第12話 旅立ち 

『成人の儀』




ヴァンパイアのプラティ純血種はそれぞれ家紋色と云う物を持って居る。


私達シェルモント家はエメラルドグリーンとシルバーの2色。


そして私達プラティ(純血種)とそのジェネラ(眷属)にだけがその色を使った仮面を被る事が許されている。


プラティ(純血種)の仮面の地の色は黒ジェネラ(眷属)の仮面の地の色は白と決められ

その模様はそれを被るプラティがその家紋色を使って自由にデザインをしても良い。


ただしジェネラ(眷属)は自分をジェネラにしたプラティ(純血種)と同じデザインの仮面を被らないとならない。


そしてもし持ち主に許可無く

『ダンピール混血種』がその様な仮面を被った事を知られれば

全てのヴァンパイアから制裁を受ける事になる

その際殺されたとしても一切文句は言えない程

その仮面はヴァンパイアにとって尊い物なのだ。


その仮面が私とシェリスにその成人の儀で初めて渡される

その為私とシェリスは仮面の地の色こそ違うけれど同じ柄の仮面を着ける事になる。


その柄は以前私がデザインした物が使われるので

その完成品を見るのがとても楽しみでもあり

それを持つ事により一人前とされる為緊張感も隠せない。


特にお母様の前ではなのだけれど・・・


そして今私達の屋敷の地下にある式場の中央に置かれた

ヴァンパイアの始祖アリスタリア像の前で

私とシェリスがお父様とお母様からその成人の儀を受けて居る。


地下にある為外からの明かりは入ら無いけれども蠟燭の明かりだけも

ヴァンパイアの私達にとってその力を使えば昼間の様に明るく感じる事が出来る。


その明かりの中お父様から始祖アリスタリア様の話しから始まった。


『始祖アリタリス様が12人の眷属をつくり

後にそれが《プラティ》と呼ばれる存在になった事。


ヴァンパイアの始祖たるアリタリス様は寿命を持たない

しかしこの時人間の中から選び抜かれた者たちをヴァンパイアとした事で初めて

プラティが生れ彼等ヴァンパイアに寿命が生れた。』


そしてヴァンパイアの歴史を私は何度も聞いて居て飽きて来て居るけれども

シェリスは初めて聞くその話に目を輝かせていた。


その内容は

『長きに渡って密かに人との繋がりを持ち

一部には人とヴァンパイアの理想とも云える

国が存在した等今では信じられない様な事や

150年前ヴァンパイアと有力者が私達の血を狙い

ヴァンパイアハンターを組織し私達を襲いだした事、

しかしヴァンパイアの驚異的な身体能力に逆に押されると

王国が人民の命を守る為と軍を動かした事

それにより今度は多勢に無勢となったヴァンパイアの被害が大きくなり

更にヴァンパイアハンターがその遺体に飛びつき

ヴァンパイアの血を使った薬が出回ると

それを嫌った教会が『ディストレード・カサード』通称『カサード』を組織して

ヴァンパイアハンターよりも先にヴァンパイアを狩れば問題ないと彼らも私達を狙いだした。


その為150年前多くのヴァンパイアが命を落としその数を激減した』

事を事細かに話してくれた。


そしてその儀式も終わりに近づきお父様の指をナイフで傷付けそこから1滴の血を

グラスに注いだお酒の中へ垂らす。


それをお父様とお母様そして私とシェリス4人で分け一気に飲み干すと

いよいよ仮面を私とシェリス一人づつ渡された。


私の仮面は黒の地に左頬の部分にエメラルドグリーンとシルバーで

部分的に重なる様にハートマークが描かれ右頬にはエメラルドグリーンの盾と

シルバーの鉾が描かれその他の部分にはその2色のラインを絡める様な模様を描き

左右非対称の仮面に仕立ててある。


そしてシェリスも私の物とは地の色が違うだけで私と同じデザインの仮面を持ち

興味新進で見て居る。


「この仮面は我がシェルモント家の成人の証であり。

これを付けて他の家の者と対峙した場合

矜持を持ち命を懸ける覚悟で挑まなければならない。

それがこの仮面を持つ者の責務でありシェルモント家の誇りでも有る。

