3. 初日早々、ハプニング

 ......ちょっと、あの人達、長いんだけど。

 一体いつまでいるつもりなんだろう?


 ずっと昔に会っていたかも知れないけど、私の物心がついてない時で、今日が初対面みたいな感じなんだから、少しは遠慮して長居しないで帰ってくれると、どんなにか嬉しいのに!


 かれこれ7時間くらいは居座っている!


 成長期の食欲旺盛な女子が、おやつも無しに7時間以上も食事の間隔を開けるのって、めちゃしんどいんだけど!

 明日は月曜日だから、早くお風呂入って学校の用意したいし、もういいかげん帰ってくれないかな?

 

 ......空腹もだけど、何よりトイレに行きたい!


 最悪、お腹空いても何とか我慢出来るけど、こういう生理現象ばかりは我慢できない!

 トイレを我慢すると、病気になるっていうし。

 既に、お腹とか腰とか痛くて、もう限界なんだけど......


 ここが2階じゃなかったら、窓から飛び降りて、スリッパのままなのは気になるけど、取り敢えずコンビニとかに駆け付けるのに。

 こんな最悪な事態とはいえ、新築に転居そうそう、飛び降り死体になるなんて、そこまで思い詰めたくは無いし。


 んっ、ちょっと待って!


 そういえば、まだ使って無いから、すっかり忘れていたけど......

 この家、幸い2階にもトイレが有った!


 誰にも会わなきゃいいだけだった!


 なんで、こんな単純な事なのに思い付かないで、ずっと悩んでお腹や腰まで痛くしてしまってたの、バカだな私。

 下からしか物音が聴こえないから、みんな一階にいそうだし、トイレに行くなら今だ!


 お父さんったら、トイレに随分と、お金かけたね!

 このトイレ、シャワーはモチロン、消音機能まで付いている、ナイスだ~!


 ああ、生き返った~!


 でも、あれっ、ガマンし過ぎたせいかな?

 何だか、まだお腹とか腰が痛いの続いているし......

 それよりも、気になるのは......


 これって......

 もしかして......


 トイレから出た途端、私の部屋の隣から出て来た希羅斗きらと


「あ~、よく寝た~! あれっ、愛音あいね、出て来てるじゃん」


 わっ、よりによって一番見付かりたくない奴に見付かった!


「ちょっと! どうして、この部屋にいたの?」


 他人の家に上がり込んで、勝手に空いてる部屋で寝るなんて、無神経にもほどがある!


「ここ、俺の部屋だから!」


「えっ......お父さんから、そんな事、聞いてないけど」


 ヒドイ、お父さん、また私に黙って決めたの?

 大体、どうして私の隣が、こいつの部屋なわけ?


「って事で、トイレ~」


「あっ、待って! そのトイレ、使わないで! 2階は女性専用なの! 男の人は1階だから!」


 咄嗟とっさに思い付いた事を言ってしまった!

 だって、よそ者なんかとトイレを共用したくないし、それに......


「なんだよ~! トイレくらい、どこ使ったって、いいじゃん!」


「どうした? 愛音あいね、出て来たのか?」


 お父さんと、もう1人、絵美さんが階段上ってくる足音。

 もう~っ、誰にも会いたくなかったのに~!

 希羅斗きらとのせいで見つかってしまった!


 あっ、でも、そうだった......

 あの事をいわなきゃ......


「お父さん、あのね......あ~っ、やっぱり、なんか違う! あのぅ......絵美さん、ちょっといいですか?」


 お父さんや希羅斗きらとから離れて、絵美さんの耳にコソッと話した。

 私が友達とかから聞いていた話と一致しているなら、それは......


「あっ、そうなの? 愛音あいねちゃん、おめでとう! 今、予備を持ち合わせてなくて申し訳無いけど、買ってきてあげるから、待っていて」


 こんな最悪の日に限って、初潮になってしまった~!!


 でも、お父さんだけだったら話し難かったし、買い物に行くのも戸惑っていて、生理用ナプキンを調達してもらうまでに一苦労しそうだったから、絵美さんが今いてくれて、こればっかりは助かった!


「えっ、愛音あいね、大丈夫か? 体調悪いのか?」


 お父さんが心配しているから返事したいけど、希羅斗きらともそばにいるし、こういうのって、男の人達を相手に、何だか答えにくい......


愛音あいねちゃんも、今日から、大人の仲間入りよ! みんなで、お祝いしましょう!」


「な~んだ、そういう事だったのか! おめでとう、愛音あいね!」


「お前、中2なのに、まだ来てなかったのか~! 遅くね? 発育不良かよ?」


 はあ~?


 こいつに、遅いとか発育不良なんてバカにされる筋合い無いんだけど!

 しかも、まだ会って早々なのに、『お前』呼びって!

 ホントに何なの、この無神経男、ムカつく!


「こらっ、希羅斗きらと、愛音ちゃんに向かって、なんて事を言うの! 愛音あいねちゃん、ごめんなさい。じゃあ、私、これからナプキン買いに行って来るわね」


 希羅斗きらとの頭にゲンコツしてから、すぐに買い物に向かってくれた絵美さん。

 フットワーク軽い人で、助かった~!


 もしかしたら、この絵美さんって人は、お母さんの友達だし、本当に悪気の無い人なのかも知れない。

 こんな形で会っていなかったら、感じの良い女の人と思えるくらい。

 ただ、お父さんの再婚相手って立場で対面したから、イヤだったんだ。


 でも、この希羅斗きらとに対しては、弁明の余地なんか一切無いから!


 こんな横柄で、自己中で、女を見下したような態度の男子なんて、言語道断!

 どこかで少しの時間だけ会っても、かなり不愉快になるタイプなのに、これから、ひとつ屋根の下で一緒に生活続けるなんて、絶対ムリっ!


 ああ、神様!

 私、ずっと良い子でいましたよね?

 罰せられるような事なんてしてなかったはずなのに!

 どうして、私に、こんないばらの道を歩ませようとするんですか?

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