第5話 自己嫌悪


 翌朝


 加奈が先に目覚める。


 (寝顔も可愛いなぁ)

 そんな事を考えながらしばらく湊斗を見つめる。


 加奈は朝食を作り湊斗が起きるのを待っていると、しばらくして湊斗も目を覚ます。


 「おはよう。よく寝れた?」


 「自分ちのように寝れたよ」


 「それはよかった」


 「朝食作ってくれたの?」


 「簡単なものだけどね」


 「なんか夢みたい」


 「そんな大袈裟だよ」


 「加奈には言ってなかったけど、実は一目惚れだったんだ」

 湊斗が唐突に話し出す。


 「いきなりどうしたの?」


 「初めて会った時、トイレでぶつかったじゃん」


 「うん」


 「あの時、無視したんじゃなくて、加奈があまりに可愛くてビックリしたんだよ」


 「そうなの?でも無表情だったし」


 「ポーカーフェイスなんだよ」


 「もしかして仕事中もずっと見てた?」


 「バレてたの?」


 「ずっと視線感じるから私何か悪い事したのかと思ってた」


 「加奈に雑用頼んでたのも喋りたかったからなんだ」


 「意外と奥手なんだね」


 「そんな事ないんだけどなぁ、でも歓迎会で隣だった時はラッキーって思ったよ」


 「あっ、じゃあ田口の事嫌いでしょ」


 「まぁね、田口君の事は目障りだけど何かされた訳でもないし気にしないようにしてる」


 「そうなんだ」


 「そういえば加奈は田口君と同期だけと田口とだけ異様に仲がいいよね」


 「そうなのかな?」


 「最初はてっきり付き合ってるのかと思ったよ」


 「話はよく合うんだよね、意外といいやつだし多分」


 「そっか、嫉妬しちゃうな」


 「嫉妬する程じゃないよ」


 「俺らが付き合ってる事は会社の人間には言えないし、心配だよ」


 「誰とは言わなくても付き合ってる人がいるって言うから大丈夫だよ」


 「しつこいようなら教えてね」


 「分かった」


 二人はそんな会話をしながらのんびりと過ごす。


 昼頃には湊斗は自分の部屋へと帰った。



 同じマンションなのもあって、年末年始のほとんどを湊斗と過ごした。



 仕事始めの日、加奈の足取りは重かった。


 

 「おはようございまーす」

 まりが元気に挨拶する。


 「まりちゃんおはよう」


 「加奈さん新年からテンション低いですよー」


 「そんな事ないよ!元気してた?」


 「元気な訳ないですよ、部長に会えない日々を送ってたんですから」


 「そうだよね」

 (これ聞かされるから気分が重いんだよね)


 「加奈さんはどんな年末年始を過ごしてましたか?」


 「私は完全に寝正月だったよ」


 「当たり障りのない回答ですね」


 「だって本当だもん」


 そんな話をしていると部長がやってきて言った。


 「おはよう、今年もよろしくね」


 「はい!よろしくお願いします!」

 まりが目を輝かせて言った。


 湊斗は加奈にアイコンタクトをする。


 そこに、見ていたのか否か田口がやってきた。


 「柏木おはよう!」

 やけに明るい田口。


 「おはよう、なんかいい事でもあった?」


 「別に?そう言えば今年の新年会って一泊で社員旅行も兼ねてするらしいぞ」


 「そうだったね、すっかり忘れてたけど楽しみだね」


 田口と楽しそうに喋っていると湊斗からの視線を感じる加奈。


 「あっ、仕事しなさいよ」


 「おう、またあとでな」

 


 (湊斗怒ったかな、嫉妬するって言ってたからなるべく田口とは距離置こう)


 旅行の日まではみんな仕事に集中して業務をこなして行く。



 旅行当日。



 会社に集合し、バスに乗って旅館まで向かう。


 (社員旅行だから湊斗とあまり居られないのが残念だなぁ)


