第11話 別れとけじめ

成人の儀まで後3日。


私のロードに一緒に行く事に決まったシェリスが

ロードに出る前に自分の墓へ行きたいと云い出した。


その理由はあれから毎日墓参りに来ている自分の家族と

ファークスを一目見たいと言う事だった。


シェリスは既に死んだ者として扱われて居る。


そんな者が人目に付く危険を冒し彼等の家へ行くわけにも行かず

人目の少ない墓地に来た時にせめて彼等の姿を見ておきたい

そして出来れば別れを云いたいそのシェリスの願いを叶えるため

この日彼女の墓のある墓地に行く事になった。


シェリスの家族は何時も仕事が始まる前に来る為

朝早く墓参りに来る。


そして想いを告げる事が出来なかったファークスは

父親と同じ領軍に入る為朝早くから領軍の施設で手伝いと訓練をして居る為

それ等が終わった

夕方からシェリスの墓参りに来ている。


だからシェリスは今日2回自分の墓の有るこの墓地に来る事になった。


早朝この時間は墓参りに来る人は殆ど無く

今日もシェリスの墓の前に来ている彼女の両親と

2人の兄だけだった。


「お父さん、おかあさん。お兄ちゃん。」


その姿を見たシェリスが呟く。


そのシェリスの墓の前で小さな声で

シェリスを守れなかった事を泣きながら謝罪する彼女の両親と

2人の兄の普通では聞えない筈の声が

離れた場所に居るヴァンパイアで有る私とシェリスの耳に入って来る。


それを2人で聞いて居るとシェリスの目に涙が浮かぶ。


「お父さん達の所為じゃ無いのに・・・」


そしてシェリスの母親はあれから何日も眠れていないのか

シェリスの姉だと言っても信じてもらえる程

若く綺麗だった顔には黒く隈ができ

疲れ果て一気に年老いた様に見える。


それを見て居たシェリスは私の静止を振切り突然走り出し

通常、人の目では追い切れない速度で自分の墓の後ろまで移動し彼らの前に立った。


当然ながら突然自分達の娘の墓の後ろに現れたシェリスの姿を見て

シェリスの両親と2人の兄がその口を閉ざし呆然と立ち尽くした。


「シェリス、これは・・夢じゃ無いのか・・」


最初に口を開いたのはシェリスの父親だった。


「お父さん。お母さん。お兄ちゃん。心配かけて御免なさい。

私皆の家族で居られて良かった。」


「シェリス・・」


「待ってお母さん、こっちに来ちゃダメ!お願いだから来ないで」


母親がシェリスによろよろと歩き寄ろうとした時

シェリスがそれを涙声で断った。


それを聞いた兄達が何かを察したかのように母親の袖を掴みそれを止めた。

それから暫くの間シェリス達家族で話しをしていた。


時々母親のすすり泣く声が聞えたけれど

私は出来る限りそれを聞かない様に心がけた。


だって悲し過ぎる。

シェリスは何も悪い事なんてしてないのに

死んだ人間として家族と別れなくちゃならない。


そしておそらくこれがシェリスと家族との最後の別れになる。


暫くしてシェリスが家族の前へ出て行った時と同じように

スッと私達の前へ戻って来た。


シェリスの家族から見れば

今迄目の前に居たシェリスの姿が突然消えた様に見える程に

彼らの目からはシェリスの移動速度を通常の人間の目で追う事は出来ない。


おそらくそれろ目にしたシェリスの家族は

今まで彼女の幽霊と話して居たと思うに違いなかった。


その証拠に私の横にシェリスが来て一緒に彼女の家族の帰る姿を見て居ると

母親はまだ俯いてはいたけれど今までとは違い

幾分目に力が戻って来ている様に見える。


「シェリス、大丈夫?」


「うん、皆判ってくれた。お母さんもこれからはちゃんとご飯を食べてくれるって。

それに」


「それに?」


「ちゃんとお別れを云えて良かった。

もしあのままお別れも云えずロードに出ていたらきっと私後悔していたし

お母さんも立ち直れなかったかも知れない。

ミント。」


「何?」


「ヴァンパイアにしてくれて有難う。助けてくれて有難う。」


そう云いながらシェリスは涙を零し私に抱き着いて来た。


「シェリス辛いよね。」


私はシェリスを抱きしめ彼女の背中をそっと擦った。


その日の夕方同じ様に私達は墓地でファークスが来るのを待った。

そして何時もの様に何時もと同じ時間にファークスが現れた。


そして何時もと同じ様に彼は何を話す事も無く

ただシェリスの墓の前でじっとその墓を見つめて居るだけだった。


「ミント、行って来る・・」


シェリスがそう云うと彼女の家族の時と同じように

ファークスの見つめる墓の後ろに立った。


突然現れたシェリスに驚きファークスは、一瞬後退った。


「シェリス・・」


「うっうん・・」


「「・・・・」」


それ以降2人とも一言も喋らない。

ただたんに時間が過ぎる・・・


しまいにはシェリスが顔を真っ赤にして無言のまま髪をいじり出し

それを同じ様に無言のまま見つめるファークス。


ああ~じれったい!

