第5話 再会

突然だけれども私にはお兄様が居る。

兄様は私が5歳の時に成人の儀を終えロードに出たままお未だに帰って来ない。


まあ時々手紙が来るので無事ロードを続けて居るみたいだけれどもはっきり言う!

お兄様の顔を覚えていないっと。


何しろ5歳の時に出て行ったキリ返って来ないし写真さえ送って来ないのよ。

顔なんて判る分け無いじゃない。


まあ何となく、そう朧気ながらなら覚えては居るのよ。

でもね似た様な人が数人並べられたら見分けが付かないと思う。


そんなお兄様の手紙が届いたと夕食の場でお父様が嬉しそうに私達に

読んで聞かせてくれた。


どうやら今は王都シシアンクに滞在して居て何事も無くロードを続けているらしい。

ただ問題なのは・・・


お兄様今回も写真が無い!

もう、本当に男の人?


お兄様だけ?


まあどちらにしろ何てだらし無いんだろう?


此方からは何度も写真を送って欲しいと手紙を出してるのにな~。


お父様がそのお兄様の手紙を読み終えると

普段笑顔が絶えないお父様が珍しく真剣な顔で私に話しかけて来た。


「ミント明日ファスエル子爵の所へ出かけるから時間を空けて置く様に。」


「おじさまの所へですか?この時期に珍しいですね。何か有ったのですか?」


「ああ、悪い話では無い。クラムは自分から話すからと云って居たから

後は明日向こうへ着いてから話しを聞くと良い。」


「判りました。叔父様や叔母様に会うのも久しぶりだし楽しみです。」


クラム・ファウム・ファスエル子爵はここファスエル子爵領の領主で

私達シェルモント家の血を引くヴァンパイアを祖先に持つ

いわばダンピールなのだけれども人族との混血が続いた為

今はバンパイアの力をほとんど失い

私達でさえ人族との見分けが付かない程人族に近い存在になって居る。


その代わり吸血行為をしなくても生きて行けるのでその点は人族と同じだけれども

やはり少なからずヴァンパイアの遺伝子は残っており身体能力は人族のそれよりは高い。


今から150年前人族とヴァンパイアとの争いが激しさを増し

ヴァンパイアが激減した当時

お父様とお母様が『カサード』に追い詰められ逃げ込んだのが

血縁関係に有るファスエル子爵の屋敷だった。


その時当時のファスエル子爵が匿ってくれたからこそ私

達シェルモント家が生き残る事が出来たとのだと常日頃から私に云い聞かせてくれていた。


『だから叔父様のご先祖様は私達の命の恩人になる。

その恩を忘れない様に』と


あれからおじさまの領内で150年現在伯父さまは

私達ばかりか密かに暮らしていたバンパイアをも庇護して下さっている。


ただし叔父様でさえ決して手を出せないものも有る

それは『カサード』を率いるアリセリア教会と

上位貴族の息の掛かったヴァンパイアハンター達だ。


例え叔父様の領内で有ろうとも何方も下手に手を出せば

幾ら子爵様と云えどもヴァンパイアを手助けしたとして

爵位を剥奪される可能性が有るからだ。


そうなれば今迄おじさまの庇護下にあったヴァンパイア達が危険に晒される事になる。

その為私達はその両方に目を付けられない様に常に気を付けて行動して居るし

もし彼らに狩られる者が居たとしても手を出せない。


当然の事ながら私達もそのヴァンパイアハンターとカサード等教会には絶対手を出さない様にと

叔父様からきつく約束させられている。


その代わり彼らに関わらない物であれば子爵領内での多少の事は叔父様の力で何とか隠蔽する事が出来る。


そしてお父様が率いるシェルモント配下のヴァンパイアは

その恩栄をただ受ける訳では無く

叔父様の領内の夜の治安を密かに守って居る。


その為今は互いになくてはならないパートナーであり血縁的には遠くは有るけれど

現在私達は叔父様の好意により親戚の様に気軽な付き合いが出来ている。


その叔父様が今回は私も来るようにと声を掛けてくれたと云う。


小さい頃は良く遊びに行って居たけれども

大きくなると年に一度位しか行って居ないので

本当に叔父様達に会うのは久しぶり。


そして私達は翌日叔父様事ファスエル子爵の屋敷へと馬車に乗り出向いた。

同じ領都内なのでそう離れてはいないのだけれども

叔父様・・貴族の屋敷に出向くには歩きでは逆に失礼に当たるとの事なので

叔父様の所へ行く際には常に馬車で出向く事になって居る。


叔父様の屋敷は子爵家と云えども流石貴族と云える程立派な物で

我が家の様な一般の屋敷と違い門番に約束の有る事を伝え

それが確認できると敷地内へ入る事を始めて許される。


