第6話
眠気が残っている中、俺達は領主館へと足を運んだ。ここまでの展開は何となく読めたが、あの話から続く依頼ははっきり言って分からない。魔物の討伐なら良いのだが…領主館に着くと、直ぐに執務室に案内された。取り敢えず二回ノックして部屋に入った。
「失礼する」
「あぁ。そこのソファにでも座りなさい」
言われた通り、俺達は二人掛けのソファに座ると、正面にゴーンが座った。一人用ではなく、二人掛けの方だ。それも不自然にはよってだ。もう一人誰か来るのか?
「さあ、依頼の話をしようか。ちなみに、本当に受けるのだな?引くことは許されなくなるぞ」
答えが決まっていた俺達は「あぁ」とだけ返した。その返事を聞くと、ゴーンからとてつもない量の圧が溢れだした。怖い。その感情が体を縛ってくるように感じる。それでももう、後戻りはできない。
「まず、お前達にある人物の護衛と、隣街の領主、サルドラン伯爵について調査してもらいたい。」
「何故隣の領主を?」
「最近、隣の街では治安の悪さが凄いらしくてね。国が動いても、その調査団が返り討ちにあって戻ってこないと…領主を呼び出しても王宮に来れないと言い訳しているらしいんだ。それに私達も被害を受けているしね。結果によっては動かんといけないし」
何となくだが、ゴーンがしたいことが分かった。簡単に言えば、昨日言っていたヤバイのがそのサルドランで、そいつらへの復讐の為の大義名分が欲しい…と。それはそうと、護衛についてはどういう事だ?取り敢えずそちらを聞こうと思ったら、桜音が先に聞いた。
「あの!護衛ってどなたをするのですか?早い段階で顔合わせしておかないと、気まずくなってしまいそうなのですが…」
「あぁ。今から護衛対象に来て貰うが、そんな心配はしなくても良いと思うぞ。なぜなら、お前達も会ったことがあるのだから。入ってきなさい」
「え⁉」
そうゴーンが言うと扉が開き、入ってきたのは昨日泊まった宿の娘で、ゴーンの姪であるアロナだった。
「そうかなとは思っていたが、やっぱりか」
「え、孝君は気付いていたの?」
桜音がこっちを向いてそう言っているが、昨日の内にアロナにゴーンには子供や奥さんがいるか聞いていたから、そうなると後継者候補はアロナが有力だ。それに、昨日アロナに聞いたあの内容を聞かされたのも、実はゴーンの筋書き通りかもしれないし。俺を桜音が質問攻めにしようとしたところで、ゴーンが「ん”っん”」と咳払いをする。
「あー…私には妻や子供はいなくてね。弟家族の娘であるアロナが第一候補者なのだが、あいつらは私のことをどうにかして潰して領地を広げようとしているという噂もあってね。私が潰された場合、次は弟家族のなかでも、特に狙われる可能性が高いのだ」
「つまり、アロナを守りながら伯爵の不正を暴けと…結構無理案件じゃあないか?」
「そうかもしれないが、頼む!」
ゴーンは立ち上がり、俺たちに向かって土下座をしてきた。いや…RPGゲームなら簡単に見えるが、それは普通の人間なら難しいとかじゃないだろ、普通の人間なら。だがやれてしまった場合この街にいれるかも危ういし、政治の道具待ったなしだ。俺は桜音の方を見て断ろうとと目で訴え掛けるが、桜音はそれに対し目を潤ませてくる。…正直、自分は甘いのかもしれない。だが、気持ちに嘘はつきたくない。うーん、でもホントにこれで良いのだろうか…ん?ジジイ達からのお告げだ。『裏に神徒おるよ』って軽っ!というか受けなきゃじゃん…
「…分かりました。やります」
「頼む!この通…え?」
「報酬は結構弾ませてくださいね。こんな無理条件を出しておきながら、超少なかった場合はもう来ませんから」
「タカシ君、オト。これから護衛、よろしくね」
俺の答えを聞いたゴーンは不適な笑みを浮かべる。怖っ!…これで良いのだろう。友として、これが正解なのかは分からないが、この行動が何か自分に返ってくると信じてる。というか”神様のお告げ”的なものが来ただけだが。そんな感じで決まったわけだが、新しい魔法も考えなければ…。俺たちは領主館を出て、次に何をするのかを話すことにした。って、何故かアロナもいる。
「アロナ?なぜ私達と一緒に出てきたの?」
「いや、護衛って今日からずっとだよ」
あ、今日から護衛始めるのか……いや普通やん。給料貰うなら今日からでも普通やん。取り敢えず俺と桜音は服屋に行って新しい服を二着は買いたい。これまでは魔法で服を綺麗にしていたが、流石に同じ服を着るのは飽きている。勇者関連を伏せた状態でアロナに事情を言ってみると、すぐにOKが出た。
