第17話 シェリスは見た

私達が馬車で3日!

走って2時間のミントが無料で薬を配ったあの洞窟から馬車で更に5日進んだ今日

もう少しで目的地の国境の町が在るオークラル伯爵領に入る。


右手には未だあの洞窟が有った森が何処までも続いているけれども

左手には高くそびえるラリアル王国最大の山

マリナエル山の裾野が目の前に広がり始めた。


ここまでの所変わった事も無く相変わらず私達の馬車の旗を見付け薬を買う者や

私達が泊まる為に寄った小さな村で薬の店を開いてミントが病人や怪我人の相談を受けて居た。


私は薬の事はさっぱり判らないのでそんな所は全てミントに任せる形になる。

そこで私がやる事となるのは料理!

がっ得意な訳も無くクリアにその座を奪われ結局ミントの手伝いや洗濯

そして病気の相談に来た人の子供の相手をして時間を過ごしている。


「私ミントの役に立ってるのかな~?」


クリアが何時も通り馭者を務め私とミントが並んで座り

そのミントは馬車の幌柱に干してあった薬草を束ね仕分けしながら

微笑み私に応えてくれる。


「勿論よ。シェリスは話し相手にも私の相談にものってくれるでしょ。

でも、一番嬉しいのは私の側に居てくれる事。だって私の大事な親友なんだから。」


「そう云ってくれるのは嬉しいけど、実際私何も出来てないでしょ。

クリアは馭者も料理も出来るのに私は今も薬草の仕分けをして居るミントの手伝いさえ出来ないで居る。

それが辛くて。」


「薬草は資格の有る人しか扱えないから仕方ないわよ。

それより私だって悩む事は有るんだからその時は相談にのってよね。」


そう云って居た。

それから2日後の夜、明朝はいよいよ目的地のオークラル伯爵領に入る少し手前で

今日は野営する事になった。


クリアは馬車から馬を外し食事を与えている間に私は3人用のテントを張り

焚火の用意をする。


その後馬の世話が終わったクリアがその焚火を使って食事の用意に取り掛かる。

本当クリアは良く働く。


一日中馭者をして夜には食事を作り私達が片づけをしている間に水を汲みに行き

少なくなった水樽に継ぎ足し身体を拭くお湯を沸かす。


そして漸く3人で眠りに着くのだけれどもこの日だけは違った。

始め3人で寝ようとした時クリアが寝る前にようを足しに行くとテントの外へ行くと

ミントも私も行って来るから私に先に寝て居る様に云うと2人で一緒に出て行った。


別にその時はそう言う事も珍しく無いと寝ようとしたのだけれどテントの外からヒソヒソ声が聞えて来た。


私がヴァンパイアになって気付いた事が幾つかある。

身体がやけに軽くなった事と夜目が効く様になった事

そして遠くの音が良く聞こえる様になった事。


その時最初に聞こえたのがクリアの甘えるような声。


「ミントお嬢様。もう我慢できません・・・今晩・・お願い・・」


その声を聞いて私の胸の鼓動が大きくなる。


ドクンドクン・・


高鳴るその音を押さえつつもその声が気になり我慢し切れず

そっとテントを抜け出しミント達の後を追った。


ミント達は音も無く森の中へと進んで行くけれどその姿が私にはハッキリ見えた。

もし私が人間のままだったらミント達を追う所か目の前の木にさえ気付かないかも知れない

この様な暗闇での暗視能力はヴァンパイアで良かったと思える部分だった。


そうして私もそっと2人の後を追うけれどミント達は自分達の事で一杯なのか

普通の事なら気付くであろう私の事はまだ気付かれて居ない。


2人が森の中へ入り暫く行くと大きな木を見付けミントその木に寄りかかると

クリアが突然彼女に抱き付きミントも素直にそれを受け入れた。


「あっ!」


それを見た私は声を出しそうになり口を両手で塞ぎ何とかそれを押さえたけれど

私の頭は混乱し動揺を覚えた。


『まさか・・2人はそう云う仲だったの?

