第10話 解決
朝目覚めるとシェリスが私に抱き着く様にして寝ていた。
あの牢獄の中で見たシェリスの傷を見る限り
相当恐ろしい目に遭ったに違いなかった。
それを思うと胸が苦しく今でも涙が零れそうになる。
その想いにそっとシェリスの頭を撫でて居ると彼女も
私が頭を撫でて居る事に気付いたのか静かに目を覚ました。
「おはようシェリス」
「おはよう。ミント」
お互い横になりながら顔を見合わせると何故か笑顔が出る。
うん、良い傾向。
昨夜の事を考えるとシェリスは既に自分がバンパイア化して居る事は気付いて居る筈
それで居てこの笑顔が出ると云う事はきっと自分がヴァンパイアになった事を受け入れてくれる。
「シェリス、ゴメン。」
「ミント突然一体どうしたの?」
シェリスは不安そうな表情を浮かべ私を見るけれど
シェリスの同意無くヴァンパイアにした事を一言どうしても謝りたかった。
「シェリスもう気付いてるでしょ。貴女の身体の事。」
「あっ、ヴァンパイアになった事?
でもこれはミントが最善と思ったから私をヴァンパイアにしたんでしょ。
恨んでなんか無いわよ。
逆にミントと同じ辛さや苦しみ、
そして喜びを共有出来る様になって嬉しいかも?」
「やっぱりシェリスは優しいね。貴女と親友になれて良かった。大好き。」
「ミント、私も貴女と親友になれて良かったわ。
私もミントが大好きよ。」
その時私達の想いが通じた事が嬉しくて
シェリスに抱きついた。
「シェリス」「ミント」
目の前のシェリスの顔が今にも私達の鼻と鼻がくっつきそうなほど近い。
シェリスの息が心臓音が温かみが感じられるそれが嬉しく更にぎゅっとシェリスを抱きしめた。
あの死を覚悟していたシェリスが生きている。
それを実感出来た幸せな時間。
なのだけれど・・・
「あの、お楽しみの所申し訳ありませんが、
お着替えをお持ちしましたので
そろそろ着替えて頂いて宜しいでしょうか?」
「「ヒェ!」」
「クックリア居つからそこに?」
気づくとクリアが2人分の着替えを持ちベッド脇で私達を
見つめて居た。
「はい『やっぱりシェリスは優しいね。貴女と親友になれて良かった。大好き。』
からずっとここにおりました。
先ほどからお声を掛けさせて頂こうと思っていたのですが
余りにも良い場面で目が離せず・言葉を・・うっんっ・・気が付かれませんでしたので
今一度声を掛けさせて頂きました。」
ゲッ又変な所から見てた。
何とか誤解を解かなくちゃ。
「クックリアこれは違うの。ほら昨夜あれでしょ。シェリスが・・」
「大丈夫です。旦那様や奥様にも誰にも云いません。
それにミントお嬢様がその様なご趣味を持とうとも私が口を出す事では有りませんので。」
「だから違うんだって!クリアあのね。」
「大丈夫です。問題有りません。ただ一つお願いが有ります。」
「何?」
「次回からは私もお仲間に入れて貰えないかと。」
何だかクリアが身体をクネクネしながら顔を近付けて来た。
その顔はほんのり赤くなっている様な気もする。
「クリア?」
「ハイ。」
何か色っぽい声を出す。
絶対これ勘違いしてる!
「クリア、勘違いしないで。私はシェリスの事が上手く行ったのが嬉しくてつい。」
「ミントお嬢様恥ずかしがる事は御座いません。
この様な時は男性女性関係有りません
ですから私も是非ご一緒にと。」
うう、クリアのクネクネが更に激しくなって来た。
何かヤバイ予感がする。
「ミントお嬢様~~~!」
持って来ていた服をベッドに放り投げクリアが私とシェリス目掛けてダイブして来た。
私はシェリスを抱き抱えたままベッドから飛び退くと『ボスン!』と音と共に
クリアがベッドに着地してシーツを抱きしめる。
「ああ、ミントお嬢様の香り」
「クリア!」
シーツを抱きしめるクリアに対しその頭にゲンコツを落とした。
「ウッグ・・痛い!ミントお嬢さま専属の私に対して扱いが酷いじゃないですか?」
「その専属のメイドが何故私に襲い掛かるのよ!貞操の危機を感じたわよ。」
「私とミントお嬢様の間、良いじゃ有りませんか貞操の一つや二つ私が頂いたって。」
「一つしかないわよ!も~。ほら着替え持って来たんでしょ。着替えるわよ。」
「ハイ。でも残念です。シェリス様今度一緒にミント様の貞操一緒に奪いませんか?
