第14話
「お前は…アリゲルタ・ロンドリオ…ッ!」
「あの老人は…?」
そう俺はアネモネの方に問いかけるように言う。すると何故か「ハァ?」と言いたそうに呆れた顔でこちらを向いてくる。
「知らないの?」
「うむ」
「他国にも広く知れ渡ってるはずなのに…ここより山奥にでも住んでたの?」
「…うむ」
「…」
そんな可哀そうな動物を見るような目で俺を見つめてこないでくれ……異世界からき信じてもらえないと思うもんてすぐにこっちに飛ばされたんだもん。知らないことばっかだもん!そう言いたいが言えない…異世界からなんて信じてもらえないもん!多分…
「あいつはこの国のとある貴族家の執事長をしていたけど、十数年前…あの男は仕えていた家の当時13歳ほどの令嬢がとあるパーティーである二十代前半ほどの男に無理やり手籠めにされそうになり、アリゲルタ・ロンドリオはその男を半殺し…いや、それ以上の目に合わせた。 結果、その男は下半身がまったく動かなくなり、おぶられければ生活ができないという状態になったらしい」
ここまで聞いた内容からすると少しやりすぎてしまった老人く忠誠心が高い老人くらいな感じだ…だが話はまだ続く。
「しかもその男は令嬢の家よりも爵位が三つ以上上の貴族家の嫡男だった。事実、悪いのは男のほうではあるが、一応王都の審問官主導での衛兵による取り調べなどの調査が行われたらしいんだけど…」
「けど?」
「…それによって発見された資料の中にロンドリオ側から傭兵などに貴族家の子供に暴行するよう依頼する手紙とその依頼の報告書と見られる手紙が発見されたらしい」
ま、まあ自分の主が傷つけられたってなったらすこしくらいそういうことをしちゃうのも…
「最初に発見されたもの以外にも別の貴族家の子供を標的となっているものも多数発見された」
「…」
それを聞いた瞬間、俺は唖然とした。いや、これ愛が重いってか、愛に狂っているよ。元の世界の創作に出てくるヤンデレとかよりもヤバいかもしれんよ。
「幸い死亡者がいなかったことから王都追放、魔術による肉体の持つスキルなどを封印と監視付きの生活を未来永劫とする。そんな判決が出たけど、そのことを知った令嬢は、自らに責任を感じ、これ以上の被害を出さない為に、王都から離れた地に領地を持つとある貴族家に嫁入り。そしてロンドリオを連れて王都を去ったらしいのだけど…そいつは今、私たちの目の前にいる」
ロンドリオの目を見た瞬間、俺は少し後退りしそうになる。次に目に入ったのは、自分の顔にものすごいスピードで迫ってくる拳だった。顔に拳が当たるギリギリのタイミングで両腕を顔と拳の間に割り込ませガードするが、逆の腕から放たれる二撃目を正面から食らい、後ろにあった執務室の扉を突き破ってしまう程にものすごい勢いで吹っ飛ばされ俺の体は壁に打ち付けられる。だが、神の特性なのか知らないが、元の世界にいたときよりも体は丈夫になっており、意識もはっきりしている。
「タカシさんっ!!」
「お嬢ちゃん、人を気にするのはいいが、よそ見はあぶない…ぞっ!」
「うぐ…ッ!」
「ウェリア!!」
今度はウェリアの脇腹を殴り、その衝撃でウェリアは横へと吹っ飛ばされる。すぐに俺は駆け寄ろうと体を動かそうとするが、体がふらつき何故かうまく立つことができない。今食らった攻撃によるダメージは殆どないはずなのだが……魔力が少し感じづらい?
…最初は気づかなかったが、体から魔力が少しずつ抜けていってる。そして抜けた魔力はほかのめんばーがいるほうへ…なんとなくではあるが、どうやら心を移した時とは別にタジムへと俺の魔力は現在進行形で供給されているらしい。そして今、俺の体内に残ってる魔力は大体最大容量の三割ほどだ。だから俺は自分の後回しにし、すぐに攻撃魔法を構築する。だが、俺が構築する間、ロンドリオは倒れて脇腹を押さえているウェリアへとどんどん近づいていく。俺は構築速度をその時の限界まで加速させる。早く。早く早く…
「今だ!“
俺の放った無数の光がロンドリオめがけて進んでいくが、すべて避けられ光はだんだんと輝きをうしなっていき、消えてしまう…だが、俺達からはかなり離れた!
