第19話
宿へと帰った俺は、早速アロナ達に謝ろうと思い、まずはアロナのいる部屋の扉をノックして声を掛けてみるが…
「アロナ、今ちょっと…」
「帰ってよ!何かあったら桜音に伝えるから…!」
扉からガチャッと鍵が閉められる音がする。きょきょきょ、今日はまだ駄目だったのだろう!
「ま、また来るから…」
そう言ってそこから離れ、今度はウェリア達がいる部屋の扉をノックする。すると今度は扉がギィと音を立てながら開いていき、その奥から笑った表情でウェリアが頭をひょこりと出し歓迎…
「あっ…」
一瞬でその顔を曇らせ、サササササと一瞬でアンナの後ろへ隠れてしまうウェリア。そんな状態のウェリアを見て、こちらを睨みつけるアンナ。そして真顔でウェリアと俺を何度も見返すアネモネ。普通にやらかしたと思い、「アッ、シツレイシマース…」とだけ言ってこちらから扉を閉めてその場から退散する。どうしよう…自業自得だけどメンタルブレイクしそう…アレー?こんなにメンタル弱かったっけ俺…そんな状態で壁に手を突きながら、何とか俺はグラスの部屋の前まで来た。3mぐらい歩いただけだが。ヨロヨロと身体を震わせながら俺は扉をノックする。すると本当に今回は何も曇った表情もなく普通にグラスが出てきた。
「はーい…って、えぇぇ!?タカシさんなんで倒れているんですか!?凄いフラフラしてるし、なんだか生気が宿ってないし…」
「そ、それに関しては問題ない…俺が勝手にダメージ受けただけだから…」
「とりあえず部屋入りますよ!ほら、腕伸ばして」
俺は肩を組むような体勢でグラスに部屋の中へと運ばれ、ベッドに座らさせられる。運び終えたグラスは部屋の鍵を閉めて部屋にある椅子に腰かける。しばらくして落ち着いた俺は床に座り込みグラスに土下座する。そんな俺の様子を見ているはずのグラスは無表情だったらしい。
「すまなかった…昨日言った君達への暴言は本当に思っていないのが殆どで…」
「わかっています」
「え?」
俺の顔は数刻前と同じようなぽかんとした顔で頭をガバッ!と上げる。
「いたんですよ。あなたのような普段から嘘と本音を両方混ぜてばかりで人との距離の取り方を間違える人が」
「それは…」
「姉ですね。あちらであなたが会うことのなかったもう一人の…いなくなってしまった、ね」
とりあえずそのままの体勢で聞くのはツラくなると思い、俺がベッドに元通りに座ると、グラスは語りだす、
「…僕達のもう一人の姉、オダマキはアンナ姉さんと共に僕とアネモネを拾ってくれた人でした。その時はまだ他の子供たちは拾われてなく、そこから一年ぐらいは四人だけの生活だったんですけど、まだまだみんな幼いし、食料は森に行って探すのが殆どで…下手したら今よりも食べれる量も少なかったかもしれません。それからしばらくして、俺達はアンナ姉さんに『どうして僕等のことを拾って助けてくれたの?』と聞きました。そしたらなんて返ってきたと思います?『オダマキが、“あそこに育てがいのある極上のショタとロリがおるぞー!”って言って近づいてっったから』って…その時は一瞬脳みそが仕事するの忘れましたよ。そのあと本人に聞いてみてもすんごい純粋な笑顔で全く同じ言葉が返ってきて『あ、俺はこの人に何かとても恐ろしい目に遭わされて生涯を終えるのかもしれない』って思いましたよ…アネモネも全く同じこと考えたらしいですが」
俺は下を向いて話を聞き続ける。というか…ここまで聞いていてまったく俺との共通点が見つからないんですが!?え、俺ってそんな変態だと思われてるの?確かにスーを撫でたりはしたけどそこまでロリコンとかじゃないよ…
「大丈夫ですか?さっきから下向いてますけど…頭痛かったりします?」
「あ、いや…少し疲れが溜まっているだけだから気にしないで続けてくれ」
「わかりました。三年前のこのくらいの時期でしょうか…当時四人だけなら食べるものにあまり困らないぐらいにはなっていたんですが、オダマキ姉さんがまぁ…後先考えずに今の人数の3分の1ぐらい保護してきたんですよね。それも一週間で」
「え…?一週間で??」
「はい」
「はい」って…そんな“当然ですよ”みたいなトーンで言われるても、一週間でそんな人数保護できるメンタル普通はないだろ…俺は髪の毛をグシャグシャっと掻き乱す。
「さすがに僕達も顎が外れそうになるほどびっくりしたのですが、まあ「元の場所に戻してきなさい!」なんてできるわけないですし、その子達の分だけでも用意できるように頑張りましたよ。素手で魔物狩ろうとして死にかけたリ、スラムじゃないところから盗んできたり…今のような幼い子供のままじゃいられないって、そう思いました」
そんな感じの話を聞いてて、俺はググッと拳を握りしめる。…正直、今俺がやっていることはとても無責任だ。正直、飼いもしないのに野良猫に餌をあげるのとあまり変わらないレベルだ。
「その時にも僕はオダマキ姉さんにあの時と同じように聞きました。そしたらやっぱり答えはあまり変わりませんでしたが、そのあとに保護した子達へ向けた笑顔を見て気づきました。オダマキ姉さんは普段は殆ど偽りの感情で作り上げた仮面で素顔を覆っているって。彼女は誰かを心配するとき、誰かを安心させるときには素顔になる。普段の生活や、自らのことを話したりするときはを仮面を着け…そして、誰かを自分から無理矢理引き離そうとするとき、仮面から涙を流しながら自分の感情と共に相手へ本当に言いたい言葉を封じ込める…そんな人です。あなたがあの時悲しんでいたかは分かりませんが」
