第17話
俺はアロナ母に桜音達がどこに行くと言っていたかを聞いて、アネモネ達と街へ出る。一歩進む度、ウェリアの目は輝いていき、吸い込まれていくかのように店へ入ろうとするのをグラスが止めて、その間アネモネは何かを考えこんでいる…そんな状態を何度か繰り返していると、何か人だかりができている。そこに俺は近づいていき、後ろの方にいた婦人に聞いてみる。
「そこのご婦人。ここになんで人が集まっているんですか?」
「いやあねぇ…どうやら女の子達が荒くれ者の冒険者にちょっかい吹っ掛けられたらしいんだけど、女の子の方が返り討ちにしたらしくて…それで冒険者が仲間を呼んで囲って…ってお兄さん急にどうしたんだい?」
夫人が話している途中だったが、俺は一度人だかりから少し離れたところへ行く。
「タカシ、どうしたの?」
「いやー…ちょっとあの人だかりの中心に行ってきて終わらせてくる」
そう言いながら俺は軽くストレッチを始める。一応街に来るときに身体はだいぶほぐれたようだ。
「あの人込みを無理矢理開いていくの?」
「いや、もっと簡単に行くよ。だって…」
アネモネの質問に答えながら、俺は近くの建物でほとんど平らな壁がある場所を見る。
「まさか…」
「みんなの頭の上空いてんじゃん」
俺は壁に向かってダッシュをし、勢いで壁を走る。そんな俺を見てグラスはポカーンとし、ウェリアは笑っていて、アネモネは無表情だった。俺は囲まれている女の子達のとこに一番落下しやすいと思った位置で壁を蹴り宙を舞う。俺の真下にいたちびっ子が「母ちゃんあれ!」と俺を指さし、それにつられてみんな宙を舞う俺を見る。
「なんだアイツ!?」
「あ…」
囲まれていたうちの一人である黒髪の少女は俺がだれか気づいたようだ。みんなに見られながら無事着地した俺は、だれかが発言する前に手をパンパンと叩く。すると何かに潰されるように冒険者達が全員倒れこむ。よしこれでい…
「孝君おかえりーっ!」
後ろから黒髪の少女が俺の背中へ向かってダイブする。まあ、それは桜音のことなのだが…とりあえず無理矢理背中から桜音を振り落として、向かい合ってしゃべり始める。
「飛んで抱き着くのはやめてくれ、桜音」
「だってかなり離れてた感じがするんだもん!んーと…五日?六日?そんくらい彼氏と完全に離れたら飛びついても問題ないでしょ」
「そういうものなの…?」
「ッそういうものなの!」
「あのータカシ君…おかえりなさい」
「あーアロナただい…ま!?」
桜音が俺とイチャイチャしてるのを見てなのか、アロナも俺へと抱き着いてくる。ナニコレ…俺はやっぱり今日死ぬんじゃ…あ、やべ。桜音が俺とアロナに向かってすんごい睨んでるぅ…だがアロナは気づいていないのか気づかないフリなのかぴたりと身体をくっつけえたまま、俺の顔を横から両手で挟んで自分の胸の方へグイっと引っ張る。まだ保ってくれよ理性…!
「これ」
「ん?」
そうやってアロナが俺に見せたのは俺が行く前にアロナにあげた、俺特製の魔術が組み込まれた魔石をユノさんに填めてもらったネックレスだ。
「これ…ずっとタカシ君だと思って持ってたから…人恋しい時とかも」
(…え!?)
「えーっと…ありが、とう?」
「ううん、これのおかげで何かから守られていた気がするからお礼を言うのはこっちだから」
…なんて答えればいいか全然わかんなくて、とりあえず「ありがとう」と言ってしまったけど、これギャルゲーなら目標とは違う攻略ルートは言った感じ?なんか桜音から出ているオーラがかなり怖いんだけど…ん?そういえば何か忘れてないか俺?
