第6話

「古宮くん、もうここには来ないで」

「なんで?」

「透明人間が伝染うつるから」

 風のない穏やかな屋上で麻倉は僕を見た。その真っ黒な瞳に映る僕は透き通っている。

「どういうことだよ」

「そのままの意味だよ」

 彼女はいつになく真剣な表情でその真意を明かした。

「疑われてるよ古宮くん。私と共犯なんじゃないかって」

 それは僕も薄々感じていたことだ。

 最近クラスメイトの態度が余所余所しい。普通に喋っているようでどこか一線を引いているような、僕との距離感を推し量っているような様子が見て取れた。

「私と一緒にいるからだよ。このままじゃ古宮くんも透明になる」

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない」

 彼女は食い気味に、僕のセリフを遮るように静かに告げる。

「もうここには来ないで」

 音の少ないこの場所では、そんな声もしっかりと僕の元へ届く。本当にどうして彼女はそんなことを言えてしまうのだろう。

「……わかった」

 きっと今の彼女に何を言っても、僕がここにいることを許しはしないだろうな。

 そう悟った僕はそれだけ答えて屋上の扉を開けた。空を見上げる彼女が視界の端に映る。その表情に心は見えない。

 僕はそのまま階段を下りていき、教室に戻った。この時間に僕が教室にいるのが珍しいのか、いくつかの視線が背中に集まるのを感じる。

 僕は自分の席に座って焼きそばパンの袋を破る。

 一口齧って、お茶を飲んだ。

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