第13話

 俺は近くの木箱を持ってきて、そこに領主館に見取り図を置き、皆に作戦を説明する。


「まず侵入はどちらからも一番近い出入り口である、厨房の裏口を無理やりこじ開けよう。タジムとプロブ、スー、ゼンは資料室の方へ行く。過去の証拠が少しでも残っていれば逮捕しやすくなるし、その少しを探すのも資料室の方が人手が必要だと予測している。残りの俺、アネモネ、ウェリアは執務室に行ってくれ。執務室の方には最新の不正が記されている可能性が高いが、同時に刺客がいる可能性が高いが、そこは俺がカバーする。帰還する時間はおれがこの後渡す魔石がなったらっすぐに領主館を出ろ。あと、若し自分が罠に嵌ってしまったり、敵に遭遇した場合、魔石を三回叩け。すると魔石が高速で震えだすからそしたら証拠を押さえるより自らの命を守ることを最優先にして領主館を脱出。何か異論はあるか?」


 そう言って全員の顔を見回すが、皆静かに縦に首を振った。まぁ、俺にしてはしっかりした作戦だったかもしれん…知らんけど。


「よし、それじゃあ作戦開始だッ!」

「「「おー!」」」


 そう言ってみんなで夜の街を駆けていく…少し離れた俺が来たあの街に比べて、この街はなんだか悲しみや憎しみといった負のオーラに包まれている…いや、飲み込まれているが正しいかな。もし、敵を倒したからと言ってこの街が良くなるはずがないと思う。正直なことを言ったら、神への反逆者に裁きを加えたら仕事は終わりなんだけど…まあ友達の今後の為にもやんなきゃだな。あーあ、恥ずかしいな俺。

 そんなこと思ってたら厨房の出入口の外に着く。よーし!練習していた俺のピッキング技術、ここでm輝かせて…

「よぉし、蹴破るぞぉ!」

「え」

「「3!」」


スーとゼンがコールを始めるとタジムは助走をつけるようにように後ろへ下がる。ん?これ本当に助走つけてるんじゃないか?ままま、まさかそんなこと…いや、やるね、これ。


「「2!」」

「おい待てや…」


 やめてくれやめてくれやめてくれやめてくれ……魔術式展開。


「「1!!!」」

「オラァァ!!!」

「バカタレェ!!【沈黙サイレント】!!!」 


 タジムが扉を蹴破ると同時に、孝の周囲7mから音が消え去った。そのことに子供達はみんな驚くかと思ったが、なんだかキャッキャッと喜んでいるように見える2人がいるのですが。とりあえず、タジム、スー、ゼンにゲンコツを一発ずつ順番に入れる。

 …バカタレェェェェェェェエエ!!うん、俺の一部なのかもしんないけどタジム君は馬鹿なのかな?これ隠密活動なんだけど。スパイ映画とかならやっちゃいけない行動ランキングTOP10ぐらいにはいってるよ、ねぇ!?…俺が一定の空間から音を消す魔法使えなかったから正直詰む行動だぞ。あとでもっとお仕置きしてやるからな!とりあえず、周りから誰も近づいて来てないようだったから音を戻す。


「……タカシさんいったーい!」

「そうだよ!別に、殴らなくてもいいじゃん!」

「バァカァタァ「今はふざけない!自分や待ってるみんなの未来のためにここに来ているんでしょう…がっ!」」


文句を言おうとするスーとゼンにアネモネが縦チョップをいれる。まぁ、アネモネはあの子たちの中で上から3番目だ。けどもうちょい静かにやってくれれば完璧なんだが。

とりあえずタジムが蹴破った扉は直しておいた。


「ここからは分かれて行くぞ。タジム、そっちの子供達のことは任せた」

「うん」



「…タジムさんって強いの?」


急にアネモネがこちらを向き、そんなことを聞いてくる。タジムがどんな考え方かわかんないし、今の身体は素材でいえばキメラみたいな感じではあるが、分かっていること。それは…あいつ自身の能力だけで言っても人間としては―


「かなりの化け物だ ―



 ゲンコツを食らわせた直後、少しだけタジムに対して看破を使ってみた。


「っ…!?」


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名前ネーム〕 タジム?


職業ジョブ〕 ???


素質レベル〕 100/400 ATK109 DFC101 SPD115 MP450


能力アビリティ〕 剣術:Lv.5 格闘:Lv.5 話術:Lv.3 全魔法:Lv.15 肉体強化:Lv.8 看破:Lv.4


技能スキル〕 失われた神の血[30%] 魔格闘[極]  魔術式複合展開[全]独自魔術式生成[∞]


〔称号〕 神の人格の1つ 体失くしし者 呪われし【???】の血族

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 …かなり人間やめてないかコイツ?俺が言うことじゃないけどさ!…あとで聞こっ☆



 ― まぁ、俺よりは弱いけど」

「そうなんだ。まぁ、あの子達を守ってくれれば良いんだけど」


 それだけ聞くと、アネモネは何もなかったかのように元通りの方向を向く。彼女にとって、子供たち…家族のことは何よりも大切なのだろう。それが彼女を鎖のように縛り、成長を妨げないでくれることを願おう。


