第2話 恐怖の大魔王は今ここに居ます。その1

何時もの様に天蓋付きベッドの上で目覚めると

暖かな日差しは部屋の中まで照らし出し

その日差しが私の瞼を優しく包み

私は掌でそれを遮った。


「眩しい。」


その明るい部屋の中では唯一

この部屋に不釣り合いな

一本の小さ目の片手剣がやけに目だって見える。


その剣はこの部屋でそれだけが浮いて見えるけれど

その不釣り合いな剣はこれからの私の命を守る武器の一つになる物だ。


その剣を何気にベッドの上から見て居ると私の部屋をノックする音が聞こえて来た。


「ミントお嬢様奥様がお呼びです。」


「・・・・」


「ミントお嬢様!奥様がお待ちしております。・・ミントお嬢様?」


「・・・」


『嫌な予感がする。逃げよう!』


ヴァンパイア、

特に純血種である私の感を侮ってはならない。


私は寝起きにも関わらず素早く飛び起きると

2階にある私の部屋の窓枠に足を掛け

庭へ飛び降りようとした時。


ガチャリと勢い良くドアを開ける音がしたので振り向くと

顔に悪戯書きをされたままの

白銀の髪に青い瞳の20歳の私専属の美人メイドの筈のクリアが慌てて入った来た。


「ミントお嬢様!一体何をしようとなされて居るのですか!」


「いや・・ちょっと出掛け様かと思って。お母様には居なかったと伝えて置いて。」


「窓から飛び降りるなんて逃げる気満々じゃないですか!ダメですよ逃げちゃ!」


「クリアすまない。後は任せた!」


私は窓枠に掛けた足に力を入れ2階の窓から一気に飛び降りた!


「ミントお嬢様~~~!」


クリアが私が飛び出した窓から顔を出して叫ぶけれど私は止まらない。

必死に走り加速に次ぐ加速!

良し!


行ける!


そう思い裏口の戸へ手を伸ばそうとした時突然私の前に立塞がる影が現れた。


その立ち塞がった人物の顔を見上げると

そこには今迄私を追い掛けて居た筈のクリアの姿が有った。


「クックリア!貴女結構素早いわね・・・」


「ハイ。何時もミントお嬢様に鍛えられておりますので。」


そう云いつつニコリと笑うクリア。


悪戯書きをされて居ない

笑顔だけなら可愛らしいメイドなのに

どうしても私をお母様の所へ連れて行く気らしい。


「お嬢様?」


「ハイ・・」


「奥様がお呼びです。」


「・・・」


私はそのままクリアに手を引かれ屋敷に連れ戻されて行く。


お父様はこの町では比較的大きな商会を営んで居るお陰で

私達は裕福な生活をする事が出来ているけれどバンパイアである事には変わりなく

私達の身の周りの世話をしてくれている人達は全てバンパイアで占められている。


彼等の殆どはお父様が各地から救い出して来たヴァンパイアで

このクリアもその一人なのだけれども

そのクリアは何故か今・日・私・に・容・赦・が・な・い・・・・

クリア貴女私専属のメイドだよね?


「ミント様、何か奥様から逃げなくてはならない事をされたのですか?」


「そっそんな事何も無いわよ。おっほほほ・・・」


「本当ですか?所で今日は随分ゆっくりとお昼寝をなさっておいででしたけれども何かなされました?」


疑いの目で私を見るクリアだけれども私自身一体何がバレたのか判らないから話しようが無い。


それに昼寝の方は別に何も無いけれど昼食を食べたら眠くなって寝てしまったのが本音。


でもそんな事云ったら又だらけてるって怒られるのが目に見えて居る

どうしようか?


「うん、ちょっと午前の稽古頑張ったから少し疲れちゃったかな?ハハハ・・」


「バンパイアなのに?」


「ウグッ」


「プッ!フフ、逃げた事は奥様には黙って置きますので大丈夫です。」


突然片手を口に当て笑い出したクリアを呆然として見て居ると

クリアが私に顔を近づけて来た。


「所でミント様?何故お逃げになられたのですか?

本当に何か怒られるような事を成さって居たのでは?」


「ぷっ!

あっごめん・・何と言うか、条件反射の様な物だからね~。

身に覚えは・・・う~ん・・。」


クリアが顔を近付けるとマズイ!

思わず吹き出しそうになる。

恐るべし我が悪戯書きのセンス。

しかしそれとは別にお母様の件が怖い・・・


そんな私を見て居たクリアが何処がツボに入ったのか又笑い出した。

いやっだって何やったってお母様は直ぐ起こるんだもの。


「本当にミント様はフフフ。」


「え~そんなに笑う所かな?」


クリアに笑われたけどその顔を見ると私もつい笑いたくなるのをグッと我慢した。

いや!ここで笑ったら負けた気がする!(自分で書いた悪戯書きだけど・・・)

