第16話

 俺は泣いているちびっ子達を順番に撫でながら、今回盗んできた資料をスーとアネモネから受け取り、しべ手に目を通していく。殆どの資料は実際に領地で収穫した小麦等、農作物の明細から出る国に納めるべき量と国へ納めたとされる農作物の量が1~2桁ほど違ったりするものだった。


「まぁ、この時点でアウト確定…って、ん?なんだこの資料は…」


 スーから受けっとた資料の1つが目が留まる。その資料には人の名前がずらりと書かれているが、その横にはすべてどこかの商会の名前と思われるものが三種類ほど書かれてある内、どれか一つにチェックが付いてある。


「あー、それ。なんかタジムさんが何か手紙っぽいのと一緒に見つけて、『こっちを持っといてくれないか?』って言われたんだ」

「そうか、ちゃんと持っておいてくれてありがとう」


 そう言ってスーの頭を撫でる。撫でられているスーはなんだか不思議そうな顔をしてきて、嫌だったのかと思い手を止め、スーへ直接聞いてみる。


「どうかしたか?俺に撫でられるのがそんなに嫌だったか?」

「いや!あの…えーっとね、タジムさんがそれを渡してきた時に頭撫でてくれたんだけど、タカシさんに撫でられたときの感触が…全く同じだったの」

「え?……謎だね」

「あのさ、タジムさんとタカシさんってすごく顔が似てる…いや、同じだし雰囲気もかなり似てた…ねぇ、もしかして二人って…」

「…」


 もしかして身体を錬成している途中部分をしっかり見られたりしてた!?いや、流石にテレポートしたくらいにしか見られてないよね…?冷汗をかきながらかきながら、俺は息をゴクリと飲む。


「…双子…?」

「ブフッ…!」


 スーが迫真の表情でそんなことを言うものだから吹き出してしまう。その様子を見ていた子供が少し汚れたタオルを持ってきてくれた。まぁ、そういうことにしといた方が今後も楽だしな。顔を拭き、使ったタオルを持ってきてくれた子へと返す。


「うん…その通りだよ。俺たちは双子だよ。髪とかの色が違うのは…俺の方が染めた」

「…なるほど!」


 ちょっと無理矢理だったかと思ったけど、納得してくれた。とりあえず俺は簡単な魔術を組み込んだ魔石を用意し、外へ出る準備をする。


「一度俺はケルゾニアの方へ戻り、この資料について報告しに行く。あ、グラス君とアネモネ、あとは…ウェリア。君達にも来てもらおう」


 そう言うとみんなざわつき始める。一部の子達は不安な表情を浮かべているが、プロブは冷静に質問してくる。


「タカシ、ここに領主の手先が来た場合、残る子供達だけでそいつらへの対処はできるか?」

「あぁ、この拠点には高度な魔術結界を張る為の魔石が置いておいた。あと、食料に関してはお前に渡すこれを鳴らしてくれ。」

「OK、それじゃあ行ってらっしゃい」

「ああ」


 そう言ってプロブが手を前に出してきたので、俺も手を前に出してハイタッチをする。その後、ウェリアだけは楽しそうに準備をしていたが、グラスは少し焦っているようにそわそわしているし、アネモネは何も言わずに頬を膨らませて俺に凭れ掛かっている。


「…」

「…」

「…あん時はごめんな。君たちの事情に勝手に首突っ込もうとして」

「…」


 アネモネからは相槌も何もない。


「俺はさ…善人じゃあないし、人が隠したいことを根掘り葉掘り聞こうとする。けど俺は今、君達みたいな人の為に動いている。俺の全てを信用しなくていいけど、君達が前に進もうとするのに利用するときは信用しといてくれ」


