第13話 盗賊

領都リリアントを出て3日目

今私達は遂にファスエル子爵領を出て

燐領のシルフェル侯爵領へ入った。


右手には深い森がありその先には隣国のデアレルス王国が有る。


その私達3人を乗せて走る馬車には

全国共通の薬師が同乗して居る事を示す

黄色地に黒い杖に絡み付く蛇そしてその脇に3つの赤い雫が描かれた旗を掲げ

そして私の胸には全ての薬師に義務付けられて居る

同じ模様のバッジを付けている。


その為時々旅の途中薬を切らしてしまった人や

急病に見舞われた人等が声を掛けて来る。


全国的に医者は極めて少なく居たとしても治療費が高く

一般の人には余程の事が無い限り医師の診察を受ける事自体出来ない。


その為一般の人達は普段医者には頼らず私達の様な薬師に頼る事になる。

当然ながら治療行為は出来無いけれど薬師もある程度病気や怪我の知識が有るので

容態を聞きながらそれに見合った薬を出している。


ただ私の場合ヴァンパイアの目と鋭い嗅覚を持って居るので

大部分の病気は間違える事無く言い当てる事が出来る。


中々優秀な薬師なのですよ私は、エッヘン!


そして先程のシルフェル侯爵領へ入って間も無く

突然馭者をしているクリアが何を勘違いしたか

シェリスには内緒の筈のあの話を持ち出した。


「所でミントお嬢様、あの人はどうしたんですか?

あれから何も話されて居ませんでしたが。」


「ん?ミント何の事?何かあったの?」


「あっ!すみませんミントお嬢様つい・・・」


興味を持ったシェリスが私に顔を近づけ聞いて来る

直ぐにクリアがシェリスには秘密だと云う事を思い出したらしいけれど

既に遅かった。


「えっうんえっと・・。」


「ハッキリ云いなさいよ。私達に隠し事は無しでしょ。

一緒にロードに出た仲間じゃないの?」


シェリスが執拗に迫って来た。

しょうがない、正直に話そうか。


「判った。正直に話すね。実はシェリスを魔女だと教会に密告した人が判ったの。」


「エッ!それで、まさか。その人の命を・・」


「大丈夫、シェリスがその様な事を嫌うのは十分判ってるからそんな事しないわ。

その人は某リリアント一の宿屋の某娘のタリアだったんだけれど。」


「ミント!某の意味が無い、タリア知ってるわよ。」


「うん、その某タリアだけど実はファークスに片思いしてたらしいのよ。」


「ファークスに!」


流石にその事に驚いたらしくシェリスはそのまま私の話を黙って聞く様になった。


「それでお金を使って貴女を魔女だと他の人にも言いふらせたらしいのよ。

だってファークス何方かと云えば無口でしょ。なのにシェリスだけには話をするから

貴女さえ居なければと考えたらしいのよ。」


「それで私を魔女と?」


「そう、でも彼女はもっと軽く考えて居たみたいで

シェリスが神官に調べられ何も無ければ

返されると考えて居たらしいけど現実は違ったでしょ。」


「だって魔女と疑いを掛けられた時点で死は確実じゃ無いの?」


「親からはそう聞いたらしいけれどただの脅しだと受け取ったみたい。

人に恨まれる様な事をすると魔女と疑われて神官に連れられて行くと。」


「う~ん何でそう勘違いするかな?結構有名な話だと思うんだけどな~。

まあ、それで?」


「流石にシェリスが死んだと聞いて自分のした事が判ったんじゃない?

暫く落ち込んで居たわ。

でも、だからと云って許せなかった。

だから・・・」


「「だから・・?」」


「夜中に彼女の部屋に忍び込んで彼女の血を飲んだ。」


「・・・」


「何変な顔してるのよ。」


「いやっだってどうしてそこで血を吸うのかと思って。」


「そうか、シェリスは知らなかったわね。ヴァンパイアに血を吸われると

快楽神経を刺激されてその前後の記憶が合間になる事は知ってるわね。

その時人は暗示にかかりやすい状態にあるのよ。

そこで彼女に暗示を掛けた。」


「暗示?」


「何だと思う?