だけどお父様はあんなにも優しいのにお母様は何故あんなにも厳しいのかな~。


重い足取りで渋々クリアに手を引かれついて行くと何時の間にか

お母様の居る居間の前まで来ていた。


お母様に入る許可を得ようとクリアがノックをしようとしたのを見て

哀願する様に上目遣いで彼女の手を掴んでそれを止めた。


「クックリア・・」


「ミント様往生際が悪いです。お覚悟を」


「嫌だ!ネッ帰ろう?私が部屋に居なかったで良いじゃん。」


「そうは行きません。

もし怒られるような事をしたのなら

どのみち怒られるのですから早い方がミント様の為です!」


整然と答えるクリアだけれどもいたずら書きされたその顔には似合わない。

そんなやり取りの隙にクリアがドアをノックをしてしまった。


「奥様クリアです、ミントお嬢様をお連れしました。」


「そう、入って。」


その言葉にクリアが容赦なくそのドアを開けると

お母様が一人掛けのソファーに腰かけ無表情な顔を此方に向け

私達が入って来るのを待って居た。


「ミント、待ってい・・・」


私に声を掛けようとしたお母様の声がクリアを見て止まった。


「クリア貴女その顔は?」


「ハイ、・・・えっと・・」


そしてチラッと私を見るお母様の目が怖い

思わず目を逸らすと。


「まあ良いわ。仕事に戻ってちょうだい。」


「はい。」


そう云って少し俯きながら出て行くクリアにピタリとくっ付いて私も出て行こうとすると


「ミント。貴女はこっちよ。」


逃げる事もままならずお母様見つかり引き戻される。


『残念!逃げそこなった。』


そしてテーブルを挟んでお母様の前に座らされ

無表情のままとジッと私を見つめて来た。

こんな表情の時のお母様は怖い。


「ミント」


「ハイ!お母様何でしょうか?」


「貴女昨日買い物をしたいと街中へ出かけたわね。」


「ハイ。」


昨日?

一体なにかしたっけ?

一生懸命考えるもその考えが纏まる前にお母様から声が掛かる。


「昨日一体何が有ったの?」


はぁ~~!

何でそう来る?

何処から話す?

えっと、確か・・





ーーーーーーーーーーーーーーー




前日の記憶。



そう私は昨日私の欲しかった本と雑貨品を買う為繁華街へ出た。

何時もならメイドのクリアや他の付き人が付く事が多いのだけれど

この日は友達のシェリスと会う約束が有るからと嘘をつき一人で買い物に来ていた。


その為久し振りに一人で買い物に来た事にウキウキと高揚感に浸って居た事を覚えている。


そんな私の目の前に1人の男の子が目に飛び込んで来た。


その子の年齢はおよそ5歳位、服装は一般庶民の着るような服を着ていたけれど

私がその子を気になった理由は

たった一人で周りをキョロキョロと落ち着きなく見渡し

今にも零れ落ちそうな涙を必死に堪えている姿が気になったからだ。


「僕どうしたの?」


私が声を掛けるとその子は今迄ぐっと我慢して居たのか一気に

涙をボロボロと零し泣き出してしまった。


「うっわ~~ん!お母さんが居なくなっちゃった!」


迷子か。


今日は比較的人通りも多いから一人じゃ見付から無いわね。


「じゃあお姉ちゃんが一緒に探してあげる」


「うっうっお姉ちゃん有難う。」


それからその子の母親探しが始まった。

30分程一緒に探したけれど見つからず又その子が泣き出してしまった。

そこで仕方なく。


「お姉ちゃんが歌唄ってあげるね。」


そう云って手を胸の前で組むとその少年の前で歌い始めた。


「今日も~馬車で旅に出る~明日は何処の町に着く~~~のかな~♪」


「ぷっ!お姉ちゃん下手くそ!アハハ!」


私を指差し大声で笑い出すその子にイラっとして思わずゲンコツを落としてしまった。

イヤ、本当軽くだよ。

でも最近の子供は軟弱で。


「うわ~~ん!お姉ちゃんが殴った~!」


「うわっゴメン!」


その子の頭を撫でると瘤が出来ていた。

治れ治れ心で祈り頭を擦るもその瘤は大きくなり見ただけで判る様になって居る。

うわっ!

不味い!


「ほら~僕~お姉ちゃんの顔見て~。」


「べろべろば~。」


百面相を披露するもいまいち反応が悪い。

仕方ない奥の手として思い切って変顔を披露すると。


「ウッヒャヒャヒャ~。お姉ちゃんのブス~~!」


瘤が二つに増えた・・・・スマン少年。

そう云えばお父様が云って居た。


『男は女性の我儘を笑って叶える事が出来る様になれば一人前だと。』


少年これも試練だと思って堪えて欲しい。

とっ云いつつお父様もお母様の前では一人前の男に成られては居なかった様な気がするけれど

それは見なかった事にして置いた方が良さそうなのでここでは黙って置く事にした。


その後何とかこの少年を泣き止ませ母親探しを再開すると

この少年を探して居た母親を無事見付ける事が出来た。

しかし私はこの子のたんこぶが見付かる前に

お礼を云って居る最中の母親の前からそそくさと逃げて来た。


ここまで話してお母様を見ると右眉をピクピクと痙攣させて居るのが判った。

お母様のこの癖はまだこの話を聞いて居なかったのサイン!

しまった、此れじゃ無い!


余計な事を話してしまったと後悔しながらもお母様を見て居ると

眉だけをピクピクと器用に動かしながら

未だ無表情のまま私にその先を話す様に促して来た。


「ミントまだ有るでしょ。全て話なしさい。」


「あっ・・はぃ・・」


そうしてその後の事を思い出した。

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