ヒント
最近、礼子は俺のマンションに来て、家事までしてくれるようになった。完全な
「お情けを頂きありがとうございました」
事後に、そう言われるのだけは引いてしまう。いつの時代だ。
元々、礼子は、ある出版社に勤めていて、結婚を機に
とりあえず、礼子には、正式な従業員ではなく、俺の特殊関係人として、お手当を払う事にした。俺の事を神だと思っている礼子が、近いうちに正気に戻る可能性もある。今の礼子は一時的に俺に依存しているだけだ。依存しなくなったら、俺の従業員である必要は、なくなるだろう。また、自営業の場合でも、従業員を雇うといろいろ面倒な手続きがある。
そういうわけで、俺は、礼子を従業員にはしなかった。
ちなみに礼子は、離婚した後、実家で両親と暮らしている。子供はいないそうだ。
***
礼子にメンタルクリニックで、医者から何と言われているのか聞いてみたが、最近は、以前より薬の量が減ったそうだ。それは、よい傾向だと思うが、俺の事を神様だと思っているのは、何とかならないモノだろうか。強気そうだったのに、人の精神とは、かくも
俺と一緒にいると安心感を得られると言うので、彼女の心の
***
最近、やっと、過去に受けた日曜日の予約をすべて消化した。これを機に、土日は完全週休2日にした。
初祈祷(初診)の人から予約が取れないとメールで苦情がきているが、初祈祷の人をセーブすることで、再祈祷の客の増加を
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ある日の事だった。
「かみ・・・はぁ様、
「ああ、仕事の事で気づいた事があるなら、何でも言ってくれ」
「ありがとうございます。まず、午前中の再祈祷の事ですが、下々の者と親しく接するのは、よいのですが、もう少し神としての威厳と申しますか、はぁ様に対する、ありがたみが必要かと思います」
最近は、おば様達と話すのが、結構、楽しくなってきた。足腰以外の追加祈祷も含めて20分で終わるから、残りの時間は、おば様達とのお茶会になる事もある。礼子は、それを言っているのだろう。
「午前中については、取り敢えず、今のままでいいよ」
「はぁ様がそうおっしゃるのなら、そのように。それから、午後からの初祈祷なのですが、祈祷についての説明を、はぁ様、ご自身でなさっておられますが、こういうのは、私でもいいのではないでしょうか。下の者が説明をして、祈祷される時に、はぁ様がお出ましになった方が、
礼子の意見は、神格化が基軸になっているが、説明を別の人がするという分業化は、確かにありだな。何も、俺がすべて、やる必要はない。
「うん。その意見はいいね。礼子も、ぜひ説明を覚えてくれ。この際だから、出来れば、マニュアルを作ってくれるとうれしい」
「はぁ様のお心のままに」
そういう事を考えると、従業員を増やしてもいいのかもしれない。祈祷院を成功させるため、がむしゃらに働いてきたが、人を使って、俺も少しは楽をしたくなってきた。
「他にも何かあるか?」
「出来れば、はぁ様の御威光をもっと多くの者に知っていただきたいと思います。将来的な事を考えますと、宗教法人の設立も視野に入れるべきかと」
「うん、それについては将来的に改めて考えよう。大切なのは、今だ」
「はい」
俺を神だと思っている、心の弱っている礼子に現実を突き付ける必要はないだろう。俺は、適当な事を言って
それにしても宗教法人ってなぁ・・・。こいつは何を言っているんだ。
まだNPO法人設立くらいなら現実味のある話だろうに・・・。
ん?
NPO法人?・・・・。
今のままだと、おそらく祈祷客でパンクしてしまう事は確かだ。俺は、自分で1000人くらいのキャパの市民ホールを借りて、そこで祈祷を行ったらどうかと考えた事がある。しかし、俺のような怪しい祈祷師に会場を貸してくれる自治体はないだろう。民間のイベントホールなどは、さすがに高過ぎる。だから、俺の夢想は
俺個人では、市民ホールは貸してくれないが、例えば、NPO法人なら貸してくれるのではないか?
これは、祈祷で
俺は、そのロジックを考える事にした。
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