結成秘話
第3話 魔力の増やし方
「もし…し…おき…」
自分を起こそうとする声が聞こえる。デジャブを感じるが、今度こそ母親だと思う。そう願いたい。
「五分…」
手で追い払うジェスチャーをする。
「僕は母さんじゃないですよ。」
しかし返って来たのは…
「…おはよう。ノーマル。」
見覚えのある青年の顔であった。
「具合大丈夫ですか?熱ないですか?」
彼は心配そうに顔を伺った。俺が寝ている間、ずっと待っていたようだ。
なぁ、ノーマル
「俺さ、夢見たんだ。なんか俺大勢の前で魔力0だって言われる夢。お前が言ってた50やら60とかの最低値を悠々と越える…そんな夢。ほんと、変な夢だと思わないか?」
ちらと横を見る。目的の彼は口をつぐんでいた。
しばらくの沈黙が続き、ノーマルは目をそらすと、無言で机の上に一枚の紙をつきだす。
『シンダンケッカ
マリョクリョウ 0
トクイマホウ ナシ
トクイワザ ナシ
レベル 1
ツヨサハンテイG』
「なに?これ」
ノーマルの方を見る。
「能力測定結果です。」
ノーマルは気まずそうにそう言った。
「…へー」
首を引いて目を細めた。結果は変わらない。
その間、再び部屋は静まり返った。
数分後ノーマルは無理に明るく声を張り上げた。
「あ、あの、特別なこと起きましたね!ここまでの結果はこの世界でおそらく初めてですよ!」
手をパチンと叩く。
「うん。確かに起きたね…うん。逆にすげえわ。」
ノーマルの言葉が俺の心にグサッと刺さる。
「…あ、すみません。今デリカシーなかったですね…」
「…」
三度目の沈黙に入る。流石に自分も悪いと思い話題を変えようとなんとか言葉を捻り出した。
「なあ、つーかここ、どこ?」
いきなりで驚いたのか、ノーマルは焦りながら答える。
「え?!あ、こ、ここは役所の待機場所です」
なるほど。だからこんなに周りが豪華なのだろう。寝ていたソファも異常にふかふかだ。
「役所かぁ、てか、俺あの後どうなったの?」
「あ、貴方が倒れた後…」
ノーマルは俺が倒れたあとのことについて教えてくれた。
役所が大パニックになり、予言は本当に正しかったのかということと、機械の故障ではないのかということが役所内で会議された、らしい。
俺は機械の故障という言葉に少しだけ期待を込めて尋ねる。
「故障、してた?」
「いや全っ然正常でした」
食い気味ではっきり言われた。
いや食い気味ではっきり言うなよ、おい。濁せ。ノンデリが。
無言で睨む。ノーマルは俺が睨んでいるのに気づいて申し訳なさそうに俯いた。
その空気を突き破ったのはガラガラと扉の開く音だった。
入ってきたのは役所の従業員だった。
「失礼します。お客様、『名前登録と紋章の確認』が必要です。お手数ですがこちらにきていただけますか?」
あ、紋章…
「はい、今行きます」
誘われるようにソファから立つ。
「僕もついていきますよ。心配ですし。」
待機室を出てお姉さんに案内されながらついて行く。どうやらそういう場所があるらしい。
歩いている間に、ある一つの疑問が思い浮かび、ノーマルに耳打つ。
「なあノーマル。そういえば俺って紋章着くのか?」
ノーマルに聞いても当てにならない。分かっている。けど不安なのだ。気休めでもいいから認めて欲しかった。安心したかった。
だがノーマルが長考し出てきた答えは、
「…つかないんじゃないですか?」
「…お前ひでえな」
やっぱり聞いても意味なかった。
「紋章って、得意魔法とか得意技とかに影響されて浮き出るものなんですよ。みんな得意技はなくても得意魔法はあるんで、大体は着くんですけど…」
…逆に聞くんじゃなかった。
「…そっか。」
先ほどより落ち込んでいるといきなり従業員が声をあげる。
「こちらです」
すると目の前の高級感がある重そうな扉が動いた。
少しずつ開く扉中を覗くと十何人の従業員がこちらをじっと見ていた。
「な、なあおいノーマル、お前紋章とかつけてもらう時、こんな部屋入ったのか…?」
ノーマルに耳打ちする。
「い、いや、こんな部屋見たこともないです…」
「うっそだろ…」
中に入ると、真ん中には相変わらず高そうな机と椅子、その上に高そうな万年筆が立てかけてあった。
そこにある椅子に座ると従業員が俺を囲った。
その時俺の全身から変な汁が体中から出てくるのがわかった。
「これから何するんだよ…」
よくわからない事態に困惑していると、先程の従業員が紙を出す。
「ここに、お名前を書いてください。書いた名前がこの世界においての氏名になります。しっかりとした手続きで行われていますので緊急時以外は変えられません。お気をつけください」
「は、はい」
受け取った紙にははココニナマエヲと書いてあるだけだった。
あ、これノーマルが言ってたやつだ。ここに、俺の『名前』を書くのか…
もちろんだけど自分の名前は思い出せない。
ノーマルは普通という自分の「好きな」言葉を選んだ。いや普通が好きってどういうことだよ…ってそれは置いておいて…
俺は、俺の名前は、何にしよう。
前世の記憶とかも一切ないから好きな物なんて覚えてない。だけどせっかく異世界に来たんだし、それっぽい名前がいい。
じゃあカッコいい単語とか?