「俺も聞いていいか?」

「答えられる範囲でなら」


 この子たちに出会ってから、思っていたことが一つある。出発する直前、ちびっ子達は『おねえちゃんげんきかな…』と言っていた。そう呟いてたのに対して俺が『アンナなら元気だよ』と言うが彼らは首を横に振る。『ちがうよ。アンナおねえちゃんはげんきだってきいてうれしかった!けど、もうひとりいなくなったおねえちゃんがいるんだ…』そう今にも涙がこぼれそうに見えた涙がこぼれそうだ。俺はその子の頭を撫でてその場を後にした。

 

「…アンナじゃない姉って誰なんだ?」

「……」

「答えてくれないのか」

「知らないよ」

「ちびっ子たちが言ってたことが嘘だというのか?」

「そんなこと言ってないじゃん!あの子たちは素直なの!」

「じゃあ…」

「答えられる範囲だけって言ったじゃん!そんなの知らない!ハイ終わり!!もう、こんな人に頼んないで…」

「お姉ちゃん達静かにしてです!」


 俺達が騒いでたその時、ウェリアが歩みを止め、俺たち二人に対してポコポコと優しく殴りながらそう言った。元の世界じゃありえない、グレーの髪色の幼い女の子から


「す、すまない…」

「ごめんなさい…」

「私たちは今、敵の領域にいるんですよ。そんなに喧嘩したいなら、この先私だけで潜入しますよ!」

「「それは危なすぎるからダメ!!」」

「ならさっさと行きますよ。皆のもとへ帰るんですから」


 そう言ってウェリアは少し怒った様子でまた歩き出した。…俺が「答えられる範囲で」と言ったときにダメとも何とも言ってなかったのだから、非は明らかに俺にある。まあ今は目の前のやるべきことに集中して、アネモネにはあとで謝ればいいかな     


「…」

「…」

「着きましたよ二人とも」

「じゃあ入る…」

「待て。罠がないか確かめて入らないと危ないから、少し待て」


 そう言って二人が少し後ろから見ている中、罠がないか探知してみる。…よし、罠は特にないようだな


「よし、入って大丈夫だ」

「じゃあさっさと入るから…ちょっとどいて」


 そう少し睨んでいるようにさっき踏み込んでほしくないところまで聞こうとしたからって……こんなにも急に態度悪くなることありゅ?いや、悪いのはこっちだけど!あぁ…ウェリアが一番かわいそうだろこれ。あ、ウェリアがこっちを目をうるうるとさせて見ながら扉に入っていく……ごめん、まじでごめぇん!そんなこと思いながら、2人を追うように自分も執務室の中に入る。


「執務室にしては趣味悪いもの飾ってんなぁ…」


 そう言いながら部屋の中を見回す。部屋は正面から見ると、全体的に中世…というよりはレトロな雰囲気があり、部屋の両脇には、歴史を感じさせるような古そうな本が少しだけ塗装の剥げた本棚にしまってあったり、奥側にある机の上にはごく最近つけられたと思われる帳簿がいくつか積み重なっており、まぁ、普通と言えるような部屋に見えてしまう。

 だが、後ろを振り返るとそこには、人間か何かのの前足だと思われるものの剥製がおよそ50個ほど飾られている。その中にはそれぞれサイズの違う右手と左手が恋人繋ぎをしたような物もある。他にも扉からは死角になっている棚には何かの指や爪、毛などがホルマリン漬けのようにされている。

 2人は今にも吐きそうになっている。スラム街ではそこら辺に人間だったと思われる骨に皮がついただけのものが転がってたりしたが、流石に骨に近い中の肉を見たりするのは初めてだったのだろう。


「2人とも大丈夫か?」


 そう言って彼女達に近づき、手を差し伸べる。


「はい…私は少し気分が悪くなっただけですので。お姉ちゃんは…」

「大丈夫だから」


 そう言ってアネモネは手を振り払おうとするが、立ち上がるとき、ガクンっと転びそうになったので、近い方の腕を掴み、手を腰に回し、彼女が転ばないように支える。すると彼女の顔はどんどん赤くなっていく。


「〜っ…!やめてよ!助けてくれたのはありがたいけど女の人の腰に何も言わず手を回すとかありえないっ!」

「それはすまない…だが、転ばなくてよかったのだからどうか水に流してくれ」


 少し顔をキリッとさせながらアネモネにそう言ってみる。自分の中で普段こんなことしないタイプだと思っているのだが、なんだか様子がおかしい。自分で言うことではないが。


「…わかったから、早く資料を取っていくよ」


 まだ少しだけ火照った顔で、彼女はそれだけ言って部屋の中を漁り出す。


「私たちもやりますよ」

「そうだな」 



「何かありましたか?」

「あぁ、かなりこの国の収穫している作物等の輸出品は少なく書かれているようだな」


 そう言って机の上にあった帳簿の1つをパラパラと捲りながら見せる。


「アネモネは何かあったか?」

「…」

「おーい」

「…ハッ!こっちは何もなかったよ」

「そうか」


 アネモネは資料と睨めっこしながら、ブツブツと何かを呟いていて、声に反応するのが遅くなっていた。…聞かせてくれない“姉”が関係あるのだろうか。


「とりあえず俺たちはこれだけ持って脱出するぞ」


 執務室の扉を出て、また厨房の出入り口へと戻ろうとした時、


 ー そうはさせんよ ー


 その声と共に、正面の影から身が引き締まった軍服のような服を着た白髪の老人が現れる。その老人の顔が見えた瞬間、アネモネは顔をゆがめる。


「お前は…アリゲルタ・ロンドリオ…ッ!」

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