6 五年後

「お前、また買ったの?」

 高校の教室で自慢気に、ぼくは漫画の週刊誌を広げている。当然、休み時間に。授業中は絶対にやらない。決まりをきっちり守るのが、ぼくの『賢さ』だからだ。

「そーだよ。タマも見る?」

 友人の玉野たまのは、ぼくのその一言に「うんにゃ、いらん」と肩をすくめた。

「ちゃんと漫画読めよなぁ、漫画をよォ」

「別にいいよ。俺の目的漫画じゃないもん」

「外川がグラドル好きなのとか、ほんと意外だよなぁ」

 覗き込んできた青磁せいじ――通称セイちゃんに言われて、表紙を見直すぼく。

「だからァ、グラドルには興味ないってばァ。俺が好きなのは、このだけ」

 表紙をそっとひと撫でして、二人へそれを向ける。

「だってかわいいじゃん。ほら、これ俺に向かって笑ってくれてんだよ」

「ハイハイそーですねぇ、そうだといいですねぇ」

「外川は凍上とうがみ瑠由のことになると夢男子炸裂すんの、かなりギャップだわ」

「別に夢男子じゃありませぇーん」

 タマもセイちゃんも呆れているけど、いいんだ、それで。ぼくだけが知ってる瑠由ちゃんは、ぼくの中で大事に大事に宝物になってるんだから。



    凍上瑠由

   ――19歳の爆裂最強ボディを

         あますとこなく大胆公開!――



 本当にスターになってしまった――そう思う度に、あの発言をしたぼく自身をちょっと自慢に想っている。

 あれからすぐに、瑠由ちゃんは本当にグラビアモデルになってしまった。けれどそれと引き換えにするように、瑠由ちゃんはまた別のどこかへ引っ越して行ってしまった。行き先は知らない。引っ越した日も、実は知らない。

 ぼくが瑠由ちゃんに最後に会ったのは、あの屋上で話をした日だった。


 たった一週間の出逢い。たった一週間の交流。それだけだったのに、それ以上になった大切なひと。

 あのときのぼくは、確かに瑠由ちゃんに恋をしていたのかもしれない。でもぼくと瑠由ちゃんは、恋愛よりも違うかたちの堅くて確かな約束をしたんだと思う。


「瑠由ちゃんはやっぱり美人だ」

 マスクをしていない瑠由ちゃんは、ぼくの予想以上に綺麗で、美人で、かわいかった。ストーカー被害に遭うのも頷けるくらい。……いやいや、ストーカーは犯罪だからダメだよ、絶対に。

 事務所がそういうのから守ってくれているんだと、瑠由ちゃんはいつかの雑誌のインタビューで答えていた。ぼくはそれを読んで、かなりほっとしていたんだ。

「外川ぁ、次移動教室だよ」

「うんっ、いま行く!」

 近頃の瑠由ちゃんは、テレビタレントみたいなこともたまにやっているみたい。ネット配信のゲスト出演をしてみたりして、広い層から支持が厚くなってきている。

 それでも、圧倒的に雑誌に載ったり写真集を出したりしてる方が多い。瑠由ちゃんはきっと、ぼくとの約束を覚えていてくれてるんだと思うことにしている。

 表紙の瑠由ちゃんをそっとひと撫でして、ぼくは鞄の中へしまう。絶対に折り目のつかないように、丁寧に、慎重に。

「またね、瑠由ちゃん」

 タッと駆けるようにして、ようやく席を立つ。そしてあのときの瑠由ちゃんのように、ぼくも振り返ることなく教室を出た。




               おわり






──────────────────────


 佑佳作品

【28メートル先のキミへ】×【かたゆでたまご】



 プロット考案: 南雲なぐも さつきさま


 登場人物1人目

・性別 :男

・年齢帯:ティーン(11〜19)

 登場人物2人目

・性別 :女

・年齢帯:ティーン(11〜19)


 ジャンル:現代モノ


 あらすじ:

「絶対マスクを外させたい男」が

「男の前では絶対マスクを外したくない女に対して奮闘する」話




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