第7話

「いや来ないでって言ったのに何でまた来てるのよ」

「食事にロケーションは大事だってわかった。教室より屋上で食べるほうがおいしい」

「なにそれ」

「それと世界を救いたくて」

 昨日と変わらず優しい青空の下。

 階段室の壁を背に座る麻倉の前に立って、僕は真っ直ぐに彼女を見つめた。

「世界はもう救われてるよ」

「麻倉にはそう見えるかもしれないけどね」

 平和が一番だと彼女は言った。もちろん僕もそう思う。

 でも、立つ場所によって見える景色は違うんだ。

「君は透明じゃない」

 僕の言葉を運ぶように、彼女の下へふわりと風が流れた。

 麻倉志穂は確かにここにいる。彼女にも見えているはずだ。

 僕の瞳に映り込む、透明色の君が。


「僕は君もたすけたい」


 麻倉は僅かに目を逸らした。そして座ったまま「どうして」と小さく呟く。

 そのか細い声も僕の耳にしっかりと届いた。

「いつかの質問に答えるね」

 あの日、彼女は知らない振りをすることもできた。見つけた財布に見て見ぬ振りをして、時間が解決するのを待つこともできたはずだ。

 それでも、彼女は迷わず財布を手に取って矢面に立った。

 世界を救いたい。それだけのために。

「僕には君がヒーローに見える」

 君が守ったこの世界で。

 君が心から笑えないなんて、何が平和だ。


「君が救われなければ世界は救われない。それだけで十分だよ」

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