「お姉ちゃ…!」
「なんで…なんであんた達がここにいるのよ…グラス、アネモネ、ウェリア!?」
「え…?」
あ、そうだ。この子達を連れて来たんだから、アンナが驚くに決まってるんだったわ…
「暗くなってきたし、話は“月夜の風精霊”でしようか」
とりあえず俺たちは宿屋の方へと七人で向かっていった…
夕食を食べ終え、俺達の部屋へと皆が集まり、ケルゾニアにいた三人にあっちの街であったことを話す。桜音とアロナは特に驚くこともなく俺の話を聞いていたが、アンナはロンドリオと闘って、ウェリアが吹っ飛ばされたりしたこと等を聞く度に唇を噛みしめていた。俺が話し終えた途端、アンナがう俺に馬乗りになり、胸倉を掴んで顔を寄せる。
「どうして…どうしてこの子達を巻き込んだの!?もし、あなたがあのジジイに負けていたら、アネモネ達はもっとひどい目に遭って…心が死んでしまってたかもしれない!私はあんたと闘って、あなたなら一人でも行けるのだろうと思った」
「…そうかもな」
「ねぇ、あなたはなんでアネモネ達をそこに連れてったの?本当にこの子達にしかできないことだったの?」
アンナが勢いよく俺を揺するが、途中で俺はアンナの手首を強く
握り、無理矢理胸倉から手を離させる。確かにあのレベルならむしろ俺一人の方が楽だったし、出発したときは一人で乗り込む気だった。けど…
「俺にとって彼らをあそこに連れて行ったのは、ちょっとしたただの遊びだよ」
「…は?」
俺が言ったことに一瞬理解が追い付かなかったようだったが、次の瞬間、俺はアンナに殴られる。が、一発食らった後、俺はアンナを空中に見えない魔力の鎖で固定する。
「ふざけるな!!うちの妹たちを自分の遊びの玩具にするんじゃねえよ、クソが!お前がそんな奴だなんて…」
「“お前がそんな奴だなんて”…?お前何言ってんの?ろくに話したこともないし、互いのことをよく知ってるわけでもないのに」
俺のその言葉に場に沈黙が流れる。
「俺にとってさ、桜音以外のこの部屋にいる人間は完全な他人でしかないのよ。アロナは契約上の関係だし、お前は依頼人の敵だし、こいつらは俺の遊び道具になってもらっただけだし…」
俺はそのまま話し続ける。なんでウェリア達に優しくしてやったかとか、初めて会ったときに感じた悪い印象とか…その一言一言聞く度にウェリアやアロナなんかは顔色が悪くなっていき、その場にうつむいてしまう。その間も何故かアネモネと桜音は表情一つ変えていなかった。
「…というかんじでまあ、俺はお前たちに好印象を抱いてないから、この後俺に刃を向けるだとか、そういう何かをされたら問答無用でカウンターするからな。またな」
そう言いながら俺は部屋から出ていく。いやぁ、今の。みんなに嘘は殆ど言ってないからストレス溜まんなくて楽だー…しばらく街を歩いていると、魔石が震えだす。取り出すと、魔石には日本語で『もう部屋戻ってきても大丈夫だよ。みんなそれぞれのとこに言ったから』と書かれている。部屋のドアを開けると、そこにはベッドに腰かけて笑顔でこちらに向かって手を振る桜音がいた。とりあえず俺は桜音の左隣に腰かける。しばらく二人で見つめあっていると、桜音が俺に抱き着いてくる。
「改めまして…おかえりなさい、孝君」
「ただいま、桜音。こっちでは安易か大変なこととかあった?」
「ううん、アンナが帰ってきていないからか、警戒して来なかったっぽいよ。さっき孝君が闘ったって言ってたロンドリオの次にアンナが強いらしいし、それより下は孝君に絶対勝てないって」
「へぇ…」
つまりロンドリオの回復力が相当な化け物じゃない限り、あちらの主戦力を無効化したということだ。だが、ジジイ達の言う謎神の手下ってのが誰なのかもまだわかってないし、そもそもそいつがどこにいるのかもわかんない…つまり俺の方は何もわかってない!あああぁ!どうすればいいんだろ…そんなことを考えつつも、桜音との会話をできるだけ楽しむ。
「あのさ…孝君」
話し始めてから約一時間…突如、桜音が俺の右手を握って何かを言おうとしている。今は大人たちがイロイロとするようなの時間…あれ?もしかして俺は今日、初めてナニかをしてしまうというのか!?