 「部長の私服姿ステキですね」

 まりがうっとりした目で言う。


 「そうかな、普通じゃない?」


 「そういえば加奈さん、マンションで部長に会ったりします?」


 「まぁ時々は」


 「それで見慣れちゃったんですよきっと!」


 「私にとってはレアなんですから」


 「そうだよね」


 旅館に着き、夕方の宴会までに温泉に入る事にする二人。


 「いい湯ですねー」


 「ほんと、気持ちいいね」

 (温泉湊斗と入ったら楽しいのにな)


 「加奈さんて意外とスタイルいいんですね」


 「意外とってなによ」


 「服着てたら分かりませんけど、脱いだら男はイチコロになりそうですね、胸なんか柔らかそー」


 「変な事言わないでよまりちゃん」

 加奈は顔が赤くなる。


 「加奈さん照れてるー可愛いー!触ってみてもいいですか?」


 「少しなら」


 まりが加奈の胸を指でツンツンする。

 

 「フワッフワですねー!」

 まりは興奮気味に言った。


 「もういいかな?そろそろ上がるよ」


 「はーい」


 加奈達は浴衣に着替えると宴会会場に向かう。


 「わーすごい料理だね」


 「加奈さん、私あっち座ってくるんで!」

 そう言うとまりは湊斗の近くに座る。


 (あっ、何も言えないのが悔しい)

 諦めて端っこの方に座る加奈。


 「柏木も温泉入ったんだ」

 隣に田口が座ってきた。


 (湊斗に見られたらまずいよ)

 加奈は気になって見ると、女子社員に囲まれてチヤホヤされている湊斗の姿が。


 「部長モテモテだな」

 田口が言う。


 (なんだ、そこまで気にしてないのかな)


 「おい、聞いてんのか?」


 「あぁ、いい湯だったね」


 「女風呂の隣が男風呂だったんだけどさ、まりちゃん声でかいから気をつけた方がいいぞ」


 「なにが?」


 「丁度俺らも同じ時に入ってたんだけど、会話聞こえてきちゃってよ」


 「もしかして、私の事?」

 加奈は顔が赤くなった。


 「うん、その、脱いだらどうとかって言ってだだろ」


 「信じられない、他の人にも聞かれてるかな?」


 「なんか男性軍で盛り上がってた」


 「やだ、恥ずかしい」


 「だから今日は気をつけた方がいいかもな、みんなお酒入ると何してくるか分かんないから」


 「そうだね、教えてくれてありがとう」

 加奈は少し田口が頼もしく思えた。


 「それに、その、浴衣着てると体のラインがくっきり出てるから余計に‥‥」


 「余計に、なに?」


 「なんでもない!」


 (変なやつ)


 宴会中は普通に食事を楽しみ、田口とも会話を交わすが、その間湊斗は女子社員と楽しくお酒を交わしていて加奈とは一度も目が合わなかった。


 (なんか寂しいな)

