第9話
「お前は…王位継承争いで誰に付く気だ?」
俺は胸ぐらを掴んだ状態でゴーンに質問する。ゴーンは俺が何故そんなことを聞いたかわかっていないようで、こちらを真顔のままじっと見つめる。
「…お前がその事を聞くのは何故だ」
「お前は答えるだけで良い、質問に対する回答以外の発言は許さない」
「理由がわからないのであれば、答える必要はないと思っている」
「うるさい!黙れ、早く答えろ」
「…」
ゴーンは自分が優勢だとでも思っているのだろうか。俺の方を向いたまま、嘲笑うような素振りをしている。クソ…あの頃を思い出してしまう…怒りに身も心も任せそうになる…保て俺の心、まだだめだ…どっちかわかんない。吸って…吐いて……OK。精神を落ち着かせた俺は、もう一度聞く
「答えろ、拒否権はない。いや、やらない。もし、いまお前がこの場で答えなければ、お前を街ごと消す」
「…イアン第一王子・スキア第二王女派だ」
…看破が反応しないということは本当か。俺がゴーンを離すと、ゴーンは苦しかったのかゴホッゴホッと咳き込む。だが、そんなことははっきり言ってどうでも良いので、俺は報告書を取り出し、本題へ入ろうとする。
「なら良い。今から獣人の少女・アンナについての報告を…」
「ハァハァ…私も君に質問しても良いk「余計な詮索はするな。消し飛ばすぞ」…あぁわかった」
俺は一通り尋問でわかったことをゴーンに話した。
「…そうか、法を破っていたか。何となく予想していたが、ここまでとは…」
「ちなみにここはしてないよな?」
俺は少し威圧的にゴーンに問う。
「あぁ、まずこの街にスラムの人間は殆どいないが、就職先も豊富だからな。職を持てないということは無いんだ。勿論、全て合法の仕事だ」
「…俺は暫く相手さんの屋敷と領主館に潜入したりするから、留守にする。護衛の方も安心しておけ、最高のあるから」
それだけ言って、俺は部屋から出る。だが、丁度そのタイミングで執事服の老人とすれ違う時にぶつかってしまった。
「すまない、怪我はないか?」
「いえ、私の方がよそ見したいましたので。あなた様の方は大丈夫でございますか?」
「あ、あぁ。お互い怪我もなかったし、よしにしよう。では…」
最後の最後でこうか……それにしてもあの老人、見た目の割にはしっかりとした歩きだったな。正直人間の生気でも奪ってそうなぐらいだ。まぁ…それはないだろうと思い、その事を忘れたようにもうひとつの場所へ向かう。
俺が来たのは、先日のドワーフの店だ。早速、店内に入ると、この間のドワーフと目が合う。
「…らっしゃい。何しに来たんだ」
「いや、ちょっと相談したいことがありまして…お時間あります?」
そういうと店内にいた女性とアイコンタクトをしたようで、ドワーフは立ち上がってカウンターの方へ向かう
「来い、裏で聞こう」
そう言われるがままカウンターの奥へと行き、机と二つの椅子が置かれた個室でドワーフに話を始める。
「相談…というか依頼に近い形かもしれませんが、私に鍛冶を教えてはいただけませんか?」
「はぁ…理由は?」
俺が鍛冶を教えてほしいと言うと、やはり予想通りの答えが返ってきた。まぁ理由もわからず教える筈がないのはわかっていた。素人の自分が見てもわかる、この面構え、店内にある道具の質と性能。このドワーフは、トップクラスの鍛冶職人だ…だが、ここで怯まないぞ。俺はドワーフにとある質問をする。
「あなたはこの世界の能力としての職業に関して、どのくらいの知識がありますか?」
「知識って…ステータスとしての職業は1人に対して1つだけその時に持つ名前のある力的なのだろ」
やはり知識的には殆どがその認識か…
「実はですね、皆が思っているそれは、一次職と呼ばれるものなんです」
「一次職?」
「そう、一次職はその者が最も使いこなせて極められる力であり、唯一の力というわけではありません」
「つまり持っている職業はそれだけではない…?」
ドワーフは明らかに驚いた表情を見せる。それもそのはずだ。この世界は一定の年齢になると一次職となる職業を鑑定するのだが、どうやら時代が変わるにつれて、一次職が唯一の職業という認識を誰かが広めた…恐らく異世界人だろう。まぁそれは良い。
「次に二次職というものについてです。二次職とは一次職のように極められはしませんが、力として上級者の域まで上り詰めることが可能な力です」
「…それで?」
「実は私は二次職が鍛冶職人でして…世界を旅する中、その力を存分に伸ばしたい、というか鍛冶に興味があるんです!」
「ほぉ…」
良い印象な気がするし、教えてもらえるのだろう。そんな気持ちでいっぱいの表情でその答えを待つ。
「帰れ」
「え?」
最近耳の調子が悪いのだろうか…?今、「帰れ」って聞こえたような…
「この店から出ていけ!そんな半端な気持ちで鍛冶を教わろうとするな!」
「え、でも…」
「帰れー!」
ドワーフは怒った表情で部屋にある物を俺に向かって投げつける。流石に力を使わなきゃ避けられなそうだったので、俺は言われた通りに店を出る。
