第14話 襲撃

私達の前に立塞がった男達は5人、

剣は抜いて居ないけれど

並々ならぬ雰囲を感じて取れた。


その仲間がまだ森の中に6人少なくても

計11人の仲間が居る事になる


誰も見て居ないこの場所なら私1人が相手をしても何ら問題無い人数だけれども

気になる事が・・


「クリアこの人達もしかして何処かの兵?」


「そうですね。

鎧は着ていませんが装備は同じ物を揃えて居る様ですし

統制が取れて居るので到底盗賊とは思えませんね。」


私とクリアが話して居ると私達の前に立って居た男の1人が私達に歩み寄って来た。


「驚かせて申し訳ない。薬師殿は何方に?」


その言葉に私が立とうとするとクリアが片手を上げて私が立ち上がるのを止めた。


「薬師の馬車と知っての事のようですが一体何の用ですか?」


「貴女は?」


「その前にご自分の名を明かされるのが礼儀では?」


「申し訳ない。そうしたい所なのだが

今はとあるお方に仕えして居る者と

しか明かせない、どうか許して欲しい。」


「そうですか、残念ながら名も告げられず

武装して居る者に応える事は出来かねますので

このまま行かせて頂きます。」


クリアが無表情のままそう言って馬車を走らせようとした時

その男性が大きな声を出して私達を止めようと前に手を突き出すと

それを合図だとばかりに周りの男達が剣を抜いた。


「待ってくれ!」


『ジャリ』


その男の周りに居た者達が一斉に剣を抜く姿を見たクリアが

瞬時に険しい表情に変わった。


「それが貴方達の私達に対する返答ですか?」


「違う!これは違うんだ。お前ら!剣を収めろ!」


その男が周りの男達に剣を収めさせると

その場で跪いた。


「判った。我が名はノルノ・ダカルドこいつ等の指揮を任せられている者だ。

ただ我が主の名だけは・・・頼む!お嬢様を奥様を診てくれ。」


それを見てクリアが困った顔を私に向けた。


「クリア。私行くわ。」


「でも、武装している者達の中に行くなんて危険じゃないですか?」


「大丈夫よ。彼らの目に敵意は無いし何か困っいて居る事が有れば

それを助けるのが薬師の役目でしょ。」


「しかしミントお嬢様、私は旦那様より。」


「クリア!私があの人達に敵わないとでも思ってるの?」


正直ヴァンパイアの力を使えば彼等を全滅させる位は容易い。


問題は本当に助けを求めていた場合このまま見捨てて行ってしまって良いのか?

一応私薬師だしね。

その辺はやっぱり考えるのよ。


でっ私は馬車を下りその男性の前へ出て行くとその男性に声を掛けた。


「私で良ければ力になります。

そのお嬢様は何方に御出ですか?」


「貴女は?」


「薬師のミントです。」


うん。

決まった!

これぞ大人の女って感じの筈!


その男性は呆然と私の顔を見ている。

うん私にも惚れたか?

まあそれも仕方ない。

大人の女はその男性の言葉を待つ事にした。


そして漸く私の美貌に呆然としていた頭を切り替えたのか

私の言葉に答えて来た。


「あっ申し訳ありません。

私はてっきりもう一人の方かと思って居た物ですから。

失礼しました。

余りにもお若い方でしたので。」


「へ?」


ちょっと待て!

私じゃ無くシェリスが薬師だと思ってた?

どう言う事だ!

私とシェリスは姉妹と間違えられるほど似ているし年齢も同じなのに

シェリスの方が年上に見られて居た?


私とシェリスの違う所と云えば・・・むっ・・胸か!

クリアが以前私とシェリスを横から見れば遠くからでも見分けが付くと

云って居た事を思い出した。


そう云われれば常に私がシェリスの妹に間違われてたのもこれか!


ウッグググ・・こっ堪えろ私・・むっ胸なんか直ぐにシェリスに追い付き越えて見せる。


うんそうだ!

今だけ!

そう今だけ!

だから落ち着け私・・・


うん。


良し行ける。


私ならこの苦境を乗り越えられる筈!

そうあのお母様に叱られる事に比べればこれ位・・・


うん、頑張れ私!