 加奈がそう思っていると田口が声をかけてきた。


 「部屋で飲み直さね?」


 「えっ、でも」

 加奈は湊斗の方を見るがチヤホヤされている湊斗に少し憤りを感じていた為、田口の部屋に行く事にする。


 「へー私達の部屋と少し作りが違うね」

 加奈はまりと二人部屋なのだ。


 「俺一人部屋なんだよね」


 「そうなんだ、ゆっくりできていいじゃん」


 「じゃあ飲み直しますか!」


 「うん」


 旅館の雰囲気と外の景色も手伝って加奈はつい飲み過ぎていた。



 加奈が何かに気がつく。

 「暗くて見えなかったけど露天風呂ついてるの?この部屋」


 「そうみたい、後でゆっくり入ろうと思ってた」


 「えーずるいな」

 加奈はほっぺを膨らませた。


 「入ったらいいじゃん」


 「いいの?」


 「俺まだ飲んでるし、外は暗いから中からは見えないしいいよ」


 「やったー」

 加奈は泥酔状態で恥ずかしさもなくなっていた。


 「転ぶなよ!」


 「分かってるって」

 頬を赤く染めた加奈は気分が良くなっていた。


 タオルを一枚持つと扉を開け、外に出る。


 「寒ーい」


 加奈は浴衣を脱ぎ、タオルを巻いて浸かる。


 「わー気持ちー」


 加奈は身体も心もすっかり癒やされていた。


 ガラガラ


 腰にタオルを巻いた田口が加奈の隣に入ってくる。


 「ちょっと、って言いたい所だけどなんか怒る気分じゃないからいいや」


 「おー珍しい事もあるんだな、お前飲み過ぎてて危ないから」


 「今はゆっくりしたいの」


 露天風呂といっても大人二人が入るには少し狭い為隣同士にピッタリくっつく形で入る二人。


 田口は悶々としていた。


 「あのさ、柏木」


 「ん?」


 加奈の方を向く田口。


 「言いづらいんだけどさ、その、透けてるよ」

 

 「見ないでよね」

 加奈は恥ずかしそうに呟く。


 恥ずかしそうにしている加奈を見て田口は言った。


 「その割には隠さねーじゃん」


 「なんでだろ、なんか変な気分」


 「俺も」


 「タオルとってもいいかな」


 加奈はそう言うと巻いていたタオルを取り、置いた。


 外は薄暗いが、湯船の中に見える加奈の体に田口は興奮を抑えられなくなっていた。


 「田口もタオル、とりなよ」


 「俺はいいよ」


 「いいじゃん」

 拒否する田口のタオルを強引に取る加奈。

 

 タオルの下を見た瞬間加奈はドキッとした。

 「私に興奮してるの?」


 「‥‥当たり前だろ」

 田口は少し恥ずかしそうにしている。


 「触ってみてもいい?」


 「お前今日変だぞ、前も変だったけど」


 「なんでだろ、田口見てるといじめたくなっちゃう」

 そう言いながら触る加奈。


 「んっ」

 思わず声が漏れる田口。


 「こんなに反応してる」


 「やばい、待って」

 田口は小さい声で言う。


 加奈は田口に乗っかる形で向かい合いキスをした。


 「もう我慢できない」

 簡単に加奈の中に入る田口。


 「あっ//」

 加奈の声が外に響く。


 田口は加奈の胸にキスをしながらゆっくり繋がりを感じる。




 「柏木って普段からは想像出来ないくらい大胆だよな」

 二人は浴衣に着替え、部屋でくつろぐ。


 「すっかり酔いさめちゃったから、もう言わないでよ」


 「もしかしてお酒入ると変態になるんだろ」


 「今日はつい。あー私ってほんと流されやすいんだから」


 「そう自分を責めるなって」


 「だって‥‥」

 

 「前家まで送った時も凄かったけどな」


 「前っていつ?」


 「もしかして覚えてねーの?忘年会の日だよ」


 「あの日飲み過ぎててよく覚えてないんだよね」


 「あの日俺が柏木を家まで送ったんだけど、ベットに寝かせると、服脱がせてってせがんできてさ、仕方なく脱がせたけど今日みたいに誘ってきたから」


 「えっ、それほんと?もしかして」


 「俺は嬉しかったけど、まさか覚えてなかったとはね」


 「反省しないと」


 「反省というか俺がいない時に酒飲むなよ」


 「なんでよ」


 「あんな姿誰にも見られたくないから」


 (何キュンとしてんの私)