我が家の場合幾ら商会の屋敷と云えどもここの様に専門の門番がとかは居らず

執事やメイド達が交代で玄関脇の待機室で約束の有る人や

突然訪れる人等の対応をして居る。


だからこの間の様にシェリスが勝手に私の部屋へ駈け込む事が出来るのだけれども

流石に叔父様の様な貴族の所ではそうは行かないだろうな。


まあ我が家の敷地内に居るのは全てバンパイアなので

全く保安上の心配はして居ないけれど

そんな所はやはり叔父様は貴族なのだと改めて思う。


私達はその門番の許可を得て敷地内へ入ると

既に玄関でメイドや執事が並んで待って居るのが見えた。


「お父様今日は何時もと様子が違う様に思えますが一体何の話しなんでしょうか?」


そう、何時もなら玄関前にメイドや執事が待って居てもせいぜい2~3人、

時には叔父様自ら出迎えてくれるのだけれども

今日はその何時もの様子と違う。


「・・・」


「お父様?」


「ああ、そうだな兎に角クラムに会えば判るさ。」


「叔父様にですか?」


「ああそうだ。」


「お父様?・・・」


私が訪ねるとそのまま黙り込んでしまった。


そしてお母様の方を見ると何気に不安そうな表情を浮かべながらソッポを向いてしまう。


一体何だろう?


お父様とお母様の様子を見ると私自身も不安が込み上げて来るけれど

既に叔父様の屋敷についてしまった事には仕方ない。


私達が屋敷内に入ると直ぐに客間に通されると

既にそこには連絡を受けて居たのか叔父様が立ったままで迎えてくれた。


「叔父様叔母様お久し振りです。」


私が2人に挨拶をすると叔父様が嬉しそうに私に近づき両肩に手を乗せた。


「ミント暫く会わない間に又綺麗になったね。」


いや~叔父様って何て正直方なんだろう。

お母様にも叔父様を少しは見習って欲しい位。

でもここは・・・。


「有難う御座います。叔父様にそう言って貰えるととても嬉しいです。」


私だってやれば出来るのですよお母様から躾けられて。


ニコニコと笑い機嫌の良さそうな叔父様の後ろから


同じ様に笑顔で叔母様が私の横から私を迎えてくれる。


叔父様には3人の息子が居て女の子は一人もいない

だからか私が遊びに来るとまるで自分の娘の様に接してくれる。


私もそんな叔父様夫婦につい甘えてしまいがちになるけれど

そこは私もお母様お目付け役に恥じない様に心がけている・・・筈・・


「ミントちゃん今日は来てくれて有難う。今日はミントちゃんに大事な話が有るの」


大事な話?


何だろう?


そう言えば今日はお父様やお母様より

叔父様達はずっと私に話しかけられている様な気がする。


そう考えていると突然叔父様の後ろにあるドアから一人の男性が部屋の中へ入って来た。


「あ!」


見覚えのある顔!


そう、以前私が不良に絡まれて居たのを助けたイケメン!


私をオテンバ呼ばわりしてアッサリ帰って行ったあの男だ!


その男が何故か叔父様の後ろに立って居る。


私が思わず見つめて居ると当然ながらその男と目が合う。

するとその男が片手を上げて声を掛けて来た。


「ミント、待ってたよ。」


エッ?何故私の名前を知ってる?


それにあの事はお母様に内緒にする筈だったのに

まさかここでその事をお母様に言い付ける?


だけれどもまずその前に一体誰?


「・・・」


私は答える言葉を失い呆然として居るとその男は叔父様のすぐ隣に並んだ。


「ミィちゃん。オ・テ・ン・バ・ミィちゃん。まだ思い出せてなかったんだ。

僕の事」


ミィちゃん、その呼び名を言葉にするのは私の知って居る限り1人しか居ない。


「ラング?泣き虫ラング?」


「やっと思い出した?」


ラング・ファウム・ファスエル。


ファスエル子爵家3男。


私の幼馴染で私にカッコ良い所を見せようとして逆に良く怪我をして泣いて居たのを思い出す。


確か8年前騎士になる為王都シシアンクの学校へ行った筈。


確かに良く見れば小さい頃のラングの面影が有る。


「泣き虫ラング!貴方騎士になる為王都に行ったんじゃ無かったの?」


「ミント!何て言葉使いするの!」


早速お母様に叱られたけれど

今はラングが何故ここに居るかが判らなかった。


「実は父上から縁談の話が有るから一度帰って来る様に云われて来たんだ。」


「ラングお見合いするの?」


すると彼は私の手を取り


「全部断った。先約が有るって。」


「先約?ラング王都で好きな人が出来たんだ・・・。」


「違う。ミントきみとの約束を守りに来た。」


エッ?何?約束?


