第20話 君の名は ~~あんた一体何者よ!~~

昨夜私とクリアの真相をシェリスに明かし正直ほっとして居る。


これで彼女には私達の秘密は無い筈・・だと思う・・言って無い事無いよね・・・?


まあもし何かあったとしても

気が付いた時に正直に話せば良いか。


まっそんなこんなで今日はいよいよ

オークラル伯爵領に入る。


領越えは別に領境に警備が居る訳でもないので

何事も無く通り抜ける事が出来るので気が付けば既に超えていた等と云う事も良くある話。


そして今回も左手に見えるマリナエル山を見てああ超えたんだな~等と感動的な物は今一沸かない。


でもここに来て私には

やらなくてはならない事が有る。


その為馭者を務めているクリアに声を掛けて馬車をマリナエル山の裾野の中に止めた。


「それじゃあクリア留守番お願いね。」


「はいお嬢様。」


にこやかに返事をするクリア。

昨日私の血を分けたせいか今日はとても調子が良さそうに見える。


「それじゃあシェリス行こうか。」


「うん。」


私はシェリスに声を掛けると裾野の中を進みマリナエル山中腹を目指す。

今回私達がここに来たのは有る薬草を採る為。


その薬草の名はハーブレイス草。


この薬草単体では別段見る所は無いけれど

他の薬草と合わせる事によって

その効能を3~5割程上げる事が出来る

特殊な薬草で唯一この山でしか採れない。


しかも生えている場所が

野生動物が多くそれを狙う肉食獣が

他の生息域と比べてもその数はとても多いので

危険度も飛躍的に上がる。


その中ハーブレイス草は生えてる数も少なく

非常に貴重な薬草となって居る。


ただ救いなのが独特な匂いで分かり易い事。


しかし私達ヴァンパイアにとってその様な肉食獣は全く関係ない。


しかも独特な匂いであれば見付け易いし

狂暴な肉食動物であろうとも

私達が気配を消せば

その様な肉食動物に見つかる事は出来ないし

もし見つかっても私達にとっては脅威とはならない。


まっヴァンパイアの覇気を放てば

寄っては来ないけれど

薬草を探すのに集中力が必要になるので

今回の場合気配を消す方が効率が良いのよね。


そしてシェリスと気配を消しながら

マリナエル山中腹まで来て

薬草の匂いを嗅ぎ取る為気を集中すると

彼方此方からその匂いが漂って来るのが判った。


その匂いを辿って行く中

時々すれ違う肉食動物が何も無いかの様に私達の近くを通り過ぎて行く。




そうして辿り着いた先に見つけた薬草を

1つ1つ大事に採取して行き。


その中でも一層上物の匂いを辿って行くとそこには今迄の物とは比べ物にならない位の

大きく艷やかなハーブレイス草が

私の数歩先に見つけた。


私が喜び勇んでそれに手を伸ばす。


「「あった!」」


すると何処からか伸びて来た重なり合う

私の手と誰かの手!


「「えっ!」」


その手の持ち主に視線を向けると

襟の隙間から見える

ぶら下がった大きなコブ・・・?


否!


無・駄・に・大・き・な・胸・に

ブラウンの瞳に長い黒髪の女性が驚いた様に私を見つめて居た。


「「何で!」」


いやいやいや!


何でそこまで言葉が重なる?

そのまま握り締め引き抜けば

折角見つけた最高級品がダメになる。


かと言って折角の最高級品を何処から現れたか判らない胸・の・デ・カ・イ・黒髪の女に取られるのも癪に障る。


そんな2人の思惑の中暫くお互い無言のまま

見つめ合う時間が過ぎた。


「「貴女一体何処から?」」


いや!だから何で言葉が重なる!


相手の女もそう感じたのかぐっとその引き込まれるようなブラウンの目に力が入ったのが判る。


「ねえ、折角のハーブレイス草がダメになるから1、2の3で一緒に手を離さない?」


「そうね。良いわよ。その代わりその後ちゃんとどちらの物か話し合わないとね。」


私が提案すると彼女もそれに乗って来た。


「当然、じゃあ行くわよ。1、2の3!」


「「・・・・」」


何方も手を放さない。


いやだって相手の女が放そうとしないんだもの私が手を放す分け無いでしょ。


ニヤリと笑う私と黒髪の女。

ふふ、中々やるわね。


私は心を決めると闘争心が湧き始めた。

相手のブラウンの目からもメラメラと炎が見えるかの様な闘志が見て取れる。


「今、貴女が1、2の3で手を放すと云ってたわよね。何で放さないの?」


「あら?それは貴女も同じじゃない?」


「「フフフフ・・・」」


互に手に力が入る。


その時私の後ろから漸く黒髪の女の事に気付いた

シェリスが走り寄って来た。


「ミント!その人誰?」


「私に分かる訳ないでしょ!