それじゃあ私は余計邪魔者だったんじゃ・・』


そう思うも私はその場面から目を放す事が出来ずその場で静かに見守る事にした。

するとクリアは甘えた声でミントに声を掛けた。


「ミントお嬢様。今晩は良いですよね。

私ずっと我慢して居たんですから。

今晩こそ・・・」


その後の言葉はミントの耳元で囁いたせいでさすがに私にも聞こえなかったけれど

その言葉でミントの頬が赤らむのは分かった。


ミントもそれに答え何かをクリアに囁いたけれど私にはそんな事より

この後何が起るのかが気になり過ぎて耳には入らない。


するとクリアがミントの首筋に唇をそっと触れさせるとぺろりと

一舐めした。


「あっ・・」


ミントの小さく今まで聞いた事の無い様な艶っぽい声が零れる。

私はその場で固まり身動き一つ出来なくなった。


するとクリアがそのままミントの首筋に噛みつき血を飲みだす。


「んっぁ・・あっ・あぁ~・・」


ミントが口から零れる声を抑えようと手で口を押えるが

その手には力が入らず今迄ミントから聞いた事の無い甘い声が漏れる。

そして足から徐々に力が抜ける様にしゃがみ込んでしまった。


ミントは身体に力が入らないのか木に寄り掛かったまま

逆にもう片方の手でクリアの身体を強く抱きしめ仰け反る姿が見えた。


私はそれを見て思わず草むらに尻餅をつき『ガサリ』と音を立ててしまった。

その音に気付き振り向くミントとクリア。


2人の顔は火照った様に赤らみ

彼女達と私の目が合うとミントのその目が驚きで見開かれるのが判った。


「御免なさい!」


私は慌ててそう言葉を残しテントへ走り出す。


「シェリス様お待ち下さい。」


クリアが私を止めようと声を掛けて来たけれど止まれる訳がない。


私はテントに駆け込むと毛布を頭から被り膝を抱え縮こまった。

『何で私は2人を追い掛けてしまったんだろう・・』

後悔だけが残る。


すると誰かがテントの中に入って来るのが判った。


「シェリス。」


疲れた様なミントの声が聞えた。

ヴァンパイアは殆ど疲れなど知らないのにミントのその声はクリアに血を飲まれたせか

それとも私にあの場面を見られたショックの所為かは判らないけれど動揺を隠せない疲れた様な声。


「ミント、ゴメン。私余計な事しちゃった。ゴメン・・・」


ミントの方を見る事も出来ず毛布に包まったまま答えた。



「違うシェリスの所為じゃない。何れ話さなくちゃいけないと思ってたんだけど

中々云い出せなくて。」


それは、そうだ、あんな事人に早々話せる筈が無い。

幾ら私と親友だとしても話せる事とそうでない事は有るもの

でも何故かあの事を思い出すと涙が止まらない。


そうするともう一人パサリとテントに入って来る音が聞えた。


「シェリス様。お話が有ります。」


「・・・」


クリアも動揺はして居る様だけれどもミントよりはハッキリした声で話し掛けて来た。


私は答えず毛布を被ったままで居るとミントが私の前に周って来た。


「シェリス、ゴメン。あんなところ見たらショックだよね。

でもこれには訳が有るの聞いて貰える?」


「もういいよ、私の方が悪かったの。

2人があんな仲だなんて知らずに後を付いて行ってしまったんだもの。」


「シェリス、お願い私を見て。」


そう云ってミントは私の被って居た毛布を静かに捲り上げた。

私がミントの顔を見上げると今にも泣き出しそうな彼女の顔がそこに有った。


「ミント・・?」



ーーーーーーーーミントは見られた。ーーーーーーーー


その夜クリアが私に小さく目で合図を送って来てテントの外へ出たので

私もシェリスに私も用を足しに行くと云って


一緒にテントの外へ出た。


外へ出るとクリアが私に近寄り話しかけて来た。


「ミントお嬢様。もう我慢できません。血が騒ぎ始めて収まりが付きそうにありません。

今晩お嬢様の血を分けて頂けませんでしょうか?