・・・とっ私の時は父から云われた物でだが今は他家の者等と会う事さえ難しい

まずその様な事は無いと思うが

ヴァンパイアハンター及びカサードを相手にした場合等に

身元を隠す時に用意ると良い。


良いか、昔と今では違う。例え誇りを捨てるような事が有ろうとも生き残れ。

そして必ず帰って来い。良いな。」


「「ハイ。」」


「お父様。」


「何だミント。」


「シェリスの事有難う御座います。」


「どうした突然。」


「私の我儘でシェリスを教会から救い出した時も

シェリスを墓地から運び出す時も陰ながら私達が動き易いように

動いてくれたと叔父様が云って居られました。

そしてそればかりか一緒に成人の儀までも受ける事を許して貰い

感謝して居ます。」


「ミント、何を云うと思えば・・。

シェリスはミントにとって無くてはならない大事な友達なんだろう?

なら親である私達がその友達を大事に扱わなくてどうする。

それに今はシェリスも私達の子の様な者だしな。」


「有難う。お父様!」


私が嬉しくてお父様に抱き着くとお父様は私を抱きしめ

感極まったのか泣き出してしまった。


「えっあっ・・・ミント・・おお~~。

ロードには配下の者を幾らでも連れて行けばよい。

ミントが苦労する事は無いぞ。全て彼らに任せれば良いのだから!

ああ~そうだ。ミントがロードにさえ行かなければ~~・・」


「貴方ちょっと此方へ」


その時お母様が冷たい視線をお父様に浴びせ

るとお父様の腕を掴んで引き寄せた。


「ミリアまっ待て!ミントが私に抱き着いてくれたのは

5年と3ヵ月と11日そして11時間21分ぶりなのだぞ!」


「知りませんそんな事!貴方はミントを甘やかせ過ぎです!

それではロードに出る意味が無いじゃありませんか!

兎に角ちょっと此方へ。

ミント、これで成人の儀は終わります。

後は部屋に戻り明日の準備をなさい。」


「イヤ!だからミントが私に。

ミント~父はお前を愛してるからな~。」


「「・・・」」


そしてズルズルとお父様は泣き叫びながら

お母様に引きずられ部屋を出て行った・・・。


まあ無事?


私とシェリスの仮面も貰えたし成人の儀を終えた様なので

取り合えず自分達の部屋へシェリスと戻る事にした。


部屋へ戻るとシェリスは不思議そうに貰った仮面を見て居た。


「ミント、これ目の部分が空いて無いけど被ったら見えないんじゃ無いんじゃない?」


そう言って私に仮面を私に差し出して来た。


そうこの仮面には目の部分が空いて居らず形的にはのっぺりした物となって居るので

被って居る人の顔形は全く分からない様になって居る。


私はシェリスの持って居る仮面の目の部分を指差し


「ここ触って見て。他の部分と比べて少し薄くなって居るでしょ。

こ目の部分に特別な加工がして有って

私達ヴァンパイアでしか使えない様になってるの

被って見て。」


シェリスが首を傾げながら云われた通り仮面を被ると一瞬動きが止まった。


「・・ミント!見える!凄いこれ!

まるで何も被って無いみたいに表の様子が見えるわ。」


「そうでしょ、私もお父様の仮面を見せて貰った時は驚いたもの。」


「でもこの仮面ミントらしい仮面ね。」


「ちょとおかしいかな?」


「ううん、凄く気に入った。大事にするわ。」


「気に行って貰えて良かった。」


その後一緒にロードに出るクリアも加わり明日の準備の続きを始めた。


そして翌日早朝。

誰にも見られない様にまだ日が昇る前に出発する事になって居る。


私達は2頭立ての馬車に荷物の乗せて居ると早朝にもかかわらず

ファスエル子爵叔父様達が見送りに来てくれた。


一通り荷物を積み終えて一息ついて居ると

突然後ろから声を掛けられた。


「ミント!」


「ラング」


振り返るとラングが微笑み近づいて来るのが見える。

そして私の目の前に来ると私の両肩に手を乗せた。


あれ?

ラングってこんなに背が高かったっけ?


