第11話

「あぁすまない…皆に自己紹介をしていなかったね。僕…いや、俺は孝。隣の領主、ゴーンの依頼でこの街に来た調査員だ」




 その言葉が皆の動きを完全に硬直させてしまう。が、少しして最初に蹴散らした少年が前へ出て、俺の右手をグッと握る。




「あんたが調査員って…本当か?」


「あぁ…俺は冒険者だが、今回は調査の仕事を受けることになった」


「じゃあこの街に1つの希望が現れたということか…?」


「一応調査ではあるが…そうとってくれ」


「……」




 少年のグッと握った俺の拳に先程以上の力が加わる。




「…ったぁ……やったぁ……やったぞおおおおお!」




 そう言いながら少年は泣いて拳を突き上げ叫んだ。そして、少し遅れて周りのちびっこ達も歓声を上げる。きっと彼は、全員の食事の量の削減やどう暮らせば生き残れるか等をずっと悩んできたのに合わせて、理不尽な税金徴収に苦しむ毎日だったのだろう。この世界は不公平…いや、それはどこも変わらないし、どうすることもできない。人間に限らず知性のある生物達は皆、群れれば何処かで争い、奪い、憎み合い…最後にそこにあるものは殆どが命をおとしてしまった者達の亡骸や荒れ果てた住み処ばかりだ。…いや、変な思考に行ったな。だけどここに“領主を調査しに来た俺の存在”という光が現れた……それに喜ぶの普通なのかもしれない。だが、アネモネは俺に聞く




「…もし本当に貴方がケルゾニアからの調査員だとしても、保護されたお姉ちゃんはこのあとどうなるの……」


「アンナはこのままいけば裁判に出廷するが、なんとか死刑や禁固刑は免れそうだ。てか、できるだけ俺がフォローはする。だが、この件が終わらないと俺は裁判に出られないから少し皆に手伝ってもらう」




 そう悪い顔をして言って見たが、皆表情1つ変えない。なんだ…もう少しさっきみたいに怯えて欲しかったのに…そんなつまんなそうな顔をしてる俺を見て、ちびっこ達は呆れた顔をする。




「…わかった、なにすれば良い?」


「聞きたいんだが、領主って家と領主館、どっちにいることが多いか知っているか?」


「それはもちろん家。職務放棄で部下に仕事させてるから」


「そうか…なら、まずは領主館に潜入して不正の証拠を探すを手伝ってくれ」


「なんでぇー?」




 ちびっこの1人が不思議そうな顔をしてこちらを向いてそう聞いてきた。




「それはね、相手のテリトリーに入る前にその場所の事前情報や、内部にいる人間の相関図を作ったりする為なんだ」




 そう言ってみるが、あまり理解出来ていないようだ。そこまで難しいこと言ったか?いや、そもそも自分でも言ってる意味がたまにわかんないなら、他人に解るわけないか。取り敢えず俺は行くメンバーを選出して夕刻頃から潜入することにした。




 時刻は約15時。潜入開始まであと1、2時間程の時間がある。それまで暇だったからちびっこ達と遊ぼうと思ったのだが…




「君達ぃ…」




 ダッダッダ……皆さっきは若干ハイになっていたから大丈夫だったようだが…正気に戻ったからか、ちびっこ達は俺が近付こうとすると警戒心丸出しの状態で俺から逃げるように移動する。……正直言うと辛い。自分があんな圧掛けたのが原因だけど、流石に悲しい。そんなこと思いながら角で体育座りしていたが、後ろから背中をトントンと叩かれる。振り替えると最初の少年が強ばった顔でこちらを向いて立っていた。


 …正直ここで追い打ちをかけられたら俺の心は死んでしまいそうではあるのだが…少年の顔を見ているとあ・の・頃・の自分をどうしても思い出してしまう。




 壁や床一面に置かれた、色鮮やかな華…その華を咲かす自らの手の中にある様々な道具。そして目の前にある…




 …ダメだな、思い出させてくれない。取り敢えず俺は彼の悩みを解決してあげたいと思い、少年に直接尋ねてみることにした。




「どうしたんだ…俺にダメージでも与えたいのか?」


「…俺たちは……あんたに何を支払えば良い…?」




 意外だった。こんな町で暮らしているのだから、何か対価を支払うと言う考えはないと思っていた。




「少し聞きたいんだが、なぜ君はそんなことを聞いたんだ?」


「アンナ姉ちゃんが言ったんだ。『人間は人に何かしてもらう時、何か相手にとってすることに相応の対価がなければその人間との繋がりが薄くなっていく』って」


「そうか…だが、少し違う」


「え?」


「さっき君が言ったこと逆で、繋がりが強いからこそ対価を求めない人間だっている。繋がりを強くするために対価を受け取らない人間もいる。けど、君のも、俺のも、どちらも間違いでなんてない。そして俺は今回君達に対して対価を1つ求めることにする。それは…」


「それは…?」


「君達家族がこれが終わったら幸せに暮らすこと。ただ、それだけだ」


「そ、それだけ?」


「俺は、君達のような子達のためにもここに来た。だからそれが一番とは言わないけど、とても大切な報酬だ」




 少年は俺の言葉を聞いてか、瞳からポロポロと大粒の涙が溢れている。多分彼は、あの二人の次に皆を導いていたのだろう。彼は見た目からして、まだ9、10歳ぐらいだ。そんな少年にはもっと負担が掛かっていたのだろう。俺はとにかく少年の頭を撫でて、「頑張った」「おつかれ」と言い続けた…


 -暫くして少年は泣き止んだが、あんなにも涙を流したものだから、彼の目は不細工とまで言わないがひどく腫れ上がっていた。そんな状態で彼がこちらをじっ…と真剣な表情で見つめてくるものだからつい我慢できずブッと吹き出してしまい、彼は顔を真っ赤にして頬を膨らませる。




「あははっ!…ごめんごめん、今のその顔で真剣そうにこっち見てくるから……ブッw」


「ふざけんなよ!あんなこと言ってくれたからいい人なんだろう…って少しでも憧れそうになった俺がバカだった!」


「だからごめんって……そういや名前聞いたっけ?」


「あ……プロボカティオ」


「そうか。プロボカティオ……俺の世界のとある言語で…『挑戦』……うん、良い名前だ。いつまでも挑戦する心を忘れない…そんな大人になっていこうな、プロブ」


「あ、ああ!」




 俺にもこの世界で男の友達が出来た。それはとても良いことだ。……あいつら元気かな」


「ん?」


「いや、何でもないぞ」


「そ、そう……タカシ、言うか迷ってたんだけど-」






 夜も更け、外からは人々が争う声が聞こえる中、子供達を集めて今後の行動について話すことにした。………私欲を肥やす領主のせいでその日その日の生活すらただならない者が増え、誰であろうと襲い、意地汚く、どんな手を使ってでも次の朝日を見ることに必死なのだろう…そんなのはこの国の皇子達の友として、一人の人神として、許してはいけない事だ。この世界を壊そうとするニセモノの神達を倒す、一手となってやる。




「よし、今からメンバーを発表する。返事」


「はい!」


「俺、アネモネ、プロブ、ウェリア、スー、ゼン。このメンバーでいく」


「「はい!」」


「残った子供達はここで待機。俺がおいていく食料の管理・子供達の監視役をグラスに任命する。今まで通り、しっかり言うことを聞くように」




 ちびっこ達は自分の周りと見合ってから皆こちらへコクりと頷いた。




「さあ、君達の報復の第一歩を歩もうじゃないか」

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