第18話
ケルゾニアに帰ってきた次の日の朝、俺は昨日アロナやウェリア達に傷付けてしまったことを謝ろうと思ったが、アロナは俺が自分の部屋に入ってこれないように扉を施錠しているし、ウェリアは外に出てしまっているらしい。それを知って落ち込んで俯く俺の肩を桜音がポンポンと叩いてくる。
「みんなが帰ってきたら一緒に謝るからさ…元気出して」
「…報告行ってきます」
少しだけ元気になった俺は立ち上がり、トボトボとケルゾニアの領主館に向かって歩き始める。領主館に着行く途中、俺は今後何をするべきなのかを考える。
「うーん…まずはこの依頼をこなして、それと同時進行で謎神の手下を見つけて〆る。それと、出来ればあの子達を導いてあげなきゃなぁ…謝った後、なんかしてあげた方がいいかな」
そんなようなことをぶつぶつと呟いていたら、いつの間にか領主館に着いていた。俺は職員に奥へ通してもらい、執務室の扉をノックして中へと入っていく。
「俺だ。盗ってきた資料を渡しにきたぞ」
「おう、それをこっちにくれ」
ゴーンがちょいちょいと手招きしてきたことがなんだか少しイラつくが、一応これは仕事なのでできるだけ気にせずに俺は資料を渡す。ゴーンは渡した資料をパラパラとめくるが、途中で置いたりと手を止めてニヤリと笑い言った。
「タカシ…これはどこで?」
そう言ってゴーンが見せてきたのは、タジムがスーに預けた例の資料だった。
「あぁ、現地の使えそうな子供に手伝ってもらったんだが、そのうちの一人が資料室でそれを見つけたらしいが…やっぱりそれの内容は…」
「まぁ、あの街から不正に商会へ出荷された奴隷のリストだな。それも、かなり前の年から年に二回ほど行われているようだ」
俺はなんとなくだが、その資料がどういうものか察していた。名前の載っていた商会について俺の万能検索エンジンみたいな魔法で調べてみたが、どこも元の世界でいう中小企業レベルの商会で、あの街とは本店がかなり離れている為か、表向きにはほとんど関連する情報は出てこなかった。が、表向きに分かっているここ数年間の販売ルートを調べてみると、すべての商会が他国に行く場合はあの街に必ず寄っていた。
「あんな領地全体の経済状況が不安定で産業もギリギリな街に行って仕入れられるものなんて、人ぐらいいだもんな」
「あぁ」
立って話すのが疲れたので俺は近くのソファに腰かける。しばらくするとコンコンと扉の方から聞こえ、扉が開く。その方向を見るとそこにはこの間ぶつかった執事服の老人がティーセットを持って立っていた。
「主様、貴方様とお客様の分の紅茶を持ってきましたが、お飲みになられますか?」
「あぁ、淹れてくれ」
ゴーンがそう言うとその老人は素早い動きでまず俺の前に紅茶の注がれたティーカップを置く。
「そういえば申し遅れました。私、ゴーン様の秘書を務めております、ミサキアと申します。依頼完了までの間よろしくお願いします」
「よ、よろしく」
俺はミサキアと握手をする。だが、それと同時にその手からは何か異質なオーラを感じた。だが、ロンドリオという同じぐらい異質なオーラを出していた存在と会ったからか、『このくらいの老人がいても普通か』ぐらいに感じてそのまま普通に握手していた手を離し、ティーカップの中の紅茶をゴクッとすべてを飲み干して立ち上がる。
「俺は暫くしたらまたあっちへ行って、今度は屋敷の方を探索してくる。多分長くても10日後にはこの街を出るから、何かあったらそっちが“月夜の風精霊”に来い。じゃあこの後俺は用事があるから」
それだけ言って俺は領主館から出ていき、ある所を目指して歩いていく。その途中、なんとなくだがいっよにこの世界に来たイアンやスキア、それと親友達のことが頭に浮かんだ。
「あー…そういえばあの四人は元気かなー…遠いから様子もほとんどわかんないだろうし、この世界ではあっちから持ってきた携帯はまぁ使えないし…」
『代わりの魔道具は作れますよ』
「ッ!?―マジ…」
『あ,しゃべらなくて大丈夫です.こちらからは思考を読み取れますので』
…急に話しかけられて普通にびっくりしたぞ。てか、そういや俺って一応神様だから作れるのか。
『はい.というか本格的な神の力なしで作れます』
本格的って、普段俺が使っているのは『信徒への加護的なかんじのですね.一応あなた達人神には神格化というものがあり、現在魂等が入っている身体とは別の身体が存在します』…なんか饒舌になった?