2人で襲えばきっと。」
ベッドの上でシーツを抱えたまま座り込んで上目遣いで
シェリスに甘える様な声で話し掛けるクリアに思わず。
ゴツン!
私の2つ目のげんこつでクリアは撃沈した。
「シェリス、クリアはほって置いて2人で着替えよう。」
「うっうん。でもクリア大丈夫かな?」
「大丈夫よ。伊達に私の専属やって無いから。」
「普段からこうなんだ・・」
「ん?今日はちょっとテンション高いかな?」
多分これもクリアなりのシェリスへの気遣いなのかも知れない。
バンパイアになって精神的に不安定になって居ると思っての行動だと思う。
意外と気が利く所が有るからね、クリアは。
「ミントお嬢しゃま~。初めては頂きましゅた~。」
意外と本気なクリアだった事にミントは未だ気付かずに居た。
そしてこの日は当然バーモンドの剣術の訓練は無し・・・の訳も無く・・
コテンパンにやられた。
「ミントお嬢様今日は如何されました?
どうも今日は動きが鈍く感じられますが?」
「だって昨夜シェリスをジェネラ眷属にしたばかりなのよ。動きだって鈍くなると思わない?」
「お嬢様はプラティ純血種では御座いませんか。既に回復してるのでは有りませんか?」
「ウッ・・そっそれはそうだけど。精神的に。」
「その精神を鍛えるのも私の役目でも御座います。どうぞお気持ちを集中なさりませ。」
「わっ判ったわよ。」
パー―ーン!
構え直しバーモンドに斬り掛かった私の剣が弾き飛ばされた。
容赦がない。
そしてこの日もバーモンドの服は一切汚れる事無く綺麗なまま訓練は終わった。
その後昼食を済ませるとその夜お父様達と私とシェリスで
ファスエル子爵邸へ赴く事がクリアから伝えられた。
うっ胃が痛い
あれだけ大口を聞いて置きながら実際叔父様に会うとなると気が重いな
シェリスの事なんて言われるだろ?
それにきっとラングとの婚約、ダメになるだろうな・・・
まっそれはそれで仕方ないけどちょっと勿体なかったかも?
その時間が来なければ良いと思って居ると
時間はあっという間に過ぎ気が付けばシェリスと並んで馬車に乗り叔父様の屋敷まで来ていた。
玄関前には以前と違いいつも見かけるメイドの人が待って居るだけで静かなものだった。
そのメイドの人に連れられ何時も叔父様と会う部屋へ客間へ通されると
叔父様と叔母様そしてラングがそこで待って居た。
「クラム」
お父様は片手を上げて挨拶すると母と私達は礼に従い挨拶をした。
以前界の様は笑顔は無いけれど怒って居る様な様子も見られない。
ただこの沈黙に胸が圧し潰られそうになる。
早く誰か話を始めて欲しい。
その願いが通じたのか叔父様が私達に座る様に云ってから
紅茶が出され持って来たメイドが部屋を出て漸く叔父様から話が出された。
「その子がミントが助けたシェリスだね。」
叔父様が私の隣に座るシェリスに視線を向けた。
「叔父様、シェリスは魔女の疑いを掛けられて!」
「ミント。黙って居なさい。その事はクラムは十分把握して居る。」
「お父様・・」
何時も優しいお父様が静かにそれでいて重みのある声で私を一括した。
こんな事初めてだ。
それを聞いて居た叔父様が今度は私に視線を移した。
「ミント、私達との約束は知ってるね。」
「はい・・」
俯きながら答えるとフムと云う様に軽く頷き言葉を続けた。
「以前も話した様に教会側と上位貴族の息の掛かったバンパイアハンターには手を出してはいけない。
これは君達だけの話しでは終わらない。この地に住む全てのバンパイアの生命にもかかわる事なんだ。」
私には俯きながら唇を噛みしめ自分のスカートをギュっと膝の上で握り締めた。
「にも拘らずミントは彼女を助けに走った。幾ら親友だと云えども彼等を危険に晒した事には変わりない。
今回はシュナイセンが裏で動いてくれたお陰で大事には至らなかったが下手をすれば
大変な事になって居た筈だ。」
「お父様が?」
「ん?シュナイセン話して無いのか?」
叔父様がお父様を驚いた様に見た。
「ん、まあな。」
「そうか、話して良いか?」
「何れは話さなくてはならないと思って居たんだ。構わない。」
それを聞き叔父様は一瞬微笑んだ様に私には見えた。
「ミントあの日、牢獄作業員の人数がやけに少ないと思わなかったかい?
