第15話
「…やっぱり無茶だったかな」
さっきからダメージは入っているようだが、残りの体力や魔力からしてこのまま同じ攻撃を続けると…先に消費しきって確実に負けてしまう!そんなことを思いながらロンドリオの攻撃を避け続ける。
「持って攻めてこないのかァ?まぁ、そのお嬢ちゃんたちがいる限り無理なのかなァ!!」
ロンドリオは結界へ殴りかかる。結界が殴られる度、二人は体をビクつかせる。まずいな…結界は攻撃を受けた分だけ魔力の消費量が増える。つまり余計に攻撃にまわす魔力が減り、できるだけ早く決定打を与えなくてはならない…
「ウガアァァァァァァ!!タジムー!早く来いや!!」
そういった瞬間、俺の頭の横を通り過ぎ、ロンドリオの後頭部に何かがぶつかり爆発する。振り返るとそこには右腕を前に突き出して左腕で右腕を支えるようにして立っているタジムがいて、右の手のひらから煙が出ている。だがスー達を送ってから援軍に来たにしては早すぎる…タジムが煙幕を焚いた瞬間、俺はタジムの方へ移動する
「来たぜ」
「お前と行った子供達は…?」
「転移させた。彼らの住んでるとこに」
「転っ…!?」
あぶな!転移できることが敵にばれたらマズい。…スキア達が前に転移はかなりの高位魔術だって言ってたよな?それ普通にヤバない?とりあえず念話でタジムに話しかける。
『…タジム、聞こえるか?』
『うおっ!?…孝も念話使えるのか!凄っ…』
『お前の方がチート…いや今はそういうのいいから!タジム、アネモネ達二人を転移するのは『出来るよ』…よし、転移してくれ。あと、転移した後はすまないが…俺の中に戻ってくれ』
『…!?』
煙幕でどんな顔をしてるか見えないが、多分魂を抜かれたような顔をしている気がする。
『肉体のある感覚はなくなるが、魂と心はなくならずに俺の体内に入る。意識もあると思う…あと失敗は多分しないから』
『…嘘なら呪い殺すからな』
『ああ』
俺が返事するとタジムの方から魔力が二人の方へ流れ出す。数秒後、二人の魔力は周辺から消える…
『よし、手を横に伸ばしてくれ』
『…』
タジムは何も言わず、俺の目の前に手がひょいと現れる。俺はタジムの手首を握り目を閉じる…
(感覚は…マトリョシカの中の方を透明にさせて掃除機で吸い取る感じに……)
そうイメージし、タジムの心と魂を自分の体の中に吸収する。するとタジムの入っていた身体に残っていた魔力も俺に戻り、身体の奥底から力が湧いてくる…結界ももういらないし、これでアイツに決定打となる攻撃を与えられる。とりあえずタジムの入ってた身体をア空間に収納してしばらくすると煙がなくなり、ロンドリオは俺しかいないことに驚く表情を…浮かべていなかった。驚いているかどうかわからないが、周りを見回た後、状況を理解したようにこちらをまっすぐ見つめ言った…
「…一瞬見えたあの男に回収させたか。だが、そのタイミングで逃げなかったお前はなんだ?」
「うーん…お前に言えることはただ一つ…だまって寝てもらうぞ。“鬼火”&“
ロンドリオの周りに深い青色の火の玉が現れ、その火は周りから熱を奪い、ほぼ同時に現れた巨大な女の口のような影から吹雪が吹き始める。その吹雪に当たる度、ロンドリオの周りの水分が凍る。そして…
「…」
ロンドリオは完全に凍りついた。意外と魔力が戻ってきてからは一瞬だったな!…一応脈はあるし、今はロンドリオは生きているようだな、この後死ぬかもしれないが。正直、こいつがこの後生きる死ぬは知らないし、どうでもいい。早くあの子達のもとに帰って、まずはアネモネに謝ろう。そしてウェリアにも謝って…そのあとにグラス君とも話そう…
「よし、こいつは死んだようなものだし、帰ってみんなと「待て」…俺のバカァ!」
振り返るとロンドリオを覆っていた氷は砕け散り、少し険しい顔をしたロンドリオが息を荒くしてこちらを向いて立っている。
…もう、俺のバカタレ!なんでかなり疲れた状態でフラグ立てちゃうんだよぉ…あちらも疲れているのは変わらないようだが、俺の残り魔力は10%…5%でアイツをKOしなきゃいけないしさ、バカタレ以外の何でもないよ。ハハハ…
「…ロンドリオ」
「…何だ」
「一つ…だけ、聞いてもいいか?」
「…」
「どうしてお前は令嬢の為にそんな下手したら死刑になるようなことをしたんだ?」
それだけは聞きたいと思っていた。正直いくら主人が嫌な目にあったとはいえ、自分だけで代わりに復讐しようとするのはおかしい。そう感じていたのだ。ここで俺の人生が終わるかどうかはまだわからないけど、それだけはロンドリオに聞いてみたかった。まあそんなことを聞くのも神としての役目の一つでしょう。うん、そういうことにしよう。だが、問いに対してロンドリオは反応しようする素振りがない。しばらく沈黙が続くが先に動き出したのはロンドリオの方だった。タジムが来る前同様、俺との距離を詰め殴りかかってくる。…気のせいならいいと思ったが、明らかにパンチで物を破壊する威力が上がっている。例えるなら…さっきのは“ゴリラに握り潰される”で、今のは“ゾウに足で踏み潰される”みたいな感じだ。それにさっきと状況が違うのはそれだけではなく、俺は決定打以外で魔力を消費できないこと…小さな光弾一つでかなり運命を左右するということだ。ほとんど条件が同じ今、どちらかというと不利なのは俺だ。だが倒せないわけではない。今の俺があいつを倒すには…どうすれば勝てるか、ロンドリオの攻撃を避けながら俺は考える。