『あ,前回は初めてなのでなんとなく猫被ってました.てか,“サポちゃん”って名前なのに固すぎたら逆に怖くないですか?』
確かに怖いかもしれないけど…まぁいいや。とりあえずそれの作り方を…
『孝さん着いたみたいですよ.作り方はそのうち教えますので一回私は落ちます!じゃあね!!』
その声の後に数回サポちゃんを呼ぼうとしてみたが、反応がない。一旦、俺はサポちゃんを呼ぶのはやめて杢田基地である建物のこっちの言語で“CLOSED”的な内容の書かれた札のかかっている扉を開き中へと入っていく。建物の中の様子は以前来たときとあまり変わっておらず、古くからあるお店って感じだ。表のカウンターには誰もおらず、奥の方から声がする。俺がその声のする方へと進んでいくと、
「この鉱石とこの魔石で一緒に使った方が性能も見た目もよくなるんですよ!!!」
「馬鹿弟子が!その魔石とならこの鉱石のとの方が強いに決まってるだろ!!」
ユノとドワーフの店主が喧嘩していた。どちらも相手とは逆側の手でそれぞれ違う鉱物を持っており、もう片方では一つの魔石を取り合っている。
「すみませーん…」
「「あぁ!?」」
俺が声を掛けた瞬間、二人とも眼を飛ばすようにこちらへと振り向いてきた。さすがに声掛けるタイミングを間違ってしまったかと思いながら俺は一歩後退りするが、俺の顔を見た途端に二人とも以前あったときの表情へと変わる。けど店主の方は暫くすると今度はムスッとした表情へ変わる。
「…わしは君に教えると言った覚えは「そっかそろそろ一週間だっけ。とりあえず何をするのか見せてもらおうか」
ユノがドワーフが何かを言おうとするのを遮ってドワーフを座らせ、自分も誓うの椅子に座りジーっとこちらを見つめる。俺は二人に見られる中、亜空間から精錬された鉄の延べ棒をいくつか直径25㎝、長さ40㎝ほどの木…そして炉以外の自前の鍛冶道具等を取り出し、ドワーフに面と向かっていった。
「今から現在の実力で片手剣をつくります。途中で何か言いたいところがあれば言って頂いて構いません!」
しばらく無言の中、俺とドワーフは見つめ合い続ける…それから5分ほどが経過したその時、ついにドワーフが目を閉じてコクリと頷いた。俺は土下座をする。
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「いいから。とりあえずその炉を使って作ってみてくれ」
そんな様子を見てユノは「ヤレヤレ…」みたいな呆れたような笑いをしながらこちらを見ていた。俺は一度取り出した鉄を全て石の容器に移し溶かす。ちなみに俺は今回、いつものスキルをまったく使う気はない。あれはあくまで仮初めの力でしかなく、まったく経験を積むことはできない。だから絶対に使わないで今の素の全力を尽くす…そんなことを考えながら、大きな型に融けた鉄を流し込む…
「…よし、完成だ」
結局ドワーフは一度も何も言ってはこなかったが、片手剣の方は何とか完成させることが出来た。だが、その出来栄えはとても良いものとは言えないほどひどいものだった。所々歪みのできている剣身、ガタガタなグリップ…問題点を挙げ始めればキリがない…だが、これが今の実力なんだ。そう心に言い聞かせて剣をドワーフの方に持っていく。
「これが今の精一杯です…お願いします」
「うむ」
そう言って俺から剣を受け取ったドワーフは、剣を細部までじっくりと見ていく。それから暫くしてドワーフはユノに向かってちょいちょいと手招きする。二人は小さな声で俺の作った剣に対しての評価か何かを話している。なんとなく俺は“終わった”と思った。二人は話し終わったのかこちらへ近づいてくる。そしてドワーフとユノは同時に言った。
「「合格」」
「え?」
え?……はっ!危ない…予想と真逆だったからか思考が一瞬飛んでしまった。
「…理由を聞いてもいいですか?」
「理由?君の作ったこの片手剣はもし俺が同じクオリティのをつくったら、まぁそれは鉄屑と呼ぶものだ。だがな、お前はこれを作っているとき、何を思った?」
「それは…今作れる中で最高傑作にするですかね」
「それでいい」
「 」
それは全くもって普通の考えなのだからと、その良かったのか俺には分からなかった。
「お前が最初に来たときは、“自分の中での最高傑作をつくる”って考えだったか?」
「あ…」
俺はその時の自分が思っていたことを思い出す。
「最初にお前から感じたのは、“俺の技術をコピーする”みたいな感じだった。わしはそれなら教える価値がないって思ったが、今回お前が作ったものを見て、受けようと思った。歪ではあるが、試行錯誤しようとしたことがこれからは伝わってきた」
俺はそれを聞いて今度は立ってドワーフに一礼する。
「これから…よろしくお願いします!」
「よし!確か君は今領主の依頼受けてて休みがあんまりないんだよな…とりあえず以来の方が落ち着いたら連絡しろ。なんだかんだ遅いし、今日は帰っていいから」
「あ、はい」
何故かOKが出て驚いたが、まぁこれでやれることの幅が広がる!そう思いながら俺は夕日に照らされながらそのまま宿へと向かって歩いていく。
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