第2話.偽り
明桜はあれから2,3時間、春と冬の間の様な気温の森を歩き続けていた。
しかし周りを見渡しても、数時間前に居た場所と今居る場所を比べても特に変わりなく、空に見える太陽の様な恒星だけが時間と共に動いていくだけであった。
(この森に俺以外の生物は居るのだろうか。)
季音葉が居る可能性を考え円を描くように森を歩き続けて居たが明桜だが、人の影どころか生物の気配すら感じ取れず、そうすれば必然と獣道の一つすら見つける事は困難な状況だと言わざる負えなかった。
(もしこの森が何らかの理由で、生物が生存するのが困難な環境で生物が居ないのだとすると、このまま長時間この森に居ると俺は謎の病気や何かしらかが原因で死ぬんじゃないか?…)
森に虫や小動物の気配すら無い為、明桜は自分の置かれている現状を再度冷静になって考えるのだった。
―
―
「急いでこの森を出よう」
そして考え出した結論が森を出るという選択。
(最初の地点から周りをひたすら探しながら移動して来たが、季音葉どころか他の生物すら居ないのは普通に考えて変だ、現にこの森で聞こえる音は風で森の木々が揺れ葉が触れ合い生み出す音しか聞こえていないじゃないか‥てか何で俺は少し考えれば推察出来るこんな簡単な事に気づかなかっただ。)
「しくった、早く出ないと不味い」
明桜は自分が置かれている状況を理解すれば、理解する程に、どれ程不味い状況なのかを察し、森を進むその足取りが段々と早くなり円を描くように進む事を止め、森を最速で出る又は生物の気配がある場所に辿り着くまで真っ直ぐ進む事にしたのだった。
しかし獣道を歩いている訳ではない明桜が、木の根や生い茂った草や木を避けながら森を真っ直ぐ進むのは、円を描くように森をぐるぐるする事と同じかそれ以上に辛い行動で自身の体力を確実に削っていた。
―
(歩いても歩いても見えるのは種類すら変わらない木々や草、これが森かぁ..今まで日本で過ごしていた頃は森の中に入る機会が無かったがよくニュースで遭難者が報道される理由が分かった気がする、森は舐めていたら一瞬で迷うなこりゃぁ、景色が変わらないのが一番辛い、何処を歩いているのかすら目印が付けづらいんだからな)
「そうそうだから俺はこの森で最初に立っていた場所に、こんな分かりやすく不自然に枝を無理やり突き立てたんだよな・・・・・ん?」
「何で俺の目の前に最初に付けた目印の枝が突き立ってるの?」
明桜は自分が突き立てた枝に話かけていた。
「何でなん?おかしいだろオイッ、お前は俺の後ろの方角に無いとおかしいぃじゃん、何で俺の進行方向にあるんだよ。」
森をひたすら歩いて、自分の命の危機だと思い更に出る事を意識して歩いていた結果、目の前にある枝が今居る地点が最初の場所だと言う事を示していた、その現実が明桜の活力を一瞬にして奪い去り、倒れる様に膝から落ち地面に寝転がる明桜だった。
「何でだよぉぉ...」
(俺は確かに真っ直ぐ進んでいた筈だ、それにあの太陽の様な恒星を目印に進んでいたから方角が分からずぐるぐるしていた可能性は低い、それなのに何で‥)
うつ伏せで倒れた明桜はひっくり返り仰向けで項垂れ考えるのだった。
(この森は何か特殊な力が働いているのか?ここは異世界だし全然不思議じゃ無いが、そしてその力が、森に生物が居ない答えなのかもしれないな‥そうだとするなら、この森は迷い込んだら出られないタイプの森だろうな‥恐らく入った生物は出られず餌が無い為、片っ端から死滅したんだろうな、同じ様に俺も。)
「あぁぁ..ゴメンな季音葉、俺もう、ダメみたいだ。」
(足も根の上を歩く事で予想以上に消耗している、これじゃあもうこの森に来てから歩いた距離の半分ぐらいがギリ歩けるかどうかだな、それじゃあ違う方角に進んで色々検証するのは無理そうだな、あ~本当に詰んだのかもしれん。)
空を仰ぎ手を上に伸ばしゆらゆら左右に動かしたりする明桜、その動作に意味が有るのか無いのかで言えば意味などは無いだろう、ただ単に芝生の様な草が生えている場所に仰向けになり、枝や葉の間から差し込む光が一時の休憩と言わんばかりの感覚をもたらした事により無意識でその動作をしているに過ぎなかった。
一体どれ程の時間その動作をしていたのかは定かでは無いが、明桜の意識は段々と薄れていき森の中で眠りに落ちたのだった。
―
―
―
―
―
「ねぇ明桜どうかした?」
「あれ、季音葉?」
「どうしたのよっ季音葉以外に私が何だって言うの?」
