第5話.パーティー?
「寒むい..」
あれから疲れ切り起き上がる事もせず、只ひたすらあの光景を思い出し、己の無謀さとスライムの強さを思い知らされてたら、日が沈んだ。
「急いで街に戻ろう」
今更ながら門が閉まる事を全く考えていなかった明桜は、足に無理やり力を入れ、身体を立たせ、火の灯りでハッキリと見える門を目指して歩き出した。
「坊主、生きてたか」
「はい、何とか生きてます」
「そりゃ良い事だ、生きてたらチャンスはあるからな」
街を出る時にも対応してくれた門番のおっちゃんが、話しかけて来てくれる、顔見知りも居ない現状では、とても有り難い存在だ。
「有り難うございます。それにしてもスライムって見た目に反して強いですね」
「その口だと坊主は子供の頃にステ振りを間違ったやつだな」
「まぁ…」
(?。子供の頃のステ振り?なんの話だ)
「普通はどんな風にステータスを振るんですか?」
「最初はそりゃ子供には元気で、安全に生きてて欲しいもんだからな、親がVITに勝手に振る場合が多いし、7歳までは親が決めて、その後は子供に任せる場合が殆どだな」
「そうですか」
「まぁ何だ、大変かもしれんが死ぬんじゃねぇぞ」
「はい、頑張ります」
門を過ぎギルドの方向に歩き出す。
ギルドの真ん前まで行き、武器屋が左側にある状態でギルドを挟んで右側が教えてもらった宿屋だ。本来ギルドの真横と好立地だが此処は、冒険者に成って間も無い人しか泊まれない為、回転率が良いらしい。
「いらっしゃいっ」
木造建ての3階建ての宿屋に入ると、いくつものテーブルに沢山の人が座り繁盛している普通の飲食店のようだった。
「あのギルドから紹介されて来た―」
「あ~、アオね?」
「はい」
「ご飯出すからその辺に座ってな」
言われるがまま、周りを見渡し人が居ない角のテーブルに腰を下ろした。
(それにしても何か見られてるな…)
明桜が店に入ってからというもの、移動し席に座った今でも大半の人から視線を向けられており、お世辞にも居心地が良いとは言える状態では無かったのだ。
「どこのお坊ちゃんか知らねぇが、生きてる内にお家に帰るこったなぁ」
「そうだそうだ、さっさと帰りやがれ」
二人の男性がそう言い出すと周りも便乗し始め、笑い声が店内が満たされ、更に居心地の悪さが増すのだった。
同じ様に四隅で身を縮めている小柄な人影があるが、人数と経験で劣る方が反論するのは、バカのする事なので黙って言われるしか無かったのだ。
(これが夢ならどんなに有難い事だったか)
「あんたら!いつまでルーキーを虐めてるんだ、そんな暇あるならさっさと追加で酒でも頼みなッ・・・はいよ。アオ、気にすんじゃ無いよ、だけど今日はこれ食べて上に行って早く休みな、部屋は三階の右奥を使っていいから」
「あ、ありがとうございます。えーっと…」
「あぁ私はリガって言うさ、何かあったらいつでも言いな」
「リガさん、色々有難うございます」
「冷めない内に食べな、残すんじゃないよ?」
「はい…」
それから、リガさんに出された特大のパンと大量のシチューに最初は気圧されていたが、空腹とそして一口食べれば食べやすいパンと、味が濃く美味しいシチューのおかげで、難なく完食した。
「ごちそうさまでした」
「嘘だろ…」
「あのガキ全部食いやがった…」
「死ぬぞ…」
「えっ」
つい声が漏れ出す程に聞こえてはいけない単語が聞こえ、明桜はとっさに声のした方を向き、その冒険者だろう三人の男性と目合うのだった。
「あの、どういう意味か教えてくれますか?、僕は死ぬのでしょうか」
三人組から手招きされたので、移動し三人が使っているテーブルの空いている椅子に移動した。