大体幽霊が顔を赤くしてどうするのよ!


仕方ない。


私はシェリスだけに聞える様に声を飛ばした。


「シェリス、云いたい事有るんでしょ。ほら早く言っちゃいなさいよ。」


ヴァンパイア同士の場合相手が見える範囲に居れば人に気付かれる事無く

目的のヴァンパイアにだけ聞える様に言葉を飛ばす事が出来る。


特にシェリスの様に私の眷属であれば尚更相性も良く小さな力でもハッキリ聞こえる。


その私の言葉に漸く前を向きファークスに声を掛けようとした時

逆にファークスから声が掛けられた。


「シェリス・・」


「えっ・・あっはい・・」


驚いた様にファークスを見つめるシェリスに何かを決意したかのように

次の言葉をシェリスに掛けた。


「俺シェリスの事が好きだった。・・いや!今も好きだ。

そんな女性を俺は守れなかった。しかも告白する事さえ出来なかった小心者だ。

本当に情けない男だと思うよ。

だから正直ここへ来る資格さえ無いのかも知れないけど、

キミにどうしても謝りたかったんだ。

ゴメン!」


突然頭を下げて謝るファークスにオドオドしながら前へ出ようとして


自分の墓石に阻まれ転びそうになりながらシェリスは返事をし返した。


「あっ・・ファークス、何で私に謝るの?私貴方に謝れる事なんて何にも無いわ。」


「シェリスに対する俺の態度全てに、もっともっとシェリスと話しをしたかったのに

恥かしくてついその場を離れてしまったりシェリスの気持ちを分かって居ながら

何も云い出せなかったばかりかシェリスが神官に連れて行かれた日も

何も知らず領軍の宿泊所で親父に訓練を受けてた。

もし俺が勇気を出してシェリスに告白をして居ればもっと違った結果になって居たかも知れないのに。」


「えっえっえっ・・・私の気持ち・・えっ知てた?・・」


シェリスの顔が更に赤くなってまるで茹でたタコの様になって居た。


「あっあの、何故私の気持ち・・」


「俺だってバカじゃない、シェリスを見れば判るさ。

ただ云い出せなかった。

もし違ったら思い違いだったら、

もし告白してフラれたら

今の関係が崩れるんじゃないかって怖くて・・

でも今こうやって俺の前に出て来てくれた。

だからその俺の考えは間違って居なかったんだと確信できたんだ。」


「私も貴方の事好き。・・やっと云えた・・・。

でも、もう遅いよね。私の方こそ御免なさい。

だけどこっやってファークスと話せた事がとても嬉しい。」


シェリスがようやく自分の気持ちをファークスに打ち明ける事が出来た。

やったねシェリス。


うん良い感じ。


此れなら悔いなくシェリスも領都を旅立てるかな?


そんな事を考えていると誰かが近づく気配を感じ

その人物が近づくのを待っているとその人物から私の後ろから声を掛けられた。


「ミントお嬢様。見つかりました。」


「有難うクリア。」


私は振り返る事無く答えるとシェリスとファークスの姿を目に焼け付ける様に

じっと見つめた。


2人の話しはまだ続いて居るけれどあの人間だけはどうしても許せない。


「クリア後はお願い。」


「ミントお嬢様はどうされます?」


「これから行って来る。夕食までには戻るわ。


シェリスには『ロードの準備で出掛けた』そう伝えて置いて。」


「はい、お任せください。お気を付けて。」


「大丈夫よ。」


夜、私がその一仕事を終えて帰るとシェリスが嬉しそうにファークスの事を聞かせてくれた。


両親、お兄ちゃん、ファークス皆と良い別れが出来た様だった。


そして私も『ケジメ?』


後でシェリスに話すとしても私の気持ちも少しだけ晴れた気がした。


そして遂に成人の儀を迎える。


この日はヴァンパイアのジェネラ眷属になったばかりのシェリスも

一緒に成人の儀を受ける事になって居る。


そしてその翌日いよいよ私達のロードへ出る。

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