第3話 激情

「は?」

「全くですね、飼い犬に噛まれるとはこの事ですね」


それを聞いた水面は耳を疑った


「知らないようだけどな、俺たち中国は戦前での日本の圧政を解放するために日本と戦争をしたんだぞ。もし俺たちが統治していなかったら、お前ら死んでたかもな」


今まで差別されてきた事実には目を伏せ、恩着せがましく中国人は言った

その言葉に水面は今だに言った言葉について理解していないようだった

母も同じ反応を示している

自分たちがやってきていることを悪意だと思わず、正義だと感じるその姿勢に腹を立てるのは当然であった

腹の怒りが抑えきれず、水面はボソッとこう呟いた


「余計なお世話だよ.....」

「あ?今なんて言った?」


しかし、水面にとってはそれだけで腹の怒りが収まるはずが無かった

今までの怒り苦しみ思い全てが思い起こされた気分だった

一度出てきた怒りを抑えることは相当難しく、またもうどうにもなれという気持ちになっていたのだろう

今度は水面は大声で吐き捨てるように言った


「なに正義ずらしてんだよ」

「ああー?」

「お前ら中国人は悪魔だ。日本中に巻き起こっている差別・犯罪。見て見ぬふりして何が日本のためだ!お前ら中国人は国に帰れ!日本を返せ!」

「ああー---!なんつった今ー!」

「ひっ!」


その瞬間、水面の頭の中全体が後悔を支配した

水面はその殺意の目に「死」というものを感じさっきいた自分を呪っていた

このままのらりくらりと謝り倒していれば乗り切れていただろうに

たった1回限りの怒りが自分の運命を左右する

深く自分を呪った


「そんなに返す気が無いって言ってるんだったら、しょうがねえよなあ」


その瞬間、祈るように点に祈りをささげる水面の横で大きな血しぶきが上がった

その数秒後、水面の瞳は母親が打たれ倒れた姿をしっかりと捉えていた


「へ......?」

「俺らに楯突くからこうなるんだ。日本人は日本人らしく静かに従っていろ!」


怒り狂った口調で彼らはその言葉を吐いた


「今日の分とお前の暴言はお前の母親の体で勘弁してやる。ただもう一回それを言ってみろ、次は殺すからな」

「良かったですね、兄貴。人間の体は高値で売りさばけますからねえ」

「そういうことだ、逃げたら殺すからな」


そう彼らは吐き捨てると、玄関をくぐり出ていった


「......う......」


水面の顔を涙が伝う

が、徐々に悲しみから怒りへと変化していった

その怒りは今までの怒りと比にはならない

大事な人を殺された怒り、殺意に近い

この世全てを恨むほどに


「......あ、そうだ。殺せばいいんだ、あいつらを殺せばいいんだ」


その時、水面には正常な思考ができていなかった

今自殺をすれば母親を助けてやるとしたら水面は間違いなく自殺を選ぶであろう

道徳心が抜け落ち、恐怖心が皆無に近い


「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、絶対あいつらを殺してやる!」

「絶対に中国を滅亡させてやる.....」

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