 加奈は田口の言葉にキュンとした。


 「あのさ、言いにくいんだけど私今付き合ってる人が‥‥」


 コンコン


 加奈が言い終わる前に誰かが部屋をノックする。


 「誰だろ、はーい」

 田口が出る。


 「柏木さんいる?」


 そこに立っていたのは湊斗だった。


 「あっいますよ」


 「柏木さん、ちょっと」

 湊斗は加奈を呼び出す。


 「じゃあな」


 「うん」

 加奈は田口の部屋を後にする。


 部屋から出ると湊斗は加奈の手を引っ張りズカズカとどこかへ歩いて行く。


 「ちょっと、痛いよ」

 加奈がそう言うと湊斗が口を開いた。


 「何やってんの?」


 「何って部屋で飲み直してた」


 「二人で?」


 「うん」


 「なんで髪濡れてんの?」


 「部屋に露天風呂あったから入った」


 「あいつと?」


 「‥‥‥」


 「加奈はあいつが好きなの?」


 「好きじゃないよ」


 「じゃあ何、体だけの関係?」


 「そんな訳ないじゃん」


 「加奈が分からないんだけど」


 「ごめん」

 加奈は自分のした事の重大さに気づき後悔していた。


 「ここじゃなんだから来て」

 湊斗は自分の部屋に移動する。


 「俺嫉妬するって言ったよね」


 「分かってるけど、今日全然こっち見てくれないし、他の女子と楽しそうにしてるし」


 「空気壊すからむげに出来ないだろ」


 「うん」


 「もうあいつに近づいたらダメだよ」


 「わかった」


 「俺が綺麗にするから」


 そう言うと湊斗は加奈を布団に転ばせ浴衣の前を開く。


 「よりによってなんでブラつけてないんだよ」


 「寝る時はいつもつけないから」


 「はぁ」

 湊斗はため息をつくと加奈の胸にキスをしゆっくり下に向かっていく。


 加奈は身体をビクビクさせる。

 「あっ//」

 

 「今日は許さないから」

 湊斗がそう言うと胸からさらに下に向かう。


 「そこはだめ」


 「お仕置きしないと」

 湊斗はそう言うと加奈の恥ずかしがる顔を見ながら責める。


 「あっ//」

 いつも以上に大きな声が出る加奈。


 「静かにしないと聞こえちゃうよ」

 

 手で口を抑えながらも湊斗に感じている加奈。


 湊斗が加奈に覆い被さりゆっくりと入っていく。


 「加奈が好きなのは誰なのかな」


 「湊斗だよ」


 「加奈は誰のもの」


 「湊斗のもの」


 「よろしい」

 湊斗は加奈の頭を撫でた。




 その日は部屋に戻らず二人で眠りにつく。


 翌朝部屋に戻るとまりが興奮気味に聞いてきた。


 「加奈さん、田口先輩と今までいたんでしょ?!」


 「違うよ」


 「絶対嘘だ、私先輩の部屋に入る加奈さん見たんだから」


 「まりちゃんって探偵なの?」

 (そろそろ言わないとダメだよね)

 「まりちゃんに言わないといけない事があるんだけど」


 「部長と付き合ってる事ですか」


 「知ってたの?」


 「私を誰だと思ってるんですか」


 「そうだよね、去年から付き合ってる」


 「加奈さん二股してるんですか」


 「なんで」


 「田口先輩の機嫌で分かるんですよ」


 「田口とはなんでもないよ」


 「じゃあ加奈さんが部長と付き合ってる事言ってもいいんですか」


 「それは自分で言うから、それまで黙っておいてほしい」


 「加奈さんひどいですよ、部長と付き合っておきながら先輩と寝るなんて!浮気ですよ」


 「反省してるよ、部長にも怒られたし」


 「よく部長許してくれましたね」


 「呆れてたけどね」


 「当たり前ですよ、次やったら私が許しませんからね!」


 「はい」

 加奈はまりに言われてシュンとする。




 一泊の社員旅行も終わり、日常に戻る。


 「柏木さん、コピー頼める?」


 「はい!」


 「部長、私知っていますからね」

 まりはニコニコしながら言う。


 「そ、そう」

 湊斗は照れながら戻って行く。


 「まりちゃん、やめてよ」


 「いいじゃないですか」


 (まりちゃんはどんな気持ちなの?)

 不思議に思う加奈であった。


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