 そう少し微笑むようにアネモネに言うと、凭れたまま俺の目を見つめてながらぽつりぽつりと話し出す。


「…あの時は、怒ってました。“なんで私達より急に来た謎の男にそんなことしつこく聞かれなきゃいけないんだろう”って…口調も荒くなってしまったし」


 …普通だよな。そんぐらい、


「でもあの男と戦っていたあなたを見て思いました。“この人、お人好しが過ぎるんじゃないか”って…」

「そんなお人好しに見えるほど?」

「見えるほど」


 お人好しって…俺じゃない気がする


「さっきあなたは『君達が前に進もうとするのに利用するときは信用しといてくれ』って言いましたね。なら少しの間だけ利用しましょうかね…あの子達が光の下で楽しく過ごせるようになるまで」


 そう言うとアネモネはニコリと笑う。それから十分程経ち、三人の支度がどうやら終わったようだ。ドアノブに手をかける寸前、俺は振り返ってプロブを見る。


「じゃあ行ってくる。早いうちに帰ってくるから、それまでまた頑張ってくれ」

「行ってらっしゃい。あ、メシ食いすぎたらごめん」

「別に良いよ。よし、三人とも行くぞー」

「はい!」



街の城壁に出来た穴を使い、街を出てすぐ、三人と共に俺は森を走り抜けていく。その途中、ぼろぼろの服を着たオッサンが中型の魔物とっすでで戦っているのを見かけたが…


「タカシ、あれは…」

「無視でOK」

「え」


 息が荒い状態で聞いてきたウェリアが驚いたときに呼吸するのを忘れたのか、急に立ち止まる。


「でもあの人…ボロボロ、だったし…」

「いや、あのオッサンさ…魔力があの魔物の十倍以上だったし、筋肉量おかしかったから助けなくていいよ」

「でも…」

「ウェリア、早く行くよ。時間がもったいないし」

「え…」

「早く」

「…はい」


 留まりたそうなウェリアだったが、表情一つ変えずにアネモネがそう言うものだから、返事をして前進しだす。…俺もあのオッサンじゃなかったら助けてたよ。オッサンさ、あの時治療したうちの一人だよな。もしかして一斉にやったから俺の魔力があのオッサンの魔力を強化しちゃったんじゃないよな!?とりあえず俺は何も知らないふりをする。


(いやー…それにしてもあのオッサンの数値、あの見かけたときと比べて上がりすぎでしょ」

「なんか言った?」

「いやなんでも。あっ…そろそろつくぞ」


 なんだかんだ俺達はケルゾニアの正門のすぐ近くの茂みまで来ていて、そこでは何故か、ウェリアがはしゃぐ犬のようにクルクルと俺の周りを歩いている…


「ハッハッ八ッ…」

「ウェリア、ステイ」

「あのさ、タカシ。なんで今、私達は街に入らないでここで留まっているの?」

「えーっと、これに着替えてもらっていい?」


 俺が指を鳴らすと、どこかから服が落ちてくる。正直、彼らが今着ている服のままこの街に入ると…まぁうん、かなり入りづらい。それはなんとなく彼らも理解したようでアネモネとウェリアは少し森の奥へ進み、グラスは俺の真ん前で着替え始める。ちょうどいいタイミングだと思い、俺はグラスに話しかける。


「グラス君、アネモネと仲直りできたかい?」

「え、いや…できてないですけど、あなたに関係ありますか?」

「んー…俺にっていうよりはこの後に関係あるかなー」

「?」

「まあ、アンナとこの後会うんだけど、もし会ったときに二人が仲が悪かったりしたらすごく心配を掛けたりするんじゃないのか?」

「…」


 そう俺が言うと何かを考え始めたのか完全に黙り込んで着替えを終わらせる。


「タカシさーん、こっちは着替えましたよー。そっちはー?」

「ほーい。グラス君も終わったから来て大丈夫だー」 


 ちょっと離れすぎじゃない?何?俺が君達を襲うかもと?否、俺はロリコンではないぞ!と、そんな茶番をしようかと一瞬思ったが、やめとこう。茶番始めたらウェリアは乗ってくれるかもしれないけど、アネモネに睨まれる気がする。俺達は門へと歩いていき、くぐる手前で門番が止める。


