大好きな幼馴染と身体が入れ替わったあたしは、とりあえず自分を襲ってみた

雲雀湯@てんびんアニメ化企画進行中

身体が入れ替わってしまった恭子ちゃんと真樹くん


 あたしの幼馴染の真樹まさきは、なよなよしていて男らしくない。


 背は高いけれどひょろっとしており、なんだか頼りない印象も受ける。

 趣味も読書や手芸やゲームといったインドア派。

 偏見だけど、そこもなんだか男らしくない。


 顔はまぁ、それなりじゃないかな? だけど、別にそこに惹かれたわけじゃない。

 一緒にいると、なんだか落ち着くような感じがするのは褒めてやろう。


 特に何か理由があったわけじゃない。


 不覚にも、いつの間にかあたしは真樹に惚れてしまっていたのだ。


恭子きょうこちゃん、そこ危ないよ、こけるよ」

「え? なに……きゃっ!」

「大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫。大丈夫だから離して」

「う、うん……」


 躓きそうになったところ、手を引いて助けてもらった。

 真樹の事を考えて、自分の注意が散漫していたからだ。


 ほんっとうに、不覚!

 胸がちょっとキュンとしちゃってさぁ、もう!


 しかも真樹はあたしの気持ちに気付いていないのが気に入らない!

 そんなあたしはというと、素直じゃない事は自覚している。


 背は……低過ぎると言うことはないけれど、平均よりかは下だ。

 顔は……悪くはない、と思う。モテた事とか無いしちょっぴり不安要素だ。

 髪は……小さい頃真樹に褒めてもらって以来愚直に伸ばしている。手入れは大変だけど、実は密かな自慢だ。


 男子高校生なんて、色々と欲求を持て余しているに違いない。

 真樹の前ではなるべくスカートも短くしているし、制服でも胸を強調しているし、なるべく手を出しやすいよう傍にいたりしている。


 だというのに、こいつはあたしに手を出さない。

 もしかして不能?

 いやいやいや。この間真樹の部屋に行ったけど、独特の香りを放つ使用済みティッシュがあったのを確認している。


 何をしてるんだ、とか突っ込んではいけない。

 ちょっとした乙女の嗜みなのだ。


 こうまで反応が無いってことは、あたしって魅力がなかったりする?

 それともアピールが足りなかったりするのだろうか?

 もし前者だと立ち直れそうに無い。

 

というわけでアピールを増やしてみよう。




 朝。


「ほら、さっさと学校行くわよ真樹! あたしを待たせるなんて生意気!」

「え、えぇ……いつもより早い時間だよ?」

「だってあたしが待ったんだもの!」

「ご、ごめん」


 昼。


「お昼食べるわよ、真樹。いいからおかずちょっと寄越しなさい!」

「あ、ちょっとそれメイン……」

「と、特別にあたしのちょっと分けてあげるわ」

「……ハンバーグ、盛大に形が崩れちゃってるね」

「……不器用でわるかったわね、ふんっ」

「ご、ごめん」


 放課後。


「今日は真樹の部屋に行って漫画を読むわ」

「え、最近掃除してないし汚いよ」

「ちょっとくらい構わないわよ」

「いいけど……文句言わないでよ?」


 真樹の部屋は言うほど汚くない。多分あたしの部屋より整頓されてる。

 着いて早々あたしはカーディガンを脱いでブラウスのボタンも上から2つ外す。ちょっと胸元を見ればブラもチラリと見えるかもしれない。

 もちろん、真樹の対面に座って三角座り。スカートは1段折って短くしてるので、正面からだとパンツも見えやすい。


 さぁ、こい! 女子高生が誘ってるんだぞ! 襲ってきてもいいんだぞ! チラチラ見てるだけで満足なのか、真樹!


 …………


 ……………………


 その後顔を真っ赤にする真樹と根競べをしていたら、おばさんに夕飯をご馳走になって帰宅した。


 あーもう! あたしが真樹ならとっくに襲い掛かってぺロリと食べちゃってるっていうのに!

 だって、完全据え膳状態なんだよ?

 このへタレめ!


