第8話 復活
シェリスが埋葬された翌日の夜
この日もシェリスに片思いをして置いたファークスは
遅くまで彼女の墓の前に蹲って居た。
墓地の周りは樹々で仕切られ街中から見えない様になって居る為
逆に街からの明かりも墓地には入らない。
夕暮れ時を過ぎれば真っ暗になる墓地に1人佇んでいたファークスも
月が真上に上がる頃漸く月明かりを頼りに灯りも持たずトボトボと1人帰って行った。
「ファークス・・・」
それを見て居た私は彼の名を呟くけれど彼にその声が届くわけも無く
そのままファークスが墓地を出るまで私はクリアと共に陰から見守っていた。
誰も居なくなると私達はシェリスの墓を掘り起こし彼女を棺から出すと
用意していた黒い毛布に包み墓を元の状態に戻してからシェリスを毛布に包んだまま
2人で密かに屋敷へと戻って行った。
そして毛布に包まれたシェリスを私のベッドの上に乗せると
するりと毛布の間からシェリスの顔が覗く。
「シェリスはヤッパリ可愛いね。」
血色の失われたその顔は白くまるで蝋人形の様にも見える。
私はその彼女の頬に手を当て顔を近付け話しかけた。
「シェリス、今起こしてあげるね。
でも、もし・・・もしこの現実が貴女にとって受け入れ難い物だったのなら
苦しまない様に殺してあげる。
だから今だけ私の我儘を聞いて。」
そこまで云うと私は彼女の首筋に噛みついた。
しかし彼女のその噛み傷から血が流れる事は無い
私はその傷に自分の腕に短剣で傷付けると流れ出る血をその噛み傷へと流し込む。
私達プラティ純血種は自分の血を一時的に操る事が出来る。
彼女の身体に入った私のその血を操り血流を促し更に私の血を注ぎ込んで行くと
ピクリと一瞬シェリスの指が動いた。
「もう少し」
シェリスの首筋の噛み傷を見るとシェリスの指が動き出してから徐々に塞がって行くのが判った。
次に私は一度血を流し込むのを止めシェリスを抱き上げると彼女の口に私の首筋を近づけた。
じっと暫く待って居るとピクリとシェリスの身体が動くのを感じ目を閉じた。
「シェリス良いよ。」
優しく彼女に語り掛ける様に云うと
薄っすらと瞳を開けると彼女はゆっくり私に抱き着き
私の首筋に歯を立て私の血を飲みだした。
ほんの一瞬痛みを感じた後直ぐにそれが快感へと変わる
この感じは何度も味わって居るけれど
幾ら抑えようとしてもやはり声が出そうになる。
「あっ・・うっシェリス・・もう少し・・ゆっくり・・」
人がバンパイアに血を吸われる時より
バンパイア同士で血を吸う時の方が
より快楽神経を刺激するらしい事が
今までの経験で判って居る。
特にシェリスは初めての吸血、その吸い方に遠慮が無い為
特に快楽神経が刺激されて居るみたいで吸われている間
座って居られず何度もベッドに倒れ込みそうになって居た。
私はベッドに倒れ込みそうになるのを必死に抑えシェリスを抱きしめる。
暫く私の血を吸った後突然我に返ったらしいシェリスが私を突き放し
後ろへ飛び退いた。
「あっ!ミント!ゴメンなさい!私ミントに酷い事を・・」
シェリスは天蓋の柱に背を付け自分のやった事が信じられないのか
驚き戸惑って居る様子が見られる。
そして私の方は身体の力が入らずそのままベッドに倒れ込み
顔だけをシェリスに向けた。
快楽神経を刺激されたのも有るけれど
それ以前に身体が重い、どうやら血を吸われ過ぎたみたい
でもシェリスさえ無事ならそれで良や。
上手く行って良かった。
「シェリス・・気が付いた?・・よっ良かった・・。」
「ミントお嬢様少し休まれた方が宜しいのでは?」
「クリア・・私は・・大丈夫・・それよりシェリスを・・。」
クリアが心配して私を抱き起そうとしたけれど私はそれを退け自分で
体を起こした。
シェリスが自分がやった事に驚いたのかそれとも
自分が何故ここに居るのか判らず戸惑って居るのかは判らないけれども
先程から動かずじっと私を見つめて居た。
そうあの時私がシェリスの血を牢獄で吸った時シェリスが生きられるギリギリの所で
私は吸うのを辞めた。