帰り道俺は怒った表情でドスドスと道の真ん中でふんぞり返って歩く。何が駄目だったんだ!俺の一次職が鍛冶職人じゃないからか!それとも弟子を取る気もないとか…いやそれはない。あの女性店員は弟子っぽかったし…じゃあやっぱり旅をやめろと?ふざけるな!世界がかかってるんだ、力かしてくれても良いじゃん!というか、腕のある職人ならばその凄い力を受け継いでいきたいはずであろう…いやよく考えろ、俺。そんな凄い人だからこそ、鍛冶師としての技や力は本当に鍛冶の道を進む気のある半端者じゃない者に託したいのだろう…。それを冷静に考えてみると、俺の態度は馬鹿にしているようにも捉えられるな……あ…ヤバい、超自分の行動が恥ずかしい。ドワーフの店主に謝りたいけど、どうしようか。そう思っていると…
「ちょっと君!」
後ろから女性の呼ぶ声が聞こえる。振り返ると、そこにいたのは道具屋の女性店員だった。
「あのさ、君が師匠…じゃなくて店長に何言ったかは知らないけど…」
「すいません、あのドワーフの店主に謝罪する機会を作ってはいただけないでしょうか」
「…いや、話遮るような人は嫌だね」
俺は彼女の言葉を遮るようにお辞儀をして言う。が、むしろそれが悪く彼女に断られてしまう。終わった…いや、駄目だ。
「そこをどうにか出来ないでしょうか!」
そう言いながら土下座をし、頭を地面に擦り付ける。すると周囲に人が集まり出し、周囲からの的になってしまう。
「ちょ、ちょっと、止めて!」
「いいえ、了承いただけるまで止めません!」
「ちょっと何あれ…」
「どうした、痴話喧嘩か?」
俺は土下座を止めない、それに対して周囲も不審がり出す。すると…
「わかった!!君の話聞くから、せめて別の場所で!」
「ほんとですか!?」
その言葉を聞くと俺は直ぐ様立ち上がり、彼女を連れて喫茶店へと入る。何人か野次馬も付いて来たが。注文したコーヒーを頼むと、本題へ入る。
「…最初に聞くけど君、どうして店長が怒ったの?」
「それは…」
俺は話す。店主に鍛冶を教わりたいと言ったこと、何故鍛冶を教わりたいかを言って怒らせたこと…そして、どうして怒ってしまったのかを考えたことを。
「…つまり、君は半端な気持ちだったと?」
「少しはそうだったかもしれません…」
俺の言葉を聞くと、彼女は机を両手でダンッ!と叩き、怒りを露にしたその顔を俺に近づけ言う。
「君…鍛冶舐めてんの?それでどちらも本気なら師匠も承諾したかもしれない。でも今、私が聞いて君の答えは、『そうだったかもしれません』?ふざけるな!君も言った通り、師匠は技術を本気な奴に託そうとしてんだ!自分の中で本気じゃないかもしれないという気持ちが少しでもある奴に機会もクソもねえよ!」
確かにそうだな…自分の中でそんな認識がある俺なんて…いや、駄目だ、折れるな。今ここでまた折れたらさっきの繰り返しだ。そうやって思う気持ちもここで断つ。そして謝るんだ!
「お願いします…ここで先程までの気持ちは終わりにします。」
「駄目」
「お願いします!」
「いや、駄目よ。そんな簡単に気持ちっていうものはすぐには変えられない…」
無理か…いや、それでも…俺は!
「だから1週間後に確認する…お前が鍛冶をする者の資格が備わったかを。じゃあな」
「…ありがとうございます!えーっと…」
「ユノ」
「ユノさん!」
俺がお礼を言うと、彼女は店を出ていった。ありがたい…この機会はきっとこれからの自分にも良い薬になったかもしれないな。コーヒーを飲み終え、会計を済ませた俺は宿へ戻る。なんだかんだで時間は夕方だ。俺が宿に戻ると、食堂からは香ばしくて、食欲をそそるような良い匂いが流れてくる。そして厨房からは何度も聞いたことのある声がする…だから俺は泊まっている部屋には向かわずに、そのまま食堂へと入った。
「ただいま帰りました。」
「お帰りなさい、孝君!」
食堂には、普段見慣れないエプロン姿で、他の客達に出す料理の調理を手伝う桜音と、1人涎を垂れ流して、料理の方をじーっと見つめるアンナだけがいたので、アンナの隣に座って、桜音に聞く。
「アロナはまだ上か?」
「うん、もうご飯は出来ているから下りてきて一緒にご飯食べたいのだけれど…」
うーん…あの子、自分からは基本的に下りたがらないけど、桜音は今女将さんの料理手伝ってる。ってことは俺が呼びに行って大丈夫か分からんが…
「じゃあちょっと声掛けてくるわ」
「良いならおねがい~」
俺は自分の隣の部屋であるアロナの部屋の前で佇む。正直言って桜音以外の女子の部屋に1人で来ることなど今までなかった。というか、元気なかったときどう声かければ良いかなんて分からない。だが、時間を掛けても桜音とかに迷惑を掛けるので、何も浮かんでないが、目の前の扉をノックする。が、返事はない。もしかしたら聞こえてないのかもしれないと思い、今度は少し大きな音になるよう、もう一度ノックする。…ここまで返事がないのは怖いな。もしかしたら何か発症してしまってる?そう思うと、少し鳥肌が立つ。このままでは心配なので、俺は部屋にそのまま入ることにした。
「入るぞー」
部屋に入ると、床でセルフ簀巻きをしたまま眠るアロナがいた。アロナを起こそうと、近づくとアロナの目の下に泣いた跡があることに気付く。もしかしたら、アロナはアロナで自分が狙われていることからの死への恐怖や、自分がお荷物になってしまっているとかに対しての悔しさ等があるのかもしれない…だが、そのままでは今後領主になっても他人からの圧力や自責の念で潰てしまう。だからアロナにはなんとか成長してもらうしかない。この国や…この世界の為にも。俺はその思いを胸に秘め、何もなかったかのようにアロナを起こした。
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