5. 新しい朝

 あれっ、いつもより、空が明るい......?

 

 ......と思ったら、もう6時!


 えっ、ヤバイ~っ!


 お弁当作り有るから、5時起きにアラームセットしていたのに......

 こんな寝坊するなんて、初めて!


 昨日の抑えきれないものが込み上げて来た時もだけど、何だか急加速で、私が私じゃなくなっていくみたいで、すごくイヤなんだけど......


 絵美さんと希羅斗きらとのせいだ!

 絶対、そうに決まっている!

 私の平穏な休日を奪って、魔の1日に塗り替えたんだから!

 そのせいで、心身共に疲労困憊ひろうこんばいしてるの!


 ......正確には

 初経から2日目っていうのも、少しは有るのかも知れないけど......


 ううん、やっぱり違う!

 あの人達が現れなかったら、私、ちゃんと早起きして、お弁当作っていた自信有るもん!

 

「おはよう、愛音あいねちゃん。昨日は、希羅斗きらとが夜遅くまで騒がしくてごめんなさいね。希羅斗きらとは、わりと夜行性だから」


 絵美さん、あいつが騒がしかった事、知っているんだ。

 って事は、映画鑑賞していたわけではなかったの?

 

 それにしても、あいつが騒がしくて、部屋に侵入されないかビクビクして眠れそうになかったのに、不覚にも、寝坊するほど爆睡していたとは......

 ホントに、自分で自分が信じられなくなってしまう!


 寝坊して動揺していたけど、そんな事よりさっさと、何か適当に詰め込んで、お弁当用意しなきゃ!


愛音あいねちゃん、はい、お弁当。お父さんからは、好き嫌い無いって聞いていたから、希羅斗きらとと同じ内容にしたわ。愛音あいねちゃんの口に合うといいけど......」


 いつも使ってる私の巾着に入れた状態で、お弁当を手渡してくれた。

 絵美さん、作ってくれていたんだ......

 

 作ってもらったのは有難いけど、希羅斗きらとのせいで寝坊してなかったら、ちゃんと、お弁当くらい作れていた!

 こんな点数稼ぎしてきたって、2人の再婚に反対している私の気持ちは、お弁当くらいじゃ全く揺るがないもん!


「ありがとうございます」


 絵美さんの顔を見ず、小声で呟くように言った。


「良かったな、愛音あいね。寝坊しても、お弁当に有りつけて。お母さんがいるっていいよな~!」


 絵美さんの用意した朝食を頬張りながら、ご満悦そうなお父さん。

 そりゃあ、お父さんは、私と違って、シアワセだよね!

 お母さんの事も忘れて、その人とラブラブなんだもん!


「今日は寝坊したから出来なかったけど、明日からは私が作るから大丈夫です!」


 お父さんのシアワセそうな表情と言葉にムカついて、つい跳ね除けてしまった。


愛音あいねちゃん、昨日の夜、お父さんとも話したんだけど......」


 さっきから、お父さん、お父さんって何よ!

 昨日は、『あき』呼びしてたくせに!

 もう家族の一員になったようなつもりで、お父さん呼びするなんて!


愛音あいねちゃんが、どうしても反対するなら、私達、強行するつもりはないから、再婚は諦めようと思っているの」


「えっ!」


 それじゃあ、私が愛し合う2人の仲を裂く、鬼のような小姑こじゅうとみたいじゃない!


「やっぱガキだよな~! 自分の父親が奪われると思ってんの!」


 あんたなんかにガキ扱いされたくないんだけど!

 希羅斗きらとは理解の有る連れ子ポジションをちゃっかり死守して、私だけ悪者の小姑こじゅうと扱いにするつもりなの?


 そうは行くもんか!


「お父さんと絵美さんが決めた事なら、私、反対しないですから、御勝手にどうぞ!」


 希羅斗きらとあおられたせいで、引きり顔でガチガチになって答えてしまった!


 ズルイよ、この流れ!

 私1人で反対出来るわけない!


「ありがとう、愛音あいねちゃん! すごく嬉しい!」


 絵美さんのその笑顔は、本心なんだと思う。


愛音あいねに賛成してもらえて良かったよ!」


 お父さんも、モチロン嬉しそう。


 そんな2人の嬉しそうな顔が並んでいるのを見るのは、私だって、不快なわけじゃない。


 ただ、私の隣に当然の如くドヤ顔で座っている希羅斗きらとが、気に食わないだけ!

 それだけは、非常にシャクに障るの!

 

 希羅斗きらとの横には、私の1.5倍は容量の有りそうなデカい弁当が置かれてる。

 希羅斗きらとの中学校も、給食じゃなくて弁当の学校なんだ。

 まあ、どうでもいいけど。

 家から出たら、やっと、この不愉快な奴から解放されるんだから!


 教室に着いたら、友人の可愛い芹花せりかや、憧れの川浦君を遠目で見て、昨日の疲労を十分にねぎらってもらわねば!

 私の大切な癒しの存在である2人に!

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