 だからその日は帰って不貞寝した。


 ぐすん。



 

 ◇  ◇  ◇  ◇




「なに、これ……」


 一体どういう奇跡なんだか。

 朝起きると、あたしは真樹になっていた。

 困惑するよりも、男子特有の朝の生理現象に興味津々だった。


「……んぅっ、てか硬っ!?」


 よし、不能じゃないな!

 そんな下らない事に安堵していると、机の上で真樹のスマホがチカチカしているのが見えた。

 着信元は――あたしだ。


 いくつかの着信とメッセージを見てみると、真樹があたしになって混乱しているというのが伝わってくる。

 なるほど、あたしと真樹は入れ替わってしまったらしい。


 ん? 待てよ? これってチャンスじゃないか?


 とりあえずあたしのスマホ宛に返事をし、ささっと着替えて自分の部屋へと向かう。


 …………


「どうしよう、恭子ちゃん……」


 顔に不安と涙を湛えたあたしの姿をした真樹が、オロオロとベッドの上でへたり込んでいた。


 ちなみにパジャマ姿は恥ずかしいのか、あたしが来る前に着替えていた。

 うん、それはいつかデートの時に着ようと思っていたお気に入りのワンピースだ。

 肩口がざっくり開いていて色気を醸す。

 スカート丈も絶妙な短さで男の劣情を誘うはずだ。


 うん、あたしのチョイスに間違っていなかったというのを、今真樹の身体で実感している。ぶっちゃけちょっとムラムラする。

 というか、あたしも捨てたもんじゃなくない?

 どうして今まで真樹は襲ってこなかったの?

 あたしはこんなにこう、興奮してるっていうのに!


「真樹、ごめん」

「え、恭子ちゃん顔が怖いよ? ちょっ……!」

「すぐに済むから」

「ど、どどど、どこ触って、あの、恭子ちゃん、手がほどけなっ――」



 …………


 ……………………


 ………………………………


 …………………………………………



 うん、ヤっちまった。


「どうして痴漢がなくならないんだろう、あたしは今、その原因の一つを垣間見た気がする」

「しくしくしくしく」


 あたしはどこか頭が冴え渡ると共に、罪悪感めいた感情に支配されていた。


 ……そうか、これが賢者モードか。


 あたしの隣では真樹なあたしがめそめそと泣き寝入りしている。

 むぅ、男らしくないなぁ。


「めそめそしないでよ、真樹。いい体験が出来たと思えばお得じゃない? 減るもんじゃないし」

「めそめそするよ! 僕の中の大事なものがごそっとなくなったよ!」

「無くなったのなんてあたしの処女膜くらいじゃない」

「それも大問題だよ!?」


 もっと自分を大事にしろ! とかムードがない! 何でゴムもってるの?! とかうじうじと小言ばかり言ってくる。


「もう、いいじゃん。あ、でも他の人には絶対したらダメなんだからね」

「するわけないよ!」


 胸にシーツを掻き抱いて、顔を真っ赤にそんな事を言う。

 うん、自分だけど、そういう仕草をされると可愛いと思う。

 いやいや、あたしはナルシストじゃないんだ。

 でも、なんていうかこう、もう一戦したくなってきたというか……


「……真樹?」

「っ!? 恭子ちゃんダメ! 遅刻しちゃうから!」


 ちぇっ。

 確かにぎりぎりの時間だった。




  ◇  ◇  ◇  ◇




「んー真樹、大丈夫?」

「ちょっと、いやかなり歩きにくいかも」


 どこか歩きづらそうに通学路を歩いていた。

 んー、そうらしいものだと聞くけれど。


「ごめん、恭子ちゃん、手を握ってもらっていい?」

「う、うん、まぁそれくらいは」


 おずおずとおっかなびっくり手を伸ばしてくる。

 何を遠慮しているというのか、男らしくガバーと取りなよね、これくらい!