「男の子はまだしも、女の子は一着じゃダメだね。それに二人ともこの街からしたら変わった服装だし、護衛のために着替えても良いかもね」
「よーし!孝君、あなたに似合う服を絶対に見つけるわよ!」
「え」
「ん?何か文句でも?」
「いやぁ…そういうわけじゃあ…」
人間には誰しも苦手な分野があるのだから、それはしょうがない…。…だが俺の彼女の服装センスはそういうレベルじゃない。転移以前、何度か彼女の部屋に上がったときに見たあの服達は一般常識的に言って、人智を越えていると言うのだろう。そんな風に困ってる俺を見て、アロナがひとつ提案をしてきた。
「タカシ君、桜音のセンスが怖いなら、私が服を選んであげるよ」
「…マジ?それなら助かr」
「いや、私が彼女だし大丈夫だよ。て言うか何私?の趣味が悪そうだと?」
桜音の顔は真顔になり、俺を押して少し遠ざけた状態でアロナに詰め寄った。いや、桜音さぁぁん…普通に考えてそのままお願いしましょうよぉ。あなたに治してもらおうと思ったら壁壊したことあったやぁん...俺はまた二人の間に火花が散ることになると思いおどおどしていたが、アロナは至って冷静な対応をしたのだった。
「いやオトのセンスが悪いとかじゃなくて、この街での服装としては私が選んだ方が目立たずに済むと思わない?それでも嫌なら、基本はオトに選んでもらって、それを少し私が変えるとかじゃダメ?」
「…ごめんなさい、少しイラついてしまってたわ」
その言葉を聞いて、桜音の顔はだんだんともとの表情に戻っていった。それを見て俺は一息ついたが、後ろから殺気に近い何かを感じた。すぐに殺気の出ていた後ろを見てみたが、誰もいない。もう少し注意を払わないといけないかもしれないな…少し嫌な空気だったのも収まり、俺たちは街の服屋に着いた。そこにはおしゃれなコートや色んなものに合わせやすいデニムっぽいズボン。THE中世の帽子と思うようなものがたくさんあった。店に入り暫くして俺は、自分の趣味で選んだ服1セットと、二人に悩みに悩んで選んでもらった服2セットの会計をし終えてのんびりする筈だったのだが…なぜか今、アロナと桜音のファッション対決を見させられている。
「ねぇ、私のセンスの方が最高でしょ?」
「いやいや。私の選び抜いたこのファッションの方が良いでしょ!だって明らかにあなたの方は…」
「私の方が、何?」
うん、ヤバい雰囲気だ。何、いつも喧嘩でもしてなきゃ落ち着かないの?正直、今の俺には「疲労困憊」という言葉が一番あってる気がする。あぁ…周りのお客さんも凄い怯えちゃってるよ……よし、ここは俺が止めに入ってこの場を収めるのが正攻法だろ。
「…あの~」
「「何?」」
俺は圧に負けて後退しまうし、さっきよりまた少し空気が悪くなっていく。いや、皆俺のこと睨んだり哀れみの目で見ないで…!ちなみに対決を始めてから、コーデで言うとこれで8着目だ。普通に長いよ。正直昼は食べたかったのに、余裕で食べないで終わったよ…腹減ってるけど、もしこの場で俺が出ていくと、ライオン2匹置いて行かれたような店側は営業すら出来ないか…もう一回俺は二人に声を掛ける。今度は…逃げないで。
「…二人とも、そんなことで…」
「「そんなことで…だって?」」
「っ!…そうだよ…そんなことでって言ったよ‼」
周りの人達の表情が死んでいく。それでも続ける。
「自分達の趣味を否定されているようで、イライラしてしまうのも分かる。けど、そんなことで趣味を曲げられると思っているのか?そんななら別に良いよ…俺は否定しない。それがその人のタイプなのだから…でも好きにはなれない。それだけ言っておく」
今のは桜音には効くかもと思って言ったが…どうだ⁉と思ったら、あれ?桜音とアロナのどちらとも床に座りこんで、ワンワンとちびっこのように泣き出してしまった…
「ウゥ…ごめんなさい。ごめなさぁい…今言ってたとこ直すぅからぁ、置いてったり嫌ぁいにならなぁいでぇ…」
「グスッ…ごめんなさい。私も悪かったからぁ、お願いよ…護衛やめないでぇ…」
周りにいた人々は何が起こったのか分からず、取り敢えず俺の方を見た。いや、俺も両方に効くとは思ってなかったって。もしここで、店に何も知らない人入ってきたら、俺通報されない?てか今もされそう。二人が暫く泣き止まない状況が続いたので、俺は二人の方に寄ってこう言った。
「いや、二人とも。俺は好きになれないとは言ったけどさ、置いて行きもしないし護衛もやめないよ?だから取り敢えず泣き止んで欲しい。ほら、皆に迷惑掛かるから…」
「「好きになれないってところが一番悲しいんだもん!!」」
えぇ…そこかぁ…この流れもしかして、訂正するしかない?