確かラングが王都へ行く時私と殆ど背が変わら無かった筈なのに何時の間にか

見上げないとその顔が見えない程に身長の差が出来ていた。


今迄これ程近づく事が無かったせいかその差が更に大きく感じる。


「ミント王都に来たら必ず寄ってくれ。

王国軍第4騎士団副団長ラングと云えば直ぐ判る筈だ。」


「ラングが副団長?本当に?あの泣き虫ラングが?」


「何時までもあの頃の僕じゃないよ。

まだミントを守れる位迄行かないかも知れないけど

それなりに強くなったつもりだ。

だからミント

5年後必ず帰って来てくれ、僕は君の帰りを何時までも待ってるから。」


「うん、判った。近くに行ったら寄るわ。

でも5年後本当に待てるのかな?」


そう云って笑うと今度はラングの表情が突然真剣な表情に変わり

私の右手を掴んで来た。

大きく強くそして暖かな手。


「ミント!

僕は今迄ウソを云った事が有るかい?」


「・・判った・・信じるわ。王都に行ったら必ず寄るから。

食事位奢りなさいよ。」


「楽しみにしてる。」


そう言って離れて行くラングを見て居たらニヤニヤしたシェリスが近づいて来た。


「ミ・ン・ト~~。随分仲が宜しいんじゃ御座いません事?

ヤケルるな~。」


「シェリスだって美人なんだから直ぐ恋人位出来るわよ。

王都に行ったらラングの友人紹介して貰おうか?」


「王都へ行ったら食事をご馳走してくれればそれで許してあげる。それより」


そう言ってシェリスが東の空を見上げると今迄空一面に散らばっていた星空が

薄っすらと明るいオレンジ色の空に入れ替わろうとし始めていた。


「時間ね。」


私達は見送りに出て来てくれていたお父様達や叔父様達に別れを告げ

馬車に乗り込む。


馭者はクリアが引き受けてくれ

私とシェリスは荷台に作られた椅子に腰かけ手を振り馬車が動き出す。


いよいよロードへと出発する。

そう思い顔を見送る人達から前へと向けると

動き出した筈の馬車の横から声を掛けられた。


「ミント!やはり私も行こうか?せめてファスエル子爵領を出るまでは私が・・」


「お父様!」


お父様が馬車の速度に合わせて走っていた。


いやこれ絶対普通の人では出来ない速度の筈なんだけれど

やはりヴァンパイアのなせる業!


それは判る!


判るけれど・・

その後ろからお母様がそれ以上の速度で走って来る姿をお父様が見付け


「ミント!すまないが先へ行く!気を付けて行く様に。

クリアミントを頼むぞ!

シェリス、突然の事で色々不安は有るだろうが既にシェリスも我が家族。

何か有れば私達へ相談の手紙を書くと良い。

必ず帰って来るんだぞ。」


その時追いかけて来たお母様が直ぐ目の前まで迫って来ていた。


「貴方御待ちなさい!ミント達の門出を汚すおつもりですか!」


「ミントすまん。ここまでだ。それでは。」


「「「・・・・」」」


お父様は更に速度を上げ馬車を追い抜き何処かへ走り去って行った。


そして今度は追い着いて来たお母様が馬車に並び。


「ミント貴女は誇り高きシェルモント家の1人、

家名を汚す事は許しません。良いですね。」


「はい。」


「ただ・・・命は大事にしなさい。貴女達の命程大切な物等何も有りません。」


「でも家名を汚すなとたった今。」


「建前です。」


そう言ってニコリと笑うお母様。

この様な笑顔を見たのは何時以来だろう?


「お母様!必ず皆で帰って来ます。」


「ええ、待ってますよ。」


そう云うと今度は逃げて行ったお父様の方へ向き直り

速度を上げて馬車を追い抜いて行った。


「貴方御待ちなさい!一体何処まで行くのですか!」


そしてその姿は徐々に小さくなり遂には見えなくなってしまった。


「ミント。もしかして走った方が早かったりする?」


「はは・・・どうだろう?何しろ荷物も有るしね。」


「そっそうね。馬車の方が効率良い筈よね・・うん・・・」


シェリスは見えなくなってしまったお父様達の方を遠い目でじっと見て居た。


そうして私達のロードは始まった。

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