それにキミがその子を連れて来る時その道筋に何人の人を見かけた?
キミの父上はミントが動き易いように牢獄の中の協力者に働きかけ
そして配下の者に指示してミントが通るであろう道筋の人々を遠ざけた。
だからミントは最小限のリスクで彼女を救う事が出来たんだ。」
「お父様が?」
私がお父様を見るとチラッと私を見るだけで直ぐに叔父様の方へと視線を向けた。
「しかし、魔女の疑いを掛けられた者を助けるとは血は争えないと言う事かな?」
「叔父様、それはどう言う事でしょうか?」
私が叔父様に問いかけると叔父様は苦笑いを浮かべた。
「キミの父上がこの様な事をするのは2度目なんだよ。」
「2度目?」
私がお父様に視線を向けると無視された。
「1回目は君の母上の願いからなんだ。メイド長のローズ知ってるね。」
「ハイお母様が眷属になさった方です。」
「そう彼女もその昔その子と同じ様に魔女の容疑が掛けられ教会に捕らわれたんだ。
彼女も当時ミリアお母様は親友と接して居て丁度君達と同じ間柄だったんだ。
それをキミの父上と母上が助け出した。
ミント、キミと同じ方法でね。」
「お父様とお母様が!私と同じ事を!だからお父様はあの方法を私に教えて下さった。」
その時お父様を見ると漸く私に微笑んでくれた。
「しかしだ、当時はまだヴァンパイアハンター等の組織も無く
私もまだ生まれもしない昔、我が先祖との間にも今の様な約束事も無かった。
今は当時と違う。キミは私達との約束を破った事には変わりない。それは判るね。」
「はい、叔父様・・」
「そこでだ、ミント残念ながら・・」
そこまで叔父様が話されて言葉を止めた。
うっ心臓が痛い。
シェリスは私の手をぎゅっと握り私に申し訳なさそうな顔を向けて来る。
シェリスの所為じゃない。
そう思い彼女に向けて横に首を振る。
「一度ラングとの話を白紙に戻したいと思って居る。」
「父上!僕はそれでもミントを自分の元へ迎えたい!」
ラングが!
あの泣き虫ラングが叔父様に楯突いた。
私が初めて叔父様に楯突くラングを見た気がした。
でも、叔父様の表情は変わりない。
おそらくこれは決定事項何だろうと私の中では判って居た。
「ラング、それ程ミントの事を思うなら後5年待て。それでも2人の気持ちが変わらなければ
一緒になるが良い但し少しでも心揺らぐ事が有れば私は認めない。
それを心して置く様に。
良いなラング。」
「ハイ、父上。必ず僕はミントを迎えて見せます。」
「フム。」
「そう言う事でシュナイセンどうだろうか?」
叔父様がお父様に表情を和らげ問いかけた。
「私としては嬉しい事だけれどもそれで良いのか?」
「2人を無理に割くのも無粋だろう?
後は2人に任せるとする。
所でロードに発つミントの従者はどうするのだ?」
「シェリス彼女は魔女の嫌疑を掛けられ死んだ事になって居る。
このままではこの町には居られ無いだろう。ミントと行かせる事にする。
それとクリアはミントとは離す事は出来ない存在だからな。
予定より人数は増えるが3人で行かせる事にするよ。」
「そうか、賑やかなロードになりそうだな。」
そう言って和やかな雰囲気に変わった部屋の中で1人じっと私を見つめる視線が有った。
「シェリス何?」
「ミント、あの私を助けてくれた事は嬉しいんだけど
貴女を迎えるって何?結婚の約束って事?
ラング?一体私に何を隠してるの?私聞いて無いわ!」
もしかしてシェリス起こってる?
「えっとその事を話そうと思ってたんだけど・・・」
「今晩は寝かさないから!全部私に話なさい。」
ウッ何か変な方向に捕らわれしうな発言だけれど・・
夜が怖い・・・
結局その夜は明け方までシェリスと話し込んで寝る事は叶わなかった。
女性の恋バナ恐るべし!
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