第16話 再出発
その夜、突然洞窟の外から見張りをして居た男達の声が響く。
『おぉ。なっ何者だ!』
それと同時にカチャリと剣を抜く音が聞えて来ると一瞬にして
洞窟の中に居た人達に緊張が走った。
「あの暗部の仲間がまだ残って居たのかも知れない!」
その一言を残してノルノは慌てて洞窟の入口へと走り出した。
でも、私にはその瞬間から懐かしい匂いが私の鼻孔をくすぐる。
そして当然の様に
「お嬢様。」
落ち着いた聞きなれた声。
私はその声に誘われシェリスと一緒に洞窟を出ると
そこには見知った顔ぶれが立って居た。
「バーモンドまさか貴方が来てくれるなんて思わなかったわ。でもこれで全員?」
そこには案内をして来たクリアと執事長のバーモンド
それに2人のメイドが立って居ただけだった。
ここに居るのは人数的には26人だけれども半数は怪我人
流石にヴァンパイアでもその力を隠しながらだと人数的に厳しい気がする。
「ミントお嬢様遅くなり申し訳ありません。
旦那様の申し付けにより馳せ参じました。
今回デアレルス王国のフェイシャ侯爵の方々が居られるとの事でしたので
フェイシャ侯爵家に少々伝手が有る私めが選ばれた次第です。
それから執事の2人は近くの町で馬車の手配を指示しましたので
明日の朝には怪我をされた方とご婦人方を乗せる馬車2台を用意して此方へ参ります。」
馬車で3日・・・走って2時間の道のりをたった今到着したばかりとは思えない程
誇り一つ付いて居ない執事服を完璧に着こなしたバーモンドが片手を胸に添え
私にその経緯を説明した。
私達の周りに居るノルノや見張りの人達や何事かと出て来た人達が
一体何者?
そして何故私をお嬢様と?
呆然とした様子で私達を見て居る様だったけれど
そんな事を気にして居たら話は進まないので無視する事にした。
「判りました。それで叔父様の方には?」
「はい、時間も時間でしたので明日早く旦那様が子爵様の所へ直接行かれるそうです。
そうなれば旦那様の元、問題無く彼等が領内に住まう事が出来るだろうとの事です。
ただし彼等の話して居る事が事実ならばの一文が付きますが。」
「それでもし、その話が違ったとしたら?」
「その為にも私めが参りました。」
つまり彼等の話しが虚偽であった場合バーモンドがこの場で彼等を始末すると云う事だ。
「そう、それも仕方ないかも知れないけど私は出来ればあの母娘だけでも助けたいわ。」
「その為にはまずご婦人方から話をお聞きしたいのですが何方に御出でしょうか?」
私はそのバーモンドを連れ洞窟の奥へと連れて行き
その間彼が連れて来ていた2人のメイドとクリアが倒れている暗部の者達の後片づけをする事になった。
流石に遺体をそのままにして置けば野生動物が集まり危険であると同時に
更に追加された追っ手が来た場合ここでの痕跡を少しでも無くし
その後の私達の行動を読まれない様にする為だ。
まあ相手に私達の様なヴァンパイアが居ない限り
彼女達に任せればその遺体を綺麗に片付け
今後の行動を誤魔化す事位は容易だろう。
そして私がバーモンドにフェイシャ侯爵家の母娘の元へ連れて行くと
バーモンドは片膝を折りその女性に視線を合わせると自分の名を告げ丁寧に挨拶た。
「それでは、奥様、お聞きしたい事が幾つか御座いますが宜しいでしょうか?」
「はい、私で判る事で有れば何でもお答えします。」
「有難う御座います。
それでは早々お聞きしたいのですが旦那様の御名前、奥様のお名前そしてお嬢様のお名前をそれぞれ
お願いします。」
「夫の名はラブルド・フェイシャ私はリエカ娘はリノです。」
「それではフェイシャ侯爵家の祖先様の御名前を判る限りで構いません教えて頂けますか?」
その答えに彼女は5代前の祖先の名を告げるとその中に知った名が有ったのか
バーモンドが最後に静かに頷いた。
「それでは最後に、フェイシャ侯爵家にお仕えして居た中に
ダリュウスと云う名の者が居たと思いますがどうやらここには見受けられない様です。
その者はどうされたのでしょうか?」
その女性はその名を聞くと目を見開き一瞬動きを止めた。
「貴方達は・・・まさか・」
その答えに静かに頷くバーモンド
「教えて頂けますでしょうか?」
「ダリュウスは・・死にました。」
「死ぬにはまだ若いと思いますが何が有ったのでしょうか?」
「貴・方・達・に・と・っ・て・は・そうなのでしょうね。ダリウスは私達が連れて行かれるのを阻止しようとして私達の目の前で・・・
そのお陰で今私達がここに居られる訳ですが
長く仕えてくれた彼にはすまない事をしたと思って居ます。」
「そうですか、しかしおかしな話ですね。彼はダンピールでも高位の存在
例え相手が騎士だとしても到底遅れを取る様には思えないのですが。」
「でも私達が逃げる際に斬り付けられて大量に出血して倒れた所を見ています。
その後の事は判りませんがお陰で私達がここに・・・」
「それがおかしいのです。」
「私達は少々斬られた位ではたとえダンピールであろうとも
少し時間が有れば傷口は塞がります。
しかも彼はダンピールでも高位の存在一時的に出血したとしても
抵抗している間に傷は癒えている筈なのですが
奥様は彼が倒れた姿を見て居る。」
「・・・」
「彼は生きています。」
「では何故私達と合流しないのですか?
彼は私達にとって大事な人物なのですよ。」
「それではお聞きしますが。
ここに居る全ての者が彼がヴァンパイアだと云う事を知って居るのですか?」
「いえ、それは・・」
「おそらく彼は奥様方の名誉を守る為に自分が死んだ事にして置きたかったのでしょう。」
「私達の為に?」
「はい、もし自分がヴァンパイアだと知られれば追っ手は
ヴァンパイアを庇って居たとして自分達が正しいと声を高らかに奥様方に更なる罪を被せるでしょう。
そして今までその事を知らされて居なかった者達は奥様方に不信の目を向けるかも知れません。
ですから彼は陰から奥様方を守ろうとして居るのだと思われます。」
「何故その様な事を思われるのですか?」
「彼は私の古き良き友人なのです。それに今日暗部の者に襲われてから
誰かがここへ近づいた形跡はなさそうに見えますが。」
「それは・・・」
「我が主のお嬢様が何も言われて居ないという事はそう云う事なのです。
かの国の暗部は相当しぶとかった様に記憶しております。
例え一波が失敗すれば二波、三波と確実に獲物を捕らえるまで
手段を変えながらも襲って来る筈。
しかし彼等の攻撃はその一波で収まっている。
おそらくその後の者達はダリュウスが抑えているものだと思われます。」
「それではダリュウスは私達の近くで守ってくれて居るのですね。」
「いえ、この辺りには彼の気配を全く感じませんのでおそらくですがまだ
デアレルス王国側のこの森の入り口付近で追っ手を排除しているのだと思われます。
流石にそれだけ離れて居れば追っ手側も奥様方の行方は分かり辛くなりますから。」
「それではダリュウスは何時までもそこで私達の追っ手を・・・何と彼に詫びれば良いのでしょう。」
「その言葉より『有難う』の一言を彼に告げられては如何でしょうか?
きっと謝られるよりその方が喜ぶと思われますが。」
「エッ?」
「明日奥様方を我が主の元へご案内します。
その後私が責任を持って彼を迎えに参りましょう。」
その話をバーモンドの後ろで聞いて居た私は彼に声を掛けた。
「バーモンドそれじゃあ。」
「はい、本物で御座います。」
そして翌朝2台の馬車が到着すると怪我人とフイェシャ母娘を乗せそうそうバーモンドが指揮を執り
お父様の待つリリアントへ戻って行った。
ただ最後にバーモンドが云った一言が・・・
「お嬢様、奥様より伝言が御座いまして。」
「へっ!えっと聞かなくちゃダメ?」
私が何とか誤魔化そうとして居るのを無視して言葉を続けるバーモンド。
「ロードに出て居ながら我が家は兎も角
ファスエル子爵家まで巻き込む様な事をする等一体何時を考えて居るのかと。」
「うっロードに出て直ぐだからね。ヤッパリお母様には帰ってから又怒られそうね。」
ロードに出て早速お母様の小言が頭の中に過ぎった。
それだけで一気に生命力が奪われる気がする。
実際怒られても居ないのに想像だけで此れだけ私にダメージを与えるなんて流石お母様・・・。
でも、その後バーモンドから意外な事が続いた。
「僭越ながら私はこう考えます。
『ロードに出たからこそ出来る事をやる。やりたい事をやる。』
良いでは有りませんか。
少々怒られ様ともたとえ失敗したとしても。
そしてそれを糧になさいませ。
奥様に何と言われ様ともお嬢様のやりたい様にするのが一番かと私は思います。」
そしてバーモンドは初めて私に悪戯っ子の様な笑顔を私に見せた。
確かバーモンドはお父様のロードに同行した筈!
もしかしたらお父様もロード中何かやらかした?
その事を聞こうとするとその事に気付いたのかふっと後ろを向き
明日の準備をすると云って私から離れて行った。
そして翌日バーモンドが話して居た2台の馬車が到着すると
手際良く洞窟内やその周りを片付け今迄20人以上の人が居たとは思えない程
自然な姿に戻し帰って行った。
「それじゃあ私達も行きましょうか?後はバーモンドに任せれば大丈夫でしょう。」
「ミントお嬢様バーモンド執事長に丸投げですか?」
「クリア人聞きの悪い言い方しない!後は任せると言う事よ。」
「そう言えばミント、使った薬の料金貰った?」
「ハッ!・・・」
そう言えば暗部の者が襲って来てその事を忘れてた。
「も・らって・・・無い・・・」
「「ええ~!」」
「ミントお嬢様!それでは私達ただ働きですか?」
「直ぐ追い掛けて貰って来る!」
「今更良いわよ。折角助けたのにそれじゃあミントの立場が無いでしょ。」
「でも、ただ働きか~。」
思わず泣きたくなってけど仕方ない
シェリスの云う通りここは潔く諦めて目的地へ向けて出発する事にした。
「でっでっでわ!しゅっ出発~~!」
「ミント泣いてる?」
「泣いてなんか無いわよ!」
「ミントお嬢様、私と馭者変わりますか?気分転換できるかも知れませんよ。」
「いい!バーモンド達を追い掛けてしまうかも知れないから。」
そうして馬車で3日走って2時間の洞窟からの再出発を果たしたのだった・・・
『泣いてなんか無いわ~~い!』
今度から前金でお金貰う事にしよう・・・
心で決めた私だった。
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