「分かったから…嫌いにもならないよ」
「ほんとに?」
「本当に本当」
「じゃあ好きには?」
「なるなる」
「…分かった」
「それと、桜音。今回はアロナに任せた方がここでは安心だと思うよ?それで良い?」
「うん…」
ふぅ、なんとか二人とも泣き止んでくれた…俺は二人に自分の分のお金から1着ずつ買ってあげて、桜音は自分のお金でもアロナに選んでもらった服を1着買っていた。二人が先にお店を出ていった後、俺は店主に近寄った。
「あの~…」
「あ、何でしょうか?」
「すみません…これを」
俺は店主の前に10000ロジを置いた。それを見た店主はビックリしすぎて咳き込んでしまった。
「こ、こんな金額…受け取れませんよ!!」
「お願いです、迷惑料で受け取ってください…」
「いや、こんなに出してしまったらあなたのお金が…」
「いいえ、ちょっと莫大な臨時収入がありましてね」
実は分割で貰った内の10分の1にも達さない額なのだ。モンスターの素材が最高品質だった場合、どんな雑魚モンスターでも、基本相場の20倍はするらしく…今、手持ちだけでも日本円でいう150万はある。そして残りの分割を合わせると二人全部で3000万円ちょいある。だから迷惑料を払ってもあまり苦しくならないし、せめてこんぐらい払わないとこちらの気が済まない。
「あなたがたが大丈夫なら…」
「はい、これからもお世話になることもあるかもしれないので」
その言葉を聞いて素直に店主はそのお金を受け取った。それを見た俺はそのまま店を出た。
……どんだけトラブルが起きれば済むんだろう。今度は明らかにチャラそうな男達数人が待っていた桜音とアロナに絡んでいるではないか。
「ねぇ君たちさぁ、俺らと一緒に遊びに行かない?二人とも美人さんだしさぁ…」
「いや、結構です。私達からしたら何も得になりそうなこともないし、あなた達からは欲にまみれた気持ち悪いオーラを感じるので」
「えぇ…良いじゃあん。というか欲にまみれたって言われるの、僕達ゾクゾクするねぇ///」
「キモッ…」
そのアロナの「キモッ」に対し、男達は愉悦の笑みを浮かべている。マジもんの変態か…衛兵呼んできた方が小さく事が収まるだろう。そう思い、俺は衛兵を呼びに行こうとした時に感じる、明らかなアロナ達の方へ向けられた殺意を。それも1つじゃなく、二桁を余裕で越える数だ。俺は表情を変えずに少し歩く。それと同時に魔法構築を始める。俺は桜音に向けて、街に入る前にモンスター狩りで連携用に創った念話テレパシーを使う。
『桜音、聞こえたら念話で返してくれ』
『どうしたの?』
『今そっちに向かって無数の殺意が向けられてる』
『…作戦は?』
桜音は直ぐに対応してこちらへ作戦を聞いてくる。取り敢えず分かったことは、敵と思われる生命体の数が27いること。そのうち1は平均より高いオーラを纏っていること。俺はその事と作戦を桜音に伝える。
『取り敢えず桜音は、アロナの移動&護衛と自分の自衛に徹してくれ。基本的には刺客らしき奴等とは俺が戦う』
『私も戦った方が安全じゃ…』
『いや、俺は桜音を信頼しているが、今回は戦闘を出来ないアロナがいる分で負傷する可能性と最悪、人質に取られる可能性がある。それならアロナを敵から離し、俺だけで戦った方がこっちの損害も少ない。それに一人を除いてすぐに片付くと思う』
実際あの一人も片付くとは思っているが対人は初めてするのもあるから保険を掛けたようなものだ。
『…分かった。私はこのままじゃ動きづらいから、相手の気を一度逸らすわね。準備できたら…』
『もう大丈夫だ。頼む』
念話の時間の間に相手の人数分、魔力の安定した魔法を構築できた。発動陣を相手全員の空中に浮かばせる。そのタイミングを知っていたかのように桜音が大きな声を発しながらどこかを指差す。
「あぁ!あれってフォガドランじゃない⁉」
「「え?」」
「…アロナ、大きな声出さないでね」ボソッ
「え、どういう…えぇ!」
「風舞う駆け足ウインドステップ!」
アロナが答えるのを待たずに、桜音はアロナを抱き抱えて走る。その足からは通った場所にある物が宙を舞う程の風が、何処かから吹き出ている。その行動にいち早く気付いた敵は魔方陣を展開するが、そうはさせないのが俺の役目だ。俺は唱える。
「―雷柱」
その声と共に周辺から27個の落雷が起きる。そこからは嘆きの声が聴こえて来たり、何か肉が焦げたような臭いがした。だが、流石に殺してはいけないから生命自体には師匠が出ないほどであるし、落ちたところからは2・6・の生命感知も出来た。もう1つは?そう、1つ少ないのである。殺したのかと思いきや、そうではない。その生命感知が引っ掛からなかったのは、ヤバいオーラの奴のところだ。そしてカツカツと地面を歩む音が後ろから聞こえる。
「…お前の招待を聞かせてもらおうか、そこの人族の男」
「さぁ。俺の招待は何か当ててみな、お隣さんとこからの刺客さんよぉ!」
後ろを振り返れば、フードを被ったさっきのオーラを放つ誰かが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます