第19話 クリアの秘密 2

彼女との初対面は衝撃の一言だった。


あれ程荒れたヴァンパイアは勿論あのような状況に置かれヴァンパイアを見たのも初めてだったからだ。


その後1階へ戻り彼女の両親の話を聞く事になった。


その話によると

彼女は11歳まではごく普通の少女として育った。


何方かと云えお道化たりふざけて人を笑わすのが好きなタイプで誰にでも好かれる女の子。


しかし11歳を過ぎてから何故か時々イラつき荒れる様な行動が徐々に目立ち始め

本人もその事を自覚して居ながらもその時はイラつき

自分が別人になってしまったかのようにその気持ちを押さえようとしても

どうにもならないと泣きながら語ったと言う。


そしてそれから1年後遂に血の反乱が起きた。


幸いと言うべきかその時彼女は家に居た為異常を察した両親に

早めに地下の部屋に連れて行かれた為外への被害は無かったけれども

両親はその時酷い怪我を負った。


その時彼女の血の反乱は7日間続き父親は両腕と顔に母親は

父親に庇われながらも片足に酷い怪我を負いヴァンパイアでありながら

その怪我が治るまで5日以上掛かったらしい。


それがもし人族だったらと間違い無く命を落として居たに違いない怪我。


それからは地下に石牢を作りその症状が出そうになると

彼女自身がその石牢へ入る様になったけれど

その症状は日増しに激しくなり今では自分の身体を傷付ける様にまでなり

おそらく後数年後には自分達では抑えきれない程に彼女の力が増し他の人達に被害が及ぶ。


いや、その前に娘の事に気付いた他のヴァンパイアに娘が殺される可能性の方が高い。


その事を危惧した両親は辛い決断に迫られた。


他の人達の命を守り彼女をその苦しみから救う方法は2つ。


しかしその1つは殆ど実現不可能な物。


残る方法は・・・ただ一つ彼女の死。


両親は泣く泣くその最後の方法と取ろうとした時付き合いの有る

ヴァンパイアから朗報を得た。


それはシャーリス商会を営む私のお父様の正体がプラティ純血種であり

正体が暴かれたり生活に困窮して居るヴァンパイアを救い出して居ると云う

噂を聞いたと云う物。


両親は例え噂が嘘であろうとも、

私のお父様に頼るしか彼女を生かす方法が無かった。


そこで彼女の両親は伝手を頼りに今回お父様が近くに来る事を知り

お父様の仕事の帰りバーモンドの操る馬車の前に飛び出し

お父様に自分達の娘を救って欲しいと泣きながら懇願した。


そして私達がここへ来たと云う事だけれども

物事はそう簡単ではない。


『ネグラ』の治療には血の反乱よりも強い力を持つ血が必要になる。


つまり私やお父様の様なプラティ血が必要不可欠。

しかも誰の血でも良い訳では無く女性なら女性のプラティの血

男性なら男性のプラティの血が必要になる。


本来なら全国を探し回っても『プラティ純血種』は数える程しか居ない。


おそらく10人を下回るのではないかとお父様は云って居た。


しかも相手は女性。

彼女を助けるには女性のプラティ、

つまり我が家の場合お母様か私か何方かの血しか使えない。


そう云う訳でもし『ネグラ』が生まれた場合殆どが悲しい死を迎える事になる。


問題はそれだけでは無い

例えその問題が解決したとしても彼女がネグラだと云う事を一生隠し通さなければならない。


もしお父様の元で働いて居るヴァンパイアが知った場合どうなるか

想像に難しくない。


どんなに近くに置こうともお父様の目が届かない所で命を奪われる可能性さえ否定できない。


そしてもし叔父様に知られればほぼ間違いなく反対されその命を奪われる。


幾ら優しい叔父様と云えどもたった一人の見知らぬヴァンパイアの命より

領民の命の方が大事なのだから仕方ないと判って居る。


でも、・・・


「お父様・・」


彼女の両親の話をじっと感慨深い表情で黙って居て聞いて居たお父様が

そのままの表情で私を見た。


「お父様、あの人を助けられませんか?」


「ミント判ってるだろう。そう簡単な事では無いんだよ。」


「でも私あの人を助けたい。あのお姉さん泣いて居た。」


「・・・ミント、まだ決断するのは早いよ。」


そして彼女の両親に顔を向けたお父様は明日答えを出すと云い

彼女の家を後にした。


夕方バーモンドが手配した宿に入り目の前に食事を彼が持って来てくれたけれど

その日のお昼も目の前に置かれた夕食事も今朝の事を考えたら喉を通らなかった。


「ミント食べなさい。幾らヴァンパイアであっても何も食べなければ身体がもたない。」


「でも、お父様あの人の事を考えると・・・」


「ミント気持ちは分かるがそれとこれは別だよ。

まず自分の身体を大事に出来ない者が

他人の身体を思う事が出来ると思うかい?」


「・・・はい、判りました食事はいただきます。

それから今夜お話ししたい事が有ります。」


「判った。今夜ゆっくり納得が行くまで話をしよう。」


その後私はお父様と部屋で彼女の事で明け方まで話しあった。


「お父様私が彼女を引き受けます。ですから彼女を助け出してあげて下さいませんか?」


「ミント君はまだ若い、その若い身体で彼女の全てを受け入れられると思うかい?」


「私はお父様の娘誇り高きシェルモント家のプラティです。その位受け入れられます。」


「ハハ、ミリアが良く口にして居る言葉だね。」


