第24話 勢い

「嘘....」

「政府に.....勝った....」

「勝ったぞーーーーーーーーー」

「おおおおおおおおお」


軍隊との戦いに勝利

軍隊が惨めに退散する様子を目の当たりにし、反乱側は狂喜乱舞した

貧乏人に過ぎなかった自分が国家の犬、正規軍を完膚なきまでに叩きのめすという事実


人を飲み込んでいた川は何事もなかったかのようにサラサラと流れ、地は血で染まらずゆったりとしている

空は青く晴れ、そこはいかにも平穏ですよという顔をしている

だが、川の向こう岸には勝利の証ともいえるべき大量の物資が放置されている

反乱側の死者0人、軍隊の死者5千人重傷者1万人離反者5千人

まさしく完全勝利といえる結果で終わった


沸き立つスラム入居者の前へ出て水面は言った


「今、私たちは圧政の象徴ともいえる政府に勝利したのだ。あの圧倒的戦力差の中、我らは勝利したのだ」

「水面様万歳」

「水面様万歳」


さっきまで撤退命令を出した人間とは思えないほど、水面は堂々としている

もし敵がまともだったら?もし川の氾濫が早かったら?航空機が導入されていたら?

そう思うと素直に喜べない日本独立軍だった

場の雰囲気が最高潮に盛り上がっている中で水面は命令した


「我らはこの後、仙台を攻撃し政府らを惨殺する。中国人を血祭りにあげるぞ!」

「おおおおおおおおお」

「2時間後には仙台へ進軍する。それまでに各自、休憩をしておくこと。以上だっ」


そう水面は言い、その場を後にした


______________________________________


「水面、仙台へ進軍すると言っていたけど、あれは本当か?」

「そうだが、何か?」


かつて作戦会議をした、日本独立軍専用のテントの中で健二は戻ってきた水面に正気を疑うかのように疑問を投げかけた


「いや.....さっき『惨殺』だとか『血の祭り』だって単語が聞こえてきたんだが、本当の本当に実行する気か?」

「そうだが.....?ああ!大丈夫だ、日本人には危害を加えない。仙台で中国人だけを皆殺しにする」

「.....!なら余計に駄目だ。いや、せめて政府だけ殺してくれないか。何の罪もない人達には危害を加えないで欲しい」

「何故だ!奴らは日本という国を滅ぼした元凶、中国人だぞ。奴らは.....皆殺しにしなければならない。一人たりとも逃さない、血祭を上げる。そうだろ!」


水面は常軌を逸していた

母親を殺されたあの日、中国に復讐を誓っていた

酔っているわけではなく、大真面目にこの無茶な作戦を通そうとしていた

今まで傍観を貫いていた、主要メンバーに同意を求めた

が、彼らの答えは水面の求めていた答えとは違っていた


「.....私も反対だ。敵国の人間といえど、無抵抗の一般人を殺したくない」


沈黙を破り、宮が答えた

それに続くように、次々と反対を訴えた


「私も反対です。殺される恐怖を私は知っています。無駄な血は流したくありません.....!」

「.....反対.....」

「ぐっ.....!」


少しの沈黙の後、水面はすんなりと要求を受け入れた


「分かったよ、殺すのは政府だけにする」

「.....!ありがとうございます!」


あっさりと要求に従った水面だが、心の中では諦めていなかった

彼にとっては悪とは中国にあり、正義は自分たちにあると考えていた

母の復讐のためにも、日本の復活のためにも


(まあいい、形上では従っている。スラムの連中は私を慕っている。仙台に着いたら約束を反故にし、中国人全員ぶっ殺す!)

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