そして彼女の口から私の血をほんの少し飲ませる事により
仮死状態へ移行しさせた。
この状態のシェリスはまだバンパイアにもなれず
されど人でも無い存在になって居る。
その為傷は治ら無いけれども仮死状態で数日間居られる事になった。
当然そのままにして置けば死に至るのだけれども
今私の血を更に与える事によってシェリスはバンパイアの眷属へと進化し蘇った。
そう今のシェリスはバンパイアのジェネラ眷属なのだ。
その証拠に顔の傷は綺麗に治り
可愛らしいシェリスの顔に戻っている。
後はシェリスがそれを受け入れるかどうかに掛かっている。
まだ動かずに私を心配そうに見つめるシェリスに顔だけを向け
私は声を掛けた。
「シェリス私は少し休めば大丈夫だから・・心配しないで。」
「私ミントに噛みついてた・・。」
「シェリス、落ち着いて。疲れたでしょう?御風呂に入って気持ちを落ち着かせると良いわ。」
そう云うとシェリスの後ろに控えて居たクリアに視線を向け
「クリアお願いまだ一人では不安だろうから入れてあげて」
「はい、ミントお嬢様。」
「あっそれから、シェリスお風呂を出たら一緒に寝よう。話は朝起きてから、で良いよね。」
「うん、判った。」
そのままシェリスはクリアに連れられお風呂へ入りに行った。
「ちょっと血吸われ過ぎたかな?」
重い身体を重力に任せバタンと音が出るのではないかと云う程にベッドに倒れ込んだ。
全ては明日
今日は身体も重いし頭も回らない。
それに今シェリスは意図せず私に噛みついて居た事や
あの牢獄から気付けば私の部屋に居た事等訳が判らずきっと不安に違いない。
だから今晩は一緒に寝て明日全てを話そう。
その様な事を呆然と考えて居たら何時の間にかうたた寝して居たらしく
クリアがドアをノックする音で目が覚めた。
「はい。」
「クリアです。」
「入って。」
クリアに連れられシェリスが私のパジャマを着て入って来た。
御風呂に入ったせいか顔色も良くなっている。
「ミントお嬢様はどうされますか?」
「私は・・・入る事にするわ。シェリス少し待っててね。」
シェリスが不安そうな顔で私を見て居る。
本当ならクリアに身体を拭いてもらってそのまま寝ようかと思って居たけれど
そうなるとシェリスに余計な心配をかけ掛けないので重い身体を引き摺り
御風呂に入るとクリアに身体を洗ってもらいそのまま湯船へ入った。
我が家の風呂は比較的大きく大人5人が同時に湯船に浸かっても
まだ余裕が有り洗い場はそれよりも一回り大きくゆとりをもって作られて居て
時折クリアに身体を洗って貰う時はこうやって一緒にお風呂に入って居る。
でも此れだけ血を吸われたのは何時以来だろうか?
これ程立ち上がる事さえ辛く感じる程なのは。
でも今一番辛いのはシェリスに違いなかった。
教会の尋問塔へ連れて行かれ後は拷問で命の灯が消えるのを待つばかりだった者が
気が付けば自分の意思とは関係なく私の首に噛みつき血を吸って居たのだから
そのショックは計り知れない。
シェリスのやった事はいうなれば生死の分かれ目に陥ったバンパイアの防衛本能
シェリスの気にする所では無い
何方かと云えば私がそう仕向けたのだから。
でも彼女はそう思って居ない。
「クリア、シェリス大丈夫かな?」
湯船に浸かりながら洗い場で自分の身体を洗って居るクリアに話しかけた。
「シェリス様はお強い方です。きっとジェネラ眷属である事を受け入れて下さると思います。」
「だと良いんだけど・・・」
部屋へ戻るとやはりシェリスはベットには入らず椅子に座って私が戻るのを待って居た。
私は彼女の手を引きベッドへ誘うとそのまま手を繋いだまま横になった。
やはり直ぐには寝付けず。
暫くあえて今回の事を避けて今迄楽しかった事や先日の買い物事を話していると
何時の間にかスヤスヤとシェリスの寝息が聞こえて来た。
私もその寝息を聞き安心して漸く眠りに着いた。
全ては明日。
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