「き、恭子ちゃん」

「ほら、行くよ」


 お手本とばかりにガバーとあたしが代わりに手を取った。

 照れくさいのか、ちょこちょこあたしに引っ張られる真樹は……うん、なんか可愛くて胸がドキってする。

 でも顔はあたしなんだよなー、うーむ。

 ちょっと複雑だ。




 学校では入れ替わったことがバレないようにと振舞ってみた。

 特に気を使ったのは言葉遣いくらいだけど……まぁとくにこちらは問題ないと思う。


 問題があったのは真樹の方だ。

 男子女子問わず、やたらと心配されているのだ。

 真樹め、しっかりやりなさいよ! と言いたいところなのだが、周りの様子が変だ。


 どうやら急にしおらしくと言うか、女の子らしくなったのに皆が衝撃を受けているみたい。

 そのあたしな真樹といえば、え? 彼氏? 好きな人できた? とかその手の話題が好きな女子に、顔を真っ赤にして違うとかふるふる顔を振る。


 あーうん、あれが自分だと思っていても可愛いわ、あれ。

 男子は男子で、あんなに可愛かったっけ? 彼氏とかいなかったよな? とか話題に上っている。

 複雑な気もするが、悪い気はしない。


 それを聞いていると、あれをさっきあたしのモノにしちゃったんだぜ、へへん! という妙な優越感も沸いてくる。

 気分は良いので見逃してあげよう(偉そう)。



 そして昼休み。


 そうだそうだ、あたしも結構イケてたんだ。

 ただ単に真樹がヘタレなだけだったんだ。


 そんな事を考えニンマリしていた。

 購買で(真樹の財布のお金で)買ったパンを弄びながら教室に帰る途中、あたし真樹の姿が見えた。


 あたしの預かり知らぬところで何をしているのか、吃驚しながら追いかけると、そこには一人の男子生徒と話し合っている姿が見えた。


 あの男子生徒は知っている。

 確か、サッカー部のイケメンで有名な先輩だ。

 あたしは何度か差し入れでもらったチョコやクッキーを分けてもらった記憶がある。

 うん、お菓子をくれるいい先輩だ。

 今回も何か差し入れの余りでもくれるのだろうか?


「俺と付き合ってほしい」

「そ、そう言われても今は困ると言いますか……」


 …………


 なんですと?!

 あれ今あたし告られてない?!

 いやいやいや、でもそれ中身真樹っすよ?!


 っていうか、真樹も断るならもっとちゃんとはっきり断れよぅ、もぅ! ムカムカする!


「こいつ俺のなんで取らないでくれますか、先輩?」

「んなっ?!」

「きょう……じゃない、真樹ちゃん!」


 思わず2人の間に割って入ってしまった。


 あれだぞ、細かいことはさておいて真樹はあたしのなんだ。

 そんでこの身体はあたしのなんだ。

 肩と腰を抱き寄せて自分のモノだって先輩にアピールする。

 真樹が恥ずかしがって抗議しているが知ったこっちゃない。


「そ、そっか……お幸せにね」


 そう言って先輩は去っていった。

 真樹はあたしのものだって理解してくれたのだろう。


「恭子ちゃん、よかったの?」

「何が?」

「先輩ってほら、イケメンだし」

「別に? 下らない」


 あたしの本命は真樹お前だってーの! 浮気はしないから安心しな!


「それにしても、恭子ちゃんってモテてたんだね……」

「ああ、それは……」


 あたしがモテてただなんて、あたしが初耳だ。

 教室での反応や、さっきの出来事があったら、そう勘違いしても仕方がない。


「真樹があたしを知ろうとしなかったからじゃないの?」

「それは……」


 でも、少し位見栄を張ってもいいよね?

 乙女心は時に見栄っ張りなのだ。

 ほら、彼女はモテてる方が誇らしいんじゃない?


 それよりも、こう、自分の身体を抱き寄せているとですね……真樹の身体ってちょっと欲求不満が過ぎませんかね?!


「ね、真樹?」

「ちょ、ちょ、ちょ、ダメだって! ここじゃダメだって!」

「むぅ、ケチ」

「ケチとかじゃないから!」




  ◇  ◇  ◇  ◇




「は! 戻ってる!」


 一体原因は何だったのか?

 次の日起きたら元に戻っていた。

 1日で戻るなんてあたしの想定外だ。

 頭が冷えてなんていうか……そう、賢者モードだ。

 こう、なんていうかもうちょっと真樹と距離を縮められたら……


 ……そういえばあたしが真樹になってやったことって襲ったことだけじゃない?


 あれ、あたし最悪じゃない?