「おめぇ、大丈夫なんか?」
「大丈夫とは一体何の事ですか」
「だからおめぇさん、シチーを全部食ったじゃねぇか」
(シチーって、シチューの事だろうけど、別に普通に美味しいシチューだったけどな)
「はい、とても美味しかったですよ」
「おおおぉ」
「ほぉお」
「こりゃすげぇルーキーだぞ」
(完食しただけで得られたんだ、安いもんだしな)
「皆さんは冒険者に成って長いんですか?」
「そうだな。もう20年はやってるな」
「ベテランじゃないですか!」
「そんな褒めても何も出ねぇ~ぞぉ」
「お前満更でもないくせに」
「うるせぇ!」
「まぁ、俺らも長々と生きちまったなぁ」
「あぁ、それもこれも――」
「アオっつたね!今日は宿に戻って休めって言ったろ!そんなおっさん達は明日も居るんだから、部屋にお行きッ!」
「はッはい!」
急に背後から怒鳴られ、条件反射で答えながら奥に見えていた階段に走り、急いで駆け上がり、二階に着いて一息ついてゆっくりと三階に上がったのだった。
「ふぅ、心臓止まるかと思ったてか、止まりかけたぜ」
「ほんと、リガさんは怖ぇよな」
(え、誰‥)
急に話しかけられたと思えば、階段を上がりきった三階の直ぐ右側には、二人用の椅子が置かれており、150cm程の少年が座っていて、ニッコリと笑いながら明桜を見ていた。
「俺はトガリだ、よろしくなッ」
「明桜です。よろしく」
「それでなんだが、アオはスライム倒せるか?」
「いや」
「俺らも何だよ、そこでだ!一緒にパーティー組まねぇか?」
「はぁ?」
「そんな驚くなよ、冒険者がパーティー組むのは当たり前だろ?それに、倒せない敵が居るなら仲間を増やして戦え!それが爺ちゃんの教えなんだよ」
(だからと言って、序盤の序盤、それもスライム相手にその理論でやるのはどうかと思うが、俺も倒せないしな良い案なのか?だけど、信用して良いのだろうか…)
「トガリは俺らって言ったよな?他には何人居るんだ?」
「姉ちゃんだけだ」
「お姉さん?」
(ダメだ、とんとん拍子で進み過ぎてるし、一旦考えて明日答えよう)
「ちょっと来いよ、姉ちゃん部屋に居るから会おうぜ」
「いや良いよ、明日で」
「良いから良いから」
トガリに強引に招かれ、何処の部屋に向かうのかと思えば、トガリが座っていた所から一番手前の右側の部屋が目当ての部屋で、トガリはドアノブに手をおき、ドアを開き中に明桜を入れようとする。
「姉ちゃん、パーティーに入ってくれそうな奴を見つけたんだけど」
「お邪魔し――」
(あぁ終わった、安易に入るんじゃ無かった)
明桜がトガリに連れられ部屋に入ろうと、中に視線を向けるとトガリと同じ背丈で、茶髪が背骨まで伸びている人物が、ドアから見える位置に下着姿で立っていたのだ。
「ちょッ、え?!…‥早く閉めて!バカトガリッ!」
「ごめんッ」
バタンと最速で閉められたドアには、閉まった瞬間に何かが当たる様な音が響き渡った。
「やべー、忘れてた。姉ちゃんが着替えるから俺部屋から出てたんだった」
(それは忘れたらダメな奴じゃん)
「もう眠いし、トガリ、パーティーの件は明日な」
「俺1人で謝るのか!?」
「すまんが、どちらかというと俺は被害者だ」
「そんなぁ~」
「達者でな、生きてたら明日パーティーの話をしよう」
「お、ぉぅ...」
消え入りそうな声で見送られた明桜は、リガさんに言われていた右奥の部屋に後ろを振り向く事無く入っていったのだった。
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