第7話

「…お前の招待を聞かせてもらおうか、そこの人族の男」

「さぁ。俺の招待は何か当ててみな、お隣さんとこからの刺客さんよぉ!」


 俺はフードの奴の方を向いき、悪そうな笑みを浮かべながら手招きで挑発する。


「覚悟は良いのだな…なら、私から行かせて貰おう」

「良いぞ来……いっ!」


 フードの奴は正面から走ってきた筈が目の前から姿を消し、気付いたときには横からナイフを突き刺しに来ていた。俺はなんとか当たる寸前で後ろに反りながらしゃがみ避けて、相手と距離を離す。陽キャみたいな口調で挑発したのは良いものの…さぁ、どうする俺。目の前にいる奴は、“自分は常に戦いと共にある…”。そんな感じを醸し出すようなオーラを持っている。この世界にはレベルの概念があるが、はっきり言ってそれは平均値的な物であって、例えば同じ値者が2人いたとして、その者の努力や経験で他との差が出来てしまうようなものだ。この世界に来てからは、これが最初の“人レベルの知能の生物”との戦いだ。亜空間の中に手を入れ、俺は“模”を着ける。できればこの戦いで、ある程度の戦闘方法は覚えてみせる…


「さぁ、次は俺から行かせて貰おうか…!」



―同時刻―

 孝が敵を止めている間、桜音はアロナを抱き抱えた状態で街道を突き進む。アロナは持たれ方的に少し顔色が悪くなっているが、桜音の顔には全く疲れがなかった。


「オト……大丈夫…?疲れてない…?」

「全然平気だよ。元々体力はあるんだけど、この世界に来てからはほとんど疲れ知らずなんだ!」

「『この世界』?」

「あ、いやっ…何でもないよ!」

「そ、そう?ならいいけど…」

『危なっ!…流石に今の状態で異世界人のことばれたら、2人とも大変になるし………。ッ!?』


 桜音は殺意らしきもののある視線を感じる。“振り向いてはいけない”そう思いながら少し足を早めるが、アロナも視線に気付く。つい、アロナは視線の出ている場所を見てしまうと、そこから火の玉を撃たれてしまう。


「いやっ!」


 アロナは叫び、座り込んで顔を押さえる。その瞬間、桜音は孝に作って貰ったお札を5枚を取り出し、自分達の周辺の地面に5角形に投げつける。


「…ッ!【この世界に宿る大いなる5つの元素エレメントよ 我が命じるその者を 悪なる力から守りたまえ! “五行護符陣”!】」


 その詠唱を言い終えると共に、お札からお札へと線が結ばれ、二人を守るようにドーム場の結界が作られる。その結界に火の玉が吸収され、撃ってきた男は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。


「なにっ!初心者で小娘の癖に…そんな立派な物、使ってんじゃ「竜巻の牢獄トルネード プリズン!」うぎゃぁぁぁ!」


 男が喋り終えるを待たずして、桜音は男を小さな竜巻で包み込み、男が死なない程度に痛ぶって、縄で縛り上げる。その光景を見てか、アロナは何もかも分かっていないようにポカーンとしてる。


「ふぅ…こいつはあちらさんの別動隊かしら?まぁ弱かったから良いけど、こんな感じなのね。孝君とこれからどうするか決めないと…それとアロナ」

「な、何?」

「もし殺意を向けられても、絶対に向いちゃ駄目よ。向いてしまえば気付かれたと相手が感じて、今回みたいに攻撃を仕掛けてくることがあるの。でも、違和感を何も持ってないと逆に怪しまれることもあったりするからね。それだけは覚えておいて」

「う、うん…」


 アロナは少しチンプンカンプンになってしまったが、なんとか理解したようだ。それは表情にも出ており、安心した桜音は『月夜の風精霊』へアロナを置きに行く。その後は『月夜の風精霊』に着くまでの間も攻撃は仕掛けられず無事だった。『月夜の風精霊』へ着くと、桜音は直ぐ様陣を描き出し、アロナとその両親にお札を渡す。


「私は、今から孝君の所に応援に行きます。すぐに戻ってきますので…」

「そしたら私の護衛は…!?」

「大丈夫。3人に渡したそのお札と宿自体に施した陣が、必ず守るから。じゃあ行ってきます」

「え、それは…」


 アロナが何か言いかけたところで、桜音は全力で孝の方へと向かう。場所に近付くにつれ、人の血の臭いが漂っていく。そして桜音が着く。そこでは、お互いに所々傷の付いた孝と、肌の黒いケモ耳で銀髪の女の子が常人には見るのが精一杯な程、激しく戦っていた。



―少し遡る―

「さぁ、次は俺から行かせて貰おうか…!“炎の突撃銃ファイア アサルト”!」


 その声で、俺の指先から約30~40発程の炎の弾のようなものが連続で素早くフードの奴の方へ放たれていくが、フードの奴にはそれをすべて避けられる。正直初見なら1発は当たると予想していたが、まだ慣れてない俺が下手なのか…それとも、相手が凄いのか…だが、相手の口元を見た感じ、驚いてはいるようだ。


「なるほど、炎弾ファイア バレットの強化版か…だが、まだまだだなっ!」

「くっ…」


 避けながら喋ってきたフードの奴はまた俺に距離を詰めてくる。それを予測した俺は、軽く魔力を練り上げる。そうすると俺の魔力の質は段々と少し別のものへと変わっていく。俺はその状態で地面を触り、地面の一部の形を変え、石ナイフを作り出し応戦する。今にも顔がぶつかり合いそうな程の距離まで詰められ、同したものか…そうだ、火でフードを燃やすか。てか、なんか可愛い女子がよく放ってるような良い匂いがして何故かドキドキする。なんか声も女子みたいだったし…それは取り敢えず置いておき、俺は小さな火を無詠唱でフードに向けて放つ。


