運命

「その男はやめときな。運命じゃないよ。」



昔から、ママがこう言い放つ男とは絶対に上手くいかなくなる「運命」なんだよね。

ママには私の「運命」が見えてるんじゃないかなって、私本気で思ってる。


あ、ママって言っても本当のママじゃなくて、私の恩人のママのことね。


私、14歳で家出してさ。

特に行くあてもなく1人でフラフラしてた私に声を掛けてくれたのがママ。

住む場所とか、今の仕事まで、ぜーんぶ面倒を見てくれた恩人なの!



ママとの出会いは私にとって「運命」だったと思う。

ほんと、ママのおかげで今の私があるって感じ。



でも…もう私もいい年齢だし、正直いつまでもこんな仕事続けてたくないんだよね。

ママのことは大好きだけど、やっぱり堂々と人に言えるような仕事がしたいなって。


だからママに彼のこともやめとけって言われて、結構へこんでる。

今の彼は条件的に最高だし、これでやっと私も結婚して普通の主婦になれる〜って思ったんだけどね。


まぁでもママがやめとけって言うなら、もうこの人とも絶対上手くいかない「運命」だし。付き合うだけ時間の無駄だもんね!


よし!彼に、もう別れようってLINEしよーっと。




〜〜




「…もしもし? ええ、大丈夫よ。あの子は辞めないわ。

残念ながら、結婚の縁は立ち消える「運命」にあるからね。ふふ…。


あらやだ。洗脳だなんて、そんな人聞きの悪い言い方やめてよ。


だって、ほら。若い頃の恋愛なんて数ヶ月で醒めるでしょう?

私はただそれに乗っかって「やめときな」って言っただけよ。


ほら、あの子は「運命」って言葉が好きでしょう?

私との出会いも「運命」だって言っちゃってるんだから。ふふ。



…そうよ。私があんな金の成る木をやすやすと手放せるもんですか。


あの子、安い給料でどんなことをさせても文句一つ言わないのよ。

それどころか、幸せな「運命」の結果だと思って働いてるわ。

世間知らずって、哀れなことね。



しかしもうあの子もいい歳だから。そろそろかしらね。


ふふ。いいこと教えてあげる。

婚期を逃した女はね、とにかくお金に執着しだすの。

女ってみんなそういう「運命」にあるものよ。


だから、そろそろあの子があんたの店に堕ちる日も近いわね。


その時は、紹介料。たんまりといただきますからね。ふふふ。」



(了)

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