第5話

「優良物件に弱点を見つけてしまった」

「うん。言わなくてもわかる」

「古宮くんってもしかしてエスパー?」

「見えてるだけだよ」

 昨夜から降り続いている豪雨で屋上は水浸しになっていた。風に煽られた雨粒が階段室のひさしの内側まで濡らしている。とてもじゃないが外には出られそうもない。

「仕方ない。今日はここで食べよう」

 そう言って麻倉は扉の前の踊り場に座って弁当箱の包みを広げた。僕はその隣に座って焼きそばパンの封を開ける。

「なんか暗いなあ。いつもが明るすぎるのか」

「太陽の真下だからね」

 階下では普段は聞こえない生徒たちの騒ぎ声がした。

 事件から一ヶ月が経つ。屋上での昼休憩がすっかり日常になっていた。

「なんで麻倉はこの世界を守ってるの」

 ふと僕は彼女に問う。

 彼女の守っている世界は、彼女を守ってくれない。なのにどうして彼女は守り続けられるのだろう。

「理由がいるかな」

 麻倉はそれこそいつものように平静な口調で言った。

「いつの時代も平和が一番じゃない?」

 それはとてもシンプルで、混じり気もなく。

 あまりにも透明な回答だった。

 僕は何も言えないままパンを齧る。麻倉は卵焼きを箸で摘まみながら「じゃあ今度は私の番ね」と言った。

「どうして古宮くんはいつも屋上に来てくれるの?」

 僕は口の中のパンを飲み込んで、お茶を一口飲む。

「ここで食べる焼きそばパンが美味しいから」

「それは焼きそばパンが好きなだけでは?」

「焼きそばパンは世紀の大発明だと思う」

「焼きそばとパンどっちが好きなの?」

「それは難しいな」

 外は雨音。階下は喧騒。

 ふたつの世界の狭間で僕は言う。

「選べないから両方欲しい」

「欲張りだね」

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