「ハイ。お母様が良く私に云われる言葉ですが私もその通りだと思っています。」


正直お母様の言葉等どうでも良かったけれど

クリアを助けたい気持ちには変わりなかった。

それには何時もお母様が云われて居るこの言葉が

一番当てはまる気がしたから使っただけ。


それから私とお父様は互いに納得するまで話し合った。

彼女を助けるには彼女と同じ女性のプラティ純血種の血が必要な事。


1つ目にそれを月に1~2回接種させる。


2つ目にそして彼女の持つ先祖返りの血に打ち勝つ身体に育つまでおよそ

10年間私の血を与え続ける事。


3つ目に一度与えたら他のプラティと変える事が出来ない。


もし変えた場合一度私の血に馴染んでしまった身体を元の状態に戻す為

数か月必要になる。


当然その間私と変わったプラティの血を与え続けて居ても今の様な状態が続き

その期間を終えても私が血を与えた時よりも体の育ちが悪くなる。


つまり1度与え始めたら10年以上の月日私の血を与え続けなければならない。


4つ目にこの事は他言無用。

他人に彼女が ネグラで有る事を知られてはならない。


もし知られた場合彼女の命の保証は出来ないとまで云われた。

これは叔父様にも言える事。


だから常日頃から私と彼女は2人一組として動かなくてはならない。

当然成人の儀以降出る事になるロードも付き添う事はこの時点で決定事項となる。 


そして当然ながらあのままでは彼女を私達の住むリリアント迄連れて行く事は出来ない

それには・・・私の血を与えて正気に戻す。


お父様はこの事を一番懸念して居た。

お母様にこの事が知られた時の事を考えて?

あの状態で私が血を吸われると怪我をする可能性が有るから?

でもそうだとしても私達プラティはダンピールとは比べ物にならない位の回復力を持つ


だからどんなに怪我をしたとしても数分もしない内に回復して居る筈だからそこまで心配しなくても良いのに。


やっぱりお母様の事かな?

その時はそんな事しか頭に浮かばなかった。


翌日どうしても譲らない私にお父様が折れて彼女をリリアントへ連れて行く事になった。


当然ながらお母様には事後承諾になる。


その時のお母様の事は今は考えない様にしよう。


でなければ何も出来なくなってしまうから・・・

何しろ始めてしまえばお母様でさえ辞めさせる事さえ出来ないのだから・・・でもちょっと・・

結構その事を考えると怖いかも?


いや、ヤッパリ今はその事は考える事を良そう。

うん。


そして彼女の両親と共に例の石牢へ来るとお父様が彼女を連れて牢の外へと出て来た。


喚き叫び暴れようとする彼女も流石にプラティのお父様には贖う事は出来ない。


彼女を私の前へ連れて来ると心配そうな顔を私に向けた。


「ミント、私に全て任せなさい。私が対処するから何が起ろうとも

落ち着いて動転しない様に。」


「お父様怪我の事を心配なされて居るのでしたらご心配なく

私はプラティなのですから怪我等直ぐに」


「いいや、その事では・・・うっうん。まあ兎に角私に任せなさい。」


そう云うとお父様は彼女をねじ伏せると座って居る私の首筋に近づけた。


「ミント行くよ。気を落ち着けて。良いね。」


そして直ぐに彼女の牙が私の首筋に噛みつくのが判った。

始めて噛みつかれる痛み、

そしてその後直ぐに来たあの感覚・・


私は思わず変な声を漏らし身体全体に力が入らず後ろへと倒れそうになる。


「あっあぁぁ・・うっ・・」


恥かしかった。

人前であんな声を出すなんて。


お父様はその声を聞いて直ぐに引き離そうとしたけれど

彼女の牙は私の首筋に強く食い込み下手に離そうとすれば私の首筋が引き裂かれる事になり

お父様は最後まで引きはがす事が出来ずに居た。


そして私はと云えばあの初めての感覚の為か恥ずかしさにかは判らないけれど

何時の間にか気を失って居た。


そして気が付くと彼女が私の胸の上で大きな声で泣き崩れていた。


それが正気を取り戻したクリア本人との出会い。

それからは常に2人で一組として今に至る。


そしてリリアントへ帰りお母様との対面!


当然烈火の如き怒りを露わに起こられた事は未だにトラウマになって居る。


もう2度とお母様にはあ・の・よ・う・な・心配を掛けまいと心に誓ったのだった・・・?


でも今クリアは私にとって無くてはならない存在になって居る。


シェリスの様な親友とはまた違う何と言うかちょっと時々おかしな事を言う


楽しい姉の様な存在?


それとも又違うかな?


兎に角大事な人には変わらない。


そこまで話すとシェリスの目の涙は何時の間にか消えていた。


「ミント、私誤解してた。ゴメン。」


「ううん。隠してた私も悪いのよ。ゴメンね。」


そして互いに笑うとシェリスが突然


「それじゃあクリアが時々面白い事を云うのは自分の緊張や興奮を抑える為なのね。」


笑顔でそう言うけれど私は首を振った。


「ううん。あれは地!元々のクリアの性格よ。」


そう言ってクリアの方を向くと何か云おうとして居たのか両手で口を塞いで居た。


いや、大体云いそうな事は分かるけれどね。


うん、ここは云わない方が賢明かも?


ねっクリア。

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