「熱っ…!」


 放ってすぐフードに火が付き、気付いた奴はフードを急いで外し、投げつける。すると、肌が黒く、ネコ科のようなケモ耳を生やす、輝いているような銀髪の人間でいう、15歳くらいの少女が姿を表す。待って、これ、相手が女子だったってなったら信じもらえない可能性あるか?いや、桜音とかいう化けもんがいる時点でそうはならないか。この子はどうやら暗器は投げナイフぐらいのようだし、詰めるか。それにしてもなんかギャーギャー聞こえるな…


「――おいっ!聞こえないのか変態!服を燃やそうとするなんて!」

「あ、いや…別に燃やす気はなかったんだが…」

「嘘つくな!」

「嘘じゃないですって…」


 まぁ、もちろん嘘だが。まあ女の子の服燃やすのは流石にキレられるか、さっきから顔真っ赤になってるし。

「許さない赦さないゆるさないユルサナイ赦さない…許さない!」


 少女からどんどん怒りのオーラが放たれていく。感情が力に上乗せされると流石にキツくなってしまう。意外にこっちもボロボロの箇所目立ってるし…そんなこと考えていたが、少女は休みをくれないようで、連撃を仕掛けてくる。少女は爪の長さを自由に調整できるのか、先程とは比べ物にならないほど長さになった爪で肉を抉りに来るように距離を詰める。なんとか石ナイフで受流しは出来るものの、ナイフに尋常じゃないスピードで罅がが広がっていくのが分かる。これ、魔力で爪の強度も増してんのかよ!…いや、魔力を帯びてるなら“模”で受けても良いのかもしれない…?と悩んでいる時、慣れ親しんだ魔力が近づいてくるのを感じる。どうやら宿に置いてきたらしいし、ツーマンセルで…いや、魔法だけ撃って貰った方が楽だな。俺は向きを変えずに、魔力の持ち主に声を掛ける。


「桜音!俺の方に適当に魔法撃ってくれ!」

「え?……あ、うん!わかった…」

「…さっきの人族の女か…なら、そっちからコロス!」


 少女はものすごいスピードで桜音に近づいていく。


「さ、“雷槍サンダーランス”、‘’風の連弩ウインドポリボロス”!」


 桜音は一瞬止まってしまったが、槍状の大きな電気の塊と沢山の目に見えない風の矢を放つ。が、一撃も少女に当たらずこちらへ向かってくる。だが、これで良い。すぐに俺は二人の方向へ走りながら“模”に桜音の放った雷と風の魔力を宿す。すると体の中にあった魔力がいつもより減りが早いのを感じると同時に、体の感覚が何段階も上がっているのに気付く。体のわくわくが止まらない…魔力を体に宿す感覚はこんなにも気持ちいいのか。…これなら時間はほとんど必要ない。足に力を溜め、一気に放つ。それを高速で何度も繰り返しした状態で前へ進み一瞬で少女の背後を取る。


「何!?」

「…一分で終わる」

「そんなはず…」


 俺は空へ少女を投げ、自分自身も跳ぶ。そして少女の体へと様々な方向から連撃を500ほど入れる。少女の口からは血が出て、身体中に尋常じゃない数の痣が出来ていく…


「孝君…今のその力を持った君は、まるで…」

(速いし強い…なんなんだこいつは…本当に人族か!?いや、人族以外でもないような感じだ…この力はまるで…)


 俺の今持つ力は…まるで……“荒ぶる風と雷の神”そのものだ。


「これで仕上げ…だ!」


 俺は少女を地面に向かって一気に叩き落とす。破壊力が抜群の為、落ちた少女を中心に大きなクレーターが出来てしまう程にだ。とりあえず近づいて、え?…いや、女の子だからあんまり顔に傷とか残しちゃいけないと思って多少風魔法でクッション作ったけど…この少女頑丈すぎるでしょ。普通骨出ててもおかしくないんだよな?それでこの状態なの異常でしょ…あ、桜音がこっちに近づいてくる。バシン…。ってえー!?俺、吹っ飛ばされたー!しかも強いー!…茶番はやめてもう一度二人へ近づいてみると、桜音が少女に向かって治癒魔法を使っている。ちょっ、睨まないでよ…と思っていたら桜音が口を開く。


「あ・の・さ……いくら、敵で体力がどのくらいか分からないとしてもさ…他の拘束方法とかなかったわけ?顔に傷でも付いてたらどうするつもりだった?」

「いや、桜音もいるし大丈夫かなって…というか命の駆け引きに他の方法も何もないわ!」

「知るかそんなん!雇われ人だったらよっぽどのプロ意識がない限り、こちらに付かすことだって…」


 俺と言い合うごとに、桜音の顔が本当にきれている表情へとどんどん変化する。正直、俺は何も悪いことをしていないのだが…だが、少しだけ言い分が分かる自分がいるのだから互いに言い合わないで行動できたかもしれない…男だし、俺から謝ろう。俺は表情を戻し、桜音へ向けてお辞儀する。


「…ごめん。俺ももう少し戦いかたってもんがあったかもしれない…というか看破使えばよかった…」

「え、あ、うん。ごめん…私、少し元の世界論のままになりすぎたかもしれない…そうだよね。こっちじゃあっちの法律なんか意味もないし、見た目と力が全然違う人がいてもおかしくないもんね」


 桜音の表情が、元の和やかな表情に戻っていく。それにしてもこの少女をどうするか分かんないし、取り敢えず少女を抱えて“月夜の風妖精”へと帰ることにした。

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