お願いします。」


私はもうそんな時期かと思い頷くとクリアを連れ

シェリスに気付かれない様に静かに森の中へ足を進めた。


今夜は雲に包まれ森の中には暗闇に包まれている。

普通ならばこんな時森の中へ足を踏み入れる等自殺行為に等しいのだろうけれど

私達ヴァンパイアにとってこの位の暗闇は薄暗い程度にしか感じない。


そうして暫く行くと大き目の木を見付けその木に背を預けた。

そうすれば例え身体に力が入らず立って居られなくなってもそのまま倒れる事は無いからだ。


それを見たクリアもその事を悟ったのかそれを合図かの様に

私に抱き付いて来ると私の首筋にキスをした。


「あっ!」


私は驚き思わず声が出てしまった。

そしてじっとクリアを見ると彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ミントお嬢様。今晩は良いですよね。

私ずっと我慢して居たんですから。

今晩こそミントお嬢様を戴きます。」


はあ?

私を戴く?

私はシェリスを起してはならないと思い小さな声でクリアに答えた。


「クリア、ちょと今日は何時もと雰囲気違うんじゃない?

それに私を戴くって語弊にも程があるでしょ。」


「ミントお嬢様少し位雰囲気作っても良いじゃ有りませんか?

お嬢様にはラング様がいらっしゃいますが私にはその様な殿方は居りませんので

少し位そんな雰囲気を作ったってバチは当たらりませんよ。

それにお嬢様も私をラング様と思って下されば。」


「ラング・・と・・」


そう思うと一気に顔がほてるのが判った。

イヤイヤ、これとラングの事とは全く関係ない!

そう思いつつもラングの事を思い出すと顔のほてりが収まらない。


そう思って居るとクリアが何時もの様に私の首筋に噛みつき

血を飲みだした。

直ぐに快楽神経が刺激され快感に変わりつい声が出そうになり手で押さえるが

力が入らず抑えきれない。


「んっぁ・・あっ・あぁ~・・」


もしこんな所をシェリスに見られたら勘違いされるから

起こさない様にしなければならないのに力が入らず抑えきれない。

それどころか足腰に力が入らなくなり立って居られず

そのままズリズリと地面に座り込んでしまった。


すると私達から少し離れた所からガサリと何かが草を踏みつける様な音がした。


ふと見るとそのには居てはならない人物と目が有ってしまった。


「シェリス・・」


驚きの余り声を出したが未だ神経を刺激されていたせいか大きな声が出ない。


当然彼女には聞こえなかった様で何かを云い放ちつつ私達のテントの方へ走り出した。

クリアが声を掛けたがそれでも止まる様子が無い。


私は神経が落ち着くのを待ち直ぐに彼女の後を追い掛けた

ヴァンパイア同士の吸血の場合快楽神経は強く刺激されるけれど


逆にヴァンパイアの強力な回復力により1分もしない内にその余韻は消える。


特にプラティ純血種である私は顕著にそれらは出るので

おそらく私が気づいてから追い掛けるまで30秒も掛かって居ない筈。


私がテントに着くと思って居た通りシェリスはテントの中で毛布に包まった所だった。

私はクリアを待たずにテントに入るとシェリスは後ろを向いたまま頭から毛布を被った居た。


「シェリス」


「ミント、ゴメン。私余計な事しちゃった。ゴメン・・・」


私が声を掛けると後ろを向いたままそう答えた。

このままだと大事なシェリスが居なくなってしまいそうで涙が零れそうになる。


「違うシェリスの所為じゃない。何れ話さなくちゃいけないと思ってたんだけど

中々云い出せなくて。」


その時クリアがテントに入ってくると直ぐにシェリスに声を掛けたが

その返事は無かった。


「シェリス、ゴメン。あんなところ見たらショックだよね。

でもこれには訳が有るの聞いて貰える?」


「もういいよ、私の方が悪かったの。

2人があんな仲だなんて知らずに後を付いて行ってしまったんだもの。」


「シェリス、お願い私を見て。」


ダメだ。

幾ら抑えようとしても涙が今すぐにでも零れそうになる。

振り向いてクリアを見て頷くと彼女も頷き返してくれた。

よし、話そう。

心に決めシェリスの毛布を捲り私と同じ様に涙顔の彼女の顔を見た。


「ミント・・?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る