第4話.適正
「最後にもう一つ聞いて良いですか?」
「…何で、しょうか」
スアの頬が一瞬つり上がったが直ぐさま戻り、明桜がそれに気づく事は無く、質問をするので、スアは無心になり質問に答える。
「先程説明してくれた、職業ってあるじゃないですか」
「はい、戦士職や魔法職、生産職ですよ。それがどうかしましたか?」
「生産職の人は武器や防具などを作ると教えてくれましたが、生産職の方が自ら前線に出て戦って実績を残した事例はありますか?」
「え。生産職は戦う職ではありませんよ?」
「それでも殴ったり、剣を振ったり出来るのですから、戦えはしますよね?」
「それは勿論出来ますけど、出来るからといって、それで敵が倒せる訳じゃないですよ、スライムすらまともに倒せないまま、囲まれて殺されるのが落ちです」
「そうですか、教えていただき有難うございます」
「他に…は、ありませんよね?」
「はい、沢山質問してしまってすいませんでした」
「お気になさらずにこれも仕事の内ですから。これから依頼を受けて外に行かれるのでしたら、どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
明桜がそう返事を返しギルドの外に向かって歩き出す、そして明桜がギルドの外に出て姿が見えなくなった途端に、長い間坦々と質問攻めされていたスアは膝から崩れる様に座り込んだのだった。
ギルドを出て明桜が最初に向かったのは、ギルドから出て直ぐ右に隣接してある武器屋だった。
ギルドと比べると同じ二階建ての建物であっても、かなり小さく作られており、店内に入ってもその印象は変わる事無く、小さなカウンターが奥にあり、武器が壁に飾られ、樽に無造作に立て掛けられていて、品を見ながら買い物をするなら6人程が精一杯な感じの店だった。
(というか空にあるアレが太陽なら、今は昼間なのに客が1人も居ない…)
「らっしゃい」
無愛想で低く小さい声が聞こえ、カウンター横の扉が開いた。
「すいません、安く買える武器ってどれですか」
「・・・・・・」
明桜は扉から出て来た背丈が180前後程ある大柄な男性に話しかけるが、その男性は答えずに明桜に視線を向けた状態で沈黙した。
(何故に俺は見られてるんだろう、見た感じ50代とかだよね、耳が遠いって訳じゃ、無いとは思うけどどうしてだ)
「あの~」
「・・・・」
(文字も読めないし、話してくれないなら何がなんだかさっぱりだ。帰ろぉ)
明桜が諦めて帰ろうし、振り返り一歩進むと、その行動を止める様に呼び止める声が聞こえて来た。
「待て」
先程よりも無愛想、というよりもドスの利いた声に身体が一瞬反応し、背筋が勝手に動いたままゆっくりと声の方に向いた。
「はい。何でしょうか」
「何でしょうか、じゃねぇだろ、お前さんが聞いたんじゃ無いか、安い武器はどれだって」
(どんなタイムラグだよッ!てか、質問覚えてるならそのまま答えてください、お願いですから、俺は字も読めない貧乏な異世界人だぞっ!)
「そこん中の樽の奴は全部最低値の武器だ、100Gだ」
「すいません、最低値って何ですか?」
「・・・・・・」
(しまった、タイムラグを発生させてしまった。質問しなければ良かった…‥)
「・・・・最低値は、武器から得られるステータスの上昇値だ、短剣の最低値はSTR1、片手剣がSTR3だ」
「教えて頂き有難うございます」
大きい樽の真横の少し小さめの樽から、短剣を取り出し手に取る。
(変化が全く分からん、それに恩恵を得られるどころか重いぞ。持てないだろうが試してみよう)
短剣を元の場所に戻し、隣の樽から片手剣を取ろうとするが、やはりそもそも樽から完全に持ち上げる事すら難しく、少し浮かせただけで抜ききる事は出来なかった。
「片手剣を装備すんなら、STRが最低でも5は必要だぞ」
「有難うございます」
礼を言い再び短剣の樽に視線を戻す。しかし素人目ではどれも殆ど同じ短剣にしか見えず、刃毀れを目視で確認し、同じ大きさだろうとも持ち手の部分の感触で一本の短剣を選ぶ。
「これください」
「・・・・」
タイムラグ無しに支払いを済ませてくれる筈も無く、明桜は改めて値段を言う前に慣れない手付きで、ギルドから支給された通貨を取り出した。
「大銅貨1枚で100Gですよね」
「・・・・・・あぁ」
「どうぞ」
「・・・・まいど、これはそれのだ」
「それじゃ有難うございました」
カウンターから取り出された鞘に短剣を入れ、鞘に入った短剣を片手で握りながら店の外に出る。
(今更だがこれ、銃刀法違反的な奴で捕まったりしないよな…)
「はは...」
(まぁ大丈夫か、何だって此処は異世界だし)
ギルドから真正面に伸びる大きな道、それを真っ直ぐ進み門を通り抜け、更に進む。そして最初に見えるのが、スライムしか居ないと言われている森だ。
(そして行動しない者に変化無し。と、覚悟を決めて此処まで来たは良いが…無謀だったのかもしれない)
入って来た草原を、木々の間から視認出来る範囲で森を歩き、ようやく見つけた一匹のスライムを明桜は見つけた。しかしそのスライムは身体の向こう側が見える程に、透き通った水色をしていて外見からは恐怖など微塵も感じないが、今は違う。
(アイツ人を溶かして捕食してやがる…)
目立った傷も見受けられない、明桜よりも体格の良い屈強な男性が今まさに、スライムに溶かされ顔の輪郭が分からない状態になっている。
(考えろ、相手はスライムだ。可能性としては体当たりか、相手の口元に纏わり付いて窒息死させるか、ぐらいじゃないか。それかこの世界のスライムが序盤最強なら魔法でボンっ、って感じだが‥魔法を使われたら敵わん)
明桜は静かに自分の足元を見渡し、手が届く範囲から握れる大きさの石と、大きい葉を手に取った。
「火よ葉を燃やせ」
石を包んだ葉が手の中で燃え、瞬時にスライムに向かって投げつけた。
投球の威力よりも命中する事を念頭に置いていた石は、捕食中の止まっているスライムに命中し、ドロっとした身体にめり込み、触れた部分を無造作に飛散させながら、スライムの身体を石が通過していった。
「まだ動くのね…」
身体の一部が無くなり、丸みを帯びていたスライムの形は崩れ、傾いているがまだ動いている、そしてこちらをハッキリと認識している様な気がした。
「ならもう一回投げ――――は?」
スライムの内部から身体が膨張し細胞が溢れ出、無惨に欠けていた部分が1秒も満たない内に元通りになったのだ。
「ザッ」
スライムの正面部分が一瞬柔らかく内側に沈み、次の瞬間膨れ上がったと思ったら、隠れて居た茂みが30cm程スッポリと丸く穴が空き、攻撃された事を明桜はようやく認知した。
(無理無理無理無理逃げるッ!)
明桜は間髪入れず振り返り走り出した。
走っている最中は転ばない事と、森の木々で射線を切る事だけを考え、森の中を全力で走った。そして森を抜ければ障害物が無くなり、草原を更に速度を上げ全力で走り、明桜はやがて森から数百メートルの草原の上で、仰向けに倒れていたのだった。
「こんなん無理ゲーだって…」
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