そんな時、一瞬だけ、目の前が暗くなり…いや、今あった何かが分からくなるような程の漆黒に覆われ、後ろから何がが聞こえた。「目の前の彼の魔力の流れをよく見て」その声は男のようにも女の声にも聞こえて、どちらなのかは分からない…けどその声を聴いたとき、なんだか暖かさに包まれたような感じがした。
しばらく考えた後、その声に言われた通りロンドリオの魔力の流れ見る。ほう…あいつをうまく利用できれば倒せそうだな。
「固有技能“普通化”発動、【
…そう言ったが俺が言ったが、見かけ上は起きていないことに、一瞬戸惑った様子を見せたロンドリオだが、ニヤッと笑いこちらへと近づいてくる。
「何をしたか知らないが、これでもうおしまいだ!」
そう言いながらパンチをしようとした手からは、
「タカシよ…何をした?」
「ちょっとだけ“
そう悪い顔をしてロンドリオに“模”を見せつけるように言う。ロンドリオのマロy区の流れを見たとき、拳に魔力が集中しているのが分かり、その時に今まで食らった攻撃も思い出す。ロンドリオの攻撃には毎回魔力が微かに籠っており、違和感があった。アネモネの言っていた話が本当ならば、魔力を体の外に放出が出来ないということなのに、攻撃には魔力が籠っている…可能なことは
「…純粋な魔力をそのまま体に乗せることだけ、だな?」
「…ああ、そうだな」
「魔力を放出できないとしても、身体の一部に魔力を集中させることは簡単で、手から魔法を放出するときのようにすれば、無理矢理普通の攻撃にも魔力が乗る。それを少しだけ利用させてもらっただけだ。だが、これでお前に決定打を与えられるわけだが…さっきの質問に答えてもらえはしないか?そしたら少しだけ痛みを減らす。まあ答えないだろうが」
しばらくジーっとロンドリオの方を見つめるが、答えは返ってこない。
「…またいつかな、ロンドリオ。“
巨大な炎の拳がロンドリオを壁に打ち付け、その身体を燃やす。炎が消え、ロンドリオがいた周辺の壁や床が
は焦げている…そして今度こそロンドリオは意識を失っていた。…何とかなったってことでいいのかな?さあ、俺も早くみんなのもとへ帰って、ゴーンに資料について交渉でもしようかな。
今の戦いで屋外に面している壁に人が通れるほどの穴が開いていたのでそこから脱出し、残りの魔力を少しずつ使って全力で皆の待つ家に帰るそして着いた途端、俺は糸がプツンと切れるように意識を失ってしまった…
おれは真っ白の謎な空間で目をパチリと開く。なんかデジャヴじゃない?立ったまま起きたし…でも、一つ違うことがあって、待っていたのがジジイ達ではなく…タジムだ。タジムの方に近づき、俺は挨拶する。
「タジム~。無事に俺の中に入ったか!」
「俺の中に入ったかじゃないよ!マジで恐怖しかなかったんだからな!」
「まあまあ…とりあえず質問コーナー!さあ、答えてあげましょうか」
とりあえず俺の精神空間なので簡単に椅子を二つ生み出して、二人で向かい合って座る。
「じゃあ、まず一つ目!俺はなぜ肉体を失っているんだ?」
「あー…それはマジでわからない。神様の傍付きの妖精的な奴が急に、『使われていない人格を検知』って言ってきてあの状況につながった」
「…」
タジムが黙り込む…そりゃあ起きてすぐに「今君の動かしている身体は偽物」とか言われて、理由も全くわからないとか辛いだろうな。
「じゃあ、二つ目。俺が呼び出されたあそこはどこだ?」
「あそこはサピエンティア王国のサルドランという貴族が治める街の領主館だよ」
「サピエンティア…って我が家がある国からかなり近いじゃないか!」
「待て、つまりお前はこの世界の住民なのか?」
「…現時点でかなりおかしいが、それ以上におかしなことがあるのか?」
「実はさ…俺、異世界から友達とかと一緒に召喚されて、城から追放された勇者なんだ」
「……え?ええええええええぇぇぇぇぇ!?」
またぐるぐると走り出したので、またラリアットして落ち着かせる。
「…とりあえず続けるけど、世界の軸が違う俺になぜお前が入っているんだ?」
「…わかんないから、今度一緒に考えよう!」
「…そうするか☆」
そう言った目の前のタジムはアホ面になっているが、多分俺も同じような顔をしていたと思う。ん…?タジムがこの世界の人間なら、あいつの家族にも会ったりできるんじゃないか?
「タジム、お前って家名があるような家の子だよな?最初の時の親の呼び方的にさ」
「そうだな、僕の家名は ―
…シさ……て!
…カシさん起きて!
…
「起きて!!!」
「ほへっ!?」
ちびっ子達の大きな声に驚いて俺は飛び起きた。周りを見るとみんな涙目でこちらを向いていた。どうやら三日間眠ってたらしく、その間ご飯もほとんど食べずにみんなで看病して俺が早く起きてくれと願っていたそうだ。そして今日、おなかも減っていて、俺も起きないという状況にちびっ子達が泣きそうになり、バカでかい声量で俺の耳元呼びかけてで起こそうとしたらしい。
「おはようごぜえます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます