転移した俺が幼馴染を探そうにも、与えられた力は最弱と蔑まされる『言魔士』だった

松井 ヨミ

第1話.転移…



シャランシャランッ


 前後左右何処を見ても視界に入ってくる人の姿、縦横にいくつもの列を成し、先頭の人達が次々と本坪鈴を鳴らし、参拝をしていた。



既に年は切り替わり今は、2022年1月1日午前4時15分



 そして一人の少年も、新年の幕開けと共に、高校受験の結果が僅かにでも上がるならと参拝に来た、長蛇の列を作っている内の一人であった。


 少年の名前は文本ふみもと 明桜あお、15歳の中学3年の受験生だ。


「ボーッとして、どうかしたの?」


 明桜あおは何も一人で来ている訳では無い。


 そもそも明桜あおが神頼みしてまで、高校に受かりたいのも、全ては今話しかけて来た、同級生であり幼馴染の黒川くろかわ 季音葉きねはと同じ高校に行く為なのだから。


 季音葉きねはという少女は黒髪を腰まで伸ばし、眼鏡を掛け、タレ目が特徴的であり、黒色の振り袖がとても似合っている少女なのだ、少女という言葉が似合う彼女の背丈は、148cmと高くは無かった。


(可愛いから気にしないし、俺は良いけどさ。初詣に黒色の振り袖って、縁起的には駄目じゃ‥)


「ねぇえってばー」


「あッはい!…痛ッ」


「痛てッじゃないわよ、呼んでるのに返事しないし、返事したと思ったら大声出さないのっ、周りの迷惑になっちょうじゃない」


「返す言葉もございません‥」


「良いわよ、それで何考えてたの?」


「言えない‥言えるわけが無い、季音葉きねはの振り袖が可愛くて、見惚れてたなんて…」


 明桜あおはわざと声に出して言い、面と向かって素直に伝えると、季音葉きねはの目が弱々しく一瞬だけ見開かれたと思うと直ぐに下を向き、数秒で顔を上げ直し口を開いていた。


「ちょっと、何考えてるのよ‥そんな余裕があるなら、少しは受験の心配でもしなさいよねッ!」


 段々と早口に変わり、早く言い終えようとしていた季音葉きねはだったが、明桜あおの顔を見ない様に、最後辺りは目を瞑っていた。


 怒ってるように見えなくも無いが、赤みががった季音葉きねはの頬が緩んでいて、照れているのが明らかだった。やがて季音葉は顔を隠すように進行方向に身体を向け、そっと明桜の横に寄り添う形で並んでいた。


「ちゃんと考えてるさ」


(じゃなきゃ、神頼みなんて、最終手段は使わないよ‥)







 そして列は進み、明桜あお季音葉きねはの順番は、次に迫っていた。


「二拝二拍手一拝だよな?」


「そうよ、後、賽銭箱の前に立った時と、拝礼して退く時に会釈するのも、作法だからね」


「流石だな、いつも助かるよ」


「これぐらいは常識よ、それに教えなかったら、スマホで調べようとするじゃん、それこと神様に失礼よ」


(バレてましたか‥確かにもう俺達の順番なのに、賽銭箱を目前にして調べるのは色々と不味いし、失礼極まりない)


 階段を上がった二人が、賽銭箱まで歩いた二人は、粗同時に会釈をし、それぞれ賽銭を優しく投げ入れていた。


 90度の深いお辞儀をゆっくりと2回、胸の高さで2回拍手をし、それが終わったら指先を綺麗に揃え、手を合わせてから神様に感謝し、各々の思いのままに祈る。


(どうかお願いします、高校に絶対合格したいです。お願いします)


 そして明桜あおはお辞儀をし、歩き出す為に目を開けた。


「え?」


 参拝の途中でそんな声を出すのは、マナーとしては良くないだろうが、そんな事は既に明桜あおには関係無かった。


 目を開き前を見た明桜あおが目にしたのは、賽銭箱などでは無く、その原材料となったかもしれない木だった。


 そう賽銭箱を作る為には欠かせない木だ。それも大きな大樹と呼ぶに相応しいだろう立派な木が聳え立っていた。


「はぁ?えぇ?なっ、え……」


(どうなってるんだ、俺は季音葉きねはと一緒に初詣に来てた筈だ。それなのに何で今、目の届く範囲に季音葉きねはは居なくて、神社でもない森に居るんだ?これは夢か?ならどこからが夢だ?初詣に行ってた事すら‥‥)


 明桜あおは理解が出来ず、夢だと思い込もうとするが、馬鹿の一つ覚えで自身の頬をつねる事で痛みを出させたが、夢ではないという事実だけが判明した。


「嘘だろ、夢じゃないのかよ」


(冷静に考えろよ、冷静にだ・・・)


「ふぅ~」

 

 明桜あおは落ち着くために、何度か深呼吸をしてから、ゆっくりと周りを見渡した。


(ヤバい、思考のペースはどうにか、ゆっくりに出来たが、心臓はバクバクだ。そして俺はどこからどう見ても、森に居るよな‥)


