第21話 ボーグの傭兵

あの幽霊事件から3日後何事も無く無事目的地の国境の町ボーグへ着いた。


ボーグは城塞都市らしく高い塀に入り口の門も二重に造られており

如何にも牢固な造りを彼方此方に見受けられた。


しかし街中へは衛兵に薬師の証明書とバッチを見せると

呆気に取られる程簡単に街へ入る事が出来たのは驚いた。


証明書とバッチでこんな簡単には入れて良い物かと考えていると

その理由が広場に馬車を乗り付けて直ぐに判った。


街の中程に有る大広場には幾つもの薬師の屋台が店を開き

薬師ギルドの役員らしき人達が何人も見回って居る姿が見られた。


勿論薬師以外の屋台も沢山で居るけれど他の町では大抵広場に2台もあれば多い方なのだけれど

ここでは優に6台以上の薬師の屋台が出ている様に見られる。


その他に見られるのは食品に衣服、珍しい所では武器の修理屋等の屋台も出ているのが

それはここボーグならではなのかも知れない。


そして私達が馬車で広場に入ると直ぐに薬師ギルドの役員に声を掛けられた。


私は薬師である証拠の自分の証明書とバッジを見せ

翌日から店を開ける事を告げて出店場所の料金を支払いこの広場を使うに当たっての

注意書きを記された書類にサインをしてその場を離れると

この日泊まる宿を探す事にした。


「ミント随分沢山の薬師が来てるみたいだけど明日は私達の出店の場所はどこら辺になるの?」


今迄だったらどの町のも滅多に薬師の屋台等出ていなかったので殆どの場合

中央近くの場所を使う事が出来た。


けれどもここ程多くの薬師が来ているとその様な場所も選べず。


「う~~ん、端っこの方だね。」


「ヤッパリそうか。あれだけ来ていると良い場所は取られて居るものね。」


「シェリスそんな心配する事無いわよ、ほら私達にはこれが有るし。」


そう言ってあのマリナエル山中腹で採ったハーブレイス草を掲げて見せた。


既にこれを使った薬も作って有るので私はこの町でハーブレイス草を使った薬で勝負をするつもり

普通高価になるハーブレイス草を私達は自分の手で採って来たから

価格は自由に設定できる。


だから普通の薬の価格にほんの少し上乗せするだけ、

通常では考えられない激安価格で販売すれば絶対売れる。


そうこの時はそれだけに自信が有った。


そして翌日から店を広げテーブルとイス数脚を店の前に並べる。


私達の場合店に来た患者にその場で薬を飲んだ後休んで貰ったり

又は薬の飲み方等を教える時や

時には栄養剤や回復剤を飲む為にそのテーブルや椅子を利用する人も居るので

結構重宝して居る。


これも他の薬師の屋台と違う部分だと私は自負して居る。


その様な工夫もあってか少しづつ私達の屋台に薬を買いに来る人が増え

1週間後には常連なる人も出来て来た。


そして10日程過ぎ・・ただ一人問題児が居座ろうとは流石の私達でさえ思いもしなかった・・・


「ねえそこのキミ、

ここのお茶美味しいから一緒に飲んで行かない?

それにこれも甘みが有って身体には良いしねえ。

あっ無視しないで!

ねえってば!」


私達の一つのテーブルを占領して道行く女の子をナンパする傭兵1人・・・


その手にするのは疲労回効果の有るお茶と以前無償で薬を分けたあの洞窟で使った小児用の病人食。


確かにあれは子供でも食べられる様に甘みを付けてあるから食べやすいけど

茶菓子で食べる物じゃない‥筈・・


ここ一時間以上ああしてるので

私は彼に近づき話し掛けた。


「ネリアスさん。」


「おお、ミントちゃんから話し掛けてくれるなんて嬉しいね。どう一緒にお茶でも。」


そう言って回復効果の有るお茶を私に差し出すネリアスさんの笑顔が眩しい。


「回復効果の有るお茶と病人食でナンパはちょっとどうかと思いますよ。」


私が苦笑いを浮かべ注意をすると全く意に関せず笑いながら・・


「俺はお客さん・・もとい・・患者さんを呼び込んでるんじゃないか。

それにミントちゃんの作るこのお茶(回復効果プラスハーブレイス草入り)の苦みと

このお菓子(子供用の病人食)の甘みが又よく合うんだよ。

ミントちゃんもちょっとで良いから試して見な。」


そう言って回復効果の有るお茶と乾燥したままの子供用の病人食をポキリと折って私に渡して来た。


「これはネリアスさんが買った物だし私は味を知ってるから。」


「そんな事云わずにお兎に角試して見なって。」


そう微笑むネリアスさんに無理やり回復効果の有るお茶と子供用の病人食を食べさせたられると・・・?