突然現れて私のハーブレイス草を横取りしようとしてるのよ。」


「何を云ってるのかしら?

誰が貴女の物と決めたの?

これは私が見付けたのよ!

貴女の物じゃ無いわ。」


ニコリと可愛らしく微笑む黒髪の女。

何だこの余裕!


第一私達でさえ服が破れない様に

丈夫な服に着替えて来てるのに

彼女はこんな肉食獣がうろうろして居る場所に

街中を歩く様なヒラヒラしたワンピースで来ている。


一体何者?

少なくとも私達の様なヴァンパイアには見えない。

人族の匂いはするけれど何かおかしい。

何だこの女。


そう思うと更に薬草を掴んだ手に力が入った。

それに気づいたのか彼女の手にも力が入る。

もうこうなったら後には引けない、そう思った時。


「ねえ、勝負しない?」


黒髪の女から勝負を挑んで来た。

私達ヴァンパイアに勝負?

知らぬとは言え良い根性じゃない買ってあげるわ。


「良いわよ。一体どんな勝負?」


「ねえその前に一旦薬草から手を放さない?

でないと折角のハーブレイス草がダメになるわ。」


「良いでしょう。じゃあもう一度行くわよ。1、2の3!」


「「ふ~~。」」


無事互いの手がハーブレイス草から離れるもやはり同じタイミングで深くため息が出る。


「それで勝負の方法は?」


「そうね、ここにはハーブレイス草程希少じゃ無いけれどカリエナ草も生えて居るから

何方が先にこの袋一杯に出来るか競争しましょう。

それで早く一杯にした方がこのハーブレイス草を自分の物にするのってどう?」


カリエナ草、優秀な傷薬になる薬草だ、

丁度これから行くボーグで必要になる薬草。


私達にとってこれで勝てばあのハーブレイス草も自分の物に出来るし一石二鳥じゃない!


「それで良いわよ。」


「ミント、あの人何だかおかしくない?」


「シェリス大丈夫よ。たかがカリエナ草でしょ。直ぐこの袋一杯にして見せるわ」


そう言ってその黒髪の女から袋を受け取り互いの袋の大きさを確認すると

その女に頷いて見せた。


「じゃあ行くわよ!スタート!」


私が走り出すと黒髪の女はまるでお花畑に花を摘みに行くような仕草でカリエナ草を探し始めた。


『ふっ勝った。』


私にとってカリエナ草の匂いを辿って行けば簡単な事。


そう、その時はそう簡単に勝てると思って居た。


その直後までは・・・


「ハイ!一杯になったわよ!」


振り返ると黒髪の女が袋一杯に詰め込んだカリエナ草を片手に1人勝鬨を上げていた。


そんな!


ヴァンパイアの私でさえ

まだ7分目程しか採って居ないのに

彼女は既に袋一杯のカリエナ草を詰め込んで居た。


「ウソ!」


「あら、私がズルをしたと云うの?」


「うっぐ・・・」


「それじゃあのハーブレイス草貰って行くわね。」


そう云うとあの上物のハーブレイス草を引き抜かれた。


そのハーブレイス草を目の前に翳してニコニコと微笑む黒髪の女。


うっくっ悔しい・・・!


「ミント」


私はうつ伏してして居るとシェリスが私の方に手を乗せ慰めてくれた。


うん、ヤッパリシェリスは優しい私の親友だ。


そのシェリスの顔を見ると彼女がニコリと私に向けて微笑む。


「時にはこんな事も有るわよ。

今日は調子が悪かっただけ。ね。」


「うん。」


私が返事をすると又ニコリと微笑んで私を慰めてくれた。


『まあこんな事も有るか。』


そう思う事にしてもう一度悔しいけれど

あの勝ち誇った黒髪の女を見ようと

先程まで彼女が居た場所を見ると何時の間にか彼女の姿が消えていた。


「えっ!シェリス!」


「どうしたの?」


「あの女が消えた!」


「まさか~。」


そう言って振り向くシェリスもその場所を見てキョトンとして居た。


「何で?・・」


「私達幽霊を見て居た訳じゃ無いよね。」


シェリスが不思議そうにその場所を見つめたまま固まって居たので

私が冗談交じりにそう云うと。


「ねえミント、普通人が私達の前から気付かれる事無く消える事が出来る?」


「まさか・・・本物の幽霊・・」


私とシェリスは急に怖くなり袋に詰めた薬草を持ちクリアの待つ馬車へと走り戻って行った。


そして後日それが幽霊では無かった事がハッキリと判る事になる。

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