 目の前には大樹があり、その周りにも樹木や木が沢山あり、その樹齢が長い事を告げるかの様に聳え立ち、その存在感を放っていた。


「森だなぁ~ならどこの森だよ」


(てか、普通に考えて現代技術で、そんなまか不思議な誘拐は不可能だ。つまりここは高確率で異世界と思った方だ良いのだろう、てか参拝してたのに神様は何の面会もなくいきなり異世界に飛ばすのかよ…‥おかしいだろッふざけんな)


 明桜あおは何処に当てれば良いか分からない気持ちをぐっと堪え、一息で気持ちを切り替えてから、冷静に思考を動かした。


(異世界かぁ~それなら)


「ステータス、とか言ったらでぇ――」


 明桜あおの目先40cm程の場所に突如して、ステータス画面は現れた、縦に40cm横に60cmの半透明の板が空中に浮かび、文字や数値だけが表示され、ステータス画面越しでも、景色は薄っすらと見えていた。


「はは...冗談キツイぜ、マジで…‥」


(俺が何でこんな目に合わなきゃいけないんだ、俺は季音葉きねはと初詣に行ってただけで....季音葉きねは? そうだよ、何やってるんだよ俺は、季音葉きねはは無事なのか? 俺がこんな状況に陥ってるのに全く同じタイミングで参拝した季音葉きねはも同じ様で、この世界に連れてこられた可能性もあるじゃないかッ)



 明桜あおは急いで周りを見渡すが、見える範囲に季音葉の姿は無かった。



(不味い‥非常に不味いぞ、あいつは頭はめちゃくちゃ良いが、身体を動かす事は人並み以下だ、ここがよくある小説とかの異世界ならばモンスターが絶対に居る。俺が目を開けて森だったんだ、ほぼ真横に居た季音葉きねはもこの森に居る可能性が高いだろうが、それこそ最悪だろ。振り袖で森を歩いて、モンスターに遭遇ってか?無理だろ、どう考えても無理難題だ)


「クソがッ、何でこうなるんだよ」


(あ、そういえばステータスが出てきたんだったな)


 明桜あおは吐き捨てるように大声で暴言を吐いた事で、僅かな冷静さを取り戻し、目の前に出現していたステータス画面の存在を再認識していた。


――ステータス――

文元ふみもと 明桜あお】Lv1

【言魔士】Lv1


【H P】:10

【M P】:10

【STR】:1

【VIT】:1

【INT】:1

【RES】:1

【AGI】:1

【DEX】:1


スキル

【言魔法】Lv1

【言魔法対象】Lv1

【言魔法効果範囲】Lv1

【言魔法持続時間】Lv1


【言霊魔法】Lv1

【言霊魔法対象】Lv1

【言霊魔法効果範囲】Lv1

【言霊魔法持続時間】Lv1


パッシブスキル

【HP自動回復】Lv1

【MP自動回復】Lv1


『STP・5』『SP・5』『PSP・5』





(うわぁ..なんて情報の多さだよ、最近ゲーム出来てない身としてはこの複雑さは御免こうむりたい、いやガチで育成するなら楽しそうだよ?でも今はパパッと理解して少しでも季音葉きねはが居るのか居ないのか捜索したいのに…)



(焦っても仕方ない事もあるが、ステータスが出てきた時点でここは異世界確定だ。ステータスを理解しないで、自分の身すら守れないのなら意味がない。ここは冷静に自分のステータスについて考えたいが‥‥)



 それから明桜あおは自分自身に言い聞かせ、急ぎたい気持ちを押し殺し、暫くの間はステータスを眺め、考えていた。



(まず当たり前だがLvは1だな。そしてパラメータもオール1。恐らく自分でポイントを振って個性を出していく感じのステータスだな、STP・SP・PSPの3種類のポイントか、予想でSTPはステータスのパラメータ、SPがスキルで、PSPがパッシブスキル辺りか‥それ以外なら分からん。てかスキル言魔法って何だよ、他にも言霊魔法とかあるし、粗一緒じゃんか、何が違うんだよ)


【言魔法】Lv1


【言霊魔法】Lv1


(あぁ、どうせなら火魔法とかだったら、理解しやすそうで良かったんだけどな、言霊ってたしかあれだよな、言葉には力が宿るって言う、霊力?的な、信仰的な‥)


「火よ付け」


 ならばと、思いついた明桜あおは、人差し指だけを上に向け立て、恥ずかしさからか、小声で言葉を言っていた。


ポッ


 そんな可愛らしい音と共に、火は指先に現れ、僅か一秒で消えていた。



(何だよ、この微妙なスキルは一秒で消えやがったし、よく見たらMP1減って9になってるし…マジかよ。これ絶対戦闘出来ない奴じゃん、これから後は勝手に効果範囲とか持続時間をSP振って個性的にしろって事だろ?)


「マジふざけてやがる」


(持続時間に1ポイント振った所で攻略サイトも無いから、何秒伸びるのかすら分からないし、どうせ割り振ったポイントはリセット出来ないんだろうな)







「結局悩んでもわからんタイプのモノだったな」


 明桜あおは自分の魔法がどんな感じなのか分かった所で見切りをつけ、最初に立っていた場所を目印に、円を描くように周りを歩き始めた。


 体力を温存する事を考えたら、やっている事は悪手だが、季音葉きねはが居る可能性がゼロで無いのならばと、歩く範囲を増やし捜索する以外の選択を明桜あおは、選べなかったのだ。








 
































 




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る