「合う・・・」


「だろう?」


「本当だ!今まで全然気が付かなかった。」


私が云うと偉そうに腕組をしたネリアスさんだったけれど。


「でも、ここでのナンパは止めて下さいね。」


「だからこれはミントちゃんの為に患者さんを呼び込んでるんじゃないか。

大目に見てよ。」


「大目に見てってヤッパリ!」


「いや違う!ちょっとした云い間違いだって!ミントちゃん

そんなに怒ると折角の可愛らしい顔が台無しだよ。」


「えっ!可愛い?うっ・・じゃっ無くて!ナンパの話しです!」


とっ言う事がここ数日毎日の様に繰り返し、

そしてクリアの秘密を明かした日以来急激に仲が良くなって来たクリアとシェリスは2人で

私達を見てコソコソと何か話をしていた様だけれど私は目の前のバカの相手で全く気付かなかった。


「絶対あれミントに気が有るよね。

気も無いのにわざわざミントの目の前で女の子を誘って見たりしてるし。」


「そうですね。お嬢様も良いお友達が出来たのではないですか?

今迄お友達が少なかったミントお嬢様には良い事です。」


「お友達?ミントはそこまで思って無いかも知れないけれど

う~ん、友達にはなれるかな?

ミント自身ラングの事はちゃんと考えてる様だし、一応友達・・かな?」


そう言って居たのを知って居るのはこの2人以外誰もいなかった。


そしてそれから数日後。


何時もと違い真面目な顔をしたネリアスさんが私達の屋台に来た。


「ミントちゃん。」


「どうしたんです。ネリアスさん真面目な顔をして。」


そう、こんなに真面目な顔をした彼を見るのは私にとって初めてだった。


私の後ろではシェリス達が小さな声で『来た来た』と云って居たけれど私には何の事か判らない。


「あの、言い辛いんだが。」


「ハッキリ言って下さい。私も暇じゃないので。」


「判った。ハッキリ言う。俺明日から前線へ行く事になった。」


「それで?」


ここでの前線とは何時も小競り合いをして居る隣国デアレルス王国との国境の事

何時もチョコチョコと争っては引くの繰り返しで時には死人も出る事は有るけれど

大抵の場合薬で治る様な傷で済む事が殆ど。


まあ傭兵をして居れば傷の一つ二つは何時もの事だろうから

そんなに畏まらなくても良いと思うんだけれどね。


「それでって、俺前線へ行くんだよ。そんな。」


「いやだって傭兵なら前線へ行くのは当然の事じゃ無いの?

それを覚悟で傭兵をして居るんだと思っていたけれど。」


??ちょっと冷たい言い方だったかな?

でも本当の事だから・・・。


「そうか、判った!

じゃあミントちゃんの店を後方支援として来てくれないか?

正規兵は更に後ろで全て揃った状態で陣を構えてるけど

俺達傭兵は全て自己負担だから信用の出来る医師や薬師が必要なんだ。

前線と云ってもその後方支援ならそんなに危険は無いしどうだろう?

そうすれば俺達も安心して戦える。」


「う~~んそうね。でもここでも漸く信用を得て忙しくなって来た所だし。」


「そうだ!それにあそこは場所代も要らないし

後方支援として来てくれる薬師も少ない。

まあ客は俺の様な傭兵ばかりになるがミントちゃんの店なら繫盛間違い無しだ。」


半畳…もとい・・繫盛。魅力的な言葉。

確かに今までもある程度の利益は上げて居たけれどここの町で狙っていた

ぼ・ろ・儲・け・には程遠い。


いやそこまで行かなくてもロードを余裕を持って行く為の資金位は

ある程度貯めて置きたいのが本音。


そうかネリアスさん達と行けば儲かるのか。

場所代も要らない様だし・・良し!

決めた!


「判った行くわ。」


そう言って店に居るシェリス達を見ると何故か頷きながらも疲れた表情をして居たのが気になった。

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