下手な事をさせて貴女が魔女で呪いをかけたなんて疑われても嫌だから

例えそれを無意識に行ったとしても人に云えない事。

それで居て自分が嫌になる事。」


「焦らせないでハッキリ云いなさいよ。」


「これから1年間毎日」


「「毎日?」」


「おねしょをする事になるわ。」


「へっ?おねしょ?地味に嫌な嫌がらせね。」


「でも、これなら怪我をさせる事無く恥ずかしくて人にも言えず

泊まりに行く事さえ出来ないでし

それにそうなれば恥ずかしくて

暫く結婚相手を探す事等出来ないだろうしね。」


「いや!でも・・う~ん・・それもアリなのかな?」


「そうよ。その位悩んで貰わないと。」


シェリスはどこぞの探偵の如く顎に手を当て悩んで居る様だったけど

馭者をしているクリアが前を向きながら

自分の振った話を終わらせるが如くその沈黙を破った。


「所でミントお嬢様話は変わりますが

最初の目的地がオークラル伯爵領の国境の町ボーグと云われましたがその理由は?」


「うん、あそこね調べてみると隣国のデアレルス王国と

常に小競り合いが続いてるのよ。

まあ本格的な戦闘と言うより『ちゃんと領土を守ってます。』

というモーションを見せ合って居る様なものね。」


そこで頷いて居るクリアとシェリスを確認すると言葉を続けた。


「そうなると当然先頭に出るのが正規の領軍じゃ無くて

全てお金で片が付く傭兵が先兵として戦ってるのよ。

正規の領軍なら専属の医師や薬師が居るけれど

傭兵は自分で怪我を治さないといけない。

そこで私達の出番よ!

ガンガン薬を売ってボロもう・・ウッウン彼らに役立て利益を得る。此れよ!」


「ミントお嬢様、今ボロ儲けと云われませんでした?」


「そんな事無いわよ。ねえシェリス?」


「云った・・・」


「うっシェリスの裏切り者~~!」


私が泣きまねしようとも2人に笑って流された。

良いのかこれで?

私確かこのロードの主役だよね。

何かこの小物感が半端ないんだけど・・・。


そんな話をしながら馬車を進めていると少し前から

右手の森の中からこちらの様子を伺うような

人の気配を感じていた。


普通の人なら聞こえない様なカチャカチャという

金属が当たる音が聞こえる所を見ると

おそらく彼らは、剣等の武装をして居る。


「クリアはどう思う?」


私は森の方を見ない様に気づかない振りをして

馭者を勤めているクリアに話し掛けた。


「何もして来なければこのまま行った方が宜しいのでは有りませんか?」


「ん~、でも、もし盗賊で後から来た人が襲えわれたらと思うと後味悪いし。」


「ミントお嬢様はやはりお優しいのですね。」


私達の馬車には薬師の旗が掲げられている

これはただ単に薬師が乗っている事を示すばかりで無く

私達の安全にも繋がっている。


それはもし私達の様に人の生死に関わる仕事をして居る者に

危害を加えた者には厳しい罰則が有るからだ。


たとえそれが盗賊で無くとも下手をすれば死刑

そして当たり前の様に一生奴隷として扱われたりもする。


それが盗賊であれば問答無用で死刑が確定するので

普通であれば、滅多に襲われるような事は無い。


特に私達の様な若い薬師の場合医師の様に

お金を持っている訳もなく薬を奪っても

資格が無ければ売る事さえ出来ない。


もし闇で売ろうとしても

相手がバカで無い限り

足元を見られ二束三文でしか取引されない。


そして私達女性を売り飛ばす為に誘拐をしたとしても

私達が薬師だとバレれば死刑。


私達の身体目的だとしても

余りにも割に合わない事になる。


だから当然のごとく私達を見逃し次の獲物を狙う盗賊も現れる。


お父様は、この事もあって私に薬師になる事を強く勧めたのよね。

勉強大変だっけど。


そして逆に薬師の旗に似た旗を掲げただけでも

流石に死刑や奴隷等は無いけれど厳しい罰則が有るので

真似る人は居ない。


その為私達の安全はある程度守られて居る事になる。


ただそれでも例外が無い訳でも無く時には

そのような事も関係なく襲われる事もある。


情報の乏しい貧しい村の出で盗賊に成りたての場合がその例外に当たるけれど

その様な場合は碌な武器も持たず今私達が聞いた剣が当たる様な音等しない。


つまりその例外には当たらない筈・・・なのだけれど・・


その武装した男達は突然私達の前に飛び出し私達の馬車は止まらざる得なかった。

また飛び出して来た男達の他にまだ森の中に6人程が隠れて居るのが

私は勿論クリア、シェリスも気付いて居るけれど

まずは相手に油断させる為には気付かない振りを突き通す事にした。


「ミントお嬢様、あの男達から」


「判ってる。血の匂いがする・・・。」


彼らの汚れた衣服には黒い染みが幾つも在りその内幾つかは

まだ新しい物に違いなかった。

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