「痛っ」


 あれだ、昨日乱暴したところがじくじく痛む。

 犯人があたしだけに文句も言えない。

 というか一晩経っても痛むような事とか、どれだけあたしは無茶苦茶したんだ。

 そういや放課後帰ってからもなんだかんだ……えぇっと、何回ヤっちゃったっけ?


 今になって、サァっと顔が青ざめてくる。


 いくらあたしの身体だとはいえ、痛い想いをしたのは真樹だ。無理矢理こんなことして真樹に嫌われちゃったらどうしよう?

 ああ、もう一体あたし何やらかしちゃったんだよぉ、もう!


 後悔先に立たずである。


 …………


「お、おはよぅ、真樹……」


 いつもの通学路、さすがに殊勝な態度で朝の挨拶をしてみる。


「…………」

「…………えっと、その……」

「恭子ちゃん」

「は、はい!」

「放課後ちょっと付き合って」

「う、うん……」


 顔からは真意をうかがえない、どこか神妙な顔の真樹に、生まれて初めて恐怖した。


 何を言われるんだろう?

 嫌われたらどうしよう?

 あたしがもし、なんとも思っていない相手に強引に乱暴されたら?


 …………一生どころか来世まで恨むに違いない。


 …………


 その日の授業はネガティブ一色の思考に囚われ、とても生きた心地がしなかった。


 メッセージで呼び出されたのは人気のない校舎の屋上。

 ビュウッと吹き付けた風があたしの髪をなびかせ頬を撫で、それはまるで死神に撫でられているかのように錯覚した。


「恭子ちゃん、先に来ていたんだ」

「真樹……」


 その瞳は、いつものおどおどした色はどこへやら。

 何か強い意志を込めた眼差しで、あたしを見つめながらこっちに来る。

 小さい頃から見ているけれど、あんな貌の真樹は知らない。

 まるで死刑執行人がゆっくり介錯しにやってくるかのようだ。


「僕は今まで恭子ちゃんのことを良く知ろうとしてなかったみたいだ」

「そ、そう」


 そして真樹は大きく息を吸い、吐き出す。

 とても大きなため息をついているみたいだ。

 あー……呆れられたかな……終わった……

 グッバイ初恋。

 真樹の顔がまともに見られなくて、思わずそっぽ向く。


「聞いてくれ、恭子ちゃん!」

「な、なによ」

「全然知らなかったんだ」

「だ、だから何さ」


 あたしの肩を掴んで、こっちを見ろと言ってくる。

 うぅぅうぅ、なにさなにさなにさ!


 べ、別にこの後に及んでドキドキとかしてないんだからね!


「す、好きなんだ、ずっと前から!」

「…………はい?」


 思わず間抜けな声が漏れる。

 好き? 真樹が? あたしを? あれ? あたしを責めたりしないの?

 逆に真樹があたしの返事を変に解釈したのか、みるみるうちに青褪めた表情に変わる。

 あ、これ見覚えある。さっきまでのあたしと一緒だ。


「恭子ちゃんがあんなにモテるとか知らなかったんだ、だから僕もう焦ってしまって、その……」

「ふ、ふ~ん?」


 なんだろう、あたしの顔もどんどん熱くなる。

 あーはいはい、真樹もずっとあたしを好きだったんだね、へー。

 その割にはあたしに手を出そうとしなかったじゃないか!


「いきなりそんな事を言われても……ねぇ?」

「うっ……」


 思わずあたしの返事も非難めいたものになる。

 拗ねてると言ってもいい。


「とりあえず真樹、そこ屈め」

「こ、こう?」

「よし!」

「…………っ?!」


 だから、不意打ちで唇を奪ってやった。

 格好よく鮮やかに奪ってやりたかったけど、気付けばこれがファーストキスだ。

 盛大に歯がぶつかり合って、締まらなかったとだけ言っておく。


「恭子ちゃん……?」

「真樹、先に言っておくわ」


 そうだ、これだけは譲れない。


「あたしの方が、ずっと真樹の事好きなんだからね!」


 そう、思わず強引に奪ってしまうくらいね!

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大好きな幼馴染と身体が入れ替わったあたしは、とりあえず自分を襲ってみた 雲雀湯@てんびんアニメ化企画進行中 @hibariyu

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