明桜の目の前には可愛い色の振り袖を着た季音葉が立っており、その後ろには神社が見え、周りを見れば人混みの中に居て、2人で初詣の列に並んでいる最中だった。
「そりゃ季音葉は季音葉で俺の自慢で可愛い幼馴染だけどさ」
「もぉ何言ってるのよ、それよりさっきから定期的にボケェ~ってしてるけど明桜って寝てから来なかったの?」
「俺だって色々あって忙しかったんだよ、大体季音葉だって振り袖着てるんだし準備に時間がかかって全然練れてないはずだろ?何で元気なんだよ」
「明桜ったら女性の着替えに興味津々ね。」
「そんな事ねぇよ、ただ何で元気なのか聞いただけじゃないかよ」
「質の良い睡眠をすれば短時間でも、回復出来るのよ覚えて起きなさいね」
「それ絶対年明けの時寝てたな」
「今年はちゃんと起きてたんだもんッ!」
そう言いながら頬を少し膨らませて見てくる季音葉はとても可愛く、最高だった。
(あれ俺何か言いたい事があった気がしたんだが…)
「次の方どうぞ、順番ですよ」
俺と季音葉が2人で話をしていたら、列を整理している男性に話しかけられる。
「ほら明桜行こ」
手を引かれ賽銭箱のある所に引きづられる俺。
「ダメっ!そのままだと――」
「季音葉何か言った?」
「っん?私何も言ってないわよ」
「なら良いや、それにしても近づけば近づく程この神社大きいよな」
「根津神社、は日本武尊が創建したと伝えられている古社何だからこの大きさも納得よね、それよりお賽銭はちゃんと持ってる?」
「あぁちゃんと持ってる大丈夫だそれより―」
―
「あれ季音葉…」
「大丈夫ですか?自分誰なのか分かりますか?」
(誰だこの子は。それに季音葉は何処だよ‥)
明桜がゆっくりと声のする方を見るとそこには仰向けで寝転がっている明桜のすぐ横には見知らぬ女の子が居たのだ。
女の子座りして居るその子の容姿は、白銀の様な綺麗な白髪をしており、長すぎる髪が地面に着いていて、髪だけでも存在感が強い為いっそう女の子が小さく思えてしまうがそもそも、その顔立ちはとても整っていて美しく、そしてどこかおっとりとしていてとても可愛いく、現実では有りえない存在だと思った明桜はここが直ぐに、また森の中の夢の世界なのかと思ったのだった。
(せっかく夢から解放されたと思ったのに、またかよ‥それに誰だよこの綺麗で可愛い子は、俺なんかが喋りかけて後で殺されないだろうな?、話しかけて来たのは向こうだし大丈夫だよな?)
明桜は覚悟を決め短く話しかける。
これは関わる時間を最小限にして相手側に要らぬ不快感を与えないだろうと考え抜いた結果こうなったのだ。
「君は誰?」
「あッ、ごめんなさい私ったらすっかり名乗るの忘れてました、私の名はユティナ・シーゼソラリスタです、急を要する状況だったとはいえ名乗るのが遅れて申し訳ありません。」
(急に雰囲気が変わっていき段々と冷静さを取り戻した、この子の名前は何だって?ユティナ・シーゼ・・・・・だめだ失礼だろうが色々状況が変過ぎて覚えきれんかった。)
「すいません、ユティナ・シーゼ…の後をもう一度教えてください。」
「・・・」
(どうしたんだろうか、凄く驚いているまさかこの夢の世界では再度聞くのはマナー違反なのだろうか。)
ユティナ・シーゼソラリスタという女の子は驚いた様子で目を一瞬見開きその後パチクリさせじっと明桜を見つめるのだった。
―
―
「シーゼソラリスタの知名度は高いと思っていたのですが、それかやはり私が遅れたせいで幻夢の影響でしょうか。」
「幻夢?」
1人で呟く様に声を発したユティナの話を聞き取れた明桜はすかさず単語を疑問を抱いている口調で口に出した。
「説明させて頂きますね、幻夢と言うのは、この森が見せる夢の事であり、その夢はその者が思う理想の世界を見せ、見始めた者はその夢の世界が絶対に現実だと思う仕掛けがされている夢の事であり、夢を見始めた者は通常であれば一生夢の世界から出られなくなるのが幻夢です。」
「つまりあれか、お前は、ここが夢じゃなく。現実だと言うのか?」
明桜は理解出来るが理解したくない話をされ、言葉遣いなど気にもかけず、嘘だと言ってほしい為にユティナに確認も含めて問うのだった。
「はい、私と話している今が現実側で間違いありません。」
「そんな…‥」
森を歩き経て結果的に絶望して、夢の世界で季音葉と会え話せ日常を再度体感した事で一時は最高に気分が高まり、今度はそれが夢だと言われ再び絶望した、今の明桜の状態はまさにこの世の終わりを見ている様な絶望感を漂わせていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます