第15話 生きると云う事

「折角助けた人達に何をするの!」


「ミントお嬢様!」「ミント!」


私を止めようとクリアとシェリスが声を掛けたが

その声は私の耳には届かなかった。

ただこのままでは洞窟の奥に居る怪我をした人達迄が

あの男達に殺される。


あの親近感の有る少女だって後半日もすれば動けるようになる筈なのに

今私が何もしなければどうなるか等分らない。


そう思うとじっと等して居られなかった。

突然走り出した私の姿は彼らの目には消えた様にしか見えない。

全力で走り出した私は一番手前で今一度矢を放とうとして置いた男の短剣を奪いながら

その男の鳩尾に拳を叩きこんだ。

おそらく何をされたかも判らず動きを止めているその男をそのままに

その隣の男、

又その隣の男へと同じ様に

拳を叩きこむ。


矢を放とうとして居た全ての男の鳩尾に拳を叩き込み

その男達が倒れ始めた時

その後ろで剣を片手に合図を待って居た男達を

奪った短剣の腹で脚の骨を叩き折って行く。


そして最後に指揮官らしき男の後ろに回り込み

その首に奪った短剣を突き付けたその時

漸く私達を狙って居た男達がバタバタと倒れ込む音が聞こえて来た。

時間にすればほんの数秒。


おそらくこの指揮官でさえ突然の事で何が起ったかさえ判らない筈。


「なっ何!一体どう。・・・」


「静かに。」


「へっあっ!わっ私をどうするつもりだ。

私にこんな事をしてただで済むと思ってるのか!」


自分の首に短剣を突き付けられている事に漸く気付いたらしいその男が何か云ってるが気にせず

今迄私の隣に居たノルノを見ると

未だ私の居た場所を口を開けたまま呆然と見て居る姿が見えた。


何だか笑えそうな姿だけれどもまあ突然

隣に居た美少女が居なくなればそうなるわね。


そしてクリアとシェリスはと云えば彼等の持って居た武器全てを奪って

私の両脇に立って居た。


「ミント~。やっちゃったんじゃない?」


「ん?思わず・・・」


「ミントお嬢様流石にいきなりは無いです。

もう少し事前に云ってもらえないと。」


「ははは、クリアゴメン・・」


「おい!私を無視するな!ってウッワっまっ待て!きっ切れる!首切れるから!」


何か煩い声がしたのでちょっと剣を持つ手に力を入れたら

ちょっと血が出ただけなのに大きな声で騒ぎ出したので

仕方なく力を抜くと男はそのまましゃがみ込んでしまった。

大人の男が本当だらしない。


「ミントお嬢様、この方痙攣して居る様ですが大丈夫ですか?」


「エッ?」


クリアの言葉にその男を見ると確かに痙攣してる様な・・・う~む。

何かしたか私?


考えてみても判らずふっと剣を見るとなにか臭う様な・・

気になり舐めてみるとピリッとちょと痺れた。


「体は小粒でピリリと辛い?・・・違う!

あ〜毒だ!毒!毒!

何処かに解毒剤隠してる筈だから早く探して!」


急いで倒れた男の身体を皆で調べると数本の小瓶に入った

解毒剤が見付かり直ぐに1本をその男に飲ませ

もう1本を先程矢で射たれた人に飲ませて

何とか一命を取り留めた。


「でも毒って普通の兵士が毒使う?

此奴一体何者よ。」


その疑問をクリア達に話して居ると突然絶叫が聞え

そちらを見ると現実に戻ったノルノ達が動けなくなっている男達に止めを刺し出していた。


「ノルノ!待って!何も殺す事はしなくても!」


「薬師殿!こいつ等を生かして置けば

何れ私達の命が狙われる。

これ以上奥様やお嬢様に危険な思いをさせる訳には行かないんだ!」


そう云いつつ全ての敵と思われる男達を倒し残って居るのは指揮官と思われる

私達が捕まえて居る男のみ。

周りには血の海に倒れた男達の亡骸とそこに佇むノルノ達。


今迄血の匂いに食欲をそそらされる事は有ったけど今目の前の状況はただ虚しさだけが

私の胸の中に去来していた。


「折角命だけは助けたのに・・・」


「薬師殿の立場から云えばそう言いたくなるのは判るが私達からすれば

彼等を生かす事になればそれだけ私達の命が危うくなると云う事になる。

それを判って欲しい。」


気が付くと私の直ぐ脇にノルノが立って居た。

襲って来た男達全員を倒したにも拘らず険しい表情をそのままに

私の方を見た。


「薬師殿貴女には奥様にお嬢様そして仲間を助けてもらいとても感謝している。

しかし一体貴女は何者だ?20人にも及ぶ暗部の者をものともせず一瞬で制圧する者等聞いた事が無い。」


「暗部?」


「あっいや、忘れてくれ。」


「ノルノさん、暗部に狙われるという事は

相手が貴方達を密かに葬りたいと考えているという事ですよね。

しかもその相手は上位貴族以上。

一体貴方達は何者なんですか?」


「貴女は狡い人だ。

自分の事は隠して置きながら我々の事を聞き出そうとする。」


「私達の事は知ら無い方がノルノさん達の身の為なのです。

これは自己保身では無く皆さんの為に言って居るのですからそこは勘違いしないで下さい。」


いや、本当は私達の為でも有るんだけどね。

まあそこは隠して置いて。


「ノルノさん。教えて頂けますね?」


「判りました。その前に奥様に確認を取らせて下さい。」


私達は暗部の指揮官と思われる男を縛り付け洞窟の入り口を見張って居た人に預けると

ノルノに続き奥様と云われた女性の元へと歩いて行った。


その女性は未だ襲撃者が全滅した事に気付いて居ないのか寝ている自分の娘を横になりながらも

守る様に抱きしめていた。


「奥様。片が付きました。皆無事です。」


「そうですか。良かった・・・それでそちらの薬師様はどうなされたのですか?」


「実は此方の薬師様に助けられまして、私達の事を教えて欲しいと云われまして。」


「・・・そうですか薬師様に助けて頂いたのですね。

私にはこの様に可愛らしい方がそれ程の力を持って居る様には見えませんが

ノルノが云うのでしたら間違いないのでしょう。」


彼女は抱き抱えていた娘をそっと寝かせると痛めた足を自力で動かす事が出来ないのか

自分の手で引っ張りキッチリと座り直すと私に自分達の事を話し始めた。


ノルノが奥様と云って居た女性の名は『リエカ・フイェシャ』今でこそ

目の下には隈が出来る程疲れ果て衣服どころか顔にまで土埃で汚れてはいるけれど

それを落とせば間違いなくブロンドの髪にグリーンの瞳を持つ美しい女性だ。

娘の名は『リノ・フイェシャ』同じくブロンドの髪に

今は寝て居る為確認は出来ないが瞳は父親にのブルーの瞳らしい。


その父親の名は『ラブルド・フイェシャ』デアレルス王国の侯爵の爵位を持つ貴族・・・だ・っ・た・。


そう、ラブルド・フイェシャ元侯爵 今は冤罪を掛けられ爵位剥奪と共に処刑され

同じく家族も捕らえられようとした時にノルノ達重臣に助けられここまで逃げて来た母娘。


フイェシャ元侯爵を裏切り冤罪を掛けたボルグ・バーグランド辺境伯の兵に追われ

この森に逃げ込み国境を越えどうにかこの洞窟に逃げ込み怪我人や病人を治療をしようとしたが

薬も知識も足らず少しでも知識や薬を持って居る者を探して居た時に私達と出会ったらしい。


本来なら国境を越えてしまえば他国へ無断で兵を送り込める筈等無い。

しかし彼等は暗部の者を使ってまで母娘を亡き者にしようとして追って来た。


フイェシャ母娘はバーグランド辺境伯の何か弱みを握っている。

そう思い何か思い当たる事は無いかと聞いて見たけれども。


着の身着のまま逃げて来た為手元に有った幾許かの金貨と食料を手に逃げて来たので

手元には何も無く思い当たる事も無いと言う。


「ミント助けてあげようよ。」


その話を聞いて居たシェリスが私に哀願する様に訴えて来た。

おそらく彼等の事が自分の身に起きた事と重なったのだと思う。


「クリア手紙を書くからお父様と叔父様に渡して来て貰える?

ここからなら半日も有れば行って来れるわね。」


「お嬢様宜しいのですか?

彼等が本当の事を云って居るのかどうかも判らないのですよ。」


私の後ろで控えて居たクリアは納得が行かない様で不安を私にぶつけて来た。


「私は信じる事にするわ、少なくても怪我人をこのままにして置く事が薬師として

正しいと思わないもの。

たとえそれが嘘だとしてもそれは私の人を見る目が無かったと言う事。

お父様や叔父様には迷惑をかけるかも知れないけれど


それでも彼等を助けたい気持ちには変わりないもの。」


「判りました。ミントお嬢様が手紙を書き次第出発致します。

ただ」


「ただ、何?」


「往復するのに半日も掛からないかと思います。」


「えっああそう。じゃあ頼むわね。」


「ハイ。」


そして直ぐに私はお父様と叔父様に手紙を書きその日の夕方手紙をクリアに持たせて

シェリスとノルノ達と共に見送った。


「ミント・・・」


「何?」


「ヤッパリ馬車より走った方がずっと早かったのね。」


「うっ・・・・それは云わない約束で・・」


「薬師殿、本当に貴女達は何者で・・・」


一瞬で姿を消したクリアを見たノルノが唖然とした表情で私に話しかける。


「それも云わない約束で・・・」


そしてクリアが戻って来たのはその日の夜日を跨ぐ前に有る人物を連れて戻って来た。

時間にして4時間程。


ふむ、3日掛かって馬車で来た道を走って往復4時間・・・何か味気ない私のロード。


此れで良いのか?

人知れず悩んで居たのは皆には秘密だ・・・。

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