そんな話をする彼は、とても悲しそうな目をしていた…でも、
「普通、そんなことを理解できるか?」
「なんの力も使わずにできる人もいると思いますよ。私の場合は違いますが…あ、タカシさんって多分何か人のステータスを覗けるような力持っていますよね?そうなら俺に使ってみてくださいよ。その方が早いので」
なぜそれを知っているのかと疑問に思うが、俺は言われるがまま、グラスに向かって【看破】を使用する。そうして出てきたステータスはまぁ、平凡って感じの数値だが、“能力”の欄に一つ気になるものがあった。
「【真偽の審判】…?」
「そう、【真偽の審判】。その力は、言語が分からなくとも生物から発せられた声からその生物が言っていることが本音なのかとか、相手が嘘を吐いているか等を必ず理解することのできるスキルです」
「それであの時俺が言った言葉の大半が本音じゃない言って分かったのか」
グラスはこくりと頷く。それにしてもそのスキル…聞いていて、一見【看破】の劣化版のように思われるかもしれないが実際は、全然能力の内容も違えば、絶対に知ることが出来るとかいうチート具合…かなり強い。でも一つ引っかかるのが…
「でも、なぜオダマキがそうであることが早い段階でわかんなかったんだ?確か自らの能力を理解できるようになるのは10歳の年の洗礼の日だよな」
「あぁ。それについては、さらに少し昔の話になるんですが…」
俺はグラスの方をジーっと見つめながらその話を聞くことにした。
「僕が生まれたのは、あの街からかなり離れたところに本拠地を構える商家で、そこの第三子でした。家族は父と正妻、父と正妻との子である兄と姉、そして僕とそこで雇われていた女性とその女性の一人娘でした」
「僕の実母は僕が5歳にも満たない時に死んでしまい、そのタイミングで僕は父に引き取られました。ですが、新しく食物の生産量の多い農家や腕の良い鍛冶屋などと契約をしてきたリする兄や、新商品を次々と開発する姉が活躍する中、特に秀でた才能もなく何も家に利益をもたらすことが出来ない私は父や正妻に『不良品』やらなんやら罵られて育ちました。ですがそんな時、雇われていた女性とその娘…アネモネの母親とアネモネが僕を支えてくれました」
アネモネとグラスはあの街で共になったのではなく、かなり昔からの仲だったのか…
「アネモネの母親、ミロさんは若くして結婚し、その旦那さんは僕の実家で働くようになり、それからすぐ亡くなった…そう言っておりました。それから暫くし、物心もはっきりしない頃に母親を失い、それを理由に父親からは罵声を浴びせられていた…そんな僕が可哀想と感じたらしいです。それが同情からでも優しくしてもらえただけで胸がいっぱいになりました…それから暫くしついに僕の洗礼の時がやってきたのですが、まぁ【真偽の審判この能力】が解ったんですよ。その時父親や正妻からは『すごい能力じゃないか!』とか、『あなたはこの家に必要な存在よ』とかそんなことを言われたのですが、それがずっと続いていて普通だと思ってて嘘だって見抜けなかったんですよ」
グラスは乾いた笑いでそう言った。多分彼も精神が壊れるギリギリまで行ったことのあるからそんな感情の顔も出せるのだろう。
「そのあと、本当は奴隷として他の商会に売られるはずだったんですが、洗礼後の僕の歩む筈だった未来を察したミロさんが俺とアネモネを連れて家から抜け出しあの街の誰かのもとへ目指して歩き続けました。けど、あの街に着く1個前の街でミロさんが重い病気に掛かりそこで別れるしかなくて…その時アネモネは泣き続けました。たった一人の血のつながりのある家族との別れですもの…そりゃあ悲しいですよね。けど出発の前日に何か言われたらしく、次の日あの子は一滴も涙を流さずその街から離れていきました」
そう言いながらグラスは立ち上がり手に持っている何かを眺めている。
「もう一つ言うと、実はアネモネとも異母兄妹らしいんですよ」
「え?」
ごちゃごちゃしすぎて爆発しそうだって状態で追尾弾が入る。もう整理するのはきついと感じ、一度脳を一回情報を摂取することだけに切り替える。
「ミロさんが雇われてから少しして、あのゴミクズに襲われてしまったらしく…その時に身籠ってしまったのがアネモネだそうです。けどミロさんはそんなクズとの子でもアネモネを愛したらしいですね。あ、アネモネは父親のことを全く知らないです」
「イロイロアッタンダナー…」
「まあそんな感じで昔話は終わりです。あとのオダマキ姉さんのことは、アンナ姉さんから聞いて下さい。アネモネやウェリアも交えて」
グラスは扉の施錠を解除して部屋を出る。時刻は夕食時、俺もグラスの部屋から出て、グラスと共に食堂へと向かったいく。
え?普通ですけど 高菜哀鴨 @TakanaKunAIKamo
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