第4話

「屋上ライフはどんな感じ」

「日当たり最高。風通しも良いし、とても静かで落ち着く優良物件です」

「難点は?」

「頭上のとんびが常に私のお弁当を狙ってるってことくらいかな」

 見上げれば、青い空に円を描く影が見えた。うららかな春の陽気を楽しみながら、ゆったりと空中遊泳しているように見えてしまうところが恐ろしい。

「まだ盗まれたことはないけどね」

「背中を壁にしてるのはそういうわけか」

「そうそう。それに今の私は透明人間だし」

 彼女は冗談交じりに言うが、僕は笑えなかった。

 本当はクラスメイト全員に真実を話したかった。真犯人を突き止めて、みんなの前に突き出したかった。

 でも彼女はそれを望んでいない。だから僕は昼休憩になるたび屋上を訪れた。

「そういえば麻倉さ、真犯人に何かした?」

「ん? いや何もしてないよ」

「でもおかしくないか。だって今なら何があっても麻倉が犯人として疑われるのに」

 真犯人はまだ教室にいる。

 彼女が疑われている今、事件を起こせば誰だって麻倉が犯人だと思うはずだ。こんな絶好の機会はまたとない。

「まあそりゃ動かないだろうねえ。だって私はここにいるし」

 当然だとばかりに彼女は言う。笛を吹くような鳴き声が頭上から落ちてきた。

「私は授業以外、教室にいない。それなのに教室で事件なんて起こしたら私の疑いが晴れるだけだよ。容疑者が一人減って、より徹底した犯人探しが始まって今度こそ見つかると思うな。今の私を見て、こっち側に立ちたいとも思わないだろうし」

 まるで名探偵のように彼女は淡々と話し続ける。

「それに私は犯人を知ってる。睨みもきかせておいたし、いつ告発されるかびくびくしてるかもね。私がここにいる限り世界の平和は守られるのです」

 彼女はそう得意げに笑った。

「今日も平和ね」

 僕はまったく笑えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る