「身分証出してくれ」

「はい」

「よし、他の者も出してくれ」

「…」


 そう言われても何も言わないので顔を見てみると、三人とも汗ダラッダラだった。


「あ、もしかして身分証…」

「ナイネ」

「あっ…門番さんこれ」

「ん?」


 俺は門番に依頼書のコピー的なものを渡して、門番の耳元へ顔を持っていきコソコソと話しかける。


「実は今、俺はここの領主に直接依頼されていて、この子達はその依頼に関わる重要な人物だ…できればそのまま通してほしいんだけど」

「いや、それは流石に…」

「これあげるから…」


 そう言ってほかの人には見えぬように門番に金貨十枚を見せて門番の腰巾着に入れる。すると渡した紙を返してきて、門への道を開ける。


「…以上ナーシ。通ってよし」

「ありがとっ☆」


 俺達は無事にケルゾニアへと入ることができた。特に出たときと街の様子は変わっておらず、まあ賑わっていた。とりあえずそのまま『月夜の風精霊』へと向かう。多分、三人ともそこに



「あら、タカシさん。三人なら出かけているよ」


 あー…軽いフラグも回収されたりする系?俺は特には大丈夫だが、三人ともすぐアンナに会えると思っていたからか、なんだか沈んでいる。そんな三人を見てアロナのお母さんが聞いてくる。


「そういや、その子たちは?」

「あ、この子達はアンナの家族なんですけど、もう一部屋借りることできます?」

「良いよ、結構うちはでかい宿屋だから部屋には余裕があるし」

「じゃあとりあえず俺達と同じ日まで追加で二部屋」


 俺は追加分の代金を払ったあと、鍵を受け取りその部屋へと向かう。場所は俺たちの部屋のすぐ隣に並んでいたまったく同じ内装の部屋だ…うん、気を利かせてくれたらしいな。


「とりあえずアネモネとウェリアはそっち、グラス君はこっちに荷物おいてくれ。この後アンナ達探しに行くから」

「ねえタカシさん!」


 ウェリアが俺の服の裾を掴んでくる。


「ん?」

「あのベッドにダイブしていい!?良いよね!あと身体洗いたい」

「じゃあ一回外出るぞ」


 俺は三人を連れて宿の裏庭に来る。広さは大体で言うと、元の世界の田舎の一軒家の敷地の三分の二ほどのサイズだ。つまり意外と広い。


「とりあえず、アネモネ達はウェリアから一応離れてくれ。あとウェリアは水が目とかにはいらないように塞いで」

 

そう言うとウェリアから二人とも離れ、ウェリアは自分の手のひらで口と鼻をふさいで目を閉じる。


ふぉろでぉぎぎこれでいい?」

「よし、いくぞ…そい!」

 俺は魔法でウェリアを水で包み込み、その中に小さな渦をいくつか生み出す。


(ウェリアなんだかすんごい楽しそうな顔してるな)


 しばらくすると体についていた汚れが浮き出てきて、いいタイミングだと思った瞬間、ウェリアのまわりの重力を無視していた水を全部地面に落とす。今度は少しだけ強くて生暖かい風をウェリアに当てて浮き出た汚れを飛ばしたり、髪を乾かしたりする。


(あ…楽しそう)


 それも終わったウェリアの身体は綺麗になっており…うん、チョーイイね!


「ウェリア、終わったよー」

「…すんごい楽しかった!ありがとう、タカシさん!」


 そう言ってウェリアは俺に抱き着いてきた。ヤバい、かわいい少女にこんな風に抱き着かれたら理性がもたないぞ…俺は助けてほしいとアネモネとグラスに視線を送ろうと思ったが、


「「…!」」

(なんかワクワクしてるー!!?)


 あれか?次は自分にもやってほしいということか?なら…


「ウェリアー、二人にもやってあげるからちょっと離れてもらっても…」

「魔法なら関係ないじゃん」

「え…あー、アネモネ。すぐにアンナ探したいよ…」

「…」

「…グラス君はもう探しに…」

「…」


 二人とも期待の眼差しでこちらを見ている。…この状態でやるしかないのかー!


 その後、二人にも同じことをやっている間もウェリアは抱き着いていた。まぁ何とか理性は保てたから…ヨシ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る