜はとっさに言葉を返す。


「いえ、こちらこそ失礼しました」


「「・・・・・・・・」」


「なぁ、二人とも先にご飯食べようぜ」


 雰囲気が漂い互いに言葉を詰まらせてる中、トガリが無邪気に割って入る。


「誰のせいで‥」


「ねえちゃんなんだ?聞こえなかった」


「何でもないわよ」


「おばちゃん!朝ご飯くれぇ~」


「はいよ、座って待っときな。二人分だね」


「おう!ほら、ねえちゃんも座ろうぜ。俺がこっちな」


 アオが1人で座っていたテーブルの空席に当たり前の様に座るトガリ、その様子に呆れながらも、トガリの姉もゆっくりと腰を下ろした。


「すいません、弟共々相席させてもらいます」


「いえ、お構いなく。それで今更ですけど明桜あおと言い、先日冒険者になったひよっこですが、よろしくお願いします」


「あっ、色々ありすぎてすっかり忘れてました。私はユアで、この図々しいのが弟のトガリです、こちらこそお願いします」


 

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