その言葉を聞きお父様達と叔父様達が嬉しそうに私達の話しをして居るのが聞えて来る。


『ミントが来てくれればシェルモント家との繋がりは更に強くなるし

ミントも良い子だ私にとってもこれ程嬉しい事は無い。』


『私としてもこれは願っても無い縁談ですよ。でも本当に家のミントで良いのですか?』


『ミントちゃんは家の娘の様なものですもの、良いも何も有りませんわ。』


うわっ!


お父様達と叔父様達の話しがどんどん私とラングの結婚へと進んで居る。


その前にちょっと待て!


私との約束?


「ラング!私との約束って一体!」


私が慌てて聞くとラングは落ち着いて答えて来る。

あの泣き虫ラングが大人の態度で落ち着き払って居るって・・


「まさか忘れたとは言わせないよ。僕が騎士になる為王都の学校へ入学する事を君に云った時の事を。」


えっっと。


ラングが学校へ行くと決まった時?


何が有った!



ーーーー幼き頃の記憶その1ーーーーー


「ラングの泣き虫~。その位の傷で無くなんて男らしく無いんだから。」


「だっだってミィちゃんと違って直ぐ傷が直ら無いんだもん仕方ないじゃん!」


この時ラングは私に良い所を見せようとして木から落ち膝に怪我をして目に涙を浮かべていた。


「仕方ないわね。私が治してあげる。」


そう言ってラングの傷口をペロッと舐めて痛みを和らげてから自分の血を一滴たらし

その傷を治した。


普通の人族ならばこれだけでは治らないけれどラングは

どんなにヴァンパイアの血が薄くなったと云え

私達と祖先を同じとするダンピール、

少し私の血を与える事により彼の血が一時的に活性化してこの様な傷は瞬時に治る

これはその為の処置でも・・・。


う~む。


子供の頃とは言え恥ずかしい記憶だけどこれじゃない!




ーーーー幼き頃の記憶その2ーーーー



「オテンバミィちゃん!もう少し女らしくしないとお嫁に貰ってやらないぞ!」


「誰が貴方なんかのお嫁さんになってあげるもんですか!私はもっと男らしくてカッコいい人と結婚するんだもん。」


「うっ・・僕だってそんなオテンバなんか!・・・」


うん、これは完全に断ってるしこれでも無い。




ーーーー幼き頃の記憶その3ーーーーー


「僕騎士になる為王都の学校に行く事に決めた。

男らしい男に、

ミィちゃんを守れる様な男に成る為騎士になる。だから・・・」


「ラング・・」


「僕が騎士になったらミィちゃんを迎えに来るその時は僕と結婚して欲しい。」


「ラング・・私待ってる。必ずよ。必ず帰って来て。」


・・・・・・・・してた。


約束してたじゃん私!

これだ・・・


すっかり忘れてた。


いやっだって私が小さな子供の頃の事だもの忘れてたって仕方ないじゃない。

確かにラングは私より4つ上だからちゃんとした意志で約束したかもしれないけれど。


恋に焦がれる頃の私の記憶は・・・。


でもラングはその約束を守る為騎士になって帰って来たって事でしょ。

今更忘れてた何て云えない・・・どっどっどうしよう。


ラングと結婚?


ロード前に?


イヤイヤ、確かにラングはイケメンで良い人かも知れないけど急に結婚って!


いや!


急にでは無いのか!


ラングが今迄私の為に騎士になって迎えに来たんだから。


私が俯きながらその事を考えているとラングは何を勘違いしたか

私の両手を持ち。


「ミント待たせて御免。

本当なら騎士になって直ぐに来れば良かったんだけれど忙しくて

父上に縁談の話しを聞いて慌てて帰って来たんだ。

その事は謝る許して欲しい。」


イヤイヤイヤ。


待って無いし。


忘れてたし。


でも幾ら何でも子爵家の三男坊からの言葉掛け、普通ならこれだけでも断れない。

しかもラングは私の言葉を信じて騎士になり迎えに来たとなれば尚更。


うん、良し考え方を変えよう。


相手は子爵家の3男、貴族と言えども

それ程貴族としての生活態度に厳しく無いはず。


しかも騎士。


そしてイケメンと来た。


そのイケメンは私がヴァンパイアのプラティと知りながらずっと私の事を想い

必死に努力をして騎士になり告白。


そしてその親である叔父様や叔母様も良い人で

私が入る事を歓迎して居る。


もしかしてこれ程素敵な恋愛ストーリーって無いんじゃない!


親友のシェリスが聞いたら飛び跳ねて喜ぶ筈。


私は忘れてたけど・・・


でもっでも・・・。


例えそうなったとしてもせめてロードには出たいな。

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