少しロンドリオとの距離ができたうちに、俺はまたアネモネたちを守れる位置に戻る。だが、どうしようか…相手は格上だ。
「ハァ……ちょっとおかしいだろ。アンナと比べてもこんなに強いのがこんな早い段階で来るのかよ…」
「タカシさん…」
殴られて少しかすれてしまった声でウェリアが俺を呼ぶ。
「やっぱりダメだったんでしょうか。私たちが希望を持つなんて」
「…」
「何かを学びたい…とか、いろんなことを楽しみ…たいとか、そういうこと思っちゃ…ダメなんですか」
「…希望は誰しもが持つことを許されるものだ。望みが叶う叶わないは別だ…本当にこんごをさゆうするようなら、今望むものをあきらめるな。そして、君たちが望むものに近づくために手伝うのが今の俺の役目だ。だから少し待っててくれ」
そう言ってウェリアの傷を治し、残った魔力の三分の一を使ってアネモネ達二人のまわりに結界を張る。本音を言ってしまえば、残りの魔力だけで倒しきって二人にこれ以上の怪我をさせずに帰れるかわからないが…ただただやるしかない…
「あーあ…ジジイ達からこんな使命、引き受けなきゃよかったぁ…」
少しだけ動けるように体をほぐす。
「?…少年、名を聞いても?」
「…孝だ」
「そうか…タカシ、楽しませてくれ…よっ!?」
俺はロンドリオが何か言っているタイミングで“模”を装着し、今度は逆に距離を詰め、まず脇腹に一発入れる。殴られたロンドリオは脇腹を片手で押さえながらまた距離を取ろうとするが、そうはさせない。魔法で蔦を生成し、それを足に絡めさせる。ロンドリオは蔦を引きちぎろうとするが、そんな簡単にはいかない。
「その程度か?今の状態でも片手で相手できそうだなァ!」
「フッ…やってみろタカシ」
ロンドリオがこちらに向かって手招きのようなことをする。どうやらあちらはまだ余裕そうだ。
「なら押して参ろうか!オラァ!」
俺はそのままロンドリオに距離を詰めて体中に攻撃を仕掛ける…
「…タカシさん、すごいね」
「うん…」
そんなことを言いながら二人は孝の戦いを見ていた…正直二人とも、孝がこんなにも戦えるとは思っておらず、孝の動きを見て驚いていた。右フック、ガードされてからの左手での掌底打ち。逆に殴られそうになると後方へ回避しながらのいつもより小さくした光の玉をショットガンの弾のように放つ。そんな動きを繰り返す。
「最初あったときから体から出るオーラはすごかったけどさ、結界を張った状態であそこまで戦えるなんて…少し怖い」
孝の張っていた結界は発動には使用中は魔力をどんどんと吸っていくというもので、多くの場合は魔石を媒体として使用する。だが孝が何かしらの媒体を置いたそぶりなどはなかった。つまり孝は自らの魔力を直接使用して結界を張っているということになり、もし自然に結界が切れた場合、それは孝の体内の魔力がゼロになったことを表す。普通この状況なら、みんな戦いの方に魔力をまわすはずだ。それを結界に使うというのは、アネモネからすると自殺したいようにしか見えなかった。
「うーん…私は怖いとはあんま思わないよ。利害が一致したからってあんなに他人の事情に踏み込もうとする人なんてなかなかいないし、本当なのかはまだ分かんないけど、敵の刺客としてきたアンナ姉さんを拘束せずに保護するとかさ…悪人だとは考えないかなどっちかっていうと…」
「どっちかっていうと…?」
「ただのお人好しじゃない?」
「本当にただのお人好しなのかな…?」
アネモネは、自分たちの事情に首を突っ込もうとした孝を少し信用できなかった。だって普通あんなにも知りたがる人は怪しすぎるでしょ!そう思ってた。
「あ…連絡しなきゃ!」
「あーっ!!!そうだタカシさんの為にもタジムさんに連絡しないといけんかったじゃん!!!私たちのバカ!」
急いでアネモネは孝にもらった魔石を三回叩く。
孝たちと別行動していたタジム達は、孝達同様ある程度の資料を持って厨房の方へ戻ろうとしていた…
「君達、そろそろ撤退するぞー……待て。振動してるよなこれ」
「振動したってことはタカシさんや姉ちゃんが敵と遭遇したってことじゃ…」
「シッ!静かに…」
そう言ってタジムが慌てそうになったスーの口を手で塞ぎ、周りの音を聞く…
「すまん、こっちにも来たようだ」
「え!?」
そう言って魔法で煙幕を焚き、土魔法で扉や窓を密閉する
(部屋に毒などは入ってきて…ない!)
「タジムさん!閉じたら空気が…!」
「大丈夫、少しだけ待ってて」
「え……少…しって…」
ゼンはタジムに何かを聞こうとした途端、スーと共にばたりと倒れる。
「タジムさん!二人に何を…!」
二人が倒れるのを見たプロブがタジムに少し詰め寄りながらそう言った。
「いや、少し寝てもらっただけだ。そして今から、君達だけで先に帰っててもらうよ」
「いや…この状態でどうやって帰るんです…タカシもいない状態で二人を背負って帰るとかも無理だし」
「タカシを呼ばなくても大丈夫。転移で帰ってもらうから」
そう言うとタジムは指を鳴らす。するとプロブと眠ってる二人のまわりに魔法陣が浮き出て一瞬で三人はその空間からいなくなった。
「とりあえずこいつらだけ倒すか!」
タジムは顔をスカーフで覆い隠し、壁の一枚を破壊する。外には7人ほどの武装した兵士が立っている。だが彼らは何かに怯えたような顔になっている。
「じゃあ君達、死なない程度に寝ててもらうね☆」
彼らの前には目の前にいたその男が…鬼のように見えた。
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