そこまで自分を励まし言葉を続けた。

「あっあら、改めて確認しますが私は薬師であって医師では有りませんよ。

それでも宜しいのですね。」


「はい、それでもです。是非お願いします。」


何とか気を取り戻しその男性に聞くと薬師の私に見て欲しいとの事

本来なら医師に診て貰いたいのだろうけれど

貴族や有力者を診る場合が多く医師は殆ど町を離れない。

そうなると僻地や道中は私達の様な各地を回る薬師しか病気や怪我人を見る事が出来ない


当然小さな村など医師が居る訳も無くそんな所には私達の様な

薬師が重宝がられて居る。


その様な時も医師の様な治療は出来ないけれど

全国的に医師が少ない為患者の話を聞いてその症状に合わせた薬を調合する事は許されて居る。

その為病気や怪我の知識も結構な割合で必要になる。

おそらく今回もその様な事で私達を止めて薬を調合してもらうつもりなのだろう。


それから私達は少し奥まった所に馬車を止められる場所を見付けると

そこに馬車を止め

私達は薬草と調合に必要な器具を持ちノルノ・ダカルド達の後に付いて行った。


森の中へと歩いて行くと私達が馬車を止めた場所からそう遠くない所に洞窟があり

その中を覗くと血の匂いが漂って来る。


「ミントお嬢様。」


クリアが漂って来るその匂いに気づき

歩きながら私に向き直った。


「クリアいざという時は全員。」


「ハイ、心得て居ます。」


私はその漂ってくる血の匂いに

シェリスも用心する様に小声で伝えると

彼女は無言で頷き緊張した表情に変わった。


「シェリス、大丈夫?」


「うん、大丈夫でもこれってまだ新しい血の匂いだよね。もしかして・・・」


「まあこの数なら問題無く倒せるから大丈夫。

それより先へ行って見ようか?」


私達は洞窟の入り口で護衛をして居る数人の男達の視線を他所にその洞窟の中へ歩みを進めると

徐々に血の匂いが強まると同時に人の呻き声までも聞こえて来た。


そのままノルノ・ダカルドに着いて行くと間も無く少し開けた場所があり

そこには10人近い怪我をした男達が壁に寄り掛かったり

中には既に息絶えて居るのではないかと思える者さえ居る。


全て真面な治療を受けた様子も無く服の切れ端等を包帯代わりに巻いて居る者が殆どで

その布からは血が染み出ている。


そしてその奥には30代位の女性と娘と思われるブロンドの髪をした女の子が寝かされていた。


ノルノ・ダカルドと名乗った男はその女性の方へ歩み寄ると声を掛けた。


「奥様、薬師様をお連れしました。」


その女性が片手で少女を抱えたまま上半身を起こし私に顔を向ける。


その顔には疲労と気鬱とも取れる表情を浮かべて居た。


「薬師様!娘の薬をお願いします。」


漸く絞り出すような声で哀願する様に私に訴えかけるその女性も良く見れば

血の滲んだ布を足に巻きとても歩ける様には見えなかった。


一体何が有った?


私がノルノに視線を向けると黙ったまま悲しそうな表情を浮かべ

その少女へと視線を向けた。


「この子を診れば良いのね。」


「はいお願いします。」


返事をするノルノの前ではその少女を抱きしめていたその女性が私の前に

その少女をそっと寝かせた。


まず寝ている女の子を診ると熱が有り寒気を感じらしく時々震える。


そしてこの少女も母親と同じで疲労がたまって居るらしくこの洞窟へ着くなり座り込み

間も無くこの様に寝込んだという。


正直医師でなければ詳しい病名などは判らないけれど

私が匂いを嗅ぎヴァンパイアの目を使いその身体を見ると

その少女からは大きな病気の巣は見られない。


おそらく疲労と精神的な不安から来る物だと判断して

ここは栄養の有る食事と解熱とその症状に有った薬を調合する。

ただ。


「もう彼女が食べられる云うなものが無い。肉類は食べてくれないし困って居たんだ。」


そうノルノ・ダカルドが云う。


「それじゃあこれを湯で解いて食べさせて。」


そうして渡したのが僻地の子供用に作って置いた病人食。


僻地等貧しい村等では真面な食事も出来ず成長期の子供は栄養不足で病気にかかり易くなる。


その為に栄養の有る様々な食材をすり潰し家にあった砂糖で甘みを付け

乾燥させた物を作って置いたので正直これは採算は度外視。


当然砂糖は出発直前に勝手に使ったので多分今頃お母様が怒っているだろうけども

まあ次に会う頃までには怒りは収まって居る事と思うので良しとしよう。


その子供用の病人食をお湯で解いて柔らかくして食べさせる。

味は子供が食べやすい様に少し甘みの有るおやつぽい物。


医師の様にきちっと調べられないので取り合えずこれで様子を見る他無いけれど

多分この子はこれでゆっくり体を休めさえすれば治る筈。


まあ正直私の血を使って薬を作ればどの様な病気も治す事は出来るけれど

それは最終手段。


私がヴァンパイアだと知られる訳には行かないからね。


その他その場に居た人達にも疲労回復剤と傷を綺麗に水で洗ってから傷薬を塗らせ

私達が持って来ていた綺麗な包帯で巻直させた。


中には手術をしないといけない者も居るかも知れないけれど

此れが薬師としての私達の限界。

後は彼等の回復力に期待するしかない。

一通り薬を配り終え一息ついて居ると


突然洞窟の外が騒がしくなり洞窟の入り口にいた護衛から洞窟内に声が響き渡った。


「敵襲!」


「「「敵襲??」」」


私達が一瞬顔を見合わせ洞窟の入口へ駆け出そうとした時

洞窟内に居た人達に止められあの親子の所へ連れて行かれそうになった所を私が抜け出し

洞窟の入り口を目指し走り出した。


それに続きクリアにシェリスも私の後を追いかけて来るのが見えた。


「薬師殿!危ない!戻って!」


洞窟の奥から誰かの声が聞えるけれど完全無視。


洞窟から出ると私を案内して来たノルノが驚いた顔をして居た。


「薬師殿!危険なので奥へ!」


「敵って誰?」


私が聞くも黙ってノルノが森の中を見る。

その視線の先には革鎧を着た男達が見えた。

数はおそらく20人以上の者が私達を狙って居る。


一体彼らは?

そして私が助けた人達は?


全く分からない。

ただ一つ言えるのは。


「貴方達に協力するわ。」


折角助けた人達だものみすみす殺させる訳には行かない

その事を私に追い付いたシェリス達に話そうとした時


森の中から幾本もの矢が私達目掛け飛んで来た。


「危ない!」


ノルノの声に振り向き私の目の前に迫った数本の矢を

片手で薙ぎ払う様に掴みその場に投げ捨てた。


「なっ!」


驚き私を見つめるノルノ。

周りを見れば避け切れず真面に矢を受けた者も居る。


「折角助けた人達に何をするの!」


私は思わず怒りを露わにして剣も持たずに森の中に隠れて居る男達へと走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る