第18話 クリアの秘密


私がシェリスの前へ回り込んで毛布も捲ると私と同じ様に涙顔の彼女の顔を見た。


「ミント・・?」


シェリスが私も泣きそうになって居る事に気付いたのか私の名を呼んだ。




「シェリス嫌な思いをさせてゴメン。


もう隠し事はしない。


本当の事を話すわ。


でもこれから話す事は私の両親と執事長のバーモンドとメイド長のローズしか知らない事なの。


だからそれ以外の人には話さないと誓って貰える?」


「うん、ミントがそう云うなら絶対知られちゃいけない事なんだね。

判った。

誰にも云わないわ。約束する。」


それじゃあ少し長くなるから私も座るね。


そう云って私はシェリスの前に座るとクリアはシェリスの後ろで立ったまま俯いて居た。


そう、私が初めてクリアに会ったのは今から4年前私が11歳の時


お父様と一緒に商会の仕事に付き合って他領へバーモンドの馭者で出掛けた時の事だ。


あの時私は宿で一人お父様の帰りを待って居ると

商会の最後の仕事が終わって宿に戻って来たお父様の顔つきが険しい事に気付いた。


「お父様、どうされました?御仕事で何か不備でもあったのですか?」


何時も私には明るく振舞うお父様は私の言葉に言葉に耳を傾けながら

その険しい表情を崩さなかった。


それから暫く無言のまま何か考え事をして居たかと思うと突然

何かを決心したかの様に顔を上げた。


「ミント悪いが途中寄る所が出来た。帰りが数日遅くなる。」


「ハイ。私は何も問題ありませんけれど

それよりお父様、顔色が優れない様ですけど大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。

それよりもしかしたら帰りに1人増えるかも知れない。

その事を心して置いてくれ。」


「お仕事の御用の方ですか?」


「いや、若い女の子だ。

まあその事は後で話す。

今日はもう寝なさい。

明日からは又馬車に揺られる事になるからね。」


そう云って私をベッドに寝かしつけたお父様だったけれど翌朝私が起きると

お父様は昨夜座っていた同じ椅子に腰かけたまま

私が起きた事に気付き私の方を振り向いた。


「ミント起きたのかい。おはよう。」


そう云って微笑むお父様の手元には

お酒が入ったグラスが置かれて居た。


ヴァンパイアだってアルコールを摂取すれば酔うけれど直ぐにそのアルコールは分解され

人間様に酔いを楽しむ様な事は殆ど出来ない為

滅多にお父様はお酒を飲まない。


それなのに旅先でお酒を飲む等今迄のお父様では

考えられ無い事だった。


「お父様おはよう御座います。

お父様には珍しくお酒を飲まれたのですね?」


「私だって時には飲みたい時だってあるさ

別に心配する事でも無いよ。」


そう云って昨夜と同じ様に微笑むお父様だったけれど

その原因が2日後近くの小さな町に着いて間も無く判明した。


その町に着き

比較的大き目な家の前に馬車を止めると

出迎えてくれたのは

2人のダンピール混血種の夫婦だった。

見た目は30代に見えるけれど

おそらく100は超えていると思えた。


その夫婦に案内されて奥の部屋へ行くと

戸棚の後ろに隠し扉らが現れ

そこを開けると地下へつ続く薄暗い階段が地下へと続く。


その階段を降り切るとまた扉が現れその扉を開けると・・・。


「イッヤ~~~~!ウワ~~!ここから出せ~~!」


壁をドンドンと叩く音と共に女性らしい叫び声が聞えて来た。


「お父様!これは!」


私は一体何事かとお父様にしがみ付き

お父様の顔を覗き込むとただ無言で頷くだけ。

その代わり私達を案内して来た夫婦の男の方から

寂しそうな声が聞えて来た。


「私の・・私達の娘です・・・」


「えっ!・・・」


私は驚き意味が判らず又再びお父様の顔を覗き込んだ。

するとお父様は前を向いたまま

沈んだ声でようやく教えてくれた。


「ネグラだ。」


「ネグラ・・」


その名は何度か聞いた事は有る。

ダンピール混血種の中に非常に稀ながら生まれる事の有る特別種。


いわば先祖返りの強い血を持つダンピール。

力は強くその力は時に『ジェネラ眷属』をも凌ぐが

その精神状態により血の反乱を起こすと云われて居る。

その際自我を失い狂暴化しヴァンパイアであろうが人族であろうが構わず襲う。

その為仲間である筈のヴァンパイアからも忌避される存在『ネグラ』。


そのネグラの少女がこの先に居る。

それを聞いた当時11歳だった私は緊張を隠せず

お父様の服の裾をぎゅっと強く掴んだ。


するとお父様はその手を優しく握りしゃがんで私に視線を合わせると優しく微笑んでくれた。


「ミント、大丈夫。私が付いて居る心配する事は無いよ。」


でもそのお父様の顔にも不安そうな表情が浮かんで居るのが私にも判った。


そしてそのダンピールの夫婦の後を付いて行くと

その一角だけが引っ込む様な形でその内部は

大きな石を通常の数倍は使って居るのではないかと思える程

強固に作られ通路面には2重の鉄格子が嵌められた石牢が

小さな灯りの中に浮かんで見えた。


その中には、何度も怪我を負っては治りを繰り返したのか

体中赤黒い血の跡で汚れた 白銀の髪に青い瞳の美しい少女がそこに居た。


彼女は私達を見るなり大声で叫び

鉄格子に体を何度もぶつけ破ろうとする。


内側の鉄合子は所々拉げ今にも折れそうな物まで有る。

それを補う為なのか外側の鉄格子はそれよりも太い物に変えられて有った。


その子の両親はその姿を見ると口々に彼女に謝る言葉を投げ掛けるけれど

彼女には両親のその言葉さえも聞こえないかの様に私達に襲い掛かろうとする姿が

私の目に焼き付いた。


此れが私とクリアとの初めての出会いだった。

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