「みんなの前で嘘、吐いたでしょ」
「…いいや」
俺はそう言われた瞬間に目を逸らすが、その程度では桜音からは逃げられない。桜音は俺の身体にぴたりとくっついて言い続けてくる。
「いや、あれは確実に嘘も混ざってた。孝君は気付いてないかもしれないけど、君、嘘を吐くときはいっつも目が死んでるよ。みんなに向かっていろんなこと言ってた時、途中何回かハイライトオフになってりオンになったり繰り返してるの見て、線路の踏切の点滅みたいでこっちまでハイライトオフになりそうだったよ」
「え…」
俺はその場で顔を両手で抑え、下を向く。いや、マジで気付いてなかった。なんでみんな教えてくんないんだよ…いや、面白いからか。…桜音にはなんで嘘を吐いたか、その理由を話すことにした。
「俺は…何か理由で自分を縛ってないと、人を助けられないんだよ…それも、人と良い信頼関係をつくらないような理由じゃなきゃさ、」
「それは…何でなの?」
「別に嫌われて罵られたいМとかではないんだけど…怖いのかな。人と強い繋がりを持って、それがいつか切れてしまう日が来ることがさ」
「俺にはむかし、二人義理のきょうだいがいたんだ。その頃、俺は何をするにもそいつらといつも一緒で、俺は“家族ってあったかいな”、“こいつらと一緒に未来を良いものにしていきたいな”みたいなことばっか思ってて…まぁ何も未来、を見据…えていないガキだったか…な」
二人の少年と一人の少女が花咲く野原を駆けまわっている…そんな頃の楽しかった記憶を思い出す度、どんどん息が苦しくなっていくが、桜音に話し続ける。
「ある日さ…死んだんだ。二人とも、俺の目の前で。一瞬だった…ほんの少し前まで話していた最愛の家族が目の前で息絶えてく姿を見ていた時間は…桜音ならどう?耐えれ、そう…かな?」
「詳しく言いすぎると俺の精神が完全に壊れるかもしれないから、言わないのだけど、その…日、俺の中の何かがプツンと切れた、んだ…それから少しして決めたんだ、“できるだけ自分にとって大切な人をつくらない”って…」
言えた…これを聞いてもしかすると桜音は離れて行ってしまうかもしれない…いや、離れてもらった方が桜音の為になるのかも…ヤバいうつむいて涙出てきそう
「それってさ…孝君が自らが壊れてしまうことが怖いだけじゃん」
「え?」
俺はその言葉を聞き顔を上げて桜音の方を見ると、その顔は怒っているようにも、悲しそうにも見えた。
「孝君は…人に寿命はないとでも思ってる?」
「いや…」
「生物同士の繋がりには、必ず別れの時というものが来る。それは例外なく絶対に。その後、再会できることもあれば、その先永遠に会えないことだってある。だけど、その時に感じた想いが絶対に心を強くするよ。…孝君の場合はやっぱり怖いんだよ、自分が壊れることが」
「…」
「けどさ…」
桜音は俺の身体の向きを変えて、正面からハグをしてきた。俺を包む彼女の腕は何故か震えていた…
「自分が死んだら悲しむ人間はいることは考えたこと…ある?」
彼女が俺を抱く力が強くなる。彼女の話す声をよく聞いてみると、すこし嗚咽が混ざっている。
「さっきさ、アネモネちゃんに聞いたんだ…君が彼女達を守るために身体を張ろうとして三日ぐらい寝てたって…媒体なしで結界張った状態でバケモノと闘う?バカなの?ねぇ…」
「…でも帰ってこれたし」
「そうじゃない、危ないじょうたいにまでなったってことが問題なの!自分の安全より他人の安全を優先しすぎて三日間目を覚まさないとか…その時の私の気持ちわかる?」
「…わかんない」
「多分孝君が今さっき言ってたのとほとんど同じ気持ちだよ…死んだか死にかけたかの違いだけ。もし君が死んでいたら最悪の場合、依頼なんか放って後を追っていたかも」
そう言われて想像する。彼女が自分の死を知って悲痛な表情を浮かべて、すべてを捨てて自分のもとへと雇用とする姿を。思い浮かべただけで胸が苦しくなる。
「…俺が死んだだけで君に未来をあきらめてほしくなんかないよ…!」
「……きっと君のきょうだいもそんな思いだったかもよ」
そう言って彼女は俺から離れる。そうか…あの時の俺の顔を見て、あいつらも苦しかったのかな。俺が泣き続ける間、二人はどうだった…痛そうだけでは表せないほど深い傷を負いながら、どちらもその姿が見えているのに何もできずに泣き続ける俺にどちらも痛みをできるだけ表情に出さないようにしながら俺に「大丈夫、泣かないで」って笑顔を向けていた…桜音の言う通り、俺がただただ怖かっただけか…俺は桜音の頭に腕を回し自分の方に抱き寄せる。
「…ありがとう。とりあえず明日今日言った悪意のあることを撤回して謝るわ」
「…なんか今日引っ付いてばっかりな気がするけど、まぁいいや!」
桜音もまた俺に抱き着いてきて、その日そのまま寝ることになった。…泣いてた二人には特にちゃんと謝んなきゃな。
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