ナイトとか…いや厨二病か。やめよう。絶対後で恥ずかしくなる。
「名前、名前かぁ…」
ぽつりと言葉を吐く。
また、また何かが俺の中で引っかっていた。
この感覚には覚えがあった。
あの忌々しいスライムと
まだあの感覚になれない。あと一押しなのに。喉元から出てこない。
俺は頭を抱えていた。すると突然、誰かに自分の肩をポンと叩かれた。
振り向くと、そこにいたのは
「…ノーマル?」
こちらへ微笑む彼はまるで全てをわかっているかのように言葉を発した。
「思いつかなければ好きな物だけじゃなくて、誰かの名前借りるってのもありだと思いますよ。大事な人の名前とか、なにかパって出た名前、もしかしたらそれが大切な人の名前かも知れません。そういう勘って結構大事なんですよ。」
そうして思いついたかのように続ける。
「あ!そうだ!もしくは僕が考えましょうか?例えばルシウスとか、あと…」
誰かの名前、か…
とりあえず、ノーマルのクソダサいネーミングセンスは置いといて、
誰かの名前か…大事な人の…異世界…厨二病…
自分の中の紐がスルスル解けて行く。
あ、来た。
再び俺の視界は暗転する。
舞台は河川敷。
そこに男子高校生が『二人』いた。
何やら話し込んでいる。一方の学生が持っているのは漫画だ。
どうやらその漫画について熱く語っているようだった。
「この主人公がな!強くて、最っ高にカッコいいんだよ!っなぁちゃんと聞いてる?〇〇…」
男が紹介していたそれは異世界転生ものの漫画で主人公の物語で、
ある日突然異世界に転生し最強になって友人のために戦う。俺が一番好きな漫画だった。作者が亡くなって、単行本たったの2巻で途中で終わっちゃったけど、この本は俺の希望だった。俺も主人公みたいになれたらって…友人をかっこよく救えたらって何度も思った。
そうか、あれは俺だ。
鮮明に思い出されていく記憶。
そこに一つの名前が光った。
…だから、俺の名前はきっとこれがいい。
その瞬間、ハッと意識を取り戻した。
俺の手元の紙にはもう名前が書かれてあった。
それに気づいたノーマルは興味深々に紙を覗き込む。
「あ、決まったんですか?えーと…」
「—ルイ?」
「ルイは俺の一番好きな異世界漫画に出てくる名前なんだ」
そう言うと俺は目の前の従業員に紙を突き出した。
「へぇー。よく覚えてましたね。あ、もしかして自分と主人公を重ねて〜みたいなことですか?」
遠ざかっていく紙を見つめながら、ノーマルは尋ねる。
「いや、ルイは主人公じゃない。」
俺は前を真っ直ぐみつめる。
「…え?」
ノーマルは驚いたように俺を見下ろした。じゃあなんで?とでも言いそうだった。
「じゃあなん「主人公はレオンって名前なんだ。」
喰い気味に言葉を遮る。
「じゃ、じゃあルイは?」
「ルイはレオンの友人。ルイはすごい弱いんだよ。」
「え?レオンじゃなくてよかったんですか?」
彼は目を見開いた。
「うん。今の俺にレオンの名はふさわしくない。ルイは弱くても色々な人の悩みとか、苦しみを汲み取ってみんなの心のささえになるようないいやつなんだよ。それでさ、俺も弱くてもルイみたいになれるんじゃないかなって。」
力強く答えるとノーマルはなんとも言えない表情をしていた。
そう。今の魔力のない俺にはこの名前はふさわしくないんだ。
レオンを語る資格は俺には…ない。
しばらく時間が経ちようやく手続きが終わったようで、数多くいる従業員の中の一人が俺の目の前に立つ。
「手続きが完了いたしました。ルイ様、少し異例ではありますが、最低限の生活を送っていただくためにもこちらを受けていいただきたいと思っております。」
そういうと従業員は目の前にサッと紙を提示した。
「『ハレデルによる魔力の提供について。』
魔力量の少ないbraveには魔力を当役所から提供することが認められる。
以下の項目は魔力の提供する条件である。この中の一つでも当てはまらない場合は提供を認められない。
1魔力量が厳重な検査の元300未満である事。
2本人の名前がある事
3本人の許可がある事
またこの提供についての質問がある場合は検査を受ける前に従業員にする様に。」
受け取った紙を読み終えた俺は目の前の従業員の方に目線を移した
「ま、魔力がふえる…?」
一瞬、絶望から一筋の光が見えたような気がした。
一筋の、あの森の時のような。
「ルイ様の同意があれば受けることができます。」
「や、やります!あ、でもどれくらい増えるんですか?」
「目安は500ですね。」
「500…」
ちらと、後ろの方を見返す
「500だと普通のvillagerにしては多い方ですが、braveからすればカスですね。」
「えぇ…」
辛辣な言葉がノーマルから出る。
てかお前口やっぱり悪いな。
…見えたその光はまるで蜘蛛の糸のように簡単に切れそうな光だった。
「でも、0よりはマシですよ。やるのはタダなんですから。やってみては?」
「まあ…そうだな。」
なにより、0よりはマシだ。例えカスでゴミだとしてもやるに越したことはない。
「やります。やらせてください。」
俺は前だけを見つめた。
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