第3話 恐怖の大魔王は今ここに居ます。その2

前日の記憶その2


その後欲しかった本を買い

雑貨店では思いの外気に入った小物が見付かり気分良く帰途につこうとした時

路地へ数人の男達に仕立ての良い服を着た1人の男性が連れ込まれるのを見つけた。


私はその男性を助けるべくその路地へ駈け込むと壁際に追い込まれた男性の周りを

5人の男達がとり囲んで居た。


「貴方達そこで何をしてるの!」


私がその男達に後ろから強い言葉でそう云うと

その男達が全員振り向きその中の1人が私に近づいて来た。


「はぁ?何だ姉ちゃん?遊んで欲しいのか?

そんなに暇してるなら俺らが相手してやるぜ。」


その言葉に後ろに居る男達がニヤニヤと嫌らしい笑いを私に浴びせた。


「貴方達では役不足よ。それよりその人を放してあげなさい。

そうすれば見なかった事にしてあげるわ。」


彼らの笑いに腹が立ち私は腕組をしてちょっと見下す様にそう言い放つと

私の目の前に居た男が私の腕を掴んで未だ嫌らしい笑顔を張り付けた顔を私に近づけ

私を自分の方へと引き寄せた。


「そうか、5人では物足りないのか。ならもっと仲間を呼んでやるぜ。」


今にも口づけするんじゃないかと思える程顔を近付けそう云う男に苛立ちを覚えた。

ファーストキスさえまだした事無いのにこの男は何を云ってるのよ!


『やっちゃって良いよね。』


とっ云っても誰に聞く分けじゃ無いけれど一応自分に言って見た。

私は一旦自分の腕を伸ばし身を引いて男との間を開けると

その腕を引き寄せ今度はその男の体勢を崩して前のめりになった所へ

ジャンプしてその男の鳩尾に膝蹴りを食らわせそれを見て居た男達に走り寄り

スカートが捲り上がるのも気にせず真ん中に居た男の頭に蹴りを入れた。


そしてその勢いをそのままに

一瞬の出来事で固まって居たその右隣りの男の前でしゃがみ込み股間をグーで殴り倒した。


拳に嫌な感触が伝わって来たけれどそれを拭い去る様に

その拳でその後ろに居た男の顔を殴ると股間を殴りつけた男と同様に簡単に沈んだ。

その反対側に居た男を睨め付けるその男がどもる様に。


「コッコッコッ」


「コケコッコーって私は鶏か!」


その男の鳩尾に拳をめり込ませると思いの外遠くへ吹き飛び気を失って行った。

そして最後に連れ込まれた男性を見ると何処かで見た様な?・・・

年齢的には私より少し上で仕立ての良い服に金髪に青い目の中々のイケメン

何処かのお坊ちゃまなのだろうけれど記憶が曖昧。


まあ兎に角こんな所に居ては又他の質の悪い男達に狙われ兼ねないので早くこの場を後にして貰おうと声を掛けた。


「大丈夫?比較的安全な場所だと思って居てもちょっと裏路地に入ると

こんなバカが居るから気を付けなさいよ。

しかもそんな仕立ての良い服なんか来てたらカモがネギを背負って歩いてる様な物じゃない。

もうこの近くをうろつかない方が良いわよ。

後は私が何とかして置くから早く行きなさい。」


うん!


決まった!


これで領都リリアント一美しい女性に助けられた男性1号は

私の事を忘れられずに・・・。


なんて事を考えてると、

その人は漸く緊張から解放されたかたなのか大きな息を吐くと

私に近づいて来た。


「有難う御座います。お陰で助かりました。

あの何処かで・・・いや、もし貴女の様な美しい方と出会ってれば忘れる訳・・あっ!・・。」


あっ!


キタキタ~。


でも惚れちゃダメよ。


こう見えても私はヴァンパイアで私の住むこの町リリアント一の美少女で(自称)

誰もが振り向きたくなる様なその笑顔を見れば惚れるのは判るけれど私はバンパイア。

どう見ても貴方は普通の人間これは禁じられた恋なのよ。

妄想を描いてると彼は笑顔を取り戻し私に優しい声で更に話しかけて来た。


「貴女の着て居る服を見ると貴女も家柄の良い出だと思いますが?

誰かに護身術でも教わったのですか?」


「エッ?あっはい自分の身位は自分で守れるようにと・・」


嘘をついた。

イヤ、だって結構なイケメンにバンパイアの力を使わなくても良い様に

憶えた何て言えるわけ無いじゃない。


ここは少しでもお淑やかに

云った筈なのに何故か反応がおかしい。


「ハハ、そうですか。助けてもらって何ですがオテンバって云われません?」


「ウッググ・・よっよくお母様に起られてます・・・」


なっ何で判った!

しかも始めて会ったイケメンに私が何でこんな事云わなくちゃならないのよ!

でもつい出てしまった私の返事に彼は笑いながら

私のスカートに着いた土ぼこりを叩いてくれた。


「それじゃあこの事はお母様にバレない様にしなくちゃね。今日は有り難う。

此れからは貴女の云う様に気を付けますね。」


そう云って手を振り帰ってしまった。


エッ!

此れだけ?

折角助けたのにこれだけなのか~~!


イヤ!


何かして貰おうとして助けた訳じゃないのよ。

それは本当。


でもね。


乙女の心を弄ばれたようなこの感覚!


う~~ん何か腑に落ちない。

しかも何処かで会った様な会わなかった様な・・・


この憂さを何処で晴らせば良い?

ふと後ろを見ると未だ悶絶打って倒れている男達が目に入った。

フフフ。


お前達運が悪かったな。

私の憂さ晴らしの相手になって貰おうじゃないか。

私の相手になれる事を誇りに思いなさい。


私はその裏路地のさらに奥へとその男達を引き摺って行き

2時間程思いっ切り説教をかましてやった。


いや、だって憂さを晴らすだけ暴れたら彼等生きてるか判らないじゃない。

そこはちゃんと弁えた女だもの

説教で許してやったわよ。


お陰で私の憂さも晴れたしめでたしめでたしだった筈なんだけれど。

帰って来た時買った筈の本と雑貨の入った袋が何時の間にか消え去って居た事に気付いた。


「ミント・・・」


「はいお母様。」


顔を上げてお母様の顔を見るとワラワラと身体全体が震えて居るのが判った。

こっこっこれだ・・・・。


一体何故バレた?


あの助けた男か?


なら何故私の家が判った?

あっ!


そうかやはり私は何処かであの男性と会ってたんだ。

そしてあの男性は私の事を思い出しここへ・・・


あの時お母様にバレたら不味いと自分から云って置きながらお母様にばらす何て!

あの男は一体何処の誰だ!


そう考えてるとテーブルの上にお母様がドンっと

何かが入った袋を置いた。


何処かで見た覚えの有る袋・・イヤ、昨日買い物を入れた私の袋がそこに有った。


「今朝方ガラの悪い男達が姉さんに渡して欲しいとこれを持って来たわ。

これ貴女の持ち物ですね。」


キラリとお母様の目が光った様な気がした。


あいつ等か!


しまった!

あの事を誰にも言わない様に言って置くのを忘れてた!


でも何故私に家が判った?


説教中何処かで私が話してしまったか?


う~ん記憶にない!


それから淡々と2時間お母様の説教が続いた。

流石私のお母様だ。


凄く疲れた。

しかも何故か随分と生命力を削られたような気がする

ヴァンパイアなのに・・・


その夜夢の中でもお母様